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58、どいつも こいつも



フェルムスティアの領主の息子シーナレスト、クラックス合衆国の第一王子オラテリス、そして従者の騎士ジンジニアは フェルムスティアの都を徒歩で散策していた。


王子はいくら町人の服装をしていようと 剣を帯び 立ち居振る舞いが自然と違ってくる為、誰が見ても只者では無かった。まして馬上では目立つ事この上ない。

やむなく門番の詰め所に馬を預けて歩く事にしたのだ。



「あら、珍しいですわね。お兄さまがお友達と御一緒されてるなんて。

どちら様かしら」


「ララレィリア、・・お前こそ 今は習い事の時間ではないのか?。

また抜け出して来たのだろう」


間が悪い事に シーナレストは妹のララレィリアと街中で鉢合わせしてしまう。

幸いにもララレィリアは王子の顔を知らなかったようだ。

兄は王子を 知り合いとして誤魔化す事にした。


「姫様、男の方が密会をされている時は 遠くから見守るものでございますよ」


「えっ、そうだったのですか?。知りませんでしたわ。

お兄様・・ハルカに失恋して そんな趣味に走られたのですか」


「変な事を妹に吹き込むな!。ララも そんな事を本気にするな」


「では、男の方は男同士でお楽しみください。

行きましょう、姫様。またハルカさんを逃がしてしまいますよ」


「あ、そうだったわね。そっちの方が大切だわ。行きましょう」


姫様付きの侍女がトンデモナイ誤解を振りまいた為 兄妹はすっかり王子の存在を忘れていた。


『若さまに貸し一つですわ』と侍女は去り際に小声で囁いていた。

彼女は何故かオラテリスの正体を知っていたようだ。

過激なフォローに 救われたのか、貶められたのか微妙な気分のシーナレストだ。



「お前も 妹では苦労してそうだな」


「そう言えば、でん・・テリスにも妹が居るんだったな」


「ああ、三人も居る。策士なのは母上譲りでな、俺なんかより 余程国王に向いているだろうぜ」


「自分も 口では妹に勝てませんよ」


「で・・ハルカって何だ?。

プッ・・失恋したとか聞こえたが、イロイロあったってのはそれか」 ニヤニヤ


「ぬぅ、他人の傷口を(えぐ)るのでしたら、王子が来訪している件を 父上に上申しますよ」


「なっ、それは 話が別だろう」


年齢も近く、立場的にも似ている二人は仲が良い。

お互いに地位を気にせず語り合える点では得難い友である。




「これは シーナレスト様。お体の調子はいかがですか」


「フェレット殿。今の時間にこのような場所にお出でとは珍しいですね」


「ははっ。こう見えても大切な仕事をしているのですよ。

領主様の依頼で 王都に向かう馬車の護衛に 最高の人材を用意しなくては成りません。 どうやら、・・さらに優秀な護衛が必要に成ったようですしね」


フェレットは さり気なくオラテリスを見て確認している。

どうやら 彼も王子の正体に気が付いたようだ。


「それよりも、ハルカさんを見かけませんでしたか?」


「・・・いえ、今日は まだ見てませんが」


「そうですか・・私の能力を持ってしても捕まらないとは 困った方です。

では、急ぎますので失礼致します」


フェレットは足早に去っていく。

彼もハルカを探しているようだ。

ギルドマスター自ら探すとは何なのだろう。



「何か、疲れたな・・。

テリス、広場に行きませんか。普段は食べれない屋台の味が楽しめますよ」


「そうだな、どうやら 俺が来た事もバレバレのようだし。開き直るとするか」


お忍びで自由を楽しむ為に来たのに 意外と自分の顔が見破られている事が つまらない王子様であった。

それならそれで 変装でもして外見を変えれば良いのだが、彼らは服装を変えただけで変装しているつもりなのだ。

世間知らずのボンボンと言うなかれ。この世界にはテレビも無ければ推理小説など

事件を題材にした読みものも無い。変装するための知識を得る方法が無いのだ。


そんな箱入り息子オラテリスに付き合っているシーナレストも 今日に限って知り合いにばかりに見つかり、あまつさえ皆がハルカの名前を出すため辟易していた。



2人が憩いを求めてやって来た広場は 何時もと様子が違っていた。

屋台は出ているのだが、何処も営業している様子は無い。

それどころか 店主たちは皆が喜々として大きな肉の塊をさばいている。


「ちょっと尋ねるが、どうして今日は営業してないのだ。何か問題でも起きたのか」


「ああ、お客さんかい、すまないねぇ。今日はどこも売り切れなんだよ。

ありがたい話さ」


「そ、そうか。祭りでも無いのに客が多くて良かったな」


「違う、違う。ハルカちゃんがね 全部買ってくれたんだよ。

おまけに見てよ、肉までくれたのさ。あの子は福の神だねぇ」


ヒクッ・・


またもやハルカの名が出て、思わず顔が引きつってしまうシーナレスト。

行く先々で関わってくる気がする。軽くホラーな状況だ。


「おい、ちょっと こっちに来い」


そんな彼を 人の少ないベンチに引っ張る王子様。


「いい加減、白状しろ。ハルカとは何者だ。どういう人間なんだ?」


「どうって・・ただの子供だよ」


「ただの子供が、屋台の品物を買い占めるのか?。

何で 曲者の怪しいオッサンや お前の所の姫さんが探しているんだ?おかしいだろ」


「ああ・・確かにおかしいよな。どういう人間か・・説明の仕様が無い」


「訳ワカンネー。変だぞ、お前等」


「あぁ そうだ。一つだけ忠告しておく。

あの子には関わらない方が身の為だぞ。おれは忠告したからな」


何時に無く真剣に忠告され、ますます興味がそそられるオラテリス。彼に面と向かってそんな諫言をしてくれるのは立場や年齢が近いシーナレストくらいだったのだ。


「忠告は確かに承った。しかし、脅かされて引いていては 何も出来ないではないか。全ての判断は この目で見てからとする」


オラテリスは生き生きしている。

無理も無い、彼は刺激を求めて はるばるやって来たのだ。



**************




修理中の冒険者ギルドの建物の前、ハルカと大工の棟梁が話しをしている。

ちょうど休憩の時間だったので 都合が良かったのだ。


「ほう、変った作り方を知ってるな」


「詳しく知らない・・この国で出来るかも分からない」


「おぅ、言ってくれるね。作ってやろうじゃねぇか」


「違う、材料がそろうか分からない・・からだよ」


「あぁ、そういう事かい。その辺は相談しながら 使える物を使えば良いだろうぜ。最終的に目的に適えば良いんじゃねぇかい?」


「おーっ・・さすが親方」


「任せな。お前さんにゃ窮地を救われたからな。全力で望みの家を建ててやるぜ」


どうやら ハルカは面倒な手順をすっとばして 直接交渉する事にしたようだ。

ハルカの求める自宅の希望は3LDKの平屋で実にシンプルだ。


だが、出来るだけ軽量化して 魔法で亜空間倉庫に入れて 持ち運べるという無茶な注文だった。この世界の一般的な建て方は、石材で基礎を作り 有る程度の高さから木造になる形式だった。地面から切り離した建物など 想像した事すら無いのである。



「でね。こんな感じで・・組み立てたものを また組み立てる感じなんだ」


「ほぅ、おもしれぇな。こりゃあ開拓地の村を作る時にゃあ重宝しそうだぞ」


「作り方は・・親方のやりかたに成るからまかせる。足りない材料とか有る?」


「そうだな、強力な接着剤が必要になる。だがなぁ、そいつの材料が少し厄介でな、大樹カミキリムシって強い虫の魔物の体液なんだ。それが有れば、錬金職人が作ってくれるはずだ」


「ん?。ちと待ってね・・あっ、有るよそれ。捨てなくて良かった。けっこう沢山有った」


「ああ、すまねぇが 今は出さないでくれ。施工はギルドの建物が出来てからになる。悪いがその時に頼むよ」


「そか、わかった。・・・楽しみにしてるよ」


こんなマニアックな会話に付いて行けない女性陣は 近くのオープンカフェのような店でお茶を飲んでいた。



「もぅ、あいつは女の子ほっといて何してるのかしら。

せっかくシェアラと久しぶりに会ったんだから、気を使うべきよね」


「んー・・でもね、一緒に住む家なんだって。ハルカの側にいられて嬉しいから 楽しみなんだよ」


「もぅ、今から新婚さんみたいじゃない。私も側に居るつもりだから、仲良くしましょうね」


「うん。ハルカとずっと一緒に暮らそうね」


「それは、聞き捨てなりませんわね」


「「えっ?」」


そこに居たのはララレィリアとその侍女。ハルカを見つけたのはいいが、なにやら打ち合わせしているようなので、彼女たちもお茶を飲みに来たのだ。



「ハルカさんと結婚するのは私なのです」


「そうなの?。じゃあ3人一緒だね。仲良くしようね」 にぱっ


「いえ、その・・あのね」


「お嬢さん、気持ちは分かるけど、今から独占しようとか考えてると ハルカに嫌われるわよ。あの子って束縛されるの一番嫌いみたいだし」


「ええっ、そうなのですか?」


「僭越ながら、私も彼女と同意見です 姫様。ハルカさんは もっと広い世界を見て回るように思えます」


「うう、そんなぁ・・」


幸か不幸か、ハルカの周りには同年代の女の子が多い。


子供同士で 知り合う機会が少ない世界なので、ある意味凄い偶然だ。ハルカが望めば 今のままでもロリハーレムが可能なのだが、ハルカが一番望んでいるのは 好きな時にゴロゴロ出来る気楽な生活なのである。


この場はシシルニアの見識が正しかったと言えるだろう。



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