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66、(バカ)王子のせいだ



チート・・ズルとかイカサマなどの意味として使われる。


古風な言い方をすれば 卑怯者だろうか・・。

ルールから外れた強い力や知識 あるいわ道具で、ゲームの勝利を掴むのが 代表的なチートの姿として知られている。


今や一つの文化?を作り上げた この言葉だが、逆に言えば、世の中にチートじゃないものが どれだけ有るのだろうかと考えさせられる。

その点は 全ての人が思い当たるだろうから今更ではある。


ハルカは この世界に於いてチートな存在である。

魔法に関する事もそうだが、事実上2人の精霊に守られ 契約しているようなものだ。

途轍もないアドバンテージなのである。


今、その優位な立場が明確に表れようとしていた。




五日目の昼近く、領主と商人達の隊列は 盗賊が待ち受ける森の近くに差し掛かっていた。昨日までと同じように進んではいるが、良く見れば微妙に違っている。


コルベルトを含めた 御車達は皮鎧を装備し、足元には武器と盾が用意されている。

馬車の中に居る騎士や従者、冒険者もすでに武装が終わり、森側に向けて盾を構え 矢から身を守っている。

後続の商人たちが雇った冒険者達も同様で、全ての臨戦態勢が整っていた。




それは 朝食が終わり 出発した少し後の事。

守護の精霊が情報を伝えてきたのが始まりである。

 

『森ノ精霊ガ教エテイル。コノママ進ムト大規模ナ盗賊団ニ襲撃サレルト。数ハ50ホドラシイ』


盗族達からすれば 「ふざけんな」と言いたくなる とんでもないチートである。

彼らのアドバンテージである 奇襲作戦が台無しだ。


ハルカは直ぐに先頭の馬車を止めて、領主や騎士 そして冒険者達に情報を話した。最初 ハルカは攻撃される前に 自分が行って殲滅すると提案した。

しかし、意外な事に 皆がそれに反対した。


理由は 騎士や冒険者の経験が積めない事、さらに手柄が上げられない事だ。

勿論 全員がハルカの案が安全確実なのを知っている。

ただし、それが必ずしも最良な選択とは限らないと言う。

特に今回は 事前に戦いになる事が分かっているので負けは無い。

その点は 領主が確信を持っているらしい。


長旅とは思えないほど気力 体力が充実していて、盗賊ごときに負ける要素が見つからないそうだ。

実際の経験が物を言う この世界では このような形で戦いを経験できる機会が貴重なのだそうな。


最終的に ハルカは精霊と共に皆のサポートに徹する事で話が付いた。





「お頭、情報通り来ましたぜ。豪勢な馬車も確認できやした」


「よし。まずは 領主の馬車が来たら 全員で矢を放つ。その後は全員突撃だ。

あいつ等はヘロヘロらしいからな、男は切り殺して 女たちは閉じ込めておけ。

後の楽しみだ、女に手を出して時間を無駄にした奴は殺す。

そのまま同じように商人共の馬車も襲う。

先頭が(つか)えてるから馬車は動けねぇ、慌てねえで全てのお宝と女をいただくぞ」


おおーーっ。


既に最初から作戦に齟齬が有るのだが、欲に目が眩み 勝ちを信じて疑わない彼らは 自滅の道を走り出した。



(うな)りを上げて、沢山の矢が降り注ぐ。

心底恐ろしいが 御者も馬上の騎士も 慌てないように念を押されていた。

絶対に当たらないように 彼らの周りには精霊が風の結界を張っていたのだ。

そうとも知らず、盗賊達はワラワラと森から攻め込んでくる。



「敵だーっ。敵襲ーっ!」


盗賊に気付かれないように演技までしていた。

その反応の遅さに 作戦が成功したものと思い込んだ盗賊達は 我先にと馬車に近寄ってきた。


そのタイミングで 騎士と冒険者は一斉に馬車から躍り出た。

何かおかしい、と盗族達が気付いた時には すでに遅かった。

騎士達はヘロヘロどころか 燃えるような目をして格好の獲物に襲いかかって来る。

一斉に矢を放ったはずなのに 誰もケガ一つしていない。



「テリス様、お戻り下さい。危険です」


「何を言う、こんな機会は またと無いぞ」


馬に乗り、王子オラテリスも果敢に戦っていた。

彼の心の中に ハルカの前でカッコイイ所を見せたい、という若い想いが 少なからず有ったのは確かだ。


しかし、剣術が少しくらい強くても 生死を賭けた戦いで思い通りに行くとは限らない。高貴な出に見える馬上の若造は盗賊からすれば美味しい手柄首でしかない。


「うおっ何だ?、   うっぐ」ドドッ


彼は いきなり馬上から投げ出された。

足を切られた馬が転倒したのだ。

背中をしこたま地面に打ち付けたオラテリスは息をするのも苦しい。

チャンスと見た盗賊は 2人がかりで切りかかってきた。



次の瞬間に見えたのは天国・・ではなく、空から見下ろした戦場であった。


「これは・・空の上なのか」


彼の顔にはポタポタと赤いしずくが落ちてくる。

吊り上げられた体制から見上げる事はできないが、視界にある杖を見れば分かる。

ハルカは 彼の襟首を掴んで空に浮いていた。


「!、ハルカ、ケガしてるのか?」


「うっさい、喚くな。・・敵に気付かれる」


そのままヨロヨロと飛び、何とか馬車の屋根に着地する。


「ハルカ、いきなり転移したら フォローのしようが無いよ。ケガ診せて 治すから」


珍しく ピアがプリプリ怒っていた。

いかに精霊王といえども 死んだものは生き返らす事が出来ないのだ。


「すまない、俺の為にケガをさせた。助けてくれてありがとう」


「今日は・・支援が役目だから・・問題ない」


言いたい事は多々有るが、とりあえずハルカはごまかした。

転移の二回連続使用で 何とか王子を助けられたが、自分に剣が届くほど ギリギリのタイミングである。


だが、ハルカの行動は 無理も無い。

彼が死んでいたら 旅の全てが無駄になるどころか、色々と最悪の状況になるターニングポイントでもあった。王子の行動で 全てが台無しになる瀬戸際だったのだ。


「ここから良く見て(バカ)王子。指揮官は戦いの全体を見るもの。一番 苦しくて、一番責任が重い場所。剣を振り回すのは 王子の役目とは違う」


「子供に何が分かる・・」


「大人なら戦いが分かる、と思うの?」


「子供よりは・・分かるだろ」


ハルカの説教?に少し反発したくなるオラテリス。

彼とて学校で戦術学を修めているのでプライドが高い。

結果として命を救われているので強く言い返せないが、戦いの事で幼い少女に口を出されると思わず「生意気な」と考えるのは無理も無い話だ。


「じゃあ、仮に この戦いを指揮しているのが(バカ)王子としよう。

敵の総大将が 何処に居るか分かる?。早く倒さないと 自分の仲間が沢山死んでいくよ。全ては指揮官の責任なんだから」


「んな事 急に言ったって、こんなにゴチャゴチャしてたら」


「あ、また 騎士が怪我をした、(バカ)王子のせいだ」


「君に王子と呼ばれると何か嫌だな。テリスと呼んでくれ」


ハルカは身体強化の魔法を使って 普段よりも流暢に言葉を話しているのだが、その変化に気が付く余裕すら 今のテンパったオラテリスには無い。

その割りに 変な所だけカンが良い男だ。


「落ち着いて考えよう。他人を動かそうと思ったら、まず何をする?」


「指示・・そうか、声を張り上げる必要が有るのか。しかし・・この騒ぎでは難しいな」


あたりは混戦模様となり、怒号と剣が打ち合う音で騒然となっている。

声を聞き分ける事は不可能だろう。


「次のヒント、指揮官のテリスは何処にいる?。何故 ここに居る?」


「全体を見る為に安全な・・そうか。同じように離れて見ているんだな。

・・・あれだ、あそこで偉そうに喚いているのが敵の大将だ」


「ん、正解。分かったら攻撃しないと勝てない。行くよ、あの男の後ろに転移するから、一気に倒してね。できる?」


「!、。分かった、やる。汚名挽回だ」


「あの男はテリスより強い、躊躇(ためら)えば 自分が死ぬからね」


ハルカはテリスに作戦を伝えると同時に 守護の精霊にも目的地を教えていた。

最悪、彼が失敗してもフォローしてくれるだろう。


この時の決断が戦い勝敗を決めた。

ハルカと共に転移したオラテリスは、一切の迷いが無い鋭い一閃によって 盗賊の首領を切り捨てた。


だが、誰も気が付かなければ戦いは続く。

ハルカは久しぶりに 声を広範囲に伝える拡声の魔法を使用する。

こんな戦いなど早く終わりたいのだ。



キィーーーンン


「な、なんだ?」


『聞け、盗賊の頭は オラテリスが討ち取った。兵たちよ、残りの盗賊を打ち倒し 手柄を上げよ』


「・・・・・!」


おおおーーーっ


「うわっ、お頭ーーっ。に、逃げろーっ」


盗賊とは自分が強い立場の時だけ威勢が良い者達の集まりである。

逆に 自分が弱い立場に立つと驚くほど脆かった。

ただでさえ退却戦は難しいのに 闇雲に逃げ出した事で盗賊達は次々と討ち取られていった。



「初手柄が盗賊の首領・・まあまあだね。テリス」


「全ては君のおかげだ・・ハルカ」


初めての死線を生き残り、成長したオラテリスは 少年の顔から男の顔に変っていた。彼の命がけの冒険が無駄では無かったと自らが証明したのだ。

彼の脱走に怒り狂う王城の者達は 今のオラテリスを見て納得させられる事だろう。


ここに至って、真剣な目でハルカを見つめる王子様。


ハルカは 余計な面倒事を増やしたのだった。








後で手直しするかも知れません。とりあえず話を進めるために投稿しますね。

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