67、大変に・・・面白いですわ
戦いが終わり 領主は オラテリス王子の活躍に最初は喜んでいたが、事の顛末を聞くに連れて愕然として青くなった。
それはそうだろう。
たとえ領主と言えど、目の前で皇太子が死んでいたら責任問題どころではない。
一族の死罪だけで済む問題ではなく、国を揺るがすほどの大事件である。
もしも 王子が今回の事を得意にして浮れていたなら 万難を排して馬車に監禁していた事だろう。
しかしながら、今回の戦いを境に彼は大きく変った。
好奇心で世界を見ていた少年の目とは違い、ゆったりと全体を見通すような大人の目線で考える統治者としての見方をするようになった。
それを見た領主は大変驚くと共に 過度な干渉をする必要が無い事を知った。
ただ一つ心配なのは・・
「ハルカ嬢が成人されるまでに、自分も相応しい人間になってみせます」と 皇太子の立場で公言して憚らない彼の恋心だ。
自分の息子に次いで またも不毛な思い込みをする若者を見て、「おまえもか・・」とため息が出たと言う。
戦いの事後処理を終え、再び前進を始めた馬車の隊列を 放心したまま見送る者が居る。盗族達を煽りたて 領主を襲撃させた魔術師の女である。
(何で?なんで あんなに元気なのよ・・確かに食料は潰したはずなのに)
失敗の報告など持ち帰れない女は こっそりと後を追う事にした。
「ああー・・こりゃあダメだわ。色々な意味で」
「作ってもらったばかりなのに・・」
馬車の中でハルカは 戦いで切り裂かれた服を着替えていた。
今回も背中が切られたが、転移が間に合って傷自体は浅くて済んだ。
髪の毛も翌朝に成れば元の長さに復元されているだろう。
しかし、
衣服は切られた上にたっぷりと血を吸って 見るも無残な状態だ。
以前、もらったシーナレストのお下がりの子供服を着るしかないようだ。
あと他に持っているのは ドレスだけなので選択肢は無い。
今はパンツ姿でシェアラに背中を拭いてもらっている。
幸い、一般で売られているパンツは男女兼用で 地球のように こだわりが無くて助かった。一部の金持ちだけが 高価な生地で女性用の下着を特注しているらしい。
ただし、兼用とは言え 男性用の窓が付いていないので、ハルカから見れば 女性の下着と同じでとても不便だ。
「はるかー、にゃはは」 はむ はむ
ハルカから大切にされていると知った夜から シェアラは甘えてスキンシップを求めてくる。
ケモミミらしく アマ噛みをしたり ナメナメしたりして思いの丈を伝えようとする。
ハルカも じゃれつくネコを可愛がるように甘えさせていた。
最近ではピアまで参戦してじゃれ合う事が増えた。
そんなハルカを見て 前世の記憶があるシシルニアは不思議に思う。
子供同士とは言え、これだけ触れ合っていて変な気にならないのか、と。
彼女の記憶にある男子は 小学生のうちからスケベな存在だったのだ。
「ねぇ・・ハルカって、女の子の色々な所に触りたいとか思わないの?。
男子なら 直ぐに変なこと考えるはずなんだけど」
「ん・・シシル 触って欲しいの?」
「違うわよ、ばかっ。私の記憶にある男の子って、隙あらば 直ぐにイヤラシイ考えに成る存在なのよね。その点 ハルカは違うみたいだから聞いてみたのよ」
「シシルには話したけど、・・元々は大人だったからね。
今はこうして男女とか意識しないで仲良く出来る方が大事なんだ」
「ふーん・・。死ぬまで女好きなスケベ爺さんも居るのに、ハルカはそうなんだね」
シシルニアも納得してくれたらしい。
日本で 夜の女性たちを夢中にせていたハルカにとって、幼い彼女達を喜ばせるなど簡単だった。
そうした方が より親密になれるのは間違いないが、それをしないのには訳がある。
幼いうちから性的な感覚を開発してしまうと、体が子供を作るための準備をしてしまうからだ。
ハルカが日本に居た時の知り合いで、東南アジアに買春に行く スケベなオッサンが居た。彼は戦果を自慢でもするかのように 若いハルカに話していたので 妙に記憶に残っている。
売春をして生活する人々の子供は、家族を助ける為に 幼女の内から売春して働くらしい。オッサンは言う、「顔も体つきも小学生位なのに 下半身だけは立派な大人になっていて、お尻だけは大人のように大きかった」と。
オッサンの人格うんぬんは別として、この事は ある重大な現実を教えている。
つまり、見た目が子供なのに下半身だけは 大人の体に成長したのだ。
もっと悪い言い方をすれば、幼くして 下半身だけオバサン体型になる可能性があると言うことだ。
将来は必ず美しい少女になるだろう シェアラやシシルニアが、途中で成長を止めて 美しさが半減するなど考えたくも無い。この世界の女性たちが地球の女性と同じとは限らないが、ハルカは彼女達の健やかで自然な成長を願っていた。
その思いやりは、ハルカの心が立派な大人である証拠だ。
午前中の戦いで遅れた時間を取り戻すかのように ハイペースで旅は進んで行く。
昼食は それぞれ朝のうちに作っておいたものを食べる。
多くは 穀物の粉を焼いたナンのような もちもちパンに、
肉と野菜を一緒に焼いたものを挟んで食べるのが手軽だ。
ハルカが多種多様な調味料を持ち込んでいたので、毎回違う味になり 同じ食べ方なのに違うメニューのようで飽きない。もっとも、同じ味であったとしても 保存食のガリガリな歯応えのパンを食べる事を思えば 誰も文句は言わないだろう。
その後はトラブルも無く、無事に野営の場所まで来た。
次の夜からは、宿場町が存在するので野営も一休みとなる。
皆が野営の準備で忙しい時、一組の若い男女が馬車の陰で密談をしていた。
「ハルカの欲しい物・・ですか?」
「姫は あの子の友達と聞いた。助けられたお礼がしたくてね、教えてもらえないかな」
(オラテリス王子・・ひょっとして ハルカに?。これは 大変、大変、大変に・・・面白いですわ)
「ハルカが欲しいのは(男の子の)服 ですわね。以前 私がマントをプレゼントした時も凄く喜んでいました」
「服か、そういう所は女性らしいな。よし、分かった 有難う。君にもいずれ礼をするよ」
豪華なドレスを贈ろうと考えながら立ち去る王子様を、ニヨニヨと 楽しそうな顔をしたララレィリアが見送っていた。
野営地に到着してから ハルカはずっと料理長と相談をしていた。
鶏肉が有るのだから ラノベでも手軽に再現していた カラアゲ を作りたかったのだ。
しかし、旅の途中という事も有り 食用油が手に入らない。
油は都でも高級品扱いなので 大量に手に入れるのは難しいらしい。
とりあえず、鶏肉に合いそうな調味料と香辛料を教えてもらい、「つけダレ」を作る事を提案した。とはいえ、そこから先は料理長頼みになる。
そうしてこの世界 初の照り焼きチキンのタレが発明?された。
ただし味は日本のソレとは全くの別物だ。
鶏肉を一人前ずつの大きさにしてタレを馴染ませておく。
後は食べる人に それぞれ焼いてもらう予定だ。
そして夕食、何事も初めて行うときは予想外な事が起こるものだ。
試み自体は成功した。
この世界独特の味ではあるが、大変に美味しい新しい肉の料理が出来た。
食べた全員が大喜びで、肉のお代わりをした者が殆どだった。
領主の家族も大変に喜んで 料理長も満足だった。
ここまでは普通だった。
問題は 焼いた時の煙が 香ばしくて 何とも言えない美味しい匂いだった事。
それを 大勢で焼いたため、匂いが あたり一帯に広がってしまった。
それを嗅ぎつけた商人たちは様子を見に来たまま 堪らず一緒に食べ始めた。
やがて 荷物番 以外の全ての人間が集まったような騒ぎになった。
「ずるいわ、ハルカ達だけ 毎日こんな美味しいもの食べてたなんて」
「えーっ、この料理は今が初めてだよ・・」
フルベーユ商会のお嬢様フレネットは、自分だけでもハルカ達の馬車に移れないか真剣に考えていた。
話はここで終わらない。
何時も以上の人数が集まり 肉を焼きまくったため、思わぬお客まで来てしまった。
「ハルカぁ、獣が来るよ。ウルフの群れだね」
ピアが ハトでも飛んで来るような 気楽な言い方で危険を知らせてきた。
「食べ終わった者は剣を取れ、肉を守るぞ!」
おおーーっ!
変な掛け声だが、騎士も冒険者もいつも以上にマジになって気合が入った。
食べ物の効果は絶大だ。
その食べ物の匂いに引かれて ウルフが集まったようなので皮肉な話ではある。
ウルフは ヨダレ垂らして次々とやってくる。
数が多いため、ハルカも参戦しての狩りが始まった。
上空に明かりの魔法を置き、すっかり狩りに慣れた騎士と冒険者。
そして魔術師達は次々とウルフを倒していく。
皆が頭や首を狙って毛皮にキズを付けないように狩るゆとりまで有った。
離れているうちから ハルカが氷の矢を打ち込んで数を減らし、掻い潜ってきた残りのウルフを倒していく流れ作業のようになっている。
まだ食事が終わっていなかった商人達は、まるでショーでも見ているように 食べながら狩りの様子を眺めていた。
そんな中にちゃっかりと混じっていたのは 盗賊を嗾けた女の魔術師。
旅とは思えない食事を全員でしている事に愕然としていた。