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61、科学の結晶、キター



ついに 王都に出発する日が来た。


打ち合わせ通り 精霊樹近くの門から出ると、結界内の安全な街道にそって 凄い数の馬車が並んでいる。まるで フェルムスティアの馬車が全て出払うかのような数だ。

大イベントでもあり、商人達にとって勝負時でもある。

ゆえに、思い掛けない同行者も居たりする。


「あれっ、・・・フレネットも王都に行くの?」


「ひょっとして ハルカも行くの?。

嬉しい。本当は行きたくなかったけど 気が変ったわ」


彼女はフルベーユ商会のお嬢様だし、考えてみれば不思議ではない。

馬車の側では父親のコルタニアスが渋い顔をしている。


「集合しないとならないから・・・また後でね」


「うん。きっとよ」


幸いにも侍女のフィルファナが馬車の後ろで 荷物の点検をしていて忙しそうなので 今の内に失礼する事にした。



ハルカ達が乗る馬車は 領主の馬車の直ぐ後ろの位置だ。

その御車席には、コルベルトたちのパーティが付いていた。

御車を探していた所に護衛の申し込みをしたので 白羽の矢が当たったらしい。

ハルカの知人でもあり、冒険者でもある彼らは打って付けのパーティである。


コルベルトのパーティとハルカは共に 領主の護衛も兼ねるが、他の冒険者の護衛とは別枠の依頼に成る。その為 他の冒険者はハルカ達が護衛だとは知らない。

ゆえに、他の冒険者達との連携も無い。

何より 子供が護衛で同行しているなど、普通は誰も思わないだろう。

他の冒険者たちから見ると「契約に無い 子供達の馬車も護衛させられる」形となり かなり面白くない。


「コルベルト、お前さん 何時から転職して御車になったんだ?。

まぁ 俺たちが守ってやるからよ、安心して馬の世話でもしてろや」


「そう願いたいものだ。俺たちが出なくて良いように頼むぜ」


(ちっ、腰抜けが)


本来ならケンカになっても不思議ではない挑発なのだが、コルベルトとしては 本気でハルカが活躍するようなトラブルが無い事を祈っていた。


領主が雇った冒険者は総勢20名、5人パーティが4組である。この他に 騎士の護衛も10名同行している。

他の馬車も 少なくない護衛を雇っているので 全体でかなりの戦力である。

これで手に負えない、となると恐ろしい事態なのだ。

だが、フェレットは あえてハルカを投入してきた。

万が一だろうが そんな事態が有りうる事を意味している。


ハルカが乗る馬車は箱型の木製、荷物を屋根に載せて走れるタイプの年季物である。丈夫ではあるが ハッキリ言えば ボロい。フェレットが手配した時には 既に乗りやすい馬車は出尽くして 借りる事が出来なかったのだ。

当然 イスのクッションも悪く、座り心地は良くない。

最初の内は良いが、子供では長い道中で音を上げそうに思える。


ハルカ推定10歳、シシルニア11歳、シェアラ10歳、端から見ると無謀な旅である。コルベルト達が 子供のお守りで雇われたと見られても当然だと言える。


出発の時間が来た。

先頭は 馬に騎乗した騎士2人が並び、続いて従者の馬車。次が領主の馬車で、急な襲撃に備えている。

ハルカ達の馬車がその次に入り、荷物の馬車、食料の馬車、騎士達の馬車、冒険者の馬車と続く。

その後も 多種多様な商人達のキャラバンが続く長大な行進となる。


「ハルカ・・これ何?」


「これをこうして・・ イスの上に置いて、その上に座って」


「・・ハルカ!。これってまさか」


「正解、・・袋の中に高反発マットが入ってる」


「ああっ、ハルカ、GJよ。最高だわ」


「んー・・何か、お尻が痛くないね」


ハルカが取り出したのは 粗末な布の袋に入れてカムフラージュした科学の結晶である。

馬車の乗り心地は 自動車に乗り慣れた現代人には想像しがたい 酷いものだ。

パンクをしたままで 自転車に乗ってるよりも酷い。

しかも 道が平らではなく、石も多い悪路である。

他の誰より ハルカ自身が耐えられる者ではない。

とは言え 自分だけ魔法で飛んでいく訳にもいかない。


苦肉の策として、亜空間倉庫に何枚か入れてあったベッドの高反発マットをカットして 座布団に転用したのだ。


もちろん、こんな物が知れては騒動になる。

この馬車だけの秘密なのだった。



午前中は問題も無く順調に進んでいく。

問題が有るとすれば 道中がとっても退屈な事であろう。


たまに コルベルト達が居る御者席に行って 話しをしたりして紛らわす。

ちなみに 彼らにも同じ布袋にコッケーの羽根を詰め込んだクッションを渡して喜ばれている。これも ハルカたちの使うものを目立たせない為だ。


最初の昼食は馬車を止めず、車内で食べる事が事前に通達されていた。

それぞれ 弁当を持参しているので問題は無い。

食べ物で苦しくなるのは 普通の食べ物が尽きて保存食を食べる時から始まる。


そして、食べれば当然出したくなる。


「ハルカ・・・あ、あのね」


「どうしたの?。シェアラ」


「どうしょう・・馬車止まらないから・・」


シェアラが足をモジモジしているのを見て 鈍いハルカも気が付いた。

長距離用の大きな馬車なら 後ろに隠されて床に穴が空いてあり、馬車を止めなくてもトイレが済ませられる。

しかし、ハルカの乗ってる馬車は 乗合馬車のような作りになっていて、そんな便利機能は備えていなかった。


「じゃあ、・・行こうかシェアラ」


「えっ、どうするの?」


乗合馬車の構造が幸いして 座席は横向きに備えられ、後ろの扉が開いて 屋根にも登れるような作りになっている。

扉を開けたハルカは杖を取り出し空中に浮きあがり、シェアラに手を差し伸べて誘っている。


「誰も見えない所まで行こう。・・ノロもおいで」


「うん。ありがとう、ハルカ」


「は、ハルカ・・次は私もおねがい」


「ん。わかった」


護衛の役目も有る為、離れるにしても 馬車が見えている範囲でなくてはならず

100メートルほど離れた 草原の低木の陰に降りる事にした。


トイレットペーパーを渡そうと思ったが、この世界にも何か紙の代わりが有るようで 用意していたらしい。シェアラも女の子なのだ。

守護の精霊に頼んでシェアラを守ってもらい、離れた所で 自分も用をたしておく。

ケモミミをピクピクさせて 恥ずかしそうに戻ってくるシェアラが可愛い。


見渡せば寝転びたくなる気持ちの良い草原だが 次が待っているので帰る事にする。



「ハルカちゃーん。次は私、おねがいーー」


帰ると同時にミルチルさんが泣きついて来た。

大人の女性にとっては さらに深刻な事態なのだ。

シシルニアが苦笑いしながら了承していたので 先に連れて行く。


すっかりトイレ担当にされているが ハルカにとっても 馬車に乗ってばかりでは飽きるので、気晴らしには丁度良い。飛び回る理由が出来たので渡りに船とも言える。


落ち着いたシェアラは 食後という事も有り 今度は眠くなって来たようだ。

長い旅なので、休めるときに休んだほうが耐えられるものだ。

疲れが貯まってダウンする方が困るので、寝てくれたほうが手が掛からない。


床にふとんを3枚重ねで敷くと 喜んで寝てしまった。

見ていて眠くなったのか シシルニアも寝てしまう。

暇なハルカは、馬車の上に登って景色を楽しむ事にした。


そんなハルカを 後ろから見ている者達がいた。

それぞれ 自分の馬に乗って、馬車の行列に同行している王子オラテリスと 騎士ジンジニアである。


「テリス様、もしも不測の事態が起きましたら、我々だけでも逃げ延びますからね」


「この規模の団体にケンカを売るような 盗賊も魔物も居ないだろ。

同行するのが一番安全と言ったのはお前ではないか」


「通常ならそうなのですが・・何か嫌な予感がするのです」


「ジン・・、変なフラグ立てるなよ」



ンヴオォォォォォォォォォッッッ


タイミングを図ったように 重低音の泣き声が聞こえてきた。





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