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31、精霊樹

領主館での騒ぎから5日たった。


その間、フェルムスティアの都は何時もと変わらぬ平和な日々が続いている。


そんな中 冒険者ギルドマスターの執務室を訪れていたのは、疲れた顔をした 領主の嫡男シーナレストであった。



「この様な場所にお越しとは、いかがなされました。 シーナレスト様」


「 忙しい所 すまないな。今日は人探しの依頼をしたくて来た」


「人探し?ですか」


「ああ、俺も配下の者達と探し回ったのだが 何故か見つからん。場合によっては都から出ているかも知れん」


見ればシーナレスト達は 相当探し回ったようで疲れ果てているようだ。


「依頼を受けるのは やぶさかではありませんが 私に直接話を持ってきたという事は 訳有りの相手という事ですね」


「ああ このままでは妹が怒って口も利いてくれん。探す相手は ハルカという少女だ」


「えっ、ハルカさん・・ですか」


「知っているのか?」


「ええ、まぁ 色々と有りまして 顔見知りではあります。

あの子の扱いは微妙でしてね、宜しければ 探す理由をお聞かせいただけますか?。場合によっては依頼をお断りしなくてはなりません」


「次期領主の依頼を断るほど重大な問題と言うわけか・・

やはり それほどの相手だったのか」


シーナレストは内密にという前提で 先日の館での出来事を語った。


話を聞いていたフェレットは 氷のポーカーフェイスが崩壊し 口を開いたまま顔面蒼白になっている。


「よ、よくご無事でいられましたね・・」


「あぁ、自分もそう思うよ」


実際に死んだのは首謀者だけで 騎士達は何とか回復したのだ。


地獄の苦しみから解放された騎士達は ハルカを恐れて捜索に参加するのを渋っていたが 顔を知る者は彼らだけだ。見つけるだけで良いという条件で 何とか折れてくれた。


「知り合いなら あの子の事を聞かせてくれないか」


「それは・・。 話せる情報だけですが 宜しいですか?」


「ふっ、話せない程の事まで有るのか。それで良い 頼むよ」


シーナレストも フェレットの人間性はよく知っている。

そんな彼が慌てふためき色々と感情を表に出している事に改めて驚く。


あの少女に対して どう関わるかは今後の自分にとっての大きな課題となりそうだ。

様々な人から次期領主としての自分の裁量を試されているような気さえする。



「そうですね・・何から話しましょうか。私から見たあの子の性格ですが 優しくて自由な心の持ち主ですよ。強大な魔法の力が有っても 自分の我が侭や 欲望でそれを他者に対して使うことは ほぼ無いでしょう」


「そうか・・それだけでも朗報と言えるかな。

確かに その通りなのだろう。あの妹に気に入られているくらいだからな」


「そうですか。しかし 逆に言えば 怒らせると躊躇い無く力を使います。その辺は身に染みていると思いますが お聞きした話の時も 恐らくあの子は本気で戦う気は無かったのでしょう。

今 修復中のギルドの建物が 上級の精霊に破壊されたのはご存知でしょうか?」


「?・・。ああ、聞いている。例の男爵関連だそうだな」


「えぇ・・大損害です。しかし あれでも ある意味 運が良かったのです。精霊が手を引いてくれたのは たまたま その時に来たハルカさんと 魔法を打ち合って負けたからです。あの子が居なければ ギルドが全壊しただけでは収まらなかったでしょう。

あれほど見事な魔法の攻防を見たのは初めてです」


フェレットはシーナレストの実直な性格を知っているが 事が事だけに 彼がハルカに対してどの様な対応を見せるのか見極めなくては成らなかった。

もし判断を誤れば都そのものが消滅する可能性さえ有る。


「凄いとは思っていたが、そこまでか・・。あの時、自分たちは相手にもされていなかったんだな」


「というか 助けられましたね。ギルドを破壊した精霊ですが 今はハルカさんの友達らしいですよ。あの子を守っているようですね。あの精霊には人間の都合は関係ありません。ハルカさんが抑えていなければ 領主の館は崩壊していたでしょう」


「は?精霊が友達、聞いた事も無いぞ。守護してるなら契約じゃないのか?」


「私も直接 精霊から聞かなかったら信じなかったですね。勿論 他にそのような話は聞いたことは有りませんし 初めての事例で間違いありませんね。その意味する所を御理解いただきたい」


「直接聞いたのか・・さすがだな。言いふらすな、だろ。話せる訳が無い。

こんな話が広がったら 欲を出して勧誘に出向いた貴族が皆 滅びてしまうからな」


「この町の貴族様が滅びなくて良かったですよ」


「それにしても、こんな とんでもない情報なのに まだ話せる範疇なのか?。恐ろしいな」


「あの子との約束でしてね。私とて人の親ですから 命は惜しいのです」


「そうだな。妖精との約束は守らないと危ないな」


「そういう事です。ご理解いただけて助かります」


何気に 軍隊蜂の件をほのめかすシーナレストに 嬉しそうに応対するフェレットだった。





あれこれ噂をされている当のハルカは この時 フェルムスティアの都から出ていた。

探しても居る訳が無かったのだ。


ただし他の町に行く為に都を出た訳ではない。ピアに頼まれた事が有るからだ。


「しかし、サイレントボアの売値が あんなに高かったなんて初めてだぜ。

ありがとうな、ハルカちゃん」


「いい、今回タダで案内してくれる。・・助かるよ」


「案内くらいまかせて。しばらくは依頼を受けなくてもいい位 もらったんだから」


ハルカはコルベルトたち3人に渡す物が有る事を思い出し ギルドに出向いた。

丁度 依頼を探していた彼らと出会い 先日の巨大なイノシシ?サイレントボアを渡す事にした。


討伐依頼も出ていた事からギルドを通して売却する事になったのだが 損傷の無い毛皮と新鮮な肉は思いのほか高く、彼ら3人にとっては 数ヶ月分の依頼を達成したくらいの収入となった。本来は多くのメンバーで狩る相手なので当然の金額ではある。


あまりの金額に 半分返そうとする彼らに対して、ハルカはとある依頼をすることにした。



ハルカたちが向かっているのは ピアのタマゴが眠っていたとされる精霊樹だ。


コルベルトたちにとっては(いわ)くの有る場所であり苦い思い出の場所。

見方を変えればハルカと出会うきっかけの一つとも言える。


コルベルト達3人の仕事は精霊樹までの案内と護衛のはずだった。


出てくる魔物も獣も ハルカが瞬殺するので護衛としては立場が無い。


「俺達 必要無くね?」とさえ考えてしまう。



だが、ハルカにとって彼らの存在はとてつもなく心強い。

コルベルト達の話では 精霊樹には巨大な虫の魔物がウヨウヨしているからだ。


上位の精霊も守護しているので恐れる必要など無いのだが 気持ちの問題なのだ。

そんな子供らしい面を見せたて泣きついたハルカに彼らは喜んで協力してくれた。



そして、彼らが喜んで付いて来たのには もう一つ理由が有った。


出発する前にハルカが作っておいたクリームシチューが昼食として目の前に有る。


「確かに、焦げてない方が美味いな。たまらねぇぜ」


「ああーっ・・これが食べれるなら 毎回タダでも良いくらいだわ」


「うむうむ」


相変わらずの食いっぷりである。


不思議な事にこの世界には地球の野菜と似たものが色々と売られていた。

ただし、デカイ。

ジャガイモが人の頭ほどもある。タマネギに至っては車のタイヤほどもある。

当然 それらは切り分けて販売されていた。

おかげで 前回食べた時も 今も彼らが具材に関して不思議に思うことが無かった。


彼らに案内を頼んだのは正解だった。

いずれ精霊王になるピアも 守護している上位精霊も木の場所は知っている。

ただし、直線距離のコース取りなので 人が歩く道を無視しているのだ。

ハルカとノロだけで来ていたら途方に暮れていただろう。

身体強化などの魔法を掛けながら走ってきたので 一行は日が落ちる前には精霊樹の元へ到着することが出来た。




「大きい・・」


当初 ハルカは精霊樹をサラスティア王国で見た聖樹のイメージとダブらせていた。


だが実際は比べるまでも無く存在としての格が違った。


精霊樹は物語にある 世界樹を髣髴とさせる巨木であった。






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