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65、ただ、いるだけで幸せ

その日 朝食の後、執事のセバスがハルカを呼びに来た。

付いていくと 一つの馬車の所で領主 自らが待っていた。


「これを見てくれるかね」


そう言って馬車のドアを開けると 大き目の木箱が積み上げられている。


「これは 今回の旅で一番大切な荷物なのだよ。

これをハルカ君の魔法で預かってもらいたい。勝手を言うようで済まないが、昨日のように一撃で馬車が破壊される事もある。宜しくたのむよ」


「ん?大切なのに・・良いの?」


「勿論だ。君の魔法で守られる以上に安全な場所は無いからね」


「そか・・なら・・引き受けた」


荷物が無くなって空いた馬車は 領主の馬車のダミーとして使われる事になった。

空いたままなのは勿体無いが この事で馬の負担が大幅に減る。

今後は1日交代で領主の馬車と馬を交代させるらしい。

元気になるのは馬だけでは無い。

昨晩は肉をタップリ食べて 魔物の夜襲も無かったので騎士達は元気だ。


いよいよ2日目の行進が始まる。

何故か 馬に乗った王子たちが ハルカの馬車の両脇に付く。

地味にウザイ。



*****************



とある国の とある部屋で秘密の会議が行われていた。

その様子は 秘密結社のアジトで行われる悪巧みに見える。


「して、首尾はいかがであった?」


「はい、当初の予定通り 食料を積み込んだと思われます馬車は破壊いたしました。しかしながら、それ以上の打撃を与えるには至りませんでした。申し訳ございません」


「上々だ。手の者が領主の馬車に近寄れなかった時点で可能性は低かったのだ。

食料だけでもマーキングの成果で撃破に成功。後々のやり様も有ると言うものよ」


「しかし、あの野獣を一撃で仕留めるとは、相手の護衛もなかなかやりますな」


「ふふっ、元気が有るのも今の内ですよ。

古来より兵糧を絶たれた兵士ほど もろい者はございません」


「そうだな。筋肉だけのバカは特にそうだ」


「後は 嗾けて置いた者共が始末を付けてくれましょう」


「他の領主の動きはどうなっておる?」


やはり、会議の内容も悪党の悪巧みであった。




*****************





「ヘンタイ・・・」


「ち、違う。暇だから 追いかけてみただけだ・・し、失礼する」


例の如く、空を飛んで シェアラのお花摘み(トイレ)に付き合っていると、興味を引かれた王子達2人が付いてきた。

しかし、ハルカ達の目的を知り 大慌てで帰っていった。


「ったく・・何なんだ、あれは」


「きっと、空が飛びたいんだよ。気持ちいいもん」


「バカが増えると困るから、・・早く終わらせて帰ろう」


「シシルニアも空が楽しかったって。今度は私も 飛んで何処かに連れてってね」


「ん・・そうだ、帰ったら海に行こうか?。・・・魚が取れるし」


「行く!。絶対に約束だからね」


魚と聞いて ものすごい食いつきを見せるシェアラ。何時もの元気が二割り増しだ。

そう言えば まだ前回の魚が残っていたのを思い出す。

そのうち肉も飽きてくるだろうから その時にでも食べる事にした。




その後の旅は順調だった。


時々 ゴブリンやウルフの群れが襲って来るが 割とあっさり撃退されている。

ゴブリンはともかく ウルフは大きいのになると体長3メートルほどにもなるが、

騎士や冒険者が牽制する間に 魔術師が氷の槍で仕留めていく。


仕留めた物をハルカが魔法で解体し、肉と毛皮などにする。

肉は彼らの食料になり、毛皮は空いている馬車に詰め込まれた。

後で売り払って 均等に分配する事となっている。

何時もなら 獲物の権利で揉めるはずが 今回の旅では 冒険者達にも不満を持つ者は居なかった。



そして、四日目の夕食の準備。


「今日の材料は 海で獲れた魚。簡単な調理法は塩焼きだけど、他の食べ方は料理長に聞いて。・・肉が良い人はウルフと牛の肉が有るので 好きなだけ食べて。野菜と 調味料はここに並べてあります」


おおおーーーっ。


あれから 日が経つにつれて 全ての冒険者パーティが ハルカに胃袋を握られた。

彼らが獲物の分配でケンカしないのは 元締めがハルカだからだ。

「揉めるなら食い物をやらない」と言われれば 彼らも引くしかない。

下手に意地を張ると パーティメンバーから突き上げをくらう。


そして 何より、ハルカが仕切って行われる狩りは 明らかに身入りが良い。

安全性が高く、手に入る毛皮も 上等な仕上がりで出てくる。

製品にするまでのコストが掛からない品は 数倍の値段で売れるだろう。

争うよりも 協力して数多く狩ったほうが美味しいのだ。

騎士も冒険者も士気が高く 気力も充実していた。

そんな集団が先頭を行くので、後ろの商隊は安心して追従している。



「うーん・・。どうしたものか」


「どうされました?。殿下」


「ハルカ嬢との接点が全く無い。普通は 姫を守る というキッカケで女性と会話が生まれるものだが、あの子は俺より強いし、周りが強者ばかりで そんな必要がカケラも無い」


「そうですね。最後の接触は (のぞ)き魔ですし・・」


グサッ


王子様は思春期の少年が抱える悩みで苦悩しているようだ。


この頃になると ハルカを精霊が守っている事が知られ、領主の馬車も安全圏に避難するようになっていた。

夜の見張りも最低限の人数で済むため 疲労の蓄積が少なく、予定よりも かなりのハイペースで旅が進んでいく。


体に浄化の魔法をかけて 気持ちだけでもスッキリさせ、ハルカ、シェアラ、シシルニアの3人は今晩もふとんの上で ぬくぬくと眠りに付く。


「ねぇ、・・ハルカ・・」


「ん・・何、シェアラ」


「ハルカはどうして 私に優しくしてくれるの?。ガルガンサに頼まれたから?」


「あ、それ 私も聞きたいな・・。ハルカの自由な性格からしたら、私たちって足手まといでしょ。どうして 側に居る事を許してくれるの?」


「いきなりだね・・んー・・。理由か・・無いかも」


「「えーっ・・」」


「一緒に居ると 何か嬉しいから・・理由なのかな?これ。ただ ・・・一緒に居られるだけで 嬉しい。幸せ」


「「!」」


「ハルカ・・すき、好き、大すき。私も嬉しいよぉ」


「あーっ、ずるいわよ シェアラ。私だってそうよ」


3人は 子猫がじゃれ合うように抱きしめ合った。

何かをする訳でもなく、ただ それだけで幸せで嬉しかった。

特にハルカにとっては 不思議な感情である。

男女の営みも 快楽も知り尽くしているはずなのに、そんなものが眼中に無いほどの嬉しさで有り、幸福を味わっていた。

幼いうちに 初恋を経験した人が知りうる、純粋な恋心がそこには有った。

3人は ありったけの思いを込めてジャレあうと そのまま安らかな眠りに付いていた。


その幸福な想いが流れて ピアも満たされている。

清らかな思いと魔力があふれだし守護の精霊までもが幸福であったらしい。

この夜、ハルカの馬車を中心に 円を描くようにキャンプしていた者達は 皆が 得も言われぬ安らかな眠りに付いていたという。


長い旅の最中とは思えないほど 気力も体力も充実した領主一行は、日程の真ん中に当たる 五日目に突入する。




だが、その行く手には 50人もの盗賊が待ち構えていた。


「いよいよ、今日だな。・・こんな大仕事は初めてだぜ」


「領主や商人共が 一番の宝を持ってここを通る・・か。本当なんだろうな」


「ああ、その点は昨日 早馬で確認してある。この仕事が成功すれば、今後 盗賊なんざしなくても遊んで一生暮らせるだろうぜ。お前ら、気合入れて行けよ」


「ふふっ、期待していますよ。騎士も冒険者も この数日 ほとんど食べていないはずですから、皆さんの敵ではありません。思う存分 暴れてください」


彼らをけし掛けているのは 黒いローブで全身を包み、口元をマスクで隠した魔術師である。

こんな男共の集団に居ては 我先に襲われそうだが 誰一人そんな素振りを見せない。

実は出会った時にすでに盗賊たちは彼女に襲い掛かって魔法で吹き飛ばされていたのだ。今ではその容赦の無い魔法が恐れられていた。


「誰かは知らねぇが 魔術師の姉さん。成功したら 俺と一晩付き合ってくれるかい」


「何を言ってるんですか?。明日 成功したら もっと良い女が沢山手に入りますよ。

あの一行には、王都見物するために 若い女性も多数同行してますからね。

護衛の男どもが居なくなれば思いのままですよ」


おおおおーーーーっ。


盗賊は、目先の欲望を(あお)られて 俄然やる気を出した。

成功失敗 どちらにしても 捨て駒にされるのだが 彼らの頭の中はすでに酒池肉林で埋め尽くされていた。別の意味で こちらの団体も 気力と精力だけは充実している。


欲望にまみれた襲撃が決行されるのは今日これからだ。









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