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26、あと・・宜しく

「精霊・・来い」


『気ガ抜ケル呼ビ方デアルナ・・』


「なっ、!」


ハルカはピアを守っている上位の守護精霊を呼び出した。


わざわざ声に出して呼んだのは フェレットに気を使ったからだ。


「ハルカさん・・精霊と、契約されたのですか・・」


それでも かなり驚いていたようだが。


この反応は当然で 一時は敵対してギルドを破壊し 都を滅ぼすとまで言っていた危険な存在だ。


『違ウナ。我とハルカ ハ友ダ。我ゴトキデハ ハルカ ト契約スルニハ力不足ユエ』


「・・・・」


目の前の現実に荒くれ者を従える立場のギルドマスターが言葉を無くした。

それもそのはず 精霊と契約した人間そのものが大昔の記録に記載が有るだけ。

もはや古文書の中に書かれてある伝説レベルの話である。

それほど精霊は人との接点を持たない。


そんな精霊が自らを・ハルカに釣り合わないほど下だ・と認めたのだ。

契約では無く精霊を従えている事を意味する。

もっとも、実際には 精霊王のピアに従っているのだが些細な違いでしか無い。



『フムフム、ソノ程度ナラ構ワヌゾ。任セテモラオウ』


「ん、・・たのんだ」


ハルカは精霊を見て何も言葉を言わない。

だが どう見ても平然と言葉を使わずに意思疎通しているように見える。

二者だけが別世界に存在しているかのようだ。


打ち合わせが終わったのか精霊は姿を消し そして ハルカが杖をかざす。


何も起こらない。

しかし 何かが起こっている。


後にフェレットは語る。「一生ぶんの夢を見た」と。




ヴーーーーーー


「来たにゃ。すごい数にゃ」


「こ、これほどとは・・」


それは 日の出近くの紫色の空に 黒いハンカチを置いたかのように見えた。


まだ かなり距離が有るにも関わらず 巨大なスピーカーから聞こえるノイズのような不快な音が聞こえてくる。


見る見る ハンカチだったものが 空に掛かるカーテンのような大きさとなり

大音量を伴って押し寄せて来る。

羽音なのに重低音のそれは物理的にも肌を震わせていた。


死のカーテンを見上げた者は 魂から湧き上がる恐怖で体の動きを止め もはや抵抗など無意味な事を思い知らされる。

都から逃げ出そうと門から出ていた人々も 既に言葉も無く呆然と立ち尽くし 自分達の死を迎えようとしている。


そんな死神の食卓でハルカは自らの強い思いを実現すべく魔力を集めていた。

膨大な魔力が杖を持つハルカを通して溢れ出し そんな魔力の流れにシンクロする姿は まるで夜空に流れるオーロラのように実体を感じさせない。

まして髪の毛はフワフワとユラめいて扇のように広がり小さなフラッシュを散りばめたようにキラキラと輝きだす。

ふと見ればハルカの周りを小さな幼女が楽しそうにはしゃぎながら踊っている。


そんな幻想的な光景に 何度もハルカの魔法を見ているノロですら離れた場所から見ている。飲み込まれると錯覚するほどの巨大な魔力の流れに恐怖したのだ。



巨大な山のごとく大群となって押し寄せてきた軍隊蜂は とうとう湖を渡ろうとしている。


あと数分で 都は蜂に飲み込まれるだろう。



そして 魔力は解き放たれる。




「フレイム・トルネード・・」 ぼそっ


それは 特に珍しい魔法では無かった。

少し腕に覚えが有る魔法使いなら使う 中級の魔法と言って良いものだった。


だが、次の瞬間 全ての人々の目の前が白くなった。

魔物を全て飲み込む広大な範囲で 一瞬にして巨大な爆発が起こり、舞い上がった炎は そのまま巨大な竜巻となって湖の上に炎の柱を作り出す。

アメリカの巨大な竜巻が炎で出来ているイメージだ。


何故か門の外で見ている都の人々に熱が届く事は無く 線を引いたように一切の炎が流入しなかった。

炎のすごさに目を奪われ 誰一人として気が付かなかったが この時に湖の水は半分以上無くなっていた。


ハルカは電気分解などではなく 魔力を使った強引な力技で 湖の水を分解させた。

使われた膨大な魔力の殆どは 水を酸素と水素に分解する為に使われていた。

軍隊蜂が湖に到達した時点で範囲一帯には水素ガスが充満する火葬場だったのだ。


精霊たちには空気の流れをコントロールして それを密閉させる事を依頼した。

発火の為に使われたハルカの魔法は小さな炎の竜巻。

それが着火点となり さらに気体が爆発した時の膨大な炎を巻き込んで成長して 巨大な灼熱の竜巻に成長したのである。

結果として・・・

時間にして一分にも満たない高温の炎は 全ての軍隊蜂を壊滅させたのだった。



「ふふん・・あと・・宜しく」


そう言い終えると ハルカはコンニャクのように力無くその場に崩れ落ちた。

すると 間髪入れず 寄り添うように守護精霊が姿を見せている。


『我ラガ王ノ宿主ハ 予想以上ノ存在デアルナ・・』


この戦いでハルカは急激な魔力の成長を遂げていた。

ゲーム的に言えば レベルが数十段飛ばしで駆け上がったことになる。


そして、それは同時にハルカに下宿しているピアの成長でもあった。

ピアは数千年かけてとげるはずの成長過程を たった一日で進んだ事に成る。


ピアをハルカに託した守護精霊の思惑は 予想の斜め上を行く大成功になっていた。




『近寄ルナ 人間。何者モ ハルカ ニ近寄ル事ハ許サン』


「ここは寒い。まして石の上です。ハルカさんが体を壊してしまいますよ」


『・・ダガ、我ハ守護ヲ任サレタ。約束ハ守ル』


「我々がこの都を守ってくれた大恩人を害するなど有りえません。

信用出来ないなら私に取り付くと良いでしょう。何か有った時 一瞬で殺せますよ」




『フム、面白イ提案ダ。ダガ 不便ダゾ 良イノカ?』


「勿論です。私の力ではこの子を守りきれません。一体化と言っても、永遠にという訳でもありませんしね」


ギルドマスターのフェレットが提案したのは 自身の体のコントロールを半分他者に空け渡すという意味だ。

相手が強い力を持つ存在なら 生殺与奪の権利を与えるのと同じになる。

本来なら責任ある立場の彼が提案して良い事ではない。


「都は今 大混乱にゃ。一番安全な方法かも知れんにゃ」




危険が去った合図の鐘が高らかに鳴り響いている。

予定では 最低でも二日は地下に避難しなくては危ないはずだった。


避難解除の鐘が鳴るという事は 有り得ない速さで 未曾有の災が過ぎ去った事を示す。だが 早すぎる。

事情を知る者ほど混乱し 慎重になったため 地下から出てくるのを躊躇っていた。



地下に避難した人々の中で いち早く地下から飛び出して来たのは フルベーユ商会のお嬢さまフレネットだ。そして彼女はすこぶる機嫌が悪い。


彼女が地下に入ったのは 夜と朝の狭間のような時間。

急に両親に起こされて 地下に避難させられた。


地下に入って気が付いた 「ハルカがいない」と。

勿論 客であるハルカも避難させるべく使用人が部屋まで呼びに行った。

しかし 部屋には誰も居らず 屋敷の中にも居なかった。

服も無い事から外に出たと思われた。


捜索すべきかの判断に迫られたが、結局 探さずに地下の扉は閉ざされた。

地下で泣いてゴネまくった 8歳のお嬢さまは 扉が開かれると同時に飛び出した。

影の如く 侍女のフィルファナもそれに付き従う。


窓から見た外の景色は 慌しいが 何時もと変らぬフェルムスティアの町並みだった。

話に聞いていた災害は実はウソだったのでは と思うのも無理も無い事である。


結局 この日は 「外出は危険である」として一切許されず フレネットは暗くなるまで窓から外を見ていた。



そんな幼女?に心配をかけた 罪作りなハルカは ギルドマスターのフェレットに抱きかかえられて城壁から降りてきた所だった。


外に避難しようとした馬車や荷車などが 次々引き返してきた為、門の近くは大混雑になっている。

そのため 城壁と内壁との間を歩いて通用口から街中に入る事となった。



徹夜の寝不足な頭で フェレットは報告書をどうすべきか考えていた。

目撃者も多数いるため、炎で蜂が全滅したのは誤魔化しようがない。


真実とは言え 信じ難い話なので・・・・言い難い。

真実を伝えたとしても それが受け入れられれば 今度はハルカの実力も伝えねばならなくなる。


それ以前に 見たことを誰にも言わないと約束した手前、どうやって始末をつけるか苦悩する事となる。



彼が悩みながら歩いて行くと 平時は誰も立ち入れない場所なのに人が居た。

フェレットは 一気に緊張する。

そこに居たのは 騒ぎの張本人 マルモルン男爵だった。


いまだに都に潜んで居たのにも驚くが 堂々と姿を見せた事にも不気味さがある。




「探しましたよ。勿論、その子供だけですがね。ひっひっひ」


「よくも 顔が出せたものです。

都に災害を呼び寄せた罪で極刑にしてさしあげましょう」


「人間ふぜいが 私とタメ口をたたこうなど 思い上がってはいけません。

もっとも 同じ人間でも その子供なら下僕にするだけの価値は有るのですがね」


「ほぅ・・貴方は人間では無い・・と?」


「この気配は魔族にゃ。何度か関わった事がある、間違い無いにゃ」


「畜生の分際で我等を呼び捨てとは・・・敬って魔族様と呼びなさい。我は魔界でも男爵を賜っていた高貴な身分です。どうです、絶望していただけましたか?」


フェレットは内心 冷たい汗を掻いている。

それは 彼に取り付いている精霊も同じだった。

魔族の上位に入る存在は とてつもなく強い。



「ん?」


何時の間にか顕現していたピアが ニコニコと魔族に近寄る。


『ピッ、ピアサマァァァー』


守護していた精霊は飛び上がるほどに驚き そして焦った。



「何です・・この子供は・・。くほぁぁぁぁぁぁ!」



しかし、ピアがの魔族の体に触れると 奇妙な声を出して倒れてしまった。


マルモルン男爵だった姿は崩れ 魔族らしい姿に変る。


それも 次第に崩れて男の衣類だけが残されている。



「美味しくない・・ハルカ早く元気になって」


魔族は精霊王ピアに魔力を吸い尽く(ドレイン)されて死んでしまった。


ピアは急激なレベルアップ?を 達成した後なので魔力を欲していた。

要するにハラペコだったが 今のハルカから魔力をもらう訳にもいかず飢えていた。


そんな時、目の前に魔力が豊富な存在が出てきたので、何時ものように吸い取った。

ところが 多いと思った相手の魔力は微々たるものであり、しかも不味かった。


ピアは ハルカ以外の相手から魔力を吸い取っても美味しくない事を学んだ。

大変に大事な事を 被害者も出さずに学べたのは幸運だったと言えよう。


ピアはまだ 生まれて二日目でしかない。

だが、すでに並みの魔族では太刀打ちできないほど 強く成長していたのだった。



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