47、ファーストコンタクト
ハルカのオアシス、都の広場。
早いとこ 落ち着ける場所を作らないと シャレにならない、と思えるほど屋台が並ぶ広場がハルカの居場所になっていた。
この何日かは、普通の木材を ギルドの修練場である広場に積み重ね、次々と搬出されて行くのを待ち、無くなったら亜空間倉庫から取り出すのを繰り返した。
その量は 都で消費する一年分は有るらしい。
にも関わらず、ハルカの手持ちの木材は半分も減らなかった。
しかも、それは精霊樹の木材を抜きにしての在庫なのだ。
とんでもない財産を持っている訳だが、ハルカにとっては 余計な荷物を背負っている気分だ。
「どうしたぃ。ハルちゃんに不景気なツラは似合わねぇぜ」
「オッチャンの顔を見ると・・少し元気がでるよ」
「なんだい なんだい。子供がそんな疲れた顔するんじゃないよ。友達が出来たのなら一緒に遊んできなよ」
「ほぇ?。・・友達?」
「となりの子は友達なんだろ。良かったね」
ハルカのとなりには 何時の間にか同じくらいの年頃(10歳)の女の子がいた。
知らない子だ。しかも 首には忌まわしき首輪が嵌められている。
そして何より その子はケモミミだった。
ケモミミ少女・・そう言えば いると話には聞いていた。
アニメやラノベで良く知ってるが、実物は初めて見る。
耳以外は 特に人との違いは見られない。
黄金色のフサフサした髪の毛の上に ピンと立ち上がった耳は何の耳に似ているだろうか。
目は濃い茶色で親しみが持てる。
当然 まだ幼い顔立ちだが 整っていて 将来は美少女になるだろう。
首輪をしているが 服装などは普通で 汚れている訳でもない。
以前見た馬車の奴隷のように 顔色が悪いのでも無い。
何故か その子は鼻をヒクヒクさせて ハルカの匂いを嗅いでいる。
「いいなぁ、お魚の匂いがする」
「えっ、するの?、・・浄化したのに」
ハルカは必死に体の匂いを嗅いでみるが サッパリ分からない。
人には分からない匂いが残っているのだろうか、と焦る。
「ちがうよぉ、匂いがするのはココ」
少女は顔を近づけて 人差し指をハルカの口に持ってきた。
なるほど、浄化をしても口やお腹の中までは消えない。
「お魚食べたのね。良いなぁ・・お金持ちの子は」
「食べたけど 自分で獲った。・・買ってないし」
「えーっ、海の魚だよね。無理だよぉ」
「ふふん、・・みよ」
ハルカは魚の頭を取り出してみせる。
驚いてガン見する少女。
既に目玉とか素材ごとに分離されているので不恰好だが、大きな魚の頭はインパクト抜群だ。
ハルカは楽しかった。
日本の小学校での時とは違って 自分の能力が否定されないのだ。
心まで若返ったように 女の子の前でアピールする気持ちを取り戻している。
「すごい、新鮮な魚の頭だ・・美味しそう」
少女の反応は嬉しいが すぐに収納してしまう。
残念そうにしているが、広場では目立ちすぎる。
経験上 この手の目立ち方はろくな事にならない。
ハルカは少女の手を引き 屋台から離れたベンチに座らせて 一枚の皿を取り出した。
後で食べようとキープしていた焼き魚だ。
「食べて・・焼いただけの魚、美味しいよ」
「ええーっ。冗談でしょ・・高いのよコレ」
そうは言いながら 目は魚の皿をロックオンしている。
箸は無理だろうから フォークを取り出してわたしてやる。
「ボクはハルカ。・・これから友達になって」
「私はシェアラ。友達になってくれるの?」
「うん。これは友達からのプレゼント」 にこっ
「うん。それなら食べるね」 にぱっ
シェアラは 一口一口、凄い幸せそうに食べている。それを見ていたハルカは 気が付かないうちに 日頃の鬱屈した気持ちが癒されていた。
えてして、こんな時に限って無粋なバカがでてくるものだ。
幸せな気分の2人の周りを 数人の男達が取り囲む。
いずれも たくましい体つきをしているが、一人だけ小太りの男がいる。
エンタメでは定番のブタボスのようだ。
そのブタが話しかけてくる・・極めて迷惑だ。
「ハルカ!。随分探したんだよ。私が君の本当の父親のビルビンスキーだ」
「はぁ?!」
いやはや・・ハルカは唖然としてブタを見てしまう。
そして、すぐに理解した。
お金になる子供の親に成りすます作戦のようだ。
ラノベのシミュレーションを舐めては困る。
いい大人が、大真面目な顔で とんでもないホラを吹く。
大方、いつも一人でいるハルカを見て 孤児とでも思ったのだろう。
服装を見れば貧民とは思えないだろう。
利用しようという魂胆が見え見えで分かり易い。
恥知らず、という言葉がピッタリなブタである。
「親は(この世界には)居ない。・・嘘つき」
「おぉ、可愛そうに。苦労したんだね。でも、これからは心配無いよ。私はこの都でも屈指の商会のオーナーだ。私の子供に成れば不自由はさせない」
「苦労はしてないし、不自由は何も無い。商会なら他に知ってる・・用は無いし、顔がウザい」
「苦労のあまりに混乱しているのだね。お前達、この子を保護しなさい。そんな獣と居るなんて・・うっ、くぁ」
「旦那、どうしやしたっ!」
ブタは最後まで言葉を言えず、糸が切れたように その場に倒れ伏して痙攣している。
ハルカの目は据わっていた。
怒りで魔力が溢れ出し、髪の毛が風も無いのにゆらめいている。
そして誰にも悟られずブタを脳梗塞にして 再起不能にした。
ブタがどんな身分の立場だろうと単なる成人病では冤罪にも出来ない。
再起不能で一生悔いるがいい、と心の中でツバをはく。
穏便に追い払うつもりだったが、シェアラの悪口を言われて切れた。
本当なら姿が無くなるほど燃やしてやりたかった。
「ブタは病気・・。目障りだから・・連れて行け」
「そうは いかねぇな。旦那が気が付いてお嬢ちゃんが居なかったら それこそクビになっちまうぜ」
「バカが、地獄を・・・えっ?」
「何だ、てめぇ、ぐはっ」
男は殴られ 5メートル以上も吹っ飛んでいった。
落ちてからはピクリともしない。
「その子達に ちょっとでも触れてみろ、首をへし折ってやる」
「でか・・・」
そこには、身の丈3メートル近くは有るだろう、大きな男が立っていた。
ただ背が高いだけでなく筋骨隆々の逞しい体なので迫力もハンパではない。
「転がっているゴミを持っていくなら見逃すが、どうする?」
「わ、分かった。無駄に死ぬ気は無い」
男たちは引きずるようにして ブタとゴミを運んでいった。
広場のあちこちから歓声と拍手が起こっている。
ハルカは色々と提供していたので 広場で人気者なのだ。
大男が近寄って来る。
フェレットが警告していたのは この男に違いない。
ハルカは第一級の戦闘態勢で警戒する。
ピアと守護精霊も姿を見せ 一触即発な雰囲気だ。
「ガル、ありがとー」 にぱっ
「シェアラ、探したぞ・・だが、よくやった」
「シェアラの知り合いなのか・・恐かった」
男は どういう訳か 王に面会するかのように ハルカの前で片ヒザを付け頭を下げた。
その姿はまるで 幼い姫君に跪く騎士のようだ。
「ははっ、オレなど 貴方の相手にもならないでしょうに。ジョンの兄貴に聞いていた通り 美しい人だ。はじめまして、偉大なる魔法使い殿。オレはガルガンサ。キルマイルス帝国で殺されそうな所を ジョンの兄貴に助けられた。その兄貴を救い出した偉大な人に会いに来た。力を貸して欲しい」
大男こと ガルガンサは、以前ハルカが旅の途中で助けた ジョン・ハミルトン・アダムスというスターのような名前の黒人青年に助けられたらしい。
ジョンと色々話をしていて、ハルカについても聞いていたとの事。
そう言えば、ジョンにはハルカが男だと説明していなかった。
「ジョンも この町に来てるの?」
「いずれは来るでしょう。今は助けた獣人族の者達を 故郷に返す為に向かっているはずです」
「ハルカ、ケモミミたちの故郷は キルマイル帝国の向こう側なのにゃ。
この国に来るまでに捕まるから、たどり着けないにゃ」
「おおっ、言葉を話す使い魔でしたか、さすがです。 話を戻しますが オレと兄貴は帝国を混乱させた後、悪辣な奴隷商人を襲撃し 無理やり奴隷にされた者達を助け出しました。カギがある者は即刻開放できましたが、シェアラのように カギが見つからなかった者達も居ます」
「ストップ、その先はココで話す事では無いにゃ」
ノロはガルガンサの意図に気が付いて話を止めた。
そして、ハルカも彼が何故来たのか気が付いた。