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55、憎い奴よの

新しい街(予定地)に着いたのは 今度も夕方になってからだ。

上から見ると少しだけ人が多くなり、活気が有るように見えた。


活気が有る・・と言うより、殺気が有る。

どう見ても戦っている。

相手はお馴染み 盗賊の皆さん。


農民や町民が殆どなので 町は劣勢になっている。

その後ろには 女子供が怯えていた。

負けは悲惨な未来しか無い。


上空からピアの魔法で攻撃させるには 敵味方の区別が付かないだろう。

空から降りて直接魔法を使う事になる。


ハルカは堂々と争いの真ん中に降下していった。


「えっ、ちょっと!。ハルカぁ、なんて所に降りるのよ」


「問題ない」


そう、ハルカを攻撃などすれば 守護の精霊もピアも そいつを敵認定するのだ。

一方、町の人々は先日の宴会で すでにハルカを知っている。

結果は寝ていても分かると言うものだ。


ハルカが降り立つと同時に 盗族達が急にバタバタと倒れだす。

それは ハルカの魔法、対人おいては必殺のエンズイギリである。


盗賊は捕まると大抵は死罪だ。

何も知らない内に 延髄を切られて死んだほうが幸せかもしれない。

残された僅かな盗賊達は 次々と町の警備兵に討ち取られていた。



「「「「おおーーっ、たすかったぞー。勝ったーー」」」」


男達の勝ち鬨の声が上がりだす。

まだ、城壁も門も無い 無防備な町である。

冒険者ギルトも無く、戦力になる様な兵士も殆ど居ない。

本来なら 盗賊にとっては美味しい相手だったはずだ。


人々は落ち着いてくると誰ともなく ハルカを注目していた。

空から舞い降り、勝利をあたえ、小さな体に身の丈ほどの大きな杖を持ち、

長い黒髪を風に靡かせた美しい少女?。

夕日に映えるその姿は神々しくさえあった。



「ハルカさん。お帰りなさい、お待ちしていましたよ」


「ん・・たまたま 来た」


変な騒ぎに成りそうなのを止めてくれたのはグレンさん。

かれは、勝利で浮かれる人々に死体を処分するように指示していた。




「はじめまして。

自分は新しくこの町の行政官を任されたルシルトと申します。お見知りおきを」


急に話し掛けて来たのは、見るからに文官という風体の若者である。

年齢も20歳そこそこであろう。

ハルカは最近 この手の男に縁が有る。

ルシルト行政官から受ける印象はフェレットのそれである。

言葉は穏やかでも逃げ場の無い 追い込むような会話をする。

油断ならない相手だ。


「おおっ、久しいのぅ。フェルナルサのルシルト坊ではないか。大きくなったにゃ」


「えっ、・・あの、何故 その名を?」


「聞いてないのかね、ワシはロスティアにゃ。

あの小さかったルシルト坊が行政官とは・・歳を取る訳ニャ」


「皇太后様!。知らぬ事とは言え失礼いたしました」


ルシルトは ロスティアの素姓を知ると それまでの氷のような表情が ウソのように狼狽し、素早く片ヒザを付き臣下の礼を取った。遠巻きに見ている者達には 彼がハルカに傅いているようにしか見えない。ハルカが やんごとなき人物であると誤解を受けるのに それほど時間は掛からなかった。



「なぜ、ロスティア様が この少女と居られるのです?」


「ワシは隠居。今はハルカと共に世の中を見ているにゃ」


「えっと・・何か用だった?」


「そうにゃ、お主はハルカに用が有ったのではないか」


「はい。それが、本日 私が赴任したのは良いのですが、先任の行政官が資材を横流ししていた為、何も残されて無く 手の付けようが有りません。

この一角だけは木材を確保しておりましたので 理由を聞きましたところ、こちらの少女が提供されたとの事。

もしも まだ所持されているなら 譲って貰えないかと交渉するつもりでした」


「それなら・・問題ない。置き場所を指示して」


資材の集積所と言うべき広場に 大量の木材を積み上げていく。

その量はシシルニア達から買い取った木材を遥かに超えて 馬車にして30台分は軽く有った。ハルカが所持していた普通の木材の9割にあたる。


ちなみに 精霊樹の木材は 虫を呼ぶ可能性が有るので危なくて出せない。


「ルシルト、采配は任せたぞ。夜までには多くの職人達が到着するはずにゃ。

石材も手配しておいた、手順が後先になってしまったが上手くやってくれ」


「はい、皇太后様の温情、しかと承りました。全力を尽くします」


思わぬ仕事をしてしまったが、ノロは帰ってきて良かったと心から思っていた。こうして ロスティアが故国で最後に行った種まきは、やがて立派な町となって長く人々の生活を育む事となる。



「ふーん。なるほどね。納得だわ」


「シシル、急に何?」


「フェルムスティアで木材が売れなかったのは、ハルカのせいね」


「・・どうして?」


「ああ、別に怒って無いのよ。逆に納得してしまったわ。あれだけ入念に計画したのに失敗したのは不思議だったのよ。こんなチートが有るんじゃ無理も無いわ」


「別に邪魔するつもりは・・無かった」


「分かってるって。それに助けてくれたじゃない」


シシルニアは思う。ハルカの魔法が有れば世界一の商人も夢ではないと。

ところが、不思議な事にハルカを見ていると そんな野望はどうでも良い つまらない事に思えてくる。

今まで商人としての夢を追っていた彼女からすると 信じられない心境の変化だ。


盗賊撃退と 町の発展が見えてきた事で その晩もハルカを巻き込んだ宴会に突入していった。

彼が子供の姿なのは幸いであった。

そうで無ければ 勝利に喜ぶ男達が全員 酒を注ぎに来るのは間違い無く、次の日に重い二日酔いで地獄を見ただろう。


再び盗賊が来る事も考えられる為、はるかはヴェルマルタ商会から買い取った槍200本をルシルトに託した。

物騒な置き土産ではあるが、武器らしい物が殆どないのでは人々を守りようも無い。


ハルカは当初の目的を全て果たした。

王都の屋台で仕入れた食べ物で朝食を済ますと、2人と1匹は 心置きなくフェルムスティアに旅立っていった。



***********************




時は少し遡り、ハルカが脱出した後の王城では・・。


「ほぅ、これが あの子が持ってきた菓子であるか。美しく飾られておるの・・食べるのが惜しいくらいだ」


「そうですわね。でも 食べ物である以上 時間を置くと食べられなく成るやも知れませぬ。そうなっては悔やまれるでしょう。陛下と共に食べて欲しいと申しておりました」


「わしと・・か、まぁ 毒は有るまい。殺す気が有るなら 今直ぐにでも出来る者であるしな」


「ふふっ、その事ですが 毒見をさせろ、と煩い者達を振り切るのは骨でございましたよ。あまりに美味しいゆえ、食べ尽くされてしまいます」


「ははっ、それ程なのか。では、食べようではないか」


「はい」


「「・・・・・・・」」


2人が食べたのは 大人向けウイスキー入りのチョコレートである。


「これは、美味いな。甘い菓子も美味いが 中の酒は何と言う酒であるか。このような酒は何処で手に入るものか・・。確かに毒見などで減らすのは勿体無い逸品だ」


「あの子も極上の品と申しておりました。高価な品を気前良く渡してくれたものです」


「憎いやつよの。

恩賞が思いのままに成ろう手柄と貢献をしておきながら 何もさせてはくれぬ」


サラスティアの国が今も健在で 大きく飛躍したのは間違いなくハルカの手柄だ。

ところが、その全てをロスティアに押し付けたため 恩賞どころか 公式に記録として残す事すら出来ない。

真実を知る一部の者達は 何とも歯がゆい思いをしていた。

この翌日には ハルカが置いていった物資の規模に また驚かされる国王様だった。



「して、あの子が 何の前触れも無く 転移して消えたとは真なのか。そのような魔法が可能なのか」


「我が国でも数人しか使えない飛行の魔法も 当たり前のように使いこなしておりました。聞けば、一日掛からずに となりの国から飛んで来たとか・・。

魔法に執着するリンリナルの国でも あれ程の使い手は居りますまい」


「あの国なら、手を尽くして欲しがる逸材であろう。バカな真似をして滅びても知らぬぞ」


フェルムスティアが所属する国、クラックス共和国と広大な森を(へだ)てて となりに存在するのが「魔法こそ人を生かす至高の力」国是とする 魔法至上主義の国 リンリナル魔法王国だ。

その主義ゆえに 魔力の弱い者、魔法や魔術の未熟な者は卑下される極端な国である。


「うふふ、欲しがるのは全ての国でございましょう。しかし、分別の有る国ならば手を出さず、あの子を見守る事でしょうね」


「だが 少し惜しいの・・。あれ程の魔法使いが 今のままでは伝説にすら残らないまま終わってしまう」


「そうでしょうか。人の口は不確かな物でも語り継ぐものです。案外 楽しい魔法使いの物語として残るかも知れませんよ」


「その物語が聞けぬのは残念な事だな」


「ずっと長生きしてくださいませ。陛下」



王様は この少し後、フェルムスティアで起こった不思議な妖精の話を伝え聞く事となり、大いに喜ばれたそうな。



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