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32、ムシ、キターーー


ハルカ達一行は精霊樹の近くで野営する事になった。

魔物除け、虫除けをしてくれる魔道具の杖が有る為 、雨さえ注意すれば良い 快適な野営である。


冒険者3人は楽が出来て嬉しい反面、自分達の存在意義が軽いので複雑な心境だ。




精霊ピアが 生まれて初めて自ら望んだのは卵が宿っていた木に会いに来る事。

必死で願う目は 単なる我が侭では無い事を伝えていた。



ピアは精霊樹を見上げたまま立ち尽くしている。

ハルカは虫が木から落ちてこないかビクビクしながらも ピアに付き添っている。

端から見ると仲の良い姉妹に見える事だろう。


『王ノ望ミヲ聞イテクレテ感謝スル。契約シテイル以上 ハルカ ガ断レバ来ル事ハ出来ナカッタ』


何時の間にか ピアを守護している精霊がハルカの隣に浮いていた。


「都から・・少しだけ離れたかった。・・丁度良い」


ハルカが一人で宿に泊まったとしても 優秀すぎるメイド娘が嗅ぎつけて すぐに見つかってしまう。その後は 当然幼女たちが押し寄せて 落ち着かないこと この上ない。


自分の部屋が託児所になる事を想像してほしい。

ロリコンでも無い限り 煩くて逃げ出したくなるというものだ。


ハルカの意思に反して 気ままで気楽な生活がどんどん遠くなって行く。

誰にも煩わされない場所に 家が欲しくなってきたハルカである。



そんな事を考えていると ピアに変化がある。

それは契約して ラインが繋がっているハルカだから分かる微妙な変化。


今の姿が溶けて空中に消えてしまいそうな感覚である。



ピアの体が薄っすらと発光を始めると 精霊樹も同じように闇に浮き出てきた。

薄い水色の光に包まれた巨大な樹木。実に美しく神秘的な光景である。

コルベルト達にも見えているのか 口を開けて上を見ていた。



「どういう事・・これって秘密の事なのかな」


『イヤ、ソウデハナイ。数百年存在シテイル我モ 初メテ見ル光景ナノダ。精霊樹ガ寿命デ命ヲ終エヨウトシテイル。木ニ宿ル精霊ハ死ヌ前ニ オノレノ力ヲ ピア様ニ譲渡シタイノダ。少々手順ハ変ッタガ、本来ハ ピア様ガ 木ノ中デ卵カラ生マレタ時ニ行ワレルハズダッタ。木ニ宿ル精霊ハ 強ク成長サレテイル ピアさまノ存在ヲ感ジテ大変喜バレテイル』


守護精霊の言葉通り ピアに向けて優しい力が流れていく。


ピアから 嬉しさと共に 大きな悲しみが伝わってくる。


ある意味、母親との別れと同じなのかも知れない。



やがて、その流れも止まる。

ハルカにも分かった。途方も無い 長い時を生きて来た精霊樹は死んだのだ。



「ハルカぁ・・、あううっ」


「ん・・」


縋りついて泣くピアを 抱きしめて慰めていると 自分と丁度良い背丈になっている事に気付かされる。


少し前まで3歳児ほどだったピアは 6歳くらいにまで成長していた。

そのうち ピアに身長で追い抜かれるかも知れない。


ハルカは、不意に不安になって来た。

自分はちゃんと成長出来るのだろうか?、と。


成長の止まった成人だった体を 消費して若返ったようなものだ。

もしかしたら・・と思わずにいられなくなる。


ただ、大人の体になったとして 何かがしたい訳ではない。

結婚願望など 遠の昔に無くなっていたし、大人の社交場に行くのも飽きた。

力の弱さは魔法でカバーできる。経済的にも心配は無い?と思う。

特に問題は無いのだ。


強いて言うなら 小さな体がお酒に耐えられなくて 先日のように魔法を暴走させる。

そのせいで今も自主的に禁酒しているが、このまま一生飲めないのは辛い。

それだけだ


ハルカの腕の中で泣き疲れたピアは 最も安らげるハルカの魔力界に入っていった。

自分も休む事にしたハルカは コルベルトたちがいる野営キャンプに戻っていく。



「目的は果たせたみたいだな。凄い光景を見せてもらったぜ」


「キレイだったねー」


「ん・・。ありがとう。終わった」


彼らは何も聞かず、焚き火の近くでハルカを休ませてくれる。

出会った冒険者が彼らなのは運が良かったと言えるだろう。




**********




「ハルカちゃんの気配が無い・・」


そのころ 都では 侍女のフィルファナが ハルカの臭いを見失って彷徨っていた。

近づく酔っ払いを薙ぎ倒しながら ほぼ徹夜で迷惑な捜索は続けられた。



************ 




次の朝、例の如く ノロに爪で突かれて目を覚ますと 既に皆は起きていて 呆然と何かを見ている。


「ハルカ、虫にゃ。大きな虫が出たにゃ」


ハルカは その一言で ハッキリと意識が覚醒した。


変な音がする方を見ると、死んだ精霊樹を食い破り 虫の幼虫みたいな魔物が湧き出ていた。


死んだ事で食べ易くなったのか、昨日は見なかった虫たちが活発に木を食い荒らしている。


『精霊樹ハ死ンデモ豊富ナ魔力ヲ含ンデイル。魔物タチニトッテハ 強クナル為ノ最高ノ エサ ト言ッテ良イダロウ』


守護精霊が解説している側には ピアが悲しそうにその様子を見ている。

辛すぎる光景だろう。親の死体を冒瀆するのを見せられているのだ。



ピアは木の死を認めている。


なら見なければ問題無い。


ピアの頭を撫でたハルカは 頭上に沢山の氷の矢を作り出し 一斉に虫に向けて打ち出す。


同時に木に向けて走り出し、自分に向けて知る限りの身体支援魔法を掛けていく。


氷の矢は目に見える虫を一撃で串刺しにしていくが、虫は次々現れて木の根元を食い荒らす。

精霊樹は遠からず 自らの重さに耐えられずに倒れてしまうだろう。



全力で走るハルカだが虫には近寄りたくないので 幹までは行けなかった。

勇気を振り絞り近くまで行くと地面から浮き出ている精霊樹の根に手で触れた。

そして何も考えず全力で 亜空間倉庫の魔法を発動する。

目が眩むほどに体内の魔力が引き出される。

発動が早すぎて周囲から魔力を集める余裕が無かったのだ。


精霊樹を亜空間倉庫に収納する・・・既に死んでいるので 単なる物として考えれば理論上は入るはずであった。

結果を確認する間も惜しんで 今度は全力でその場を離れる。




見上げても 先端が見えないほどの巨大な木は 一瞬にしてその場から掻き消えた。


止まり木を失った鳥の魔物や 虫は騒ぎ出し飛び立って行く。

木の内部に寄生していた大量の虫たちは 空中に投げ出された形となり ボッタボッタと地面に叩きつけられて死んでいく。

結果として多くの魔物を退治した事で自動回収魔法が働き 望んでもいない虫の素材が確保されていくが、今はそれどころではない。


多くの虫は死んだが、何割かは落下しても生き残っている。

いきなり食料を失った虫たちは 次に魔力の塊のようなハルカに狙いをつける。


ガサゴソ、ズササササッ、と ハルカの後ろから迫る音が聞こえる。

羽音も近寄って来る・・・上空からも狙われているようだ。


各種支援魔法は使っているが、魔力の使いすぎで 走るのも辛い。


振り向いて撃退しようとした瞬間 風が一閃され、追っていた虫たちは切り刻まれていた。

精霊樹が消えた事で 強い魔法を使うことに躊躇いが無くなったピアと その守護精霊が、鬱憤を晴らすように打ち落としてくれた。その攻撃は苛烈となっていく。

次々と炎以外の各種魔法が放たれ 飛行する虫も一撃で切断されていった。


だが、ハルカの真後ろに居た2匹だけは魔法を逃れて生き残り 今にも追いつかれそうだ。


ヒイィィィッ、ハルカは恐怖でパニックとなり心の中で女性のように悲鳴を上げる。


何とか迎撃しようと振り返ったハルカだが 巨大な芋虫を間近で見たため萎縮し、魔法のタイミングを完全に外してしまう。


虫に食われて死ぬ・・と

最悪な死を覚悟したハルカの前に 盾を構えたラカントが割り込んでくれた。

ドゴォッ、と 虫がぶつかるとは思えない激突をして 進行は止められている。

ギリギリではあったが 虫のキバが ハルカに届く事は無かった。


「はっはは、やっと おい達、仕事らしい仕事ができたぞー」


「ラカント、てめえだけ ずるいぞ」


足がワラワラとラカントの盾を巻き込み 乗り越えようともがく。

結果として固定されている虫を コルベルトが横から切り伏せた。


残りの1匹は ミルチルが鈍足の魔法で足止めをしていたらしい。

それぞれの役目を阿吽(あうん)の呼吸で行う彼らのチームプレイは さすが冒険者である。


ホッ、と気が抜けてへたり込みそうなハルカ・・・


だが、突然 そいつらはやって来た。



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