60、嵐の前のピクニック
王都に出発する前日、ハルカ達は旅の準備を終えて 精霊樹の下に広がる安全地帯でくつろいでいた。
冒険者ギルドマスター、フェレットの奥さんララリアさんと娘のララムも一緒だ。
外で遊ぶ約束をしていたが 護衛で王都に行く事になったため、今度は何時遊べるか分からないので誘う事になった。
巨大な木と 広々とした草原にララムも大喜び。
子供の相手は苦手なハルカはピアも呼び出して皆で遊ぶ事にした。
とは言っても、せいぜい鬼ごっこや 縄跳びなど遊びのレパートリーは限られてしまう。
一番喜ばれたのは シェアラや ララムを杖に乗せて空を飛んだことだ。
恐がるとマズイので 低空飛行で湖の上や広場をゆっくりと飛び回るだけなのだが
それだけでも大興奮である。遊園地のアトラクションみたいなものかもしれない。
大人のララリアさんまで乗りたがったのには驚いた。
そんな楽しそうな風景を 少し離れて伺っているのは、お忍びの第一王子オラテリスと従者の騎士ジンジニアの2人である。今日は手に入った屋台の料理を持ち込んで ピクニックのように草地に座って食べている。
「アレどう思う?ジン」
「凄い、としか言えません。たしか、空を飛ぶ魔法はサラスティアの筆頭魔導師が使う秘術。それを遊びに使うなど、ラニカ殿が聞いたらすっ飛んで来そうです」
「ははっ。そうだな、彼女なら公務を全て蹴飛ばして来るだろう。
そのラニカに 以前聞いた事が有る『なぜ 高度な魔法を使う時、光の魔法陣が浮かび上がるのか』とな。
彼女ほどの魔導師がこう言った『複雑な術式を補佐し 魔力の消費を軽減する為に作られる』と。要するに術者の身を守る為に術を安定させているらしい」
「・・・・」
ジンジニアも魔法は使える。初歩的な攻撃魔法だが それだけでも魔物相手には相当なアドバンテージに成りうるし、実際 旅をするうえで生死を分ける事も多い。
故に、彼は 複雑な魔法を使いこなす 若き魔導師にも畏敬の念を持っている。
自分が使えない魔法が行使される時 浮かび上がる魔法陣には羨ましさと憧れを抱いたものだ。
しかし、今のオラテリスの言葉が本当なら、あれが浮き上がって来るのは 術者がギリギリの魔法を無理して使っているという事だ。
自分達が到底たどり着けない魔力を使いこなす 魔導師の限界を意味している。
「俺も魔法はたしなみ程度しか使わんが 興味は有ってな・・。
でだ、あのハルカ嬢を見ていて気が付かないか?。あれ程の魔法を使うのに一切詠唱も動作も無い。そして、魔法陣のカケラも浮かんで無いぞ」
「!、確かに言われて見れば」
「ふっ、シーナレストが夢中になる訳だ。
あの子は まだ子供なのに、我が国随一の魔導師よりも上だという事だ」
「確かに。・・ここまで来ただけの価値は有りますね。こんな凄い魔法使いが野に居るとは 誰も思いますまい」
「知ってるか?、ジン。
我が国の法では、強力な魔法使いは 身分の上下に関係なく王族と結婚出来るのだ」
「まさか・・お戯れを」
「まぁ、まだ彼女の人となりを知らないからな、何とも言えぬが・・。少なくとも 地位や名誉に媚びて擦り寄ってくる女達とは違う」
とは言いながら、かなりその気が有るオラテリス王子である。まだ子供とは言え 旅先で巡り会った美しい少女。王宮に居ては 到底適わない女性とのシチュエーションにうかれるのも無理は無いのである。
せっかく シーナレストが忠告していたにも関わらず、深みにはまって行く世継ぎの王子様だった。
様子見を終えて 気が済んだ王子達が立ち去った後をハルカは見ていた。
正確には彼らが残していったゴミを見て魔法で燃やしている。
王子の浮かれた気持ちとは裏腹に ハルカの彼らに対する第一印象は最低であった。
ハルカは日本でも独身男だったが清潔な生活をしていた。
潔癖症な清潔キ○ガイほどでは無いが 日本人特有のきれい好きなのだ。
彼らが立ち去ったのを確認して、ハルカは以前焚き火をしたところで火を起こした。土レンガを両脇に置き、大きな鍋 いわゆるズンドウ鍋に水を入れて火にかける。
外での食事の用意も不思議と楽しいイベントになる。
それだけでもまるでキャンプをしているかのようだ。全員参加で用意をはじめる。
人の頭より大きなジャガイや、タイヤのように横に大きいタマネギ、大根のようなニンジンそして鶏肉、他にも色々な野菜を切り刻んで入れていく。
子供たちも普段家事を手伝っているせいか 包丁も難なく使いこなしていた。
以前 歩いて旅をしていた時に 食べ物に変化が無くてうんざりした経験は忘れない。
今回も長い旅になるので 屋台のメニューだけでは飽きるかもしれない。
また、状況次第では食事の時間が取れず急いで食べる場合も有るだろう。
その時のために暖かいスープを作ろうとしていた。
シチューやカレーでは 見るからに特殊なので目を引く。
市販のルーで作っているので 誰かにその作り方を聞かれても答えられない。
苦肉の策で この世界のスープと少しだけ違うコンソメスープを沢山作ろうと考えたのだ。これなら一風変わったスープが偶然 出来たとごまかせる?。かも・・・。
残念ながら燻製肉やベーコンが無いため風味がいまいちだが、逆に この方がいざと言うとき 鍋に小分けしてシチューにする事も可能だ。
クツクツ煮込んで灰汁を取り除き、顆粒になったコンソメスープの元を放り込む。
「ハルカちゃーん。ひさしぶりー」
「のあっ!」
スープに集中していて 完全に意表を突かれてしまった。
後ろから抱き着いてきたのはミルチル。
精霊樹の件で護衛してもらった コルベルトのパーティメンバーだ。
見ると ずっと後ろからコルベルトとラカントの2人が 苦笑いしながら歩いてくる。
「ああー・・。なんて幸運なのかしら。
またハルカちゃんの料理を食べれるなんて。夢にまで見たのよ」
「これは 旅の保存食。・・誰も食べて良いとは言って無い」
「ええーっ、食べちゃダメなのぉ。ハルカぁ」
「作るの手伝ったララムは・・食べても良い」
「そんなぁ・・ハルカちゃん、いじめないでー」
ミルチル うざい と思うが、以前 手助けしてもらった為、強くは言えない。
彼らは護衛の仕事を終えて、帰りは狩りをしながら歩いて帰って来たらしい。
結局 彼らも交えて、ララリアさん特製のサンドイッチと共にコンソメスープを食べる事になった。作るたびに このパーティに食われている気がする。
「おいしいよー。急いで帰ってきた甲斐があったわ」
「ハルカは また旅に出るのか?」
「旅というより護衛?。・・ギルドマスターの依頼」
「ハルカ、それじゃあ分からないわよ。
えっとね、領主様が王都に行くから護衛を頼まれたのよ」
「えっ、ハルカはまぁ・・分かるが、お嬢さんも護衛なのか?」
「違うよ。私は里帰りでハルカに同行するの。シシルニアと言います、宜しく」
「その依頼、まだ募集していたら おい達も参加しようか。そうすれば このスープがまた食べられるかも知れない」
「そうだね。そうしようよ。急いで募集が無いか見て来る」
食べ物に釣られて危険な旅に出るなんて、桃太郎の従者になった三匹みたいだ。
とシシルニアは思ったが 口には出さなかった。
フェルムスティアの街中では 明日の出発を控えて沢山の馬車が準備をしていた。
それぞれ 食料を仕入れたり 護衛を雇うため、街の中はちょっとした好景気にわいている。
領主の館でもほぼ準備は終わり、異様な姿の馬車が明日の出番を待っていた。
普段使っている馬車の側面に 軽くて丈夫な虫の甲殻で作られた外装が取り付けられている。少しくらいの魔法や 矢の攻撃では傷も付かないだろう。
そんな姿の馬車が2台。領主の家族が乗るものと、大切な荷物が載せられた馬車だ。
その他にも 警護の騎士達が乗る大型の馬車と 侍女や料理人などが乗る馬車、そして 食料や馬のカイバなどが積まれた大型の馬車。ここだけで5台の馬車が使われる。
それ以外にも騎士が直接騎乗する馬も入れると ちょっとしたパレードのようである。
この様な光景が他の主要な都でも見られる事だろう。
皇太子成人の儀はまさに国を挙げての大イベントなのだ。
江戸時代の参勤交代みたいな旅はいよいよ明日だ。
目指しているのはマンガのような軽く読める文章。
グダグダ・ダラダラな文章は書くのも 読むのも嫌いなのです。
お付き合いして下さる読者のみなさん。ありがとー。