表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/119

19、フェルムスティア

突然の出会いで知り合った冒険者3人組はただ今 絶賛食事中である。


彼らは朝に保存食を少し食べただけで仕事をこなし、その後 全力で逃げていたので水すら口に入れていなかった。

まるで 腹を空かせた欠食児童のようにガツガツと貪っている。


「うめえな・・このスープ」


「ああ、出先でこんなの食べれるなんて思わなかったぜ」


「色々入っててスープなのにお腹が満たされるわぁ」


彼らがスープ扱いしているのは ハルカが作った少しコゲたクリームシチューだ。

幸いコゲたのは底の方が少しだけなのだが、全体にコゲ臭さが付いて不愉快な味になってしまった。

そんな物を食べたくない現代人のハルカが捨てようとすると 猛烈な勢いで止められて今に至る。

現地調達の肉が食べられれば贅沢な彼らにとっては お金を払ってでも食べたい豪華料理なのだ。



「それで、何でこんな危険な事になっていたのにゃ」


「命を助けられたし 説明しない訳にもいかないか・・」


「本来なら仕事なんで詳しくは話せないんだが・・今思えば まともな依頼じゃなかったな」


「ああ、報酬も良すぎたしな・・」


「依頼主がわざわざ現地まで出向いて来る事 自体おかしい話しだし・・」


冷静に振り返ると 変な所が多い依頼内容だと気が付いた冒険者たち。

生きていればこそ振り返る事もできる。

気が付かずに死んでいく冒険者は多いのかも知れない。

その辺の危険を感じ取れるかが 生き残れるかどうかの境目とも言える。


それは別に冒険者に限った話ではない。

甘い話に引っかかって財産を失い 商人としての命を絶たれるという話は珍しくない。仕事が違っても、住む世界が違っても人の営みには大差が無いだろう。



「俺たちが来た方角の森に精霊樹という巨大な木が有る。

そこから何のか分からないが タマゴを採取して来るのが仕事だった」


「木から・・たまご?」


「確かに変な話だがな・・その精霊樹ってのは かなりの老木でな、半分以上が枯れているんだ。巨大な木なんだが 幹の中が既に大きな空洞になってて、中に入って見上げても何処まで続いているか分からない高さまで空いている。気を付けないとデカイ虫の魔物が居る危険な場所なんだ。」


「うわー。・・ダンジョンみたいだね」


「お嬢ちゃん、冒険に興味があるのかい?。1人でこんな場所に居るくらいだしな」


「つづき・・」


「ん・・おおっ、それでな、そこを登っていくと ごく稀にタマゴが見つかるから それを手に入れて欲しいってのが今回の仕事だった」


「虫のたまご・・」


「それが、見れば直ぐに分かるほど美しいたまごって話だ。見つからなくても半分は報酬が出るってんで、半信半疑で登っていったのさ。そしたら 暗闇の中でその卵だけが光ってるんだ、それが目的の品だってのはバカでも分かる」


「木から出たら依頼主が居てビックリしたわ。あんな道も無い場所に馬車を乗り付けて来てたしね。魔術師が同伴してたから魔法で何とかしたんでしょうけどね」


「へー・・魔法」


「その場で依頼品を渡して 仕事達成の書類にサインを貰ったから楽だと思ったわ。その後で魔術師の男がさっきのアレを取り出して『男爵様から無事に手に入れて下さいました事に対して 感謝の品が贈られます』とか言って手渡してくれたのよ」


「確かに変だよな・・依頼の金額も破格の値段だったけど、アレが宝石だったら何十倍もする金額になるよな」


「まぁ、そんな訳で 馬車が走って行ったから 俺たちはノンビリと歩いて帰る事にしたんだが・・途中から軍隊蜂が追いかけてきた」


「戦っても勝てる・・とは思う。だが無事にはいかないだろう。仲間の誰かが死ぬ、それで逃げた。街道は人が居るかも知れないからな それ以外の場所を選んで逃げていたんだが、その後は知っての通りだ」


「なるほどにゃ」


冒険者の多くは自分の冒険譚を話すのが大好きだ。たとえゴブリンと戦った程度の話でも面白く自慢げに話し出す。その中には才能の有る者もいて 冒険者を引退した後で吟遊詩人に成る。


そして、彼らの話の中には貴重な情報も数多く散りばめられている。


「もしかすると 帰っても全員死んだ事になってて、報酬もギルドに振り込まれて無いかもにゃ」


「「「えっ!」」」


「最初から出す気が無いから破格の金額を提示できるにゃ」


「そう言われれば、腑に落ちる点も多い・・」


「急いで帰りましょう」


「お嬢ちゃん達も一緒に行くかい。メシの礼と言うわけじゃないが案内するぜ」


「ハルカ・・」


「ん?」


「この子の名前はハルカというにゃ」


相変わらずお嬢さん扱いなのも不満だが、それを訂正できない口がもどかしいハルカである。

子供化して涙腺が弱くなったハルカが涙目になる。

涙目のハルカを見て 彼らは少しビビッた。


「おおっ、こいつは今まで名乗りもせずに 済まなかったな。俺はコルベルト。

冒険者で両手剣使いだ。よろしくな」


「そ、そうね、自然すぎて気が付かなかったわ。

私はミルチル、回復と支援魔法の担当よ。ハルカちゃん」


「おいは ラカント、盾と片手剣を使う。こんな見た目だけどまだ二十歳だからな。おじちゃんは止めてくれよ」


「ネコの私はノロ。ハルカの相棒にゃ。案内よろしく頼むにゃ」


という事で、急ぎ出発の準備が始まった。

とは言ってもシチューの鍋を洗うくらいなのだが台所用の洗剤が無ければ落とすには厄介な汚れである。


「ここは私にまかせて♡」


水ですすいだ後でミルチルが浄化魔法を掛けるとアッサリと綺麗に成った。

手抜き大好きのハルカは 今まで使えなかった事に心の中で敗北感を味わっていた。



「それじゃあ、美味しい食事のおかげで魔力も戻ったし、皆に「身体強化」と「速度増加」の魔法を掛けるから適度な速さで走っていくよ。でも、ハルカちゃん大丈夫?おぶって上げようか?」


「ん。心配ない」


「じゃあ 行こうか。疲れたら遠慮なく言ってくれ。たっぷり食えたから体力もすっかり戻ったしな」


彼らはよほど食事が気に入ったのかテンションが高い。

そして妙に過保護みたいになってて心配しすぎで少しウザイ。


走り始めるとハルカに合わせてくれているのかユッタリしたペースだ。

それでも普通のランニングよりは早いので魔法が無ければすぐにバテるだろう。


思いの他 ハルカは平気な顔で同じように走っている。

最初に音を上げたのは女性冒険者のミルチルで子供に負けたと悔しがっていた。


日本に居た時から慢性的な運動不足のハルカが 彼らに引けを取らなかったのは勿論訳がある。

魔法を使ったとはいえ 同じ魔法だけなら体が子供のハルカが勝てるはずが無い。


そこで、こっそり「負担軽減(ふたんけいげん)」の魔法を自分に掛けていた。

足腰の負担を極力減らしてくれるので コミケの会場などでは大変世話になった。

楽をしたいハルカが大好きな魔法で 日本でも高い頻度で使用していたものだ。


やがて 遠くに細長く広がった街の城壁が見えてくる。

やっと たどり着いた街はクラックス合衆国第二の大きさを持つ都市と言われる

フェルムスティア。


ハルカがこの世界での大半を過ごす事になる運命の都であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ