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37、きっと 疫病神だ・

バカ王子(領主の息子)が消息不明という話は他言無用である、と言い含められて 領主館から開放されたハルカ。


用が済んで帰れるのは良いが 館は都の中心に有り 一般の区画までは 距離が有る。


つまり、徒歩で帰るのはとても時間が掛かり疲れる。


他に手段が無いのでテクテク歩く。テクテク。テクテク。テクテク。テクテク。

テクテク。テクテク。テクテク。テクテク。テクテク。テクテク。

めんどくさい・・。


これもみんな あのバカのせいだ!と怒りが再現する。


「空が飛びたい。飛んで行って・・ぶちのめす」


青い杖を取り出してみる。

魔法使いなら 杖や箒に乗って飛ぶものだ。それは全世界の常識

ジッと杖を見る・・・・・・・・・・・・・



「・・・・・無理」


(棒一本になんて 乗って行けるかぁー)と心の中で叫ぶ。

絶対ひっくり返る。もしもバランスを取れたとしても尻が痛いに決まっている。

とりあえず 今は諦めることにした。


再びテクテク歩く。

テクテク、テクテク、テクテク、テクテク、テクテク。テクテク。

テクテク、テクテク、テクテク、テクテク、テクテク。テクテク。

テクテク、テクテク・・ムカッ。


「ノロ、マントのフードに入って爪で・・つかまれ」


「急にどうしたにゃ。ハルカ」


返事はなく、髪の毛が広がりハルカは急激に魔力を集めだした。

あわててノロがフードに入り込むと 同時に景色が変わる。




「ハァ、ハァ・・さすがに・・キツイ」


「もしかして、ここは精霊樹の有った場所にゃ・・」


以前は 目に見える範囲が転移の出来る限界だった。

しかし、今の転移は徒歩で1日以上かかる距離である。

魔法使いとしてハルカは成長したのだ。


強い魔物との戦いが続きレベルが爆上がりして 自身が持つ魔力が以前のそれに近づいている。しかし、ゲームのようにステータスが見れないので確証が無かった。


日本に居たときのハルカなら 今の距離の倍は 楽に飛べたはずである。

無論、監視カメラ大国 日本で転移なんて 色々な意味で危ないので使わない。



カポン☆ ずずんっ


音がしたので振り向くと、サイレントボアが真っ二つになって倒れるところだった。


「ハルカ、油断すると危ないの」


ピアが守ってくれたらしい。

やはり、ギリギリの跳躍は危険なようだ。


「そもそも、これもみんな あのバカのせいだ!」


もはや 感情で突き進んでいるハルカには立ち止まって冷静になる道は無い。

そんな行動の結果が後に大後悔となり 思い出すたびに恥ずかしさで悶え苦しむ。

人、これを黒歴史と呼ぶ。



「あのバカは何処?・・案内よろしく」


『ウ、ウム。ナンカ、我ガ悪イ事ヲシテイルヨウナ気ガシテキタ』


守護精霊はハルカが何時になく怒っているので 何をするのか心配になってきた。

とりあえず 生存している事を教えた責任を感じて案内をする。


緩やかな丘を下っていくと 大きな 鳥のフンらしき 白いものが落ちている。

以前戦った巨大なニワトリに間違いない。

このあたりは すっかり彼らのナワバリになったようだ。

さぞ あのバカ息子は 格好のカモネギだった事だろう。

そう考えると 少しは溜飲が下がる気がする。


第一、何でハルカを追ってきたのやら・・。

もしや、あいつはロリで しかもストーカーではないのか。

そう思うと だんだん 探すのが嫌になってきたハルカだ。


まだ新しい血の跡と衣服の残骸、地面には所々で争った後がある。

馬の鞍らしき物は有るが死体は何も無い。骨すら食べられたのだろう。

鳥は卵を産むのにカルシウムが必要なのだと聞いた事が有る。


「この惨状で生き残っているなんて奇跡にゃ」


「Gはしぶとく生き残る・・のは常識」


案内はその場を後にし さらに進んでいく。


灌木が折れて血痕が残っている場所にたどりついた。

街道までもう少しという場所で近くに川が確認できる。

生き残っているなら洞窟などに逃げ込んだと思っていたが そんな場所はこの近くには無いだろう。


「本当に生きてるの?」


『コノ下ニ落チテオル。マダ カロウジテ生キテイルナ』


まるで ゴミでも落ちているように伝える。

ハルカ以外の人間には 容赦のない精霊であった。


「あー・・ほんとに落ちてる。・・」


高さ5メートルほどの崖で、下の川岸に転がっている。

ある意味 よく生きていたものだ。


危険なので 下まで転移する。

まだ魔力が回復していなくて短距離でもキツイ。

ハルカは周囲から魔力を集める特性があるのだが 呼び水となる自身の持つ魔力が不可欠であり 無尽蔵に魔法が使える訳では無い。


ハルカの魔力枯渇は転移魔法がいかに大量の魔力を消費するかを証明している。

どうやら この位が 今のハルカの魔力の使用限度なのだろう。

これ以上 無理をすると ハルカまで遭難するだろう。


「おーい・・生きてるか?」


返事が無い。ただの・・・まぁいい 一人でボケてても意味が無い。


ハルカは落ち着いてバカ息子の状態を見てみた。

その姿を見てしまうと「憂さ晴らしに ぶっとばす」とは言えない。


腕と足が変な角度になっていて明らかに折れている。

この様子では 他にも肋骨の数本は折れているかも知れない。

呼吸はハッキリしているが 熱が出ているのか意識が無いようだ。


「ダメ・・じゃん。こいつ」



何とかしなければ明日の朝までには死んでいるだろう。


魔力の無いハルカの足では他の誰かを呼んで来る時間も無い。



「こいつ・・きっと疫病神だ・・」


状況分析の結果、ハルカが手を貸さなければ完璧に死ぬ。

怒りに任せてこの場に来た事で墓穴を掘ってしまった。


とりあえず、近くの石に座って休む。

子供の体では 魔法で身体強化しなくては 動かす事も出来ない。


甘い缶コーヒーを取り出して飲む。

疲れた時には甘いのが嬉しい。


ピアが近くで 飲みたそうにジィッと見詰めている。

もう1本取り出してプルタブを開けてやると 嬉しそうに飲みだした。

ノロ用の皿もだして、入れてやると飲んでいる。


ネコでも大丈夫・・だろう。きっと・・たぶん。


さわさわと川が流れていく。のどかな場所であり心が安らぐ・・・・

充分とは言えないが 休みを取った後、ハルカはシーナレストの介護をすることにした。


休んで頭も冷静になり 手順を色々と考えてみた。

ただし、人を助けるというのはキレイ事ではない。


まずは、スポーツドリンクのペットボトルを取り出した。

スポーツドリンクは 緊急時には点滴に使えるほど 体に無理なく吸収されるように作られている・・らしい。


自分で飲み込めなくては 肺に入る危険が有るので止めなくてはならないが、試しに口に入れると無意識でも飲み込んでくれた。それを何度か繰り返す。


次に ドリンクと一緒に市販の頭痛薬を飲ませる。

説明書には痛み止めの成分と 解熱作用が有ると書かれている。

これも無事に飲み込んでくれた。


専門家からは非難されそうな医療行為なのは否定しない。

的確な薬など持っているはずも無く、治療方法も一般人の思いつきである。



それが終わると 頭の下にタオルを当てて保護し、とりあえず寝せておく。


少し高い平坦な場所にブルーシートを敷き、さらに もう一枚のシートを屋根になるように木に縛りつけ 簡易のテントを作る。

中に敷き布団と毛布を出し、枕になるようにクッションも用意した。

これ等は日本でも利用していたハルカの寝具である。


さて、寝床の準備が終わると一番必要だが最もやりたくない仕事がある。


壊れた防具を外し 次にズボンと下着を脱がす。

丸一日放置されていたのだ、当然だが意識が無くても大小の出るものは出る。


人を救助するのがキレイ事で無いのは 病気を防ぐ為に必要な汚物処理が有るからだ。

病院の看護師さんは そんな嫌な事をしてくれる。

患者が 彼女達を白衣の天使と思うのは だてではない。


丁度 川が目の前なので 水でたっぷり濡らしたタオルを魔法で少し温め、洗い流すように汚れを落としてから 浄化の魔法で仕上げる。

衣類も川で ザバザバと大雑把に洗い魔法で浄化する。浄化の魔法は神!。


骨折している足に添え木をして固定し、市販の湿布薬を貼って腫れと熱を下げる。

身体強化と 精霊の協力で軽くし、何とか患者を寝床に運ぶ。

本来は意識のない人の体は重く 運ぶだけでも数人がかりの大仕事なのだった。


(何で 男なんぞのために こんな事をせにゃならん)と

心には思うが、そこは精神年齢28歳 大人のオッサンである。

ここまで来ると人命優先と覚悟して割り切っている。


ふとんの上で休ませるのは良いがその間も排泄は有りうる。

大人用の紙オムツが有れば良かったのだが さすがのハルカも持っていない。


大切な布団が汚れては 浄化でも回復が難しそうなので、大きなビニールを敷いた上にバスタオルを何枚か重ねて敷く。

さらにバスタオルをオシメのように使う事で ギリギリ被害を防げるだろう・・

たぶん。

大人の出す小便は かなりの量なのだ。

日本でも紙オムツが無い時代は洗濯だけで地獄だったらしい。

介護とは手間の掛かるものなのである。


衣類を全て脱がし ケガの状態を確認する。

頭を打っていれば危ないが 素人にそこまで分からない。

専門の魔法など知らない。


骨折による不自然な体の変形が無いか確認し、いよいよ魔法を使う。

色々と手間を掛けたのは ハルカの魔力が残り少ないからだ。

命に関わる頭と胴体の治療に優先的にヒールを使う。


意識が有れば 栄養価の高いスープなどを飲ませて体力を付けるのだが、今はこれ以上無理だ。

後はゆっくり寝せて 自然に回復するのを待つしかない。

ハルカの魔力が回復したら 本格的に治癒魔法が使える。

なぜ医療の専門家では無いのに治癒魔法が可能なのか?

魔法はイメージの世界だからとしか言えない。使える者は使えるのだ。


気がかりなのは 体温低下で肺炎など起こさないかだ。

医療知識が無いので余計に心配になる。

上から何枚も 毛布や軽い羽毛布団を掛けているが 自分で体温を出せなくては それも意味が無い。

カイロなど持ってないし、電気毛布も当然だが使えない。

已む無く ハルカは下着姿になると シーナレストの隣に潜り込んだ。

やはり 彼の体は冷たい。我慢して寄り添い、小さな体で包み込むように温める。


やがて、疲れているハルカも熟睡していた。



ハルカが眠るのを待っていたかのように ピアが顕現した。


フワリと浮き上がり 2人の周りを楽しそうに踊りだす。

すると 空中からエメラルドグリーンの光があふれ出て ハルカたちに降り注いでく。


その神秘的な光景をノロが静かにキラキラした目で見ていた。





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