表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/119

25、日が昇るころ・・来るよ

フレネットとの夕食は 彼女の母親を含めた3人だった。

父親が急な呼び出しを受けて出かけたためだ。


「ハルカさん、フレネットを助けてくれて 本当にありがとう」


「ん・・たまたま」


「もぅ 照れなくていいのに。ハルカってね 凄かったのよ。恐い魔法の中に入ってきて消してくれたの」


「ステキねぇ。女の子なのに勇気が有るのね」


「う・・」


「ぷっ、くすくす。お母さま ハルカは 男の子なのよ。私も気が付かなかったけど」


「まさか、そんな・・。私が知る中で一番かわいいですわよ」


「えーっ。お母さま 私よりもですか」


「貴方は特別です。誰にも負けません」


キャッキャ、ウフフ で済んでいたのはココまでだった。

ハルカが男子だと知った母親の食いつきはもの凄い。

質問の嵐に またもやハルカは疲れ果ててしまう。


助けてくれたのは以外にも侍女のフィルファナであった。

彼女が風呂場での石鹸の話をすると 母親は食事もそこそこに急いで風呂に行ってしまった。旺盛な好奇心と行動力・・・フレネットは母親似なのかも知れない。


「ハルカ様、貸し 一つですわ」


最強の魔王はハルカに契約書を突きつけた。

今まで生きてこれ程 身の危険を感じた事は無い。




*************




そのころ 冒険者ギルドでは・・・


「えっと、ハルカちゃんを探す、ですか?」


「そうです。冒険者ギルドの 特命依頼だと思ってください」


コルベルトたち 冒険者3人は、またもやギルドマスターの部屋に呼ばれていた。

正直言えば 入りたくないが さすがに拒否権は無い。

戦々恐々として部屋に入り 緊迫した空気の中で用件を聞いてみれば以外にも子供の捜索だった。


特命依頼となれば 貢献度は数段高いと見て良い。冒険者として美味しい話だ。

ただし、言外に「楽には行かない」と言う意味がふくまれている。油断は出来ない。


「皆さんを指名した理由は簡単です。あの子の顔も知っていますし 多少は気心も知れています。彼女も警戒はしないでしょう。連れて来いとは言いません。最低でも居場所を確認して知らせてください」


「どうして あの子を・・とは聞くな、ですか?。正直 依頼の意味が分からない」


「そうですね 疑念ももっともです。ただ これだけは言っておきましょう。

この依頼が今回 最も重要で大切な意味があります」


「分かりましたよ。その言葉で やる気も出ると言うものだ。では」


今の都は混沌としていた。情報が広がるごとに騒がしくなり 他の冒険者たちは 警備や誘導など混乱を沈める役目で駆り出されていた。

コルベルト達も その覚悟でいたのだが 全く別の用件でわざわざ呼び出され しかもそれが特命依頼ときた。

理屈では無く冒険者としてのプライドが仕事内容を受け入れる事を拒んでいた。

最後の言葉を聞くまでは 内心で「そんな事の為に呼び出したのか」と怒りさえ湧いていたのだ。

観念した3人は「自分達ではうかがい知れない特命なのだ」と気持ちに折り合いを付けて ハルカを探すべく夜の都に駆け出して行った。


そんな彼らが この仕事こそが最もキツイ役目だと思い知るのは もう少し後になる。

広い都でたった一人を子供を探す事がいかに大変か・・・。

しかも 件のハルカは宿に泊まっていない。


彼らは一晩中走り回る事となる。乙



******************




チクッ☆ チクッ☆


「んーー・・・」


チクッ☆ チクッ☆ チクッ☆ チクッ☆


「ノロ、うるさい。・・ねむい」


『ハルカ、死ニタクナケレバ目ヲ覚マセ』


それは 精霊が頭の中に直接伝える声。

むりやり重い瞼を開いてみても真っ暗な世界。


どう見ても まだ真夜中なのは間違いない。


それをあえて叩き起こされたのだ ただ事ではない。



『アト少シデ、闇ガ薄クナル。他ノ精霊ガ 危険ナ動キヲ(とら)エテ警告シテキタ。コノ都ハ危ナイ』


「外の音が真夜中なのに(あわただ)しいにゃ。何かが起こってるにゃ」


「分かっ・・た・・・・見に行くよ」


魔法の光で部屋を照らすと近くには洗濯されたハルカの服が畳んで置いてあった。


それは黒いフリフリのドレスのままだ。


都に来たのだから一番に男子の服が欲しかったのに ゴタゴタ続きで未だにドレスを着なくてはならない。


お金も有れば 生地すら持っているのに 思いを叶える魔法が使えても世の中は(まま)ならないものである。




騒ぎになるのも面倒なので窓から外を確認し 直接外に転移する。


異様な雰囲気を感じる。

子供のハルカが真夜中に出歩いていて悪意ある犯罪者の視線を一つも感じない。

だからこそ尚更不気味なのだ。

昨日いきなり誘拐された前科が有るため油断せず体表には不可視の結界をほどこす。


大通りまで歩いて行くと 深夜なのに 通りには馬車や荷車が並んでいる。

城壁の門は夜間は閉じているはずだから当然と言えば当然なのだが。

焦ってイライラしているのは明らかで 門を開けろと暴動でも起きそうな雰囲気だ。

それが無いのは 『素人が夜間に移動するのは自殺行為だ』と皆が知っているからで しぶしぶ我慢して待っているだけだった。



「あっ・・屋台のオッチャン・・」


「ん?。なんだ 昼の嬢ちゃんか。どうした 1人なのか。一緒に逃げようか?」


「何故・・逃げるの?」


「ひでえな、教えてもらってねぇのかよ。明るくなったらこの都に軍隊蜂が大群で来るらしいぜ。俺も屋台は一たん隠して逃げる事にしたんだ」


「分かった。・・ありがとう。また食べに行く」


「ああ、きっとだぞ。約束したからな。生き残れよ」


「ん・・」



これでようやく騒ぎの原因が分かった。

軍隊蜂の事は都に入る前にノロに教えてもらっていたので理解が早い。

あの時と同じ玉が使われたのだろう。

数万の巨大な蜂が襲って来るなど ホラー映画みたいだ。

物語りとしてならファンタジーなのだろうが現実になればそんな物なのだろう。


色々と考えながら歩いていると 横を誰かが歩いている。

ハルカ発見の報告を受けて ギルドマスターが直接駆けつけていた。

少しゼーゼー息切れしている。


「何故・・付いてくる」


「さて 何の事でしょう・・・私は都を見守る役目もあるのです。視察ですよ」


ハルカの警戒対象の五指に入る要注意人物である。

近くに来ないでほしい。



夜の都は 本来歩くのも危険な暗闇になる。

今は人々が不安を和らげる為に 彼方此方(あちこち)で明かりが燈され、かろうじて足元が確認出切る位は視界がきく。


そんな中、黒髪で黒いドレスを纏ったハルカは目立たないはずなのだが 彼女?の周りを薄っすらと明かりが取り巻き 歩く姿は幻想的ですらあった。

ハルカからこぼれ出る魔力と周辺から引き寄せられる魔力が重なり結界が発光しているのだ。ハルカが無意識の内に精神を研ぎ澄ませている姿だった。


(この子は本当に人間なのだろうか・・)

ギルドマスターがそう思うのも不思議では無いだろう。

堅物のキャリア人間にすら妖精と思わせるハルカは その短いコンパスでひたすら歩いていた。



「ちなみに 仕事なので聞きますが、ハルカさんはどちらに行かれるのですか?」


「見物に・・いく」


ハルカが指差す先は 薄っすらと闇が溶け始めた空を切り裂く 城壁のシルエットだった。


「なるほど、城壁の上ですか。でも あそこは許可が無くては上がれないのですよ」


「問題・・ない」


「!」


城壁の上に上がってみたいと言うハルカの子供らしい姿に ホッと気の休まる彼だったが、次の瞬間 ハルカが消えた事でガラにも無くうろたえてしまう。

何の前触れもなく転移するなど それこそ 妖精かゴースト系の魔物以外に知らなかった。


ハルカが城壁の上に降り立つと 薄っすらと空が白んで来た。


見下ろせば 都の隣に有る大きな湖が広がっている。


まだ名前も知らない湖。


「今度 天気の良い日にノロとハイキングにでも行こうか」


「ハイキングとは何にゃ」


「きっと 楽しい事?」


ギギィィィィ☆

ワイワイ、ガヤガヤと下が騒がしい・・

門が開かれたのか ワラワラと人々が街道に出ようとしている。

皮肉な事に 精霊が蜂の襲来を伝えているのは この湖の方角なのである。

人々は蜂にとってカモネギと言える格好の獲物になった。

その中には あの屋台のオッチャンも含まれている。


万を超えると言われる軍隊蜂の襲撃は一国の軍隊が迎撃しようとも止める事は出来ない。唯一有効なのは強力な範囲魔法による殲滅であろう。

とはいえ、いくら魔法が超常の力と言っても 空に広がる数万の相手をどうにかできる訳ではない。


普通なら・・



「はあ、はあ・・ひい、はあ・・」


「何故ここに?・・死ぬよ」


運動不足のギルドマスターは 蜂に襲われる前に走った事で死にそうだ。



「どうして逃げない。日が昇るころ・・来るよ」


「この・・都は、ハア、ハア、私の両親が命をかけて守った場所なんですよ。

・・その最後を見届けるのも悪くはありません」


走っただけで息が上がっている姿に 日本での自分の姿が見えて可笑しくなる。


「オッチャン・・苦労人だね」


「うっ・・オッチャン呼びは止めてくれませんか」


苦労人のギルドマスター、目の前の男に日本のサラリーマンがダブって見えた。

そうだった・・こんな苦労人たちにあの国は支えられていた。

その中で自分は楽しく生きさせてもらった。



「私の名前はフェレットと言います。短い時間ですがお見知り置きください」


「フェレット・・・・・・・かわいい」


「はぁ、ですから名乗りたくないんですよね」


この世界でもフェレットというのはカワイイ名前らしい。

もっとも ハルカが思い描くそれとは違うのだが。

ハルカの女顔と同じようにフェレットも変な苦労をしていたようだ。



「フェレットさん。秘密を口外しない自信はありますか?」


「えっ!、ハルカ・さん?」


「あぁ 魔法を使うと少しの間だけ普通に話せるんだ」


「なんか、違和感が凄いですね」


「時間が無いから聞くけど。貴方は見たことを絶対に他言しないと誓えますか?。

答えによっては自分ひとり転移して逃げるよ。その方が楽だし」


「あっ・・。私は もし都が守れるなら この場から飛び降りて死ぬ事も致しましょう。秘密を守る事で済むのなら私を消して下さってもかまいません」


子供姿のハルカに対して一切の見下しも偏見も無く 一人の人として話すフェレットは つまらない格式に拘らない人物らしい。

そして 彼は ハルカならもしかして、という期待をもって遠まわしに説得している。


鋭利なエリートサラリーマンに見える彼がそんな言葉を使うと 必死に女を口説いているようだ。



「了解・・した。魔法の後は倒れる。けど 心配しないで」



それだけ言い終えるとハルカは杖を取り出した。

ノロ ことサラスティア王国皇太后 ロスティアから貰った派手な杖だ。

子供のハルカには重いので普段は持ち歩かない。



「!。金の翼のレリーフに大きな紅玉の核を持つ赤い杖・・・。

まさか、サラスティア王国の国宝」


フェレットが杖の解説をしてくれた。なんと国宝だったらしい。

ロスティアさんや・・・・。

とりあえず ハルカも「まぁいいか」と流す事にした。




美しい杖を持ち湖を見詰める魔法少女なハルカ。


この時、フェレットは 自身のカンが捨てたものでは無い事を思い知る。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ