50、シシルニア
ハルカは よろよろと広場にたどり着いた。
あれから さらに晒し者にされたあげく 有ろう事か ララムにまで見つかってオモチャにされてしまった。
リボンの他にも色々なアクセサリーなど 店に有る商品を片っ端からハルカに飾りつけ遊びたおした。それを見た他の客たちは 納得してその商品に手を伸ばしていく。
その日の店の売り上げは 5割り増しだったそうな。
ハルカとシェアラは疲れ果て、飲み物を求めて広場まで歩いてきた。
「おねーちゃん、・・ジュース二つくださいな」
「あいよ、って。なんだい2人して疲れた顔をして。今日は元気の無い子供が多い日だねぇ」
ハルカはジュースを受け取り 一つをシェアラに渡すと何時ものベンチに向かった。
しかし、今日は先客が居た。
女の子が座って下を向き 泣いている。
さすがに、そんな暗い場所に行きたくない。
場所を変えようとした時、ふいに顔を上げた少女と目が合った。
その顔は何処かで見たような気がする。
「何よ、笑いに来たの?。
男のくせに リボンなんて付けちゃって、悩みが無さそうで良いわね」
気が強い子なのだろう、開口一番 毒舌が飛び出す。
しかし、ハルカはそれどころでは無い。
一気に少女に駆け寄っていく。
「ななな、何よ。ケンカなら買うわよ・・」
明らかにビビッているのに、なおも 言葉は強気だ。
それすらも耳に入らないのか、ハルカは少女の手を素早く取ると 持っていたジュースを手渡した。
「えっ、えっ?」
「ありがとーー」
「ち、ちょっと。何であんたが泣いてるのよ」
「男って、言ってくれて・・嬉しい」
ハルカは少女の前でポロポロと涙を流していた。
ある意味 とっても恥ずかしい事だが、それほど「男のくせに」の一言に救われていたのだ。
着せ替え人形にされた事で精神的に追い詰められていた哀れなハルカである。
「そうだったの。あんたも変な苦労してるわね。てっきり 男の娘かと思ってたわ」
三人でベンチに座って事情を話していた。
人は 自分と同じように不幸な人間を見ると 妙に落ち着く事がある。
ハルカも少女も同類相憐れむという変な仲間意識を持っていた。
「私はシシルニア。王都スティルスティアから今日来たばかりよ」
「ハルカ。・・となりは友達のシェアラ」
「シシルお姉ちゃんと呼んでいいわ」
「一つしか・・違わない」
「いいの、一点差でも勝ちは勝ちよ」
理屈に反していても 多く言った方が勝ちな子供の世界。
ハルカは諦めて 気になっていた事を聞いた。
「シシルは凄い。・・誰も男と分からなかったのに」
「ふふん、その程度 私にはお見通しよ」
「「おおーーっ」」
「いいわ、子分の貴方達には教えてあげる。誰にも言ってはダメよ」
何時の間にか 子分に昇格していたらしい。
少し前まで泣いていたくせに、胸を反らせて実に偉そうだ。
「私はね、転生者っていう えらーい人なの。
見ただけで相手の名前とか歳とか色々分かるのよ。凄いでしょ」
「へー・・本当に居るのな、転生者。・・ラノベ 恐るべし」
「!。えっ、どうして・・ラノベって。まさか貴方も?」
ハルカの言葉には、この世界には有りえない単語が有った。
それだけで、同じ世界、同じ国だった可能性が高くなる。
『違うよ。俺は 召喚されてここに居る。君も日本人?』
『え、えぇーっ。日本語!。凄いわ、貴方 勇者様なのね』
『ちげーよ。魔法使いだ』
「2人とも・・何言ってるの?」
思わず日本語トークが盛り上がってしまった。
ノロはネコに徹して声を出さず、キラキラとした目で2人をみている。
「鑑定のスキルを持ってるの?」
「まぁそうね。でも、たぶん貴方が思ってるソレと違うわよ。自分や家族以外の人は 少しの事しか分からなくて、使えないスキルなの」
「残念、教えて欲しかった」
「私と結婚する?。家族になれば分かるかも知れないわよ」
「「えっ」」
「ば、バカね。冗談よ」
自分で言ったくせに焦るあたりはまだ初々しい子供だ。
シシルニアが前世で 何歳だったのかは地雷に違いないので聞かない事にする。
「それにね・・ 私は下手すると売られて奴隷に落ちるかも知れないの」
「そんなに酷い親・・なの?」
「いいえ。普通の親よ。理由は簡単、商売で失敗しそうなの。おまけに、その儲け話を提案したのが 私なのよね。笑えない話だわ」
シシルニアは自分が描いた大儲けの策略を 親と雇い主の商人に提案して実行された事を語った。それぞれの都に不足している品と その流通経路を調べ、確実に独占販売に持ち込める条件を絞っていった。
そして、最終的に確実とされたのが フェルムスティアに売り込む木材と槍だった。
全ての手はずを整え、品物を持って乗り込んで来たら 計画がことごとく裏目に出てしまい、膨大な損失が出そうな状態まで追い詰められている事を話してくれた。
本来 他人にそんな話をするはずがないのだが どうでもよくなっているのだろう。
話を聞いていたハルカは それはもう 沢山思い当たる事があった。
冷汗タラタラである。
「うちの商会の会頭ってね 損失を部下に押し付けるので有名なのよ。その代わり 儲かれば待遇は凄く良いから 有能な人は付いていくわ。そんな訳でね、父は今回の失敗の責任を取らされたあげく 借金を負わされるわ。私が奴隷にされても 埋め合わせできるか怪しい金額なのよ」
「ど・・どうなれば 失敗にならないの?。大儲けしないとダメ?」
「そうねぇ・・槍と木材が普通の値段で売れて、帰りに この都の品物を仕入れていけば ギリギリで利益は出るわ。損をするのは小細工に使った労力だけになる。それくらいは商売に付き物だから問題ないわね」
ハルカは話を聞いてそれらを買い取って助けるくらいは問題無かった。
その程度のお金は持っている。ただ問題なのは亜空間倉庫の中は木材だらけなのだ。
無駄にならないように放出したい状態と言っても良い。
フェルムスティアの木材需要はほぼ満たされているから これ以上の供給は悪手となるだろう。
「木材が欲しい町って有るかな」
そもそも、ハルカはこの国の他の町を知らないので 答えが出るはずがない。
「ちなみに、他の町に運ぶだけで大赤字だからね。無理なのよ」
「あのね・・ハルカ」
「ん・・どうしたの、シェアラ」
「私が、ここに来る前に新しい村があったの。そこの人たちが木材 欲しいって言ってたよ」
「それにゃ、ハルカ。あそこなら欲しがるにゃ」
「きゃぁ!。びっくりした。このネコしゃべるの?」
今までネコのふりして聞く事に徹していたノロは堪らずに声を出してしまった。
それはノロが遠まわしに仕向けた町の移住計画を思い出していたからである。
「ん、名前はノロ。よろしく」
「ノロ・・微妙な名前ね」
「ハルカ、サラスティアを出る前に途中で立ち寄った村を覚えてるにゃ。
あそこの住人があの時の魔法で切り開かれた広い土地に移住してるにゃ。
間違いなく木材も不足してるにゃ」
「だから、運ぶだけで赤字なんだってば」
「また何日もあの長い道を戻るの・・・めんどくさい」
「今は飛んで行けるから日帰りも可能にゃ」
「私の話を聞きなさいよ」
ギャアギャアと 元気に話し合う子供たちを見て 屋台の店主達はホッと安心しているのだった。
まさか、ここで子供たちが騒いでいる内容が 世の中に影響を与えるほどの事柄とは 誰も予想出来なかった。
話が決まって やって来たのは 冒険者ギルドマスターであるフェレットの自宅。
フェレットの妻 ララリアさんに少しの間シェアラを預かって貰える様に頼みに来た。
「良いわよ。一日くらい、預からせてもらうわ。賑やかで嬉しいくらい」
「ハルカー・・・」 うるうる
「シェアラ。・・帰ったら 家を探して一緒に住もうね」
「一緒に家に住むの?」
「うん」
「わかった。待ってるね」 にぱっ
シシルニアに全体の計画を話すと最初 彼女は信じなかった。
説得する為にハルカが飛べる事を見せたり 倉庫の事を教えたり 大変だった。
それが終わって納得したのは良いが、今度はシシルニアも同行すると言い出した。
自分達の荷物の行く末を見届けたいらしい。
さすがに、三人では杖に乗って飛べないので シェアラには留守番してもらう。
仕上げとして ハルカ達はこれから 大芝居をしなくてはならない。