表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/119

49、獲らぬタヌキの フェルムスティア

領主館の門前に一台の馬車が止まっている。

丸いホロに描かれた名前は ヴェルマルタ商会。

今日 フェルムスティアの都に到着したばかりだ。


「私は当家の執事をしております。

領主様にお会いしたいとの事ですが、どのような御用件でごさいますか?」


「突然の事で失礼なのは 申し訳なく存じます。私どもは 王都スティルスティアで商会を営んでおります。先日 人伝で 領主様がお困りとお聞きいたしまして、恐れながら まかり越してございます。当方がご用意いたしました槍が200本、お気に召して頂けると存じます」


商人は頭も低く、言葉遣いも丁寧で場数を踏んでいるのが伺える。そして 言葉の奥には、揺らがない確固たる自信を覗かせていた。多少失礼でも 領主はこの商談に応じるだろう、と。


「それは、お心遣いいただきまして。確かに領主様は槍を所望しておりました。しかしながら、その問題はすでに目処が付きましてございます。あと2日も有れば 極上の品が出来上がる予定となっております。領主様には 貴殿のお気持ちを お伝えしておきましょう。遠方よりご足労いただき、ありがとうございます」


老執事は そう言い残すと再び門を閉じて戻っていく。

残された商人は 自分が聞いたセリフが信じられず呆然と立ち尽くし、門番の騎士に追い立てられていた。


「まさか・・、有りえない。どう考えても用意できるはず無いのに」


槍は一般的に使われる武器でもあり、そこそこの数は売れる。しかし、それが200ともなれば売れるまでには時間がかかる。商人は多大な在庫を抱え込んでしまったのだ。しかも、また拠点に持ち帰らなくてはならないリスクも圧し掛かってくる。


ここまでの経費と 帰りの分を 木材の利益で補わなくては成らなくなった。思い描いていた大儲けは、この時点で夢と消えていた。そして、商人の背筋を凍らせる 更なる想定外な知らせが届く。



「なんだと・・商人ギルドも職人ギルドも木材を引き取らない・・そんなバカな。

産出された木材は、ほぼ全て抑えたはずだぞ」


「それは間違いないよ。でもね、実際に木材は行き渡っていたし、正直 うちのより上質だった。買い取り値段を聞いたけど、殆ど原価に近かったわ」


大口の取引を扱う商人にとって相場は命である。

相場の上下で一喜一憂し、時には敗れて自殺までする。


堅実な商人であれば相場の流れを見極め、流れに乗って商売をする。

だが、中には大きな資金力を使って 相場自体を操る商人も存在した。

ヴェルマルタ商会も そんな強引な商売を営む者達である。

今回も彼らは99パーセント 勝利を確信していたのだ。


「困った事になったな・・。このままでは我々はクビだ。荷物が一杯では帰りに ここの特産品を仕入れて帰る事すらできない。会長に言い訳が出来んぞ」


「とりあえず、何が原因でこんな事になったのか調べましょう。それが無いと 報告も出来ないし」


大きな商隊はある意味カケに近い。儲けも大きいが、逆にリスクもそれなりだ。

護衛の冒険者に支払う賃金だけでも 相当な金額である。

博打に敗れた彼らは、このままでは身売りすら有り得た。



**************



「ハルカちゃん。待ってたわ。ちゃんと出来てるわよ」


「こっちも・・待ってた」


「ここは・・?」


ハルカは先日注文していた冒険用の服を取りに来た。

そのついでに シェアラにも服を作ろうと思っている。


「ハルカ・・かわいい」


「これ、・・冒険用の服と違う」


「何を言ってるの。

女の子の冒険は 恋を見つけるドキドキの冒険じゃない。思ったとおり可愛いわぁ」


きっと 自分には呪いが掛かっているんだ!、とハルカは本気で悩みだした。出来上がった服は 色は渋くて地味なのに、どう見ても女の子用のオシャレな服である。


確かに動きやすくは出来ている。

しかし、短パンを後ろだけ隠している長めの上着は、腰の部分で締められてから広がり、後ろから見るとスカート以外には見えなかった。他にも要所要所で 神経の行き届いた心遣いがされ、見事な少女用 普段着に仕上がっている。確かに、女性が服を頼むなら最高の店と言える。


出来上がりを楽しみにしていたハルカは心の涙を流した。



「あなたも こっちにいらっしゃい。ハルカちゃんが なぜ二組の服を注文したのか、ようやく分かったわ。二人仲良しだから同じもの着たかったのね。細かなサイズを合わせるから 急いで着てみてね」


「えっ、あの・・」


「ほらほら、遠慮しないの。貴方も可愛いわ」


「シェアラ、・・丁度いいからシェアラの服にする」


「えーっ」


ハルカは 自分が今着ている服も 後でシェアラに押し付けようと思い立った。

店員が言うように 着替えたシェアラはとても可愛かった。

同じ服の二人が並ぶと 子供のアイドルユニットを思わせて視線を集めてしまう。


なので、店から出た二人は早速 知り合いに見つかってしまう。


「ハルカ、・・その服。かわいい」


「あらあら、ハルカちゃん。女に磨きが掛かったわね」


出会ったのは、フルベーユ商会のお嬢様 フレネット。

そして、侍女のフィルファナである。

2人の様子からすると買い物に来ていたのだろう。


最悪なタイミングである。そして、悪い予感がしてきた。

魔女フィルファナは ものすごーーく 楽しそうな顔だ。



「何よ、ハルカ。2人して同じ服着て・・ずるいわ」


「こちらのカワイイ子は 誰なんですか?」


「シェアラ。友達になった。・・シェアラ、こっちの2人も友達。

同じくらいの子がフレネット。大きいのがフィルファナ」


この様な場面(しゅらば)に免疫が無いハルカは、皆友達理論、でごまかそうとした。


「で、どうして2人は同じ服なわけ」


「あそこの店で・・作ってもらったら 女の服になった。二つ有ったからあげた」


「あー・・あの店。

そりゃあ女性服専門店ですから、当たり前ですわよ。ハルカちゃん」


フィルファナは あえて強調してハルカを女扱いする。

早く この場から逃げなくては、とハルカの危険感知が警鐘を鳴らし始める。

というか、女性向けの店を紹介しないで欲しい。


「んー・・でも、まだまだ甘いですね。アマアマです」


「えっ、なにが・・」


「お嬢様、あの店に皆で行きましょう」


「分かったわ。み・ん・な・で行きましょう」


ハルカをフィルファナが抱え上げ、シェアラはフレネットが手を引いていく。


ハルカは逃げそこなった。

連れて行かれたのは 女の子の好きな小物が集められた店。

この世界のファンシーショップと言うべきか。


今はフィルファナにガッチリ ホールドされたまま、ハルカは髪の毛を店員に弄られている。

ツヤツヤと美しく、しかも ほんのりシャンプーの匂いがする髪の毛に、店員の目がキラキラしている。


「きゃーっ。似合うわ。最高」


「ハルカぁ、かわいいよぉ」


フィルファナと店員は、やり遂げた満足顔でガッツポーズをしている。

何故か、店に居た他の客まで集まって ハルカを囃し立てていた。

そして、ハルカが使ったのと同じ品を喜んで買って行く。


ハルカの頭の上にはリボンが飾られている、それも両サイドに。

日本の二次元で流行った髪型、ツインテールの姿にされていた。


しかも、自分で外さないように後ろ手に縛られている。


その姿はまさに 手を後ろに縛られて悔しそうな涙目の少女。

危ない想像をして そそられたショタ女フィルファナは悶えて苦しんでいた。



男の尊厳がガリガリと削られていくハルカだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ