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35、出でよ、にわとり

それは 一言で言えば狭い店であった。

日本の衣料品店のように 商品が見やすくも無ければ、カラフルな色が揃っている訳でもない。

マネキンも無いので、手に取って広げるまで 何なのかすら分からない。


そんな混沌とした店内を 店主は把握しているらしい。さすが異世界の店。

ここはフルベーユ商会の大奥様、ミラルダさんに紹介されて やって来た一押しの店だ。


ちなみに、フルベーユ商会の会長さんはラルドアス・フルベーユ。

よもや これ程 縁が有るとは思わなかったので、今まで名前を聞いていなかったハルカである。




やはり、子供用の服は売られていなかった。まして、暴れ回る男の子用に新しい服など用意されていない。

ハルカの要望が冒険用なので、さらに難しい。

時間は掛かるがオーダーメイドで作ってもらう事にした。


布が高騰していると聞いたので、毛皮と交換して手に入れた布を使ってもらう。上下で二組の服を作ったら残りの布は買い取ってもらえる。


冒険者の服装をして 髪の毛を後ろで縛れば、今よりは男の子らしく見えるだろう。・・たぶん。




服を注文して安心した後は冒険者ギルドに行く。

ギルドマスターのフェレットが呼んでいるらしい。

(用が有るなら来い)

と思ったが、忙しくて抜けられないとのこと。



ギルドは修理中なので、近くの仮設事務所に行く。

コルベルト達は居なかった。

ちなみにシチューに使った鍋は返してもらっていた。

備蓄用に大量に作っていたので、まだ かなり残っていた・・はずなのに、無くなっていて浄化までされていた。

冒険者の胃袋をなめていた。

今度からは出さないようにしよう と心に決める。



トコトコと 上等なドレス姿の子どもが入って来た。

ギルド恒例のテンプレ・・・・は無かった。

冒険者から相手にもされていなかった。

チラッと見た後は何も無かったように それぞれ自分達の会話をしている。


ほどなく、話を聞いていたらしい職員が案内してくれた。




「お久しぶりですね、ハルカ君。君が居なくなった、とララムがゴネて大変でしたよ。また 遊びにいらして下さい」


「ギルドカード、ありがとう。・・役に立った」


「いえいえ、どういたしまして」


ハルカは冒険者登録がされている。

というか、何時の間にか冒険者にされていた。


先日、コルベルト達のサイレントボアを納入するため ギルドの買取場に来た時、貯まっていた毛皮などの品も取り出して売ったのだ。


それらの品々を見たフェレットは 最速でギルドへの登録とカードを用意し、ハルカに手渡した。

ハルカの売り出した素材の品質が良すぎて 商人に直接売られた場合、他の冒険者が生活出来なくなる為だ。


品質を知った商人なら、ギルドから卸される素材を買うより 直接ハルカから買うだろう。そして、悪い事に ハルカにはそれに応えられる実力がある。


ギルドマスター直々に 拝み倒す勢いでギルド登録が成された。ハルカにとっても 登録は望んでいたので文句は無いし、素材は何処で売っても良かったのだ。



「それで・・何か用?」


「まずは座ってください。お茶とお菓子があります」


「ハルカ、食べよう」


隣にピアが顕現していた。

食べ物は不要な筈なのだが、妙に食べ物に目が無い。

実はハルカが日本のお菓子を食べさせたのが原因だ。


ピアとノロのコンビは 仲良くお菓子を食べている。

ピアを見てフェレットの顔が僅かに怯えている。




「そう言えば、シーナレスト様が ハルカさんを探していましたが、お会いできましたか?」


「しーな れすと?・・」


「名前はご存じ無いですか、領主様のご子息で ララレィリア様の兄上です」


「あ・・バカ王子・・。会って無いよ」


(2人は会わせない方が平和みたいですねぇ)


「今日御呼びしたのはですね、ハルカさんの持ち物の中に 要らない金物が無いかと思いまして。ありましたら譲って頂きたいのですが」


相変わらず顔の表情は変えないが、フェレットは結構必死である。

領主が請け負った 槍二百本という課題は、フェルムスティアの名士達全てが頭を悩ませていた。


他の領地でも同じようなものだろう。大量生産が出来ない社会では 同じものを揃えるのは大変なのだ。



「金物、・・盗賊からの武器が少し・・かな」


「そうですか・・。少しでも良いので後でお願いしますね」


「ん・・了解」


「せっかくですから、また別室の買取カウンターに 少し素材を卸していただけますか」


「わかった・・」


ハルカの売る素材は 別物として扱われていた。新鮮な肉であったり、完璧な仕上がりの毛皮であったりと 直ぐに売り出せる状態なので、他の素材と一緒には出来なかったのだ。


そして、市場を乱さない程度の少ない量を 定期的に卸す約束がされていた。

ハルカとしては 最近大量に手に入れた物が多く、早く処分したかったが、彼も多少は経済の仕組みを知っているので提案を受け入れる事にした。


この日、ハルカが残していった素材が 後にフェルムスティアの名士達を救う事になる。




「オッチャン、久しぶり。食べに来た」


「おーっ。ハルちゃん、良く来たな。好きなだけ食べていきな」


ハルカは久しぶりに広場に来ていた。

すっかり 心が落ち着く場所になっている。

早速 出来たての串焼きを2本もらい、 何時ものようにピアとノロの皿も用意して 皆で食べ始めた。



「あ・・、そうだ。オッチャンは・・鳥の料理は出来る?」


「なんでぃ、いきなり。そりゃあ 出来るけどよ。ありゃあ 肉の値段が高いからなぁ」


高いと言うよりも 殆ど一般市場には出回らないらしい。

安く手に入りそうに思うが、戦ったハルカには理解できる。


1匹でも強いのに群れで行動する賢い鳥。

もし、町に近づけば騎士団が出なくては 追い払う事すら出来ない相手だった。




「ふっふっふ。出でよ、にわとり」


鳥肉の料理が食べたいハルカは テンションが高くなっている。

広場に人が少ない瞬間に、亜空間倉庫から先日の鶏肉を丸ごと取り出した。

横たわる鶏肉は 大型トラックの荷台のような迫力がある。


広場全体がザワつきだした。



「ハルちゃん こりゃあ、コッケーの肉じゃねぇか。たまげたなぁ」


「オッチャン。また・・作って」


「そりゃあ良いが、いくら何でも これはデカすぎるぜ」


「ん・・じゃあ、少し・・待ってて」


ハルカは一度 鶏肉を収納しなおすと、再度部位に解体する。

もう一度 取り出したのは鳥のモモ肉1本だった。

しかし、それでも大型乗用車並みの大きさである。



「これなら・・どう?」


「うーーん。これでもアイテム袋に入りきれないぜ」


「ねぇ、ハルちゃん。うちにも鶏肉分けておくれよ。あたしの作るスープとシチューに鶏肉は良く合うんだ。美味しいのを食べさせてあげるよ」


「その話、乗った・・美味しいのたのむ」


「あいよ、まかせな」


広場の屋台の店主が次々と申し出たので、追加の肉を出して皆に配分した。それでも 全体の三分の一位しか肉は減らなかった。別にあせって使う必要も無いので倉庫に寝せておく。


広場が変な活気に満ちている時、早馬が駆け抜けていく。

それは シーナレストの行方不明を伝えるものだった。



伝令が到着した領主の館では 緘口令が出された。

次期領主の行方不明。

しかも、伝えられる状況は最悪のものだ。


彼の馬の馬具が山道に散乱し、近くには 彼の物らしい紋章入りの帯剣が落ちていた。

彼の死体そのものが発見されないのが 微かな希望ではある。



彼は生きている。

川の近くに落ちたため、水は何とか口にできた。

しかし、時間と共に骨折した所が 熱と痛みを増してくる。



遠からず、彼は地獄の苦しみのうちに屍と変わる。





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