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74、ステーキは夢となる

持ち上げるだけでも大変な重さの剣を 棒切れのように振り回し、冒険者コルベルトと 近衛騎士のグングルスは すでに数分間も休み無く打ち合っている。

その身体能力だけ考えても 2人はすでに常人の域を超えていた。



「あの冒険者やるではないか。うちの騎士にスカウトできれば良いが」


「父上、我が家の騎士達も強く成ってますのよ。あれに近い戦いは するものと思われますわ」


まるでスポーツ観戦しながら暢気に観客な会話をしているのはフェルムスティアの領主親子。

人が死ぬかも知れない剣戟の応酬を見ている人々の数は膨れ上がり、危険の無い距離を取って人だかりのドーナツを作っていた。

今や二組の領主家族までがイスに腰掛けて観戦している。


両陣営は共に 先ほどまでの敵意や殺気は無い。

神聖な戦いを見守るかのように固唾を飲んで言葉を発しなかった。


御車席で見物しているハルカのとなりには、ピアまで顕現して楽しんでいる。




しかし、そんな平和な?時間もここまでとなった。


「いたい!・・ノロ、肩の上で爪を立てないで」


「ハルカ、まずいにゃ・・何か来る」


「うん、来るよ。早い・・・そして強い」


強い?ピアがそれを言う相手・・って



ボムッ☆


遊びは終わり、とハルカは夢中になる人々の意識を呼び戻すべく 戦っている二人の目前で 小さな爆発を起こす。命に係わる緊急事態だ。


「皆・・強い敵が来る。冒険者の半分は 後ろの手薄な人たちを助けて。

残りはここで、第一級の警戒態勢に、急いで」


「おおっ、任せろ。行くぜ!」


「ハルカ、どっちから来る?」


「森の方からにゃ、早い敵にゃ 今直ぐに来るにゃ」


「分かった。ミルチル、支援魔法たのむ」「りょうかーい」


コルベルトは 今まで戦っていた事など無かったかのように、息も乱さず次の行動に移っていく。臨機応変の速さは さすが冒険者である。



「待て、貴様 勝負の途中で逃げる気か!」


「それどころじゃねぇ、死にたく無かったら頭を切り替えろ。

あの子が一級の警戒と言ったら マジで命に関わる敵なんだ。

てめえも護衛なら 王子さんの命を一番に考えな」


「凄い、隊長!。上見て うえっ」


「うるさいぞ、エマー・・あ?。何だ あれは」


「魔法です。あれは氷の槍ですにゃ・・でも、考えられない数」


ハルカの頭上には 氷の槍が数十本並び、迎撃の準備をしていた。下から見上げたその光景は幻想的ですらある。そして、見る間に 打ち出されて消えていく。


「氷の槍 程度では倒せない・・相手は 空だ。大きいぞ」


「空・・大きい?、まさか!。

総員防御態勢、我々も護衛に加わるぞ、急げ。王子をお守りしろ」



ドゴオオーッ☆


一瞬で馬車の一台が バラバラになって吹き飛んだ。

ダミーで 中の荷物は何も無い豪華な馬車である。

先日は騒ぎになったが毛皮を商人に売っておいて正解だったようだ。


「なっ!、あれは 飛竜。なぜ、こんな場所に?」


巨大な翼と魔力を駆使し、飛ぶ事に特化したドラゴン。

ゆえに 巨体にも関わらず 高速な飛行を可能にしている。

馬車を瓦礫に変えた 敵を目で追った時には 既に遠く離れた上空で旋回を始めていた。

その速さから 魔法での追い討ちは不可能に近く、また 並みの魔法ではキズすら付かない強敵である。


再び襲撃すべく 向かってくるドラゴンに、ハルカが打ち出すのは どう見ても小さなファイヤーボール。


「ぬっ、あれに対して火の玉だと?」


「ひぃっ、あの魔法 違うよ。恐ろしいものだよ隊長!」


ドラゴンは 迫り来る小さな火の玉など 気にもせず突っ込んでくる。

だが、火の玉は目前で急激に膨張し 巨大な炎の塊となって、回避できない飛竜を飲み込んだ。

膨大な魔力を圧縮されて飛ばされた火の玉は 僅かな時間しか耐えられず、

一気に膨張し 本来の姿になったのだ。

その温度は 並みの炎のそれではない。



「おおっ、何と・・」


呆気にとられて 立ち尽くすグングルスの後ろでは、王子オラテリスが腕を組み 当然とばかりに悠然と構えている。


ネコの獣人で魔術師の才能も有る 変り種の近衛騎士エマーリスは、感動して見つめたまま固まっていた。



さしもの飛竜もたまらずコースを変え 体制を整えるようだ。

派手な魔法で凶悪な威力だがドラゴンには さしたるダメージは与えられない。

驚きはしたが 致命的なダメージを受けていないのは さすがドラゴン種である。


ただし、その御者は無事ではいられなかった。

飛竜の背中では テイマーの男が全身に火傷を負い苦しんでいた。


(くっ・・このままでは、モーランの仇が討てない。何だってんだ、あの魔法はぁ)


決死の覚悟で再度 ドラゴンを向かわせるが、今度は物理攻撃のような巨大な風の塊をぶつけられ、速度が落ちた所に 強烈なエアカッターが雨のように次々と打ち込まれていく。


ピアと守護精霊の意気の合った攻撃である。


勿論 その程度ではドラゴンの鱗はキズも付かないが、空を舞う飛竜にとって 嫌な攻撃である。まして テイマーの男 カガルは攻撃の余波だけで多くの裂傷を負い、

血飛沫(ちしぶき)が後方に飛ばされていく。満身創痍の状態まで追い込まれていた。


そんなカガルの耳に 思い掛けない一言が聞こえる。



「殿下、どうか お下がりください」


グングルスが出す(指揮する者)の通る声が仇となった。


(あれは・・何と、こんな場所に皇太子だと・・)


明確な目標を得て 飛竜は再度 最速で急降下していく。


「ぬぁっ、こちらに来る。全員盾となれ」


人の身でドラゴンの盾となる・・無茶な話である。

盾どころか 彼らは迫り来る飛竜の風圧だけで 全員薙ぎ倒されていく。



「うっく・・、!。殿下?・・殿下!。オラテリス殿下ーっ」


飛竜は御者の意を汲み、正確にオラテリスのみを その足に捕まえていた。

キリキリと爪が皮鎧を締め付け、直ぐにでもアバラ骨が全壊しそうな状態だった。


「ふっ、ははは。奴を王都の真ん中で殺せば、計画以上に国は大混乱となろう。

モーランの死も報われると言うものだ」


すでに朦朧として 気力で意識を保っているカガルは気が付かなかった。

いや、彼が万全の状態でも気付けなかっただろう。

全速で飛び続ける飛竜に追いつける存在など 到底考えられないのだから。



「どうしよう・・魔法が効かないし」


「倒せないが、一時的に弱らせる魔法は有るにゃ」


「おっ。ノロ・・それ出来そう?」


「最悪でも あの小僧は助けねばなるまい。魔法を使う前に奪い返せればのぅ」


ハルカは王子が攫われるのを見て、急ぎ杖を取り出し飛行の魔法で追いかけたのは良いが、飛竜に対する有効な手立てが見つからなかった。

飛行する飛竜に追従できるだけで快挙なのは知る由も無い。


「ピア、・・来て」


「なーに?、ハルカ」


「あいつの下を追い越すから、擦れ違いざまに あの足の細い所に強い魔法をぶつけてみて。驚いて手を離すかも知れない。あのバカに ケガさせないようにお願い」


「いいよー。データーに残ってる風の魔法、居合い真空切りで行くね」


「えっ?」


過去の精霊のデーターには日本人と関わりが有るのだろうか?。

厨二な技の名前に対する突っ込みは後回しにして 目の前の飛竜に集中する。



グクオオォォォッ!


突然 飛竜は咆哮を上げる。

ビクッと痙攣した後は その動きを止めてしまった。

さらに動きが止まっただけでなく 急降下を始めた。

いや、降下では無く、飛行できずに墜落している。

そう気付いても満身創痍のカガルには それに対処できる力は無かった。


飛竜の御者カガルの視線の片隅に 同じ速さで並び飛ぶ小さなものが見える。

それが 彼の最後に目にした光景となった。



**************



居合い真空切りでもドラゴンの皮膚は貫けなかった。ピアはしょんぼりしている。


しかし、痛かったのか ビクッと驚いて 飛竜は王子を放り出してしまう。

ハルカはそれを追いかけ、肩の上のノロは用意していた魔法を飛竜にしかけた。


魔法は 一時的に体内を巡る魔力を停止させるものだ。

死に至らしめる事は出来ないが、少しの間 全身が麻痺したようになり 魔物との戦いでは大きなアドバンテージを作り出せる。

それを 飛行中にくらった飛竜は、浮遊する為の魔力も絶たれ 墜落するしか無い。


まるでアニメのシーンのように 落下するオラテリスをもの凄い速さで追いかける。

さすがのハルカも泣きたいほど恐ろしい。しかし彼が死んだら全てが終わるのだ。

ハルカが落下するオラテリスの腕を捕まえると 空間魔法の圏内に入るため降下は停止する。

地上から10メートルの高さで止まった 奇跡のようなイベントであった。



少しの間 呆然としていたので先にドラゴンが墜落していた。

ハルカ達はそこから 離れて着陸する。

素早く王子にハイヒールと解毒の魔法を掛ける。

細菌感染も心配して ピアが状態異常を回復する魔法まで使ってくれた。



ビシッ☆ バシッ☆


「起きろ・・護衛も居ない。寝るな」


まだドラゴンは死んでいない。

寝たままの人間を護衛していては どうする事も出来ない。


「ん・・、ハルカ?。そうか 助けてくれたのか。我が妖精」


オラテリスはいきなりハルカを抱き寄せた。

悪夢が蘇る。

恐怖したハルカは王子の男の急所にヒザ蹴りを打ち込んだ。


鍛えぬかれた屈強な格闘家であるうと急所蹴りの痛みには崩れ落ち動けなくなる。

男だけが分かる想像すらしたく無い地獄の苦しみ。

皇太子殿下が 股間を抑えて苦しんでいる。

普通なら王族に対するこれ程の狼藉はマジで首が飛ぶだろう。


ハルカ的にはそんな事どうでも良い。

男にキスされるなど 二度と御免なのである。



グルル・・


飛竜の唸り声が聞こえる。

何時の間にか ピアが飛竜の側に近寄っていた。

精霊であるピアを食う事は物理的に不可能と 分かっていても心配になる。

心配を無くすのは簡単だ、とっととドラゴンを葬れば良い。

ハルカは「アレが倒せればドラゴンステーキが食べられる」と色々妄想していた。


少しすると ピアは戻ってきた。


「ハルカぁ・・あの子 隷属の魔法で動けなくて苦しんでいるの。助けてあげて」

うるうる


「うっ・・・・」


飛竜はすでに ノロが使った魔法の効果は消えて動けるはずだった。

しかし隷属していたテイマーが死んだ事で首輪の 魔法が誤作動を起こしその行動を阻害していた。高所から墜落しても死なない生命力を持ったドラゴンを拘束するのだ、恐るべき隷属魔法と言える。


ピアに 飛竜の解呪をうるうるな目でお願いされて「飛竜を殺して食べる」とは言えなくなったハルカだった。



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