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52、ハルカって・・ばか?

既に誰も居なくなった村を通り過ぎ、少し行くと 明らかに人為的と思われる地形が近づいてくる。森を丸く切り取った広い土地が 上からハツキリと見て取れる。



「あれが、新しい町なのね。凄い広さだわ」


「街って言うか・・・まだ、何も無いにゃ。他の移住者も居ない・・・

まだ この場所が開けてから数日しか経ってないから無理も無いか」


そろそろ 夕刻になろうかという時間にハルカ達は目的地へ辿り着く事が出来た。

一日も掛からずに辿り着けた事に 喜んで良いのか・・複雑な思いがしていた。


空から舞い降りる2人を見て 人々はざわめきだす。


「あーっ。お肉のおねーちゃんだ」


「おおっ、そう言えば、あの時のお嬢さんだな」


いち早く気が付いたのは あの時 モメた親子の2人だった。

子供の表現は的確なのだが 誤解を招きそうな言い方である。


どうやら村ごと移住してきたようだ。

しかし、建物らしきものは数える程しかなく、特にこのあたりは掘っ立て小屋ばかりが目立つ。


「これは これは。ようこそ、ハルカさん。お久しぶりです」


「こんにちは。・・・ここに居たんだね」


話しかけてきた人は あの時ハルカに(いさ)めてくれた 元魔法使いで村長のグレンだ。


「この場所は そちらの使い魔さんに教えて頂きました。本当に肥沃な良い土地です」


そちらの使い魔さん、と手で示されたのはハルカの肩の上にいる子ネコ。

元サラスティア王国皇太后のロスティアであり 今の名前はノロ。


「その割には寂しい気がするにゃ。国の動きが遅いニャ。何やってるのか」


「まだここに来たばかりなんだね」


「私たちはまず 食べ物の確保が大切なので 畑の開発を先にしていたのです」


「食べ物・・・また、肉が欲しい?」


「今更 見栄を張っても意味が無いですね。

正直に申しますと 食べ物が色々と不足してます」


「ここに来るまでに ウサギが沢山獲れた。・・また渡すから用意してね」


「「「「おおーっ」」」」


そう、草原を飛んでいると 低く飛んでいる為か バカなウサギが飛び掛って来る。

その都度 退治され肉と毛皮に加工されていた。


以前のように、乗用車ほどの大きな肉が 次々と出されて提供されていく。

さらに亜空間倉庫から薪が取り出され広場には何か所もの焚火が作られる。

それはくしくも今居る開拓地の場所で刈り取られた木材の枝だった。

魔法で消滅する寸前に素材として採取されたので表面が黒く焦げていて火が付きやすい良質な薪である。


その様子を見ていたシシルニアは 呆然と事の成り行きを見ている。

商人として規範(きはん)で動く彼女の思考は目の前の 現実を受け入れられないのだ。

高値が付くであろう新鮮な肉を 需要が有りまくりな場所で無料で提供するなど 信じ難い光景だ。


(ハルカって・・ばか?)


彼女の生きてきた商人の世界から考えると そう思っても不思議ではなかった。


ハルカは日本でも働いて収入を得ていた訳ではなく、苦労してない分 自分が手にした物にあまり執着が無かった。

極端に言えば、明日の食べる分が有れば良いという江戸っ子的な感覚でしかない。

多少の物など 何時でも何とか手に入る というチートな経済観念とも言える。


その点は、予算を何が何でも使い切り 宵越しの銭は持たない日本の政治感覚とよく似ている。次のお金は税金を取れば何とでも成るという余裕の考えだ。

普通の家庭が同じ事をしたら 直ぐに破産するようなバカな事が平気で出来るのだ。


ただし、他人(こくみん)のお金に胡坐(あぐら)()いた国家予算と違い、ハルカのムダ使いには 自分自身の確固たる実力が裏づけされている点が大きく違う。

そして、一見 無駄と思える使い方なのだが、必要とされる人々に的確に提供されるのは大きな意味がある。


今回は、肉の他にも この世界の穀物や野菜も大量に買い漁っていたため、放出される物資はバリエーションに富んでいる。

以前のように人々は集まって料理を作り始め 宴会となっていった。

お酒を飲む訳でもないハルカ達は グレン老人と話しをして情報を集めている。


「それにしても 驚きましたよ。空が飛べるなんて この国の皇太后様のようです」


「ふふん・・フェルムスティアから飛んで来た」


「おおっ、話には聞いています。良い都らしいですね、行ってみたいものです」


「建物少ないね・・木材無いの?」


「そうですね。有っても高価ですし 先に町の役場とか施設に使われるので、我々には売ってもらえないのです」


(おかしいにゃ・・。

このような未開地を開発する場合、先に礎となる人々に援助が行くはずにゃ。

民が居ないのに施設ばかり作って何になる)


この国の法律やシステムを知るロスティアは 話を聞いていて不自然な点に気が付いていた。本来なら、大きな町を作る場合 全体の区画を決めたなら、建物ではなく下水などのインフラに最初の資金が使われるはずであった。

以外な事だが木材などの建築資材は 先に人々に回されて住宅へとなる、(はず)だった。


公共施設の類は生活の基盤が出来てから作られる。一見すると民間人を優先して援助しているかのように見えるが実はそんな奇麗事では無い。

悪い言い方をすれば一番苦労する時期を民衆に丸投げしているのである。


「木材は 明日渡すから 使って。・・沢山 持ってきた」


「・・本当の話 みたいですね・・何故、我々にそこまで?」


「んーー・・・。何だろ。気が向いたから?」


となりで会話を聞いていたシシルニアは頭を抱えている。

気が向いたから町を作るだけの物を運んでくる?何それ、と叫びたい心境だ。

一緒に来たのは判断を間違えたのではないか、とさえ思い始めた。


ハルカが手渡した食料だけで 普通は大掛かりな商隊で運ぶほどの大仕事だ。

しかも、その全てが新鮮な食料となれば 専用の馬車で運ばなくてはならなくなり、高値は間違いない。


まして、運んできた木材は まさにシシルたちが商隊を組んで苦労して運んできた物である。それを惜しげもなく提供しようとしている。


ハルカの 個人では有り得ない資産やその運用方法は 普通の商人の常識からは逸脱しているは言うまでも無い。ただし、それは普通の商売を考えた基準にすぎない。

ハルカが行っている事は、新しい土地に対する先行投資という 政商レベルの商人が行う 先を見越した高度な布石なのである。

もっとも、ハルカには その様な打算はカケラも無いのだが、だからこそ 人々から本当の信頼を受ける事にもなっていた。もし、ハルカがその気なら、後に発展した町の商業権を独占する事すら可能かも知れない。


転生者とは言え 子供に過ぎないシシルニアに そこまで理解するのは不可能だった。


夜遅くまで宴会は続き、そのまま野宿になった。

商隊でも馬車の中で寝ていたシシルニアは 野宿に不満だったが ハルカがブルーシートの上に日本のふとんを取り出すと大喜びでふとんに潜り込んで来た。


「ふとんは私の物にするわ。いいでしょ」


「だめ、あげない」


「じゃあ、結婚しましょう。それなら ふとんで眠れるわ」


「うっさい、早く寝ろ」


子供のセリフとは言え、シシルニアの結婚感は 思いのほか軽いらしい。



次の日の朝、昨日の残りで食事を済ますと グレンと落ち合い 都合の良い場所で木材を取り出す事にした。

本当なら石を積み上げて基礎を作り、その上に木材を組みたい所だが、今は何より雨露を防げる建物が必要な為、杭を地面に打ってその上に建てるらしい。

村や町には大抵、大工の心得が有る者が居て、その人が中心になり 指示を出して建てられていく。


「ここで・・いいの?」


「ああ、頼む。ここで下ごしらえをしてから建てて行くからね。いきなり建物にはならないんだよ」


どうやら 一度に沢山の木材を出しても困るらしく、家が一軒建つ程度を取り出してみた。しかし、このままでは何時までも時間がかかる事になり帰るに帰れない。


グレンと相談し、王都で大工や職人たちを手配してもらう事にした。ついでに ロスティアに里帰りをさせて 孫のマラカ王女に会わせようと考えている。


ハルカの思いとは別に ノロは別の思惑によって城に帰る事を望んでいた。











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