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36、ハルカ、うんざりする

この世界に転移してからのハルカの境遇を一言でいうとトラブルメーカーだろうか。


今も広場で のんびりしていたハルカを 騎士達が取り囲んでいる。


彼らがハルカに対する姿勢は3種類に分かれていて不自然であり不気味だ。


まずは、偉そうに上から目線で威嚇している騎士。

ハルカと面識が無い 初対面の騎士なのだろう。


次は、対照的に怯えてビクビクしている騎士。

これは分かりやすい。先日 地獄を見た人だろう。


そして、優しい穏やかな雰囲気で一歩引いて見守っている騎士。

これは 何だろう。意味が分からなくて逆に不気味だ。



「お前がハルカだな。領主様が御呼びだ。同行してもらう」


「やだ。・・めんどくさい」


その返答に偉そうな騎士は ピリピリとした怒りを殺気に変換させる。


怯えた騎士は 恐怖で情け無い顔になり、今にも逃げ出しそうに腰が引けている。


一方では笑いだしそうな騎士が若干名いる。何かのコントだろうか・・・。



「貴様ぁ、大人しく付いて来い、抵抗するなら・・うっ、・・あ、ぐああああっっ」


偉そうな騎士は 腹を抑えて苦しみだした。病気持ちらしい。

きっと腸ねん転になったのだろう。気の毒に



「「「ひぃぃ」」」


「いい歳して・・子供にする態度?」


町に来てゴタゴタ続きで 不本意な生活が続いていたハルカが、やっと 本来の気楽な時間を満喫していたのに 邪魔された。

さらに上から目線で命令されて 最高に不機嫌になってしまった。

急な疾患程度で済ませたのは 感謝して欲しいと思う。


「お前達、分隊長が病気のようだ。早く治療所にお連れしなさい」


「「「は、はい」」」


これ幸いと、怯えていた騎士達は 痛みで暴れる騎士を運んでいった。

無詠唱で 魔法を使った様子も無く、しかも 単なる疾患なので 後で言い訳も立つ。

政治的に見て融通の効く 玉虫色の報復である。


「ルカ様、仲間が失礼を致しました。お詫び申し上げます」


「ルカ様?」


「我々はララレィリア姫付きの近衛でした。

先日は助けていただいた上に貴重な薬をいただき感謝しています」


ハルカは思い出した。腹痛の所を盗賊に襲撃され 色々と危なかった騎士達だ。


彼らは命と名誉を救われ ハルカを妖精と思うほど感謝している。


「理由はここでは申せませんが 領主様は勿論 姫様も大変に苦しんでおります。

御力を貸して戴けませんでしょうか」


「うー・・」


ハルカは 今もララレィリアからもらったマントを愛用している。

すっかりお気に入りだ。


それゆえに彼女を引き合いに出されると無視できない。


高いマントになった思いながら、シブシブ同行を承諾した。




******************




その頃、冒険者ギルド仮設事務所では 殴りこみに遭ったような騒ぎとなっていた。


「失礼致します。ギルドマスター」


「何事ですか?。騒がしいですね」


「それが、職人ギルドの方々が マスターに会わせろと・・」


職人ギルドは、冒険者・商人ギルドと並ぶ三大ギルドの一角であり、名前の通り鍛冶屋・縫製・工芸・大工など技術を生業とする人々を統括している。


「失礼するぜ。急ぎの話なんだ」


「分かりました。お話をお伺いしましょう」


荒々しい態度で部屋に来た老人は 職人ギルドのマスターである。

失礼な態度に見えるが、本来は冒険者ギルドも このノリなのである。

上品なフェレットが変わり者なのを自分自身が知っているので 特に気にしない。


「早速だが、これは何処で手に入った」


「これは・・ 蜂の針と木の枝ですか」


「受付で確認したが、ギルマスしか出所は知らないと聞いたぜ」


それは ハルカが売りに出した軍隊蜂の針と 精霊樹の枝である。

色々と少しづつ 買い取りカウンターに置いていった物の中に含まれていた。


「なるほど・・

しかし 事情が有りましてね、納品した冒険者の名前は出さない約束なんです」


「変な冒険者だな・・まぁ、それは良いんだ。問題は こいつが揃えられれば 例の槍 二百本できるかも知れん」


「!。詳しくお聞かせ下さい」


「あぁ、勿論だ。この蜂の針は 固い上にしなりが有る変な特性を持ってる。切っ先は鋭くて大抵の皮なら貫くし、毒の効果まである。そしてな、こいつは少し加工するだけで 槍の刃先に使えるんだ。槍としては 軽くて強い一級品の扱いだぜ」


「それは・・知りませんでした。こちらのギルドにすら知られてない情報とは 恐れ入りますね」


「知らなくても不思議じゃない。軍隊蜂に喧嘩を売るバカは居ないから普通は 偶然に蜂の死骸から手に入る程度だ。そして、運良く手に入れて槍を作った奴は 殺されて奪われないように誰にも言わずに秘密にしてるからな。ただし 職人の間では利用方法が代々伝わるから 知られているのさ」


「なるほど・・。しかし、何故 その貴重な針が二百もそろうと思うのですか?」


「賭けだな。願望と笑っても良い。先日の蜂の襲来は数万匹の大群だ。炎で焼かれたと聞いたが、1パーセントが回収されただけで目的は達成される。手に入るのを願ってやって来た」


それを聞いたフェレットは 考え込んでいる様にみせて 内心では その可能性の高さに驚愕し、服の中ではザワザワと鳥肌が立っていた。


あの時 ハルカは魔法を放っただけで回収どころでは無かった。にも関わらず素材が存在する。


確証の無い事を好かない彼が ハルカの持ち物に希望を抱いていた。



「分かりました。今は何とも言えませんが、持ち込んだ者に確認してみますよ。

もしも 有るなら是が非でも手に入れてみせます」


「ああ、宜しくたのんだぜ。おっと、こっちの枝の事も聞いてくれ。無ければ 他の材料を早めに手配しないと成らないからな」


「これは・・ひょっとして 精霊樹の枝ですか?。こちらも無茶な注文ですね」


精霊樹の事は都の近くにも存在していたので知られている。

枝は魔法使いの杖を作る材料として珍重されるが 希少品と言う程ではない。


ただし、常に手に入るというものでも無い。


木が巨大である為 登って切り落とすなど不可能だし、魔法すら届かない。何かで偶然落ちた枝が回収されているだけなのだ。


「俺もそう思うがな、この枝はちょいと別なんだ」


「私には何が別なのか分かりませんが?」


「まず、新しい情報だがな・・昨日 サラスティア王国から帰ってきた商人たちが 森の中に精霊樹を見なかったらしい」


「まさか あの巨木がですか?。それは、急いで調査に向かわせましょう」


「だめだ、止めたほうが良い。精霊樹の枝が手に入り難いのは魔物の虫が食ってしまうからだ。もしも、アレが倒れていたなら あの辺り一帯は巨大な虫の魔物で溢れているだろう。むしろ 近くに行くのを規制したほうが良いぞ」


「しかし、それでは材料が手に入らないですが」


「これも俺のカンだがな、倒れた直後に枝を回収した奴が居ると見ている。その証拠がこの長さの枝だ。切り口も自然に折れたものじゃねぇ。こいつなら、削り出せば槍の長さには丁度良い。針と合わせれば極上の槍が出来るぜ」


フェレットは老練の職人の見識に舌を巻く。彼らは作る為になら 必要な知識は貪欲に吸収する。関連する知識なら 他の分野であろうと区別せず吸収するのだ。


「分かりました。枝の件も全力で探してみます。貴重な情報をありがとうございます」


「頼むぜ、材料さえ有れば こっちも全力で作ってみせる」


職人ギルドのマスターを見送った後、フェレットは早速 信頼の置ける職員にハルカを探すよう指示し、自らも町に繰り出した。



************



そのハルカは 領主館の応接室に居た。

そして 来て早々だが逃げる魔法の準備すらしている。

高い確率で前回 来た時のゴタゴタの責任を追及され罪に問われる事を想定していたからだ。そうなったら転移で逃げの一択だろう。権力者は理不尽を平気でするから。


しかし あれから何日も時間が経っているのに屋敷全体の雰囲気がおかしい。

またまた、面倒事の予感にウンザリするハルカだ。


「失礼致します」


メイドの女性がドアを開けると、領主らしき男と ララレィリアが入って来た。

領主の顔色は悪い。そして ララレィリアは目の周りが赤くなっていて 泣いていたのが分かる。


「息子のシーナレストが 昨日から行方不明になっておる。

あれは 君を探していたそうだ。何か知ってる事は無いかね」


一切の挨拶も 前置きもなく、単刀直入に話をきり出した。


領主の考えには ハルカが手を下したのでは?という疑惑も有る。

あくまで可能性の低い最悪なシナリオとしてだ。

もし、ハルカが意図してやったのなら証拠など残らない事は 先日の一件でハッキリしている。


「今日、フェレットからも・・聞いた。あれから会っていない・・」


「ハルカ・・何処に行ってたの・・そのせいで、お兄様が・・うああぁぁーんん」


そのまま 走り去るララレィリアを見て フツフツと煮えたぎる怒りが バカ息子に向けて湧いてくるハルカだ。今回もゴタゴタに巻き込まれたのはあの男が原因だと思うとムカムカしてきた。見つけ出して一発殴らないと気が済まない。


「娘が言い過ぎた。許してやってくれ。

息子の持ち物や 馬の備品が発見されたのだ。馬は何かに食い荒らされていた」


なむ。 ハルカはゲーム式の弔いで片付けようとした。


ララレィリアには悪いが、どう考えても他人事なのだ。


オマケにハルカのせい、みたいに言われては 同情する気にもならない。



『ハルカ、ソノ人間ナラ マダ生キテイルゾ。知ラセガ届イタ。場所モ分カル』


ピアの守護をしている精霊が 頭に直接話しかけてきた。

親切で教えてくれたのだろうけど今回は余計な情報だった。

そんな事 知らせなくて良いのに・・と 少し恨めしい。


領主家にとってはこの上ない貴重な情報だがその事は誰にも話せない。


こんな状況で場所を教えたら「何故知ってるのか?」と 益々疑われるだけだ。


だがハルカしか知らない事であり、このままでは見殺しになる。


ハルカは 逃げられない面倒事に 心の中でウガーと叫んでいた。





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