54、プチ修羅場
そして次の日・・・
「えっと・・。どちらさま?」
「それは 私のセリフですわね。この方は誰なのハルカさん」
街に繰り出してお土産や 食べ物などを買うつもりだったが、事前にマラガ姫とレレスィに察知され 同行すると言う話になってしまった。
宿で待っているシシルニアを迎えに来たのは良いが 何故か 紹介する前に雰囲気が悪くなる。ちなみに 姫様たちは、お忍びの町人風衣装で固めてある。
「これは、お城の子供でマラカ。それと ・・付き人のレレスィ。
こっちは 商人の友達でシシルニア」
「ハルカ、この都にも広場に屋台が出てるにゃ。わしもまだ食べた事無いから昨日から楽しみだったにゃ」
「おおー・・。まずはそこだねー」
マイペースで 女性たちをエスコートする気がサラサラ無いハルカに 一同が慌てて付いていく。
エスコートされて当然な姫、そして 日本でのデートをイメージしていたシシルニアは不満が蓄積する。
「美味しそうだね。・・オッチャン、5本ちょうだい」
「おっ、ありがとよ。その皿に乗せるのかい。ほい5本。まいどー」
「みんな、食べるよ・・」
ハルカはとっととベンチの方に行ってしまい、彼女達の都合は二の次状態だ。
「あの・・ハルカ様、お嬢様に この食事はちょっと・・」
「えっ、美味しいよ。・・ネコも喜んでるし」
「ハルカのおごりなのね。ありがとう、いただくわ」
「お婆様が食べてるのですもの、私もいただきますわ」
おごりなら喜ぶ げんきんなシシルニアと 買い食いなど想像もしていなかったマラカ姫は ハルカを挟んでベンチに座り 皿に乗せてもらった串焼きを食べだした。
レレスィは前に出て給仕をしながら 周りを警戒している。
「なかなか・・食べ方が 難しいですが、こうして食べるのも 楽しいものですわね」
「マラカよ、世の中には まだまだ知らないことや不思議な事が沢山あるぞ。
外に出かけるのは難しいかも知れぬが チャンスを見つけて学ぶのが良いにゃ」
「お婆様は色々見て来られたのですね。羨ましいですわ。ハルカ、私もネコに変えて連れて行きなさい」
「二匹もいらない。・・まだ家も作って無いし」
「家?。それなら私の持ってる別邸をあげますわ。この国に住めば良いのです」
「シェアラと約束したし、・・帰るよ」
ハルカのヒザの上で皿から食べていたネコのノロは その一瞬で場の雰囲気が変わったのを感じた。まだ8歳の子供に過ぎないマラカから 言い知れないオーラが立ち上っているようだ。
シシルニアはシェアラを知っているので変に思わないが、子供の純粋な焼きもちを楽しそうに見ていた。
「シェアラって何? 他にも女の子がいるのね。ずるいわ、ハルカの最初(の友達)は私なのに・・」
「なっ!。ハルカってば、もう この子に手を出したの?」
「ひでー冤罪だ。・・2人とも、ガキのくせに マセタ事言ってないで早く食べろよ」
「なによ、ハルカだってガキじゃん」
「シシル、・・俺は大人だ」
「そそそ、そんな。まさか、シェアラって子と・・」
とことん話がズレているが、転生者のシシルニアはともかく 王女のマラカが意外とその手の知識を持っている事に驚く。
男の子の体を初めて見て驚いていたフレネットが この世界の基準だと思っていたハルカは認識を改めた。
とは言え、そんな話に付き合う時間も無いので流す事にする。
「オッチャン。美味しかった、・・50本ちょうだい」
「「「えっ?」」」
ハルカはマイペースに生きる。彼の癖を知らない屋台の店主と少女2人は 訳が分からないという顔をしている。
お金を先に支払い、焼いてもらう時間を使って 次の屋台も食べに行く。
三軒目でレレスィが止めなければ一日で屋台を制覇しただろう。
その後は女性陣が主役だった。
色々見て回る事が好きなのは この世界でも女性のほうが上らしい。
普通ならハルカは そんな事に付き合わないが、彼も男子服が無いか探していたので意外と平気だった。
昼も過ぎ、人の行き交う大通りを 騎乗した集団と一台の馬車が行進している。
先頭に居るのは 昨日ハルカが城に降りたとき 指揮を取っていたサルラルトである。彼らはハルカの前、と言うよりロスティアに敬意を示して立ち止まった。
「その様子では、懸念していた事は当たっていたようじゃの」
「はっ。真に恥ずかしき事ながら、行政執行官と出入りの商人が癒着し 資材を横流ししておりました。証拠も揃いましたので これより裁定が下される事となります。それと、お申しつけに有りました建築のベテラン職人50名は現地に向かわせております。しかしながら、資材の調達は いま少し遅れてしまいます。申し訳ございません」
「ご苦労じゃったにゃ。資材は石材を重点的に納品してやると良いぞ。木材は暫くは心配ないようにしておくにゃ」
「了解いたしました。では、これにて」
全ての騎士が馬上から敬礼していく姿を見て、町の人々は驚いている。
「お婆様・・先ほどの一団は近衛ですわね。動かされたのは何故ですの?」
「そうさのぅ。マラカも知る権利はあるのぅ」
「はい。一夜にして開拓された広大な土地が見つかったそうですね。誰がやったのか知りませんが、何事にも動じない国の重鎮たちですら驚いておりましたわ」うふふ
「マラカも新しく町が作られているのは知っておろう。昨日、来る途中で その土地に立ち寄ったのじゃが 工事の進行がおかしかったので調べさせた。どうやら不正が有ったようじゃの」
8歳の子供に話す内容としては どうかと思うが、子供は興味を持てば 大人の話でも吸収するものである。王女が少なからず興味を持った時をチャンスと見たノロは 世の中の現実に触れさせたのだ。
「ところで、御主らは何用じゃ」
見るとハルカ達の周りを女性の騎士達が取り囲んでいる。軽鎧を身に纏い帯剣し、マントを羽織った姿は美しく、映画のワンシーンを見ているようだ。
「ロスティア様。王妃様がハルカ殿 並びにマラカ姫に火急の用件が有るとの事で
お迎えに参りました。失礼とは存じますが、何卒お越し下さいますよう お願い申し上げます」
「アレから用が有るとは珍しいにゃ。何用なんじゃろう」
「か、かわいい」 ぼそっ
女性騎士は真面目な顔を崩して思わず本音がもれている。
女性が子ネコ好きなのは世界共通なようだ。
ある程度 町の散策も終わって満足していたハルカ達は シシルニアを残して城に帰る事と成った。
城に戻ったハルカが案内されたのは小さな部屋。
窓は無く、魔道具が小さな明かりを燈すだけだ。
その雰囲気は テレビの刑事ドラマに出てくる取調室に近い。
と言うか、実際にその為の部屋なのだろう。
そこには直々に王妃が待っていて 取調べの刑事のようにハルカに質問を始めた。
「ハルカさん・・・証拠は上がっているのですわ」
「何の事・・」
「これですわ」
王妃が取り出した物は 昨日マラカ王女とレレスィが食べたチョコレートの包み紙だ。この国には チョコを食べると犯罪になる法律が有るのだろうか、と悩む。
「配下の優秀なるケモミミの一人が 王女警護の任に付いている時、聞き捨てならない情報を捕らえたのです。レレスィほどの菓子に通じた食いしん坊が 夢に見た味 と申しておったそうじゃな」
「オーバーですよね・・」
「むっ、しかもじゃ、この国で最高の菓子を食べ慣れているマラカが、これを食べてから他の菓子が食べられなくなったと申したそうじゃな、間違いなかろう」
「そんな会話まで・・覚えて無いけど」
「まだ惚けるおつもりか、何故 侍女にさえ渡した土産を私には下さらないのですか?。年配の女性が食べたらイケナイ物なのでございましょうか」
どうやらチョコを食べてみたかったらしい。
回りくどく大げさな演出までして脅かしてくれる。
「あー・・チョコはお土産では無いので 気が付かなかった。では、王妃様には・・特別に大人向けの極上な お酒入りのをプレゼントいたします。
えっと・・これしか無いので王様と分けて食べてください」
「おおっ、極上とな、あい分かった。陛下と楽しませてもらうとしよう」
「それと・・これが普通のチョコですが、先にどなたか毒見してみますか?」
「「「「「それなら私が」」」」」
壁際で護衛していた女性騎士たちがソワソワしていたので試して見ると、やはり食べたかったらしい。
「えっと、王妃様の配下の女性騎士って・・何人居るんですか?」
「はっ、総勢40名になります」
「じゃあ、これ。小さいけど、一人に2つね。王妃様も これは今、食べる分」
キャーーーッ♡
ザラザラと一口チョコを取り出すと 部屋は歓喜に包まれた。
「お、おいひぃ」
「こんなお菓子が有ったなんて・・レレスィずるい」
「おおっ、これは真に・・何とも言えぬ美味しさですね・・あら、ハルカさん?」
皆が喜んだ隙にハルカは城から脱出した。
宿の近くまで転移してシシルニアを回収すると 直ぐに飛び立つ。
来た時とは違い帰りは都の検問は空を飛んで無視する。
彼女達はチョコに胃袋・・ならぬ、舌を捕まれて虜になっている。
チョコは売るほど持っているので少しくらいの提供はかまわない。
しかし あのまま城に逗留していたら いずれ全て没収されるだろう。
それは別に良いのだが、無くなってから欲しいと言われるのが恐ろしい。
どう足掻いても 手に入らない物を出す事は出来ない。
地球産の品物の取り扱いは 要注意が必要なのだと心底学んだハルカだ。