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59、ハルカのツボ

「仕事の話は・・無しって言った」


「仕事というか、お願いがあって探していたのです」


またもや、フェレットに捕まってしまった。

この男、元は諜報かアサシンでもしていたのではないか、と最近思っているハルカだ。

大工との打ち合わせが終わって 次の瞬間には彼がとなりに立っていた。

これには棟梁も驚いて飛び退き 身構えたほどである。

待ってた女性陣の猛烈な抗議を無視して ハルカは仮のギルドへ連行されていた。



「で、お願いって・・何?」


「護衛として領主様のご家族と 王都まで行って来てください」


「やだ。・・何日も掛かるし」


ハルカは今日 帰ったばかりで 間が悪いのはフェレットも分かっていた。

しかし、領主の出発も 明後日であり、時間的余裕は殆ど無い。

こんな事で子供に無理を言うのは異常な事なのだが、フェレットのカンが この旅を成功させるにはハルカの同行が不可欠だと告げていた。


「今の領主様は尊敬できる方です。

彼に何か有れば、この都の住みやすさも無くなる可能性があります」


「ガルガンサと約束した・・戻るまでシェアラを守る」


「それでしたら、シェアラさんも同行されれば問題無いですね。

ガルガンサは冒険者ですからギルドの方から連絡を入れておきますよ」


「危険だから・・それに、シェアラは子供で旅はきつい」


「ギルドからハルカさん達専用の馬車を出します。子供同士なら疲れも少ないでしょう」


お互いに一歩も譲らない気配だ。

社会的に見ればハルカの言い分は 個人的な我がままに近いかもしれない。

しかし、その個人的な理由が通らない世界というのは 人の存在そのものを単なる数字や 捨て駒にしている可能性が高い。


これが ゴリ押しで通されるようであれば 何か有るたびにハルカの意思を無視して利用され、使い潰される事を意味している。


ハルカはそんな武士道が好きな人間では無い。



「そんなにヤバイの?。・・・その旅行って」


「そうですね・・直接的な敵が居る訳では無いのですが、今回の旅にはフェルムスティアの命運が掛かっていると言っても良いでしょう」


「そんな話をしても良いの?。・・まだ 行くとは言って無い」


「結果的にハルカさんにも関係ありますから、知る権利は有りますよ」


「聞かないほうが良い気がする」


「知らないで巻き込まれるか、知って対策をするかの違いしか有りません。

領主様は御家族で行かれますから、もしも 何か有れば違う方が領主として派遣されて来ます。私の経験から推測すると ハルカさんの力を知って利用しようと熱烈な勧誘が有るでしょうね」


余計な事を聞いてしまった。

ハルカは自分で墓穴を掘った事に気が付いた。

やはり、こいつはフェレットだ。


しかし、彼は知っているのだろうか?。

知ってする対策の中には、都や 関係者を消し去る選択肢が有る、という事を。


「それに、王都は今の中心地ですから 様々な品物が集まりますし、美味しいものも沢山あります。シェアラさんも喜ばれますよ」


「美味しいもの?」


「たとえば・・そうですね、先日 飛竜が討伐されていますから、上手くいけばドラゴンステーキが食べれますよ」


「本当にあるの?、・・ドラゴンステーキって」


「あとは こちらまで出回らない食材も多いですね。

中でも馬車ほどの大きさが有るキャベツという野菜は美味しいですよ」


「おおーっ」


ハルカは胃袋を捕まれてしまった。

フェレットは短い付き合いの中で ハルカのツボが 食べ物とシェアラであると見抜いていた。


交渉は その気になってしまったハルカの負けである。

その後の打ち合わせはスムーズに進み、フェレットは人知れず胸を撫で下ろしていた。



「待ってたわ、ハルカ。しばらく会えなくなるから お話がしたかったの」


領主お抱えの捜査官をもってしても 二日の間 ハルカの気配を補足できず、ララレィリアは ハルカが他の町へ移住したのではと焦った。

そんなタイミングで王都へ行く日が決まったため、なおさら焦りを募らせていた。


今朝になって門番から連絡が入り ハルカが戻った事を知り、他の予定を全てキャンセルして捜しにきたのだった。


「その事なんだけど、・・旅の準備をするから時間が無いんだ」


「えっ。ハルカ、また何処かに行くの?」


「うん。・・でも、今度はシェアラも一緒に行こう」


「ほんと?。行く、嬉しいよぉ」


ハルカには気付かれないようにしていたが、シェアラは留守番が寂しかった。

また出かけると聞いて 寂しさが思い出されて悲しみが蘇っていた。

それ故に、一緒に行けると聞いて 満面の笑顔で抱きついてくる。

ケモミミが顔に触れてくすぐったい。


「勿論 私も一緒よね。それとも定員オーバーかな・・」


「今度は馬車だから、シシルも一緒でもオッケー。えっと疲れてない?」


「疲れて無いよ。子供は一晩で回復するのよ。馬車で行くなら色々準備しないとね」


シシルニアは「飛んで来たから疲れない」とは言わなかった。

誰が聞いているか分からないので気を使ったようだ。


「ズルイですわ。私だけ仲間外れなんて・・」


「ララとは、馬車が違うだけ・・一緒だ」


「えっ、何を言ってるの?」


「フェレットに依頼された。・・王都まで一緒に行く」


「ほんと?」


「うん」


「嬉しい・・これで つまらない旅も楽しくなりますわ」


女性陣は一様に機嫌が良くなり 一緒に旅の必需品を買いにいった。

ハルカも一人で何が必要になるか思案していた。

ハルカだけであれば必要の無い物でも 大勢と一緒の旅では必要になる。

日本から持ってきた道具が使えない場合が多くなると予想される。


あめ玉一つで騒ぎになるのだ、気を付けなくてはならない。


シシルニアにアドバイスしてもらい 主に食料と調味料を買い込んでいく。

特にハルカの収納魔法を当てにして出来立てのパンを大量に買い漁っていった。


馬車で移動するので テントなどは一つ有れば良いし、大体の物は領主の護衛が用意しているとの事。


意外と忘れがちなのが 下着の着替えを多く持つ事が女子にはとても大事らしい。

洗濯出来る川が必ず有るわけでは無いからだ。



夜はララレィリアが(すす)める一押しの宿に泊まる事にした。

どのみち 何処に止まろうと彼女に見つかってしまうので 隠れる意味が無い。

どうやら 安全面も信頼できる宿らしい。


「二部屋にする」


「いいわよ、一部屋で。子供同士なんだから。それに、たぶん分かれるとシェアラが寂しがるわ」


こんな時は子供の姿が便利だ。男女で泊まっても変な目で見られない。


「それでは、ハルカが同行してくれるのを お父様にも知らせておきます。

お兄様には・・面白いから秘密にしておきますね」


「おもしろい?」


「そうです。面白いのですよ。ふふふ」


ララレィリアは最高に機嫌良く帰って行った。





「テリス様。盗み聞きとは感心しませんね」


「何を言う。情報こそが命を守るのだ。どうやら あの子が件のハルカ嬢らしい。

同行するらしいから焦ってコンタクトする必要も無いか・・」


シーナレストが失恋した相手と聞いていた。

だからオラテリスがハルカを女性と思うのは必然だといえる。

今もハルカの容姿を見て 王子様もすっかりハルカを女性と信じて疑わないようだ。


何やら背中に悪寒が走るハルカである。

その夜はシェアラを加えた 三人が寄り添って 久しぶりに安らかに眠る事ができた。





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