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64、従者が増えた

クラックス合衆国 皇太子、オラテリスは固まっていた。


彼だけでなく、見ていた者は もれなくフリーズしていた。

皇太子が正式に自らの名を告げ、言葉の上だけでも 食事に参加する許可を請う。

だが、事実上 王子の望みは決定事項と言って良いものだ。

それどころか、常識的に彼がこの場に居るだけで大変な名誉だと普通なら思う。


ハルカは そんな人々の常識をバッサリと切り捨てた。

およそ 想像も出来ない答えに 王子様の思考はフリーズドライだ。



「ぷっ・・くっくっくっ・・」


静寂な場は シーナレストの笑い声から動きだす。


「貴様、殿下の要請を 何と心得るか!」


「ま、待て、ジン。落ち着け」


「しかし、皇太子にする態度ではごさいません」


「落ち着けと言っている。それに・・

お前でも この子には勝てないぞ。私の命を危険にさらすつもりか?」


「うっ、・・むぐぐ」


盛り上がっている彼らを他所に ハルカは焼けた肉を皿に取っている。

あくまで自然体だ。ハルカの知人達は ハラハラして事の成り行きを見守っていた。


「ハルカ嬢。貴方と私は初対面の筈なのだが、なぜ 嫌われているのか・・良かったら教えてくれるか?」


ハルカを女扱いしているだけでも 神経を逆撫でしているのだが、当然だがオラテリス王子は気付いていない。そんな姿にシーナレストは笑いを堪えるのに苦労した。

人の不幸は蜜の味 と誰かが言っているが、彼から見れば オラテリスの行動はコント以外の何物でも無い。


「初対面ではない・・昨日 精霊樹の近くにゴミを捨てていった。

そんな人・・関わりたくないし」


確かに王子にも身に覚えが有る。

しかし・・それが皇太子を蹴飛ばすほどの理由かと言われれば 納得はいかない。


これが普通の一般人のセリフなら 即刻死罪でも不思議ではない。

だが、精霊を友とするハルカが 精霊樹に関して発言した場合は訳が違ってくる。

ただし、ハルカがこれほどゴミ捨てを嫌うのは単に彼のトラウマが原因だ。


観光地に意図的にゴミ捨てをして荒らしていた男達を注意しただけで殴り飛ばされてしまった事を思い出すのだった。しかも報復する前に逃げられた。最高にムカつく。

その様子を動画に取られてネットに流されたのはまだ良いが、それに対するコメントが犯人を応援したものだった。国ごと滅ぼしてやろうかと本気で考えたものだ。


日本を貶めるためにC国と裏で手を組み誹謗中傷や恥知らずな悪行を擦り付け、日本の文化を自分の国の発祥だと言い張る無知蒙昧。最低な他国のクズ野郎を思い出す。


「王子、この場は貴方の負けですな。ハルカ君、今後は精霊樹の周りは公園として、ゴミの投棄を禁止する事にしよう。それで許してもらえないかな?」


「ん・・分かった。(バカ)王子、歓迎する」


また一人、ハルカの中の「バカ王子リスト」に名前が増えたのだった。

こと 女性に関して 絶対の立場と自信が有ったオラテリス王子は 思いのほかショックが大きく、終始無言で食事をしていた。

ある意味 気の毒ではあるが、彼の立場からすれば 大変に貴重な体験とも言えよう。



その後は 高貴な立場の人物が乱入した事で、一般人のコルベルトたちやシシルニアなどは 落ち着かない食事となった。

やはり、今後 彼らとは別に食事をするのが正解と言えるだろう。


領主の家族と ハルカの仲間達が食事を終えると 給仕に徹していた料理長など 従者たちの時間となる。

既に、明日からはハルカの備蓄している食材を領主にも提供する話が付いている。

ハルカが出した交換条件は、料理長が仲間に調味料の使い方を教えてくれる事と ハルカ達にもソースを作ってくれる事、だけだった。


他に 一切の要求をしない事には驚かれたが 彼らもそろそろ ハルカの思考パターンが分かってきたので 素直に条件を飲んだ。

料理長プラハンは ハルカが持ち歩いていた調味料の種類と量の多さに驚き、そして この上なく喜んでいる。


食材の総量は、サラスティア王都で買い込んだ物と フェルムスティアで買い込んだものが有り、野菜以外は往復の旅をしても余るほどの備蓄量なのだ。

肉も野菜も鮮度を保ったままとなれば 料理を作る者としては この上ないステージであり、プラハンは 今までの苦労が吹き飛んで 幸せそうにステーキを食べていた。


ハルカのとなりには 今まで出てくるのを遠慮していたピアが 楽しそうに食事をしている。魔術師の女性や、侍女の皆さんに大人気で可愛がられている。


執事のセバスは 旅の途中とは思えない食事を楽しみながら ハルカを送り込んでくれた冒険者ギルドマスターに感謝していた。

本来なら 従者も騎士や冒険者のように 旅の間は辛い食事になるはずだったのだ。

今は これからの食事が楽しみになっており、年甲斐も無くワクワクしている自分に驚いている。


そして就寝時間。王子と領主の馬車の周りには 騎士達がテントを構え、その外周に冒険者が陣取り 護衛に付いている。

普通は この布陣が要人を守る上で 一番安全な方法で間違いない。ふつうは・・。


食事が終わると 従者達は そのままハルカの馬車の周りにテントを準備した。

本当なら女性だけは 従者も馬車で寝るはずだったが、バカ王子に取られてしまったらしい。

勿論 王子が奪った訳ではないが、立場上 気を使わない訳にはいかないのだろう。

居るだけで迷惑な話である。

だが 意外にもテント生活を強いられた女性陣に不満は無い。

むしろ ハルカ達の近くに来て良かったとさえ思っている。


その最大の理由が 簡易で作られたトイレだ。

本来は、夜中にトイレに行きたくなった シェアラやシシルニアが、恐がって ハルカに護衛を頼む可能性が高かったので、急遽 大工の親方に作ってもらったものだ。


夜中のトイレに行く時の護衛を頼まれて困ったのは シシルニアと共に サラスティアに旅をしたときに痛感した事だった。

眠気も覚めてしまうし、何よりお互い非常に気まずいものがある。


トイレは 持ち運びも考えて、地面に深く掘った穴の周りに 衝立をして見えなくしただけの簡単なものだ。とは言え、「虫除けの杖」の守備範囲内に作られているため 気になる虫も寄り付かなくて快適なのだ。

これが女性陣、特に大人の女性たちに大好評で 離れて野営している女性冒険者までやってくる。

小さな明かりの魔道具で 中はほんのりと明るく けっこう落ち着ける。女性にとって、安心して用が足せるというのは かなり大問題だったらしい。


もう一つ、ハルカの近くには大きなメリットがある。

ハルカ達は普通に寝るが、守護の精霊とピアが 夜通し彼らを守るのだ。

因って、皮肉にも 従者たちが寝ている場所の方が 最も安全なエリアと言える。




『ハルカ、今回ノ旅ハ注意シタ方ガ良イ』


「・・・何か有るの?」


平素は関わって来ない守護精霊がわざわざ出てきて注意を促すのは珍しい事だ。


『昼ニ獣ガ襲ッテ来タガ、ソノ時ニ 僅カデハアルガ 意図的ナ魔法ノ操作ガ行ワレタ』


「誰かが 牛をけしかけた・・・か」


『ウム。我モ警戒スルガ、心構エダケハ必要ダ』


「ん・・」


波乱に満ちた1日目は 何とか無難に終わろうとしていた。

ちなみに、コルベルト達は建前上 御車として依頼されているので 見張りをせずに寝る事が出来る。





明けて 2日目。


馬車の中に ふとんを三枚重ねに敷いて寝ていたので ハルカ達は熟睡できた。

しかも、子供が三人寄り添い 毛布を被っているので暖かく、ハルカが 「このままゴロゴロ一日寝ていたい」と思うほど快適であった。


まだ 夜が明けたばかりにも関わらず、既に料理長は腕をふるっていた。

侍女が手伝っているとは言え 騎士達の食べる分も用意する事になったため大変だ。朝食に必要な食材は 昨晩あらかじめ彼に渡している。


ハルカ達は魔法で水を出し、顔を洗って 口をすすぐ。

さらに 口の中に浄化の魔法を掛けると 歯を磨くよりも虫歯予防になるらしい。


朝食は、コンソメスープを鍋に小分けして、屋台の肉串をバラして入れ、もう一度温めるだけの簡単なメニューにした。

具沢山な上に パンも有るので朝食には充分である。


他の冒険者からすると 彼らの夕食よりも豪華な朝食なので、羨ましそうに横目でチラチラと伺っている。


「はぁーっ・・美味しい。朝からこんなの食べられるなんて、何て幸せなのかしら。街中にいるより豊かってどうなの」


「おいっ、あまり大きな声で言うなよ。他の奴に取られちまうぞ」


「うっ、分かったわ・・絶対に死守するわよ」


「あー・・他の人も欲しいかな?。作った料理は無理だけど・・肉と野菜はあげても良いよ」


「えっ!、いいの?」「なっ!それは本当か?」


突然 離れた二ヶ所から同時に声が上がった。

他の冒険者の人たちだ。


かなり離れていたのに不思議だったが、声を上げたのは いずれも獣人の人だ。

50メートルは離れていたのに話が聞こえていたらしく 流石に良い耳をしている。

突然 大声を出した事で パーティメンバーに驚かせた為 説明しているようだ。


少しして相談が終わったのだろう、それぞれ 代表らしい人が ハルカに近寄ってきた。


「突然すまない。俺はパーティリーダーをしている シトルと言う。宜しくたのむ」


「同じく リーダーをしてるココリスよ。それでなんだけど・・メンバーの子が聞こえたらしくてね。肉と野菜をくれるって言うんだけど・・本当なの?」


「俺の仲間もそう聞いたらしい。あいつは その手の冗談は言わない奴なのでな、本当か聞きに来たんだ」


「ん・・。沢山有るから良いよ。調理は 得意じゃないから・・作るのは自分でしてね」


「おおっ、ありがたい。今朝はもう間に合わないが、夕食になったら来るから 肉と野菜を分けてくれ」


「嬉しいわ。昨日の夜は食べたくて辛かったのよ。何か有ったら言ってね、出来るだけ手を貸すから」


リーダーたちは そう言うと仲間の下に帰って行った。

ハルカは無意識のうちに 食べ物によって彼らと連携を作り上げていた。



「ももたろうの従者が増えた」とシシルニアは心の中で思った。





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