48、別れと 迷惑な出会い
「うそ、隷属の首輪がとれた・・」
「これほど簡単に外す事が出来るなんて、凄いわ」
広場での騒ぎの後、さっそく ガルガンサの連れ10人と 都の外で落ち合い、彼の頼みである隷属の首輪を解除し 奴隷の解放を行っている。
幸い 性質の悪い隷属の魔法では無く、首輪の機能に依存しただけのものだったので 楽に解放がなされていた。
しかし 本来は外せないのが常識なのである。
そのため誰かに見られると非常に不味いので 都の外に出て行った。
隷属の首輪が解除できると広く知られれば 脱走した犯罪者が解放を求めてこの都に集まりかねない。
「ハルカ、ありがとー」
「ありがとうございます。ハルカさん」
皆が口々にお礼を言ってくるので くずぐったい気分のハルカである。
猫耳のシェアラは抱きついて感激を表している。
まぁ、子供同士の事だし ジャレてても何も問題は無いけど、後になって騙したとか言われたくない。
「シェアラ。それに皆も誤解してる。・・ボクは 男の子だからね」
☆えっ?・・・・ ええぇーーーーーっ!☆
見事な驚きの合唱でした。
誰が見てもドレスを纏った少女にしか見えないのだ。無理も無い。
やはり、ハッキリ宣言しておいて良かった。
「ハルカが男の子?。こんなカワイイ女の子 見たこと無いと思ってたのに。
シェアラより・・」ぶつぶつ
「ほんとねー。特に髪の毛なんてツヤツヤでキレイだし、こんなに長いのに 少しも痛んでないわ」
髪の毛に拘っているのは リリシアさん。少し褐色の肌をしたネコミミのおねーさん。スタイルもいい美人さんだが、何と ガルガンサの彼女なのだ。
ハルカの髪の毛は、先日の黒焔騎士団との戦いで一部がバッサリ切られたが、一晩でスッカリ素に戻っていた。
どうやら、魔法を使うための器官として 定着してしまったらしく、無意識のうちに一定の長さまで復元されてしまうらしい。
つまり、男の子らしく短髪にしたくても 次の日には元に戻ってしまうのだ。
ハルカにとっては呪いに等しい。
「皆は・・これからどうするの」
彼らは 今のところ宿に宿泊している。
安い宿とは言っても 何時までも仮住まいは落ち着かないだろう。
それは、ハルカも同じなのだが。
「何人かは、このまま この都で仕事を探す。里に家族の有る者は もちろん帰る事に成る。キルマイルス帝国が滅んで、サラスティア王国に併合されたから 向こうでも安全になったしな。安心して帰る事ができるよ」
「おお、あちらでは その様になっておったのか・・」
「ネコさん、口調が変ってる」
元サラスティアの皇太后であるノロは感慨深げだ。
命がけで行った無茶な行為が 報われたとも言える。
その時の被害者がハルカなので大喜びは出来ないが。
「そんな訳で、俺は帰る者達の護衛として一度戻る事になる。
送り届けたら 俺もこの都に戻って冒険者でもするつもりだ。
そこで なんだが、俺たちが帰るまで ハルカにシェアラを預かってもらいたくてな」
「えっと・・良いの?。自分も子供なんだけど」
「信頼できる人間がハルカしか思いつかない。それに 無事に生活できるなら 子供かどうかは関係ないのさ。何なら一生預けてても良いですよ」
「ハルカの側に居ても良いの。良かった」
シェアラの一言で 彼女を庇護する事が決定したようなものだ。
今更ダメとは言えまい。つまり、彼女には帰る場所が無いのだろう。
それ以上は知る必要が無い。
「明日、旅の準備を整えて 終わり次第出発するつもりだ。モタモタしてると資金が足りなくなるんでな」
「そか・・じゃあ、これは今日のお礼。あのパンチは値千金」
「いや、あれはシェアラも居たからな、礼には及ばんよ」
「また、こっちに来る資金も・・要るよね。その代わり早く戻ってね、楽しみに待ってるから」
「・・わかった。こいつは借りておく。帰ったら 俺と兄貴がハルカの後ろ盾になる。今日みたいなバカは近寄れなくなるだろう」
「それは、・・戦争が出来そうな戦力だね。ははっ」
人類最強のジョンとガルガンサ。彼らが表立ってハルカを守り、陰からはフェレットなど様々な味方が守ってくれる。ハルカは着々とこの地に根を下ろしていた。
ハルカは冗談として笑っているが、彼らとハルカがその気に成れば 国を相手に出来る戦力なのである。とは言え、彼らの誰もそんな面倒な欲望は持っていない。
勤勉な人間ほど戦争を始める・・なんて話をどこかで聞いた気がするが核心を突いた一説だと思う。
世の中、メンドクサイが正義、なのかもしれない。
ハルカが手渡した小袋には金貨が30枚ほど入っている。物の価値で換算すると日本円にして60万ほどで 特別大金ではない。その代わり、ハルカは手持ちの肉など 旅に必要な物資を次々と渡していた。それだけでも旅に必要な準備の大部分が節約できたのだった。腐らない物は馬車に積み込まれ、ちょっとした商人の馬車のようだ。
資金に余裕が出来た彼らは お土産や特産品を持って帰り家計の足しにするらしい。
ハルカは精霊樹から少し離れた安全圏に皆を誘い 複数の焚き火を燃やし始めた。
最後の夜という事で一緒に送別会をしようというわけだ。
焚き火の上に石の板を渡す。
両端は魔法で作った土レンガで支える。
要は鉄板の代用品として磨き上げた石板を使うのだった。
石板は焚火の火力だけでは時間が掛かりすぎるので魔力で加熱し焚火は保温の役目を果たす。
海で不便を感じたので、鉄板焼きに使える鉄板を探したが無かった。
その代わり、道路に敷き詰める石畳用の大きな石の板が売られているのを見つけた。
勿論、徹底的に浄化をして食べ物を焼けるようにしてある。
魚の頭を取り出し半分に割って兜焼き?にする。
他にもウサギの肉や鶏肉も焼いていく。
勿論 野菜もお化けタマネギなど仕入れていたので不足は無い。
後はこの世界の味付けなど知らないので調味料を渡して料理の得意な人に任せた。
ブルーシートも敷いて、その場はまるで花見の宴会のようだ。
試しに日本酒を飲ませてみると ガルガンサなどは大喜びで鯨飲し、早々に酔いつぶれてしまった。
酔うと寝てしまう彼にお酒を飲ませるのは食事させた後の方が良いようだ。
日が沈むと そろそろ寝る時間となる。
電気が無い世界の一日は 総じて太陽の位置が行動の基準なのだ。
シートの上にふとんを並べて毛布をかぶって寝る。
他の皆は喜んでいたが ハルカにとっては まあまあの寝心地。虫も寄り付かない場所なので静かに眠れる。
心配はむしろ 盗賊などの人間達なのだが、精霊も見守っているから安心だ。
「ハルカー・・。うふふ、何か良い匂いがする」
すっかり懐いたシェアラが寄り添って寝ている。
今日はお風呂に入って無いが、石鹸の匂いは残っていたらしい。
ふいに気が付いた、精霊樹の側で眠ると普段よりも安らぐのだ・・・。
安全がどうこうとか 理屈ではなく、赤子が親の元で眠るように心から安らぐ。
精霊樹が原因なのはハルカの中で寝ているピアと同調しているからなのだろうか?。
どちらにしても、ハルカにとって 一つの方針が固まった。
次の日、早くから準備を始めていたガルガンサ達は 朝食を終えると出発していった。残った何人かの人たちも仕事を探しに街の中に戻って行った。
一から生活を始める彼らも これから大変だろう。
ハルカはシェアラと手を繋ぎ、都に歩いて行く。
サラスティア王国に向かうガルガンサ達の馬車とは反対の街道を通って、沢山の馬車がゾロゾロと都に向かって進んでいた。
馬車のホロには ヴェルマルタ商会と描かれている。
「ちょっと、そこの2人。子供だけでこんな所に居ると危ないじゃない」
馬車から顔を出して偉そうにしているのは 同じ年頃の少女である。
実際は11歳なので一つだけお姉さんだ。
「子供に言われたくない。・・余計なお世話」
「なんですって、ちょっと待ちなさいよ」
子供同士のケンカなら 子供らしく相手したほうが堪えるだろう。
ハルカはベーッと舌を出して 後は無視して走った。
後ろではギャアギャア言っているが、馬車は都に入る為の審査を受けているので並ばなくてはならない。
ハルカ達は 割りとすんなり入る事が出来たので なんとなく勝利者気分である。
大人気ない話だ