表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/119

39、黒焔騎士団

騎士であれば 自分達のルールが通じる。

シーナレストは無意識のうちに そう思い込んでいた。


ゆえに、目の前に居る異様な者達を見極めなかった。

父親に先日教えられた事が まだ彼には理解できていない。


「おーい。そこの君達」


「あっ、ばか・・」


何ら警戒する事も無く、小走りに近寄っていく。


それに反応して 前触れも無く馬は走り出す。


シーナレスト目掛けて。



「えっ・・」


それぞれに槍や剣を振りかぶって迫ってくる馬上の騎士達。

その気魄に 戦場の修羅場を知らない少年は立ち尽くしてしまう。


自分に振り下ろされる剣が目の前に迫ったとき、誰かが腕を掴んだ。

次の瞬間、騎士達が遠くに見える。

シーナレストは またも命が救われた。



フッッ、と。


目の前に黒髪の少女が現れた。

勿論 ハルカだ、そんな事は分かっている。

では、今も自分の腕を掴んでいる手は誰の・・?


「なぁぁっ、!」


彼の腕を掴んでいたのは 確かにハルカの手である。

ただし、腕からスパッと切り取られていた。

血も滴るかわいい手である・・。


「うわああああっ」


「ばか、暴れるな。手・・返せ」


シーナレストの腕にぶら下がるハルカの左手を 無事な右手で回収する。

すぐさまハイヒールが使われて無事に装着が終わる。


「いつっ。あう・背中も切られたのか・・!。って

ああああーっ。マントが切られてるーっ」


ハルカの背中は深くは無いがザックリ斜めに切り裂かれ、血まみれであった。

腰まで有った長い髪は斜めに断ち切られ一部が肩までの長さになっている。

そんな大怪我をしているのに ハルカの一番の悲しみは切られたマントだった。


血まみれでボロボロのハルカを見ているシーナレストは 顔面蒼白で放心状態だ。



「にゃろぅ・・」


「ハルカ、キズを治すのが先にゃ」


「キレイな死に方は・・させない」


ハルカの目は据わっている。

ノロの見ている前が赤くなった。一瞬で魔法が発動された。

ハルカが初めて見せるファイヤーボールである。


ただし、直径が2メートルもある ボールと呼べないような規模だ。

固まって走って来る馬上の騎士達に 砲弾のような速さで打ち込まれる小さな太陽。


ッコオォォォォッ


着弾と同時に火の玉は膨張し 10メートルもの炎のドームとなる。

明らかにファイヤーボールの魔法とは別物になっている。



「へぇ、まだ元気だ・・何だろあいつら」


謎の騎士は速度こそ落ちてはいるが 炎を全身に纏ったまま 無事に姿を現していた。


「あの炎で無事となると、肉体を持たぬアンデットの類かも知れん。

見た目からして あの鎧は魔法に対して強い抵抗力の有る呪いの魔道具にゃ」


「そうなると・・・光の魔法か 聖属性の魔法かぁ。

昼に動いてるから相手に光は無力だとして、聖属性の魔法は苦手なんだよねー」


「気が付いているか・・ハルカ」


「うん。囲まれちゃってるね。何時の間にこんなに集まったのかな。単なる魔物では無いよね」


ハルカ達を取り囲み、徐々に包囲を詰めてくる敵はおよそ三百。

炎に包まれた騎士が速度を落としたのは 後続と歩調を合わせる為らしい。

それは統率された軍隊の動きであり 指揮を執っている 何者かがいる事を示す。


背中にヒールを掛けながら、ハルカは自分が妄想で作った厨二な魔法を思い返していた。作ったは良いが 日本では試す事すら出来なかったお蔵入りの魔法たちだ。


「うーん・・丁度良いのが有るけど、一発勝負だよ・・できるかな」 ぶつぶつ


さすがに試射もしていない魔法には躊躇してしまう。

しかし、ハルカにも分かっている。

この様子では 逃げようとしても転移した場所が安全とは限らない事を。


「ノロ、・・失敗したら 何処かに隠れて生き延びてね。この世界悪くなかったよ」


「何を言うか。お主が死んで わしが生き残れるはず無かろう」


シーナレストの目の前で ハルカの髪の毛がキラキラと輝きだす。以前も少し見たが、今回のそれは規模が違う。

やがて巨大な魔法を構築する時の ハルカの無意識な癖である踊りが始まった。

ノロはすでに恐れては居ない。


「踊る・・光の妖精」


シーナレストは 今やフェルムスティアの伝説になっている噂を思い出し 事の真実を知る。

そのキラめく光の輝きが全身にまで広がったとき 魔法は解き放たれた。


(セイント・リュウセイ・ノヴァ)


自分でも恥ずかしいので 心の中で魔法の名前を叫ぶ。


フラッシュの光を止めているような白い光が ハルカを中心に広がっていく。昼だと言うのに その光はハッキリと目に見えて、見渡す限り白い光の輝きに包まれた。

黒色の騎士達は苦しそうに その場に立ち止まる。


次の瞬間、ゴルフボール大の数え切れない光の流星が頭上から降り注ぐ。

高濃度の聖属性のエネルギー弾が 流星のように降り注ぐ光景である。

岩をも蒸発させる光の粒は 正確に敵対する闇の者を打ち抜いていく。

魔法が通用しないと恐れられた黒い騎士達は 次々と一撃で消し飛ばされていった。



「ノロ、旨くいった・・」


「これが、ハルカの全力・・凄いにゃ」


この世界に来て 今までハルカは全力で魔法を使っていない。

軍隊蜂の襲撃に対しても全力を出してはいない。

その為に わざわざ湖の水を水素に分解する手間を掛けている。


あの時、遠慮せずに炎系統の魔法を全力で使えば 虫の大群ごときは簡単に全滅させる事が可能だったのだ。

しかし、それをすると一面の景色は土地まで溶けて火山の噴火口のように荒れ果てるし、湖などは跡形も無く蒸発しクレーターが残っただろう。



今回の黒い騎士達は、そんなハルカに全力を使わせるほどの相手だったのである。

ただし、ハルカの魔力が万全な状態なら その規模は今の比では無い。


勝利を見届け、ハルカは気を失う。

ゆっくりと崩れ落ちるハルカを抱きとめたのはシーナレスト。

彼は今や ハルカと自分を比較して無力を感じる事は無かった。

あまりにも次元が違いすぎる存在に 畏敬の念しか浮かばない。


「やはり、今日の出来事は一生の宝物になるよ」


奇跡のような魔法の使用に立ち会った唯一の目撃者ではあるが、シーナレストは今の非現実的な光景を誰にも説明する事は出来ないだろう。


「油断するにゃ、少年。まだ 何か居るにゃ」


警戒するノロの言葉はシーナレストには届かない。

彼はハルカを抱えたまま気を失っていたからだ。



『何モ案ズル事ハ無イ、ハルカ ハ守ルト約束シテイル』


「うんうん」


気を失ったシーナレストの隣にはピアが顕現し、空中にはあの精霊が浮いている。



そして、光の消えた草原には唯一黒い影が立っていた。

黒いボロをまとい 不気味な雰囲気を持つ存在は 体の半分が かじり取られたように消失していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ