表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/119

20、とうとう、とうとう、とうとう

とうとう20話です。見に来てくださる皆さんありがとー。

もう少しでフェルムスティアの街にたどり付ける。


もう既に城壁もハッキリと視界に入っている。


だが、その行く手には大型のワゴン車ほども有る巨大な獣が居る。


ゆったりと動き出すそれはサイレントボア。

分類としては巨大なイノシシ。猪ではあるが見た目は少し可愛い。

カピバラを重厚にしてキバを付けたような見た目だ。


しかし その習性は恐ろしく、油断していると音も無く近づいて いきなり攻撃する。人間程度なら突進されて一撃で命を落とす。雑食なので人間も気にせず食べる。


今も街道沿いの森から音も無く出てきたのだ。

タイミングが悪ければ その時点で終わりだった。



「おいおい・・せっかく生き延びて来たんだ、勘弁してくれよな」


「おいの盾では無理だ、押さえきれねぇ」


「エンズイギリ・・」 ぼそっ


大人たちが命の危険にどうすべきか悩んでアタフタする中、ハルカは相手を指さし一言で魔法を発動してしまった。その速さに魔法職のミルチルは驚愕する。

そもそもハルカの魔法は名前すら言わずに発動が出来る。

だが、人数が居るときは名前だけでも言った方が安全だとノロに言われていたのだ。

またパーティで狩りをする場合声を出して知らせなければ魔法の手柄だと思われず、何もしていなかったと誤解される可能性も有るので必要な事でもある。

巨大で凶悪だが魔物ではなく獣で一般的な生物の構造をしている。

ハルカの得意な魔法にとっては正に鴨葱(かもねぎ)である。


ビクッ・・ヨロヨロ   ズズーーン


「「「えっ!」」」


頭と体を繋ぐ神経組織を切断されたサイレントボアは ヨロヨロと突進してきたが、力尽きて転がるように横に倒れていった。


ハルカにとっては 道中で何度も戦った相手であり 倒す事は既に手間でしかない。



「ブタうざい。早く街に・・行きたい」


「いや・・うざいで済む相手じゃ無いんだがな・・」


「こんな街の近くで出るなんて 今頃 ギルドの討伐依頼に出てるかも知れないよ」


「じゃあ、これは3人にあげる。・・だから急ごう」


はしゃぐ姿は子供そのものなのに 3人の冒険者は背中に冷たい汗を流していた。


アレを討伐しようとするなら ベテランが2チーム以上で請け負う命がけの仕事だ。多くの人間で けん制しながら足を狙って弱らせ 苦労してやっと倒すだろう。


魔法を使うにしても 直接内部を破壊するなど考えられず、効果が見込める頼みの炎魔法も毛皮がダメになるため使えない。

利益を無視するなら別だが あのクラスの大物相手では 魔法はかく乱などの支援程度にしか使えずあまり役に立たない事の方が多い。



「こんな大きいのが一撃・・って なぁ」


「ハルカちゃん・・凄すぎだよー」


「しかし、どうしたものかな・・。くれるのは嬉しいが運べねぇぞ。

毛皮とキバと魔石だけでも良い値段になるが、肉もおしいしなぁ」


「じゃあ・・運んであげる。・・でも・・」


ハルカは死んだ魔物に恐る恐る近寄っていく。


3人が不思議な顔で見ていると 手をかざすだけで巨大な魔物は消えてしまった。


皆が驚く中、ハルカは脱兎の如くその場から逃げた。


その場に残された大きなノミに飛びつかれ、ミルチルが悲鳴を上げたのはお約束。




危機を回避した一行が さらに進むと その先は広大な穀倉地帯が広がっている。

ここまで来ると安全なのか農作業している人がポツポツと見えていた。

街の右手には大きな湖が広がっていて美しい景観を作り出している。


「良い所・・キレイだし」


「でしょう。私たちの拠点の街なのよー。ようこそ、ハルカちゃん。歓迎するわ」


ハルカの反応にノロは複雑な顔をしていた。

もっとも、ネコなので誰も気が付かなかったが。


穀物地帯を走り抜ける。

チラチラ見えている穀物はムギとも米とも違う形で丸くて粒が大きい。

用水路が細かく張り巡らされ湖の恩恵を受けている。

食べ物に困ることは無さそうだ。


とうとう、とうとう、とうとう、人里にたどり着いた。

二度と歩いて旅などしたくない。


もともとハルカは面倒事が嫌いだ。

勢いでサラスティアから旅立ったが、もし城下町でのんびりしていたら動かなかったかも知れない。大きな運命の流れはここフェルムスティアに向いていたのだ。


とりあえず 旅に疲れたハルカは当分はここに落ち着くことを決めていた。


入り口の門では 定番の検問が行われていた。

通行する人々は何やら身分証となる物を提示している。


ハルカも一応は身分証となるプレートは持っている。

ただし サラスティア王家の紋章入りなのでこの場では使わない方が無難である。

どうやら色々な思惑が入っている身分証のようだ。



「よお、コルベルト。無事に戻れたか」


「あぁ、何とかな。色々有って疲れたぜ」


門番とは顔見知りらしく気さくに話をしているが 手続きは手早く成されていた。

一人が直接検問し 他の門番の1人が全体を警戒して気を張っている。

順番に担当を変えて神経を休めているのだろう。


「このお嬢さんはどうした。子守の依頼でも引き受けたのか」


「助けられた・・」


そう言いながらミルチルの足元にすがり付くハルカ。


どうやら、普通の子供を演じる気らしい。


コルベルトたち3人は複雑な心境で苦笑いしている。



「街道を歩いていたんでな、帰り道だし連れてきたんだ」


「なるほど、お嬢ちゃん お父さんとお母さんは この町に居るのかい?」


「もう・・居ない」


(・・・・)


馬車で移動するような身なりの良い子供が1人で歩いていた。親はもう居ない。

門番はそれだけで ある程度の事情を飲んでくれた。

この世界では少なくない事なのだろう。


「ふむ、分かった。子供だし良いだろう。後の事は中で処理してくれ」


「すまんな、助かるよ」


どうやらコルベルトたち3人と出会えたのは幸運だったようだ。

ハルカ1人なら確実に色々と聞かれて大変に面倒だっただろう。


門から入ると20メートルほど離れてもう一枚壁があった。

戦いが有った時、城壁と内壁のこの空間が大切な役目を果たす。

兵の移動、物資の移動、休憩に救護所など無くては成らない空間である。

隣りとは距離が有るとはいえ この都が国境に一番近い重要な拠点なのだった。


中の門にも衛兵が立って 街から出る人や物資のチェックをしていた。

なかなかに合理的な考えの国らしい。

そして、中の門を抜けると景色は一変する。


表通りにはシャレた家々が立ち並び、進むほどに色々な商店が増えてくる。

勿論 日本のそれとは違うのだが 個々の商店が活気を持ち 活き活きしている。


さらに進んでいくと バスケのコートが三面は取れる広さの広場があり、中央の木の周りには休憩用のベンチと様々な屋台、少し離れて露天の売り場なども有り 賑やかで楽しい雰囲気を作っていた。


すっかり童心に返って 身も心も子供のハルカが一つの屋台に近づく。

長い串に様々な野菜と肉を交互に刺して焼いていく バーベキューのような食べ物が売られていた。

旅の食べ物に飽きて、シチューも失ったハルカがキラキラとした目で覗くと 店主も期待する。

上等な服を着ているおかげで 子供でも追い払われる事が無かった。



「1本・・欲しい」


「あいよ、500クローネだ」


ハルカは道中ノロからお金の事も聞いていたので無事に買い物が出来た。

ちなみに1本500円くらいと言えるが 肉も野菜も大きく子供では食べきれないボリュームがある。ハルカの知らない独特の香辛料と味付けで美味しい。

ベンチに座り 皿を取り出しノロにも分けて一緒に食べる。

すっかり意気の合った相棒になっている。


その様子を微笑ましく見ているコルベルト達だが のんびりもしていられない。


「ミルチルはこの子を案内してくれ。俺たちは先にギルドに行って報告と打ち合わせをして来る」


「わかったわ。食べたらすぐに追いかけるから。まかせといて」


子供のお腹だし 直ぐに食事は終わるだろうと思っていた。

確かに食べるのは早かった、が それで終わりでは無かった。


「おじさん・・もっと欲しい」


「おっ、うれしいね。じゃあ、はい。もう1本」


「ちがう、・・50本買う」


「「えっ?」」


これには屋台の店主もミルチルも驚く。


店主はハルカの目を見るが冗談では無いらしい。



「2万5千クローネになるが・・大丈夫かい?」


「勿論・・はい」


「おっしゃー。待ってな、大急ぎで焼くからな」


「楽しみ・・」


店主は大喜びで焼きだした。

夜まで売っても そこまで売れるか分からない量が一度に捌けたのだ。

今日は早めに店じまい出来るだろう。


ハルカの気に入った食べ物を(大人買いで)買い溜めする癖が出たのだ。


ノロもミルチルも呆気に取られて様子を見ていると、焼ける順番に10本づつ取り出した大皿に乗せてもらい 亜空間倉庫に仕舞っていく。

異様な光景なのだが 金持ちのお嬢さんが上等なアイテム袋を持っている程度に思われて誰も不思議に思われなかった。ハルカにとって色々と住みやすい世界なのだ。


「よし、これで50本だ。ありがとうな。また来てくれよ」


「ん♡。あのねこの肉・・なに?」


「おお、説明してなかったな、こいつはウサギの肉でな 安くて旨いのさ」


「おーー、あれが・・こんなに。すごいね」


「嬉しい事言ってくれるね。今度来たら大サービスするぜ」


「ん、楽しみ。じゃあ これあげる。使って・・」


どとん☆


「「!」」


ハルカが取り出したのは1匹丸ごとのウサギの肉。


道中 沢山倒して勝手に収納されていたうちの一つにすぎない。

自動車なみの大きさの肉がいきなり出てきたので店主が驚くのも当然である。


「こりゃあ 今とれたみたいに新鮮な肉じゃねえか・・いいのかい」


「美味しいの・・作って」


「おおっ、任されたぜ。今度来た時はタダで食べていきな」


その後 その屋台は早々と店じまいして肉の処理を始めた。

仕入れ用の魔法のカバンくらいは持っていたので バラせば何とか収納できる。

何日かは肉を仕入れなくても良くなったのだ。しかも この上なく新鮮だ。

店主はニヤケそうな顔を抑えるのに苦労した。



ミルチルは急いでハルカを広場から連れ出した。

モタモタしていると広場の屋台をコンプリートしそうだったからだ。


そのカンは正しかった。

後にハルカが全ての屋台から買占めしたのはこの都の語り草となっていく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ