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38、バカ、変態、ロリコン、変質者!

暖かくて 柔らかい。


ふわふわな場所に寝ているようだ。

泣きたくなるような痛みも 朦朧とさせるダルさもない。

おまけに花のような良い匂いがする。


ボクは死んだのだろうか。


ん?。お尻のあたりだけ妙に冷たい・・。



尻の冷たさで意識が覚醒したシーナレストが目にしたものは一面の青だった。



目に映る見た事も無い青い素材、呆然として不思議な光景を見詰めてしまう。

ふと 胸元で動く物が感じられて我に返り目を向けると、

儚げな細い腕が抱きつくように添えられている。


自分が裸なのは・・まぁ良い。

しかし、寄り添って寝ているのが 幼い少女なのは焦る。

その髪の毛は黒く つややかで、さらに良い匂いがする。


黒い髪の少女・・ハルカ。

触れ合う感触で 彼女もほぼ裸のような姿だと分かる。

2人を包む寝具は 見た事も無い上等な品で心地よく美しい色だ。


どうして こんな状況に・・いや、分かりきっている。

あの絶望的な苦しみから この子が助けてくれたのだ。

こんな夢を見ているような場面は そうとしか考えられなかった。


折れて動かせなかった腕や 足の痛みも無い。

信じ難いが 死を覚悟したあの大怪我が完全に治っている。


ハルカは妖精・・。

妹や近衛達が言っていた事が 今は分かる気がする。

寝顔も あどけないが整っていて将来は美人になる事を確信させる。


この子が助けてくれた事が 途轍もなく嬉しく思える。


寝顔を見ていて気が付いた。

自分が何故、あれ程までに この子を追いかけたのか。

シーナレストは動くようになった腕で 優しくハルカを抱き寄せた。




なにやら 動く気配を感じて ハルカも眠りから覚めようとしている。

(ピアが甘えているのだろうか・・しょうがないな)と最初は考えた。


しかし、体に感じる感触は小さく愛らしいそれとは違い力強くてゴツゴツしている。


目を開けたハルカが見たものは・・目の前の誰かの耳?だった。

そして、口が何かに触れている・・・!。


ハルカは 自分が男に抱きつかれキスされている という衝撃の事実に気が付いた。


「うーー、むー、んー」


ジタバタと全力で暴れるが 相手は高校生ほどもある少年だ。

10歳程度の体の非力な自分が 振りほどく事など出来ない。


ならば、「魔法で思い知らせてやる」と思ったタイミングで腕が緩められ 顔が離された。

離れ際に グーパンを叩き込むが ぺちん☆ というカワイイ音が出るだけだった。



「バカ、変態、ロリコン、変質者!」


盛大に罵ってるのに 相手は平然としてニコニコしている。

青くなって 鳥肌を立てているハルカだが、シーナレストの目には 照れて赤くなっている純真な少女の姿に見えている。


これは悲惨である。

ハルカにも色々と黒歴史は存在するが それとは比較にならない 暗黒の歴史となってしまった。


(まさか、男にキスされるなど・・バカもろとも黒歴史を燃やし尽くしてやる)


逆上したハルカは本気で殺す強さの魔力を練り上げる。



「ハルカ、ボクと結婚してくれ」


「はぁ?」


見事な先制攻撃を受けて集中が溶け魔力が四散してしまった。

バカ息子、あなどりがたし。


「誰がするか!。・・こんな事して、後で必ず死ぬほど後悔するぞ」


「いや、この思い出は ボクの一生の宝物になるよ」


「ウガーー・・」


ハルカは世の女性達が何故ロリコンを毛嫌いするのか身をもって知った。

「後で一生のトラウマになるが良い」・・と黒い呪いを心でつぶやく。


腹いせに バサバサと毛布や羽毛布団をひっぺがし 倉庫に収納していく。

シーナレストは 温もりが名残惜しいのか抵抗してくる。

その様子を見てハルカは(自分だけ幸せな顔をしやがって)と余計にムカつく。


「痛く無いなら自分で動け・・寝小便たれ」


ハルカの視線の先には素っ裸の体に小便で濡れたタオルを纏うシーナレストがいた。


「えっ?・・うあああっ」


自分の姿に気が付いた彼は もの凄く赤い顔で慌てだす。

やっと仕返しが出来て 少し気が治まるハルカだ。


見苦しいので 濡れてないタオルを腰に巻かせる。

川で体の汚れを流し、ついでにタオルも洗わせた。

ケガが治っても体力が戻らない為か、まだ ヨロヨロと歩いていて危なっかしいが、死ななければ問題ない。

自分も身支度を整え キャンプを片付ける。


次に石を並べて簡単な かまどを作る。

亜空間から 薪を取り出して火をつける。


鍋に水を入れて インスタントのコンソメスープを入れる。

適当な野菜と 広場で買った塩味の串焼きをバラして入れる。

コトコト煮込んで馴染ませてから味見をする。けっこう美味しい。


後は、日本の食パンを取り出す。

弱った胃に この世界の粗いパンは厳しい。

なんだかんだで ケガ人に心配りをしているハルカだ。


隣では ピアがわくわくしながら食事を待っている。

人間くさい精霊になってしまった。


最初は、助けてくれた ピアに食事をわたす。

目が覚めたら すでにシーナレストの大怪我が全快していたのだ。

他には考えられない。


次に大きい器にタップリ入れて 食べ盛りの少年に渡す。

勿論、今は見苦しい裸では無い。

色々な含みを持って 喜んでいる顔がムカツク。


後は・・ノロに食べさせて大丈夫だろうか?。

ネコは食べてはいけない食材とか有ったはずだ。


「ノロ。食べる前に解毒の魔法かけてね」


「「えっ?」」


皆が盛大に驚き 信じられないという顔でハルカを見ている。

それもそうだろう今のセリフだけ聞けば 毒を盛った食べ物だと聞こえる。


「むぅ、毒なんて入れてない。人の食べ物で ネコには毒になるものが有る」


「人間には良くてもネコにはダメという事にゃ」


「うん。」


「分かった、その程度の魔法なら使えるにゃ」


今度は全員が納得し安心した顔になる。


「美味しいな・・このスープ。パンも違う・・」


「むぅ、たまたま・・・できた」


インスタントのスープなど説明のしようが無い。

ハルカはごまかした。

だが それは、小さいのに料理が上手な少女を意味する。

また 望まないのに好印象を持たれてしまった。



この場所に着いたのが 昼の少し前。

あれから色々有って 今は時間にして午後の3時すぎだろうか。

日が暮れる前に 少なくても森からは出たい。


「跳ぶ。体に摑まって・・ノロも」


「えっ。空を飛べるの?。すごいな」


「うっさい・・」


(どうも 相手のペースに流される。やはり、こいつは疫病神だ)


ハルカが心の中で不満をもらしていると 彼はちゃっかり背中から抱きしめてくる。

いちいち ムカつく真似をする男である。


いきなり長距離の転移はまずいので まずは崖の上。

今も魔力は 完全には戻っていないのだ。


一瞬で景色が変る。


そして、なんと目の前にはコッケーの群れが居た。



「うあああああっ」


トラウマの恐怖を持つシーナレストは 情けない声を上げて後ずさる。

一触即発な状態で大声を出して相手を刺激するなど 最悪である。


そんな男を無視して ハルカはコッケーを見つめる。相手もハルカを見て動かない。

キリキリと両者の間に緊張からの間合いが意識されていく。

やがてハルカの目には徐々に凶悪なレベルで食欲の炎がゆらめき出す。

ビビった鳥たちは勝負を諦めた。ハルカの魔力には覚え(トラウマ)が有るのだ。


「鶏肉・・」 じゅるっ


「クケーーッ」


コッケーの群れはダッシュで逃げた。それはもう 必死で逃げた。

突然逃げ出したその後姿を 残念そうなハルカと 呆けた若者が見送る。


「やつら どうして・・逃げたんだ?」


「一羽 鶏肉にしたから・・たぶん恐れて 逃げた」


「鶏肉にって・・あれに勝ったのか?」


「もちろん、あれは絶対に美味しい。明日 屋台の皆が・・美味しく作ってくれる」


何という違いだろうか、シーナレストは唖然とした。

外の世界で生きる為に必要な力とはこれ程なのだ、と突き付けられた気持ちだ。

無様に逃げまどい死にそうなケガ負っただけの自分の無力を思い知らされる。

自分はギリギリで生き残れたが 同行した兵達は皆 自分の盾となって死んでいった。

なのに この少女は当然のように あのバケモノを倒し、恐れられ、さらには食べるのを楽しみにしている。


まるで 生きる世界が違う。

自分は ここに来るべき資格が無かったのだ。

少年は貴族という肩書きの無い 自分の本当の実力を知った。


「は、ははははは・・うっ、うあぁぅっっ」


「何故・・泣く?。食べたいなら屋台に行けばいい」


「皆、ボクを逃がす為に死んだ。自分がこんな所に来たせいだ」


自分は「多少の相手なら勝てる」と思いあがっていた。

そのせいで外界の脅威を何も知らずに 相応の護衛も付けずに出て来た。

結果として多くの兵士を死なせてしまった。

シーナレストは何故か年下のはずのハルカに そう打ち明ける。

精神的には 彼もまだ子供なのだ。



「・・それなら お前が泣くべきではない」


「なぜだ・・」


「悲しむ権利は家族のもの。お前がするのは 死んだ人の・・家族を守る事」


「!」


それは 日頃から父に言われていた領主の立ち位置。

上に立つ者の掟。何故・・この少女は知っているのだ。


「頼む、結婚してくれ・・君が必要なんだ」


「ぬぁ、離せ・・バカ!」


後ろから 力いっぱい抱きつくシーナレスト。

小さなハルカではジタバタすらできない。ノロは頭の上に避難していた。


「このーーーっ」


苦肉の策で苦し紛れに 長距離転移をした。

ただし 前回の轍を踏まないように力の加減はしてある。

狙い通り セクハラ?男は驚いて力を緩めてくれた。

この事でハルカは幼女の相手よりも若者の相手の方が疲れが何倍も酷いと知った。


転移した近くには 馬に乗った鎧装備の騎士が3人居た。

騎士のシルエットを見たシーナレストは自分を探しに来た捜索隊だと思った。



その鎧は 全体が黒く、炎の模様が描かれている。





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