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17、国境越えと おやくそく


いよいよ国境を越えようとするのだが、そこには関所も 砦も無く 国境を示す立て札が有るだけだった。

その点では苦労しなくて済むのだが、そこには別の苦労が待っていた。


討伐隊が来れば隣の国に逃げ込み、ほとぼりが冷めればまた戻ってくる、地の利を生かして ずる賢く生き延びる山賊という集団だ。


勿論 山間部は都合が良いだけの場所ではない。

彼らよりも強い魔物も獣もウロウロしている。


都合の良い獲物に出会えるのが何時になるかも分からない ギャンブルみたいな生活でもある。

せっかく見つけても 護衛の数によっては泣く泣く獲物を見送らなくてはならない。


そんな彼らのナワバリに 上等なドレスを着て、たった一人で歩いて行く美しい少女がいたとしたら、それはもう喜んでお出迎えするのが山賊の礼儀というものである。


そんな訳で ハルカはすでに二度目の襲撃を受けていた。

山賊達からすれば 襲撃と言うより 抵抗できない獲物を追い回す狩りのようなものだ。

誰が一番最初に捕まえるか を楽しんでいるのか?我先にと山から駆け降りて来る。


そんな彼らに付き合ってハルカも逃げる振り(パフォーマンス)をする。

全力では逃げない。どのみち子供の足では逃げ切れないので最初から手抜きだ。


山賊達が全て山から出て視界に入る頃、偽少女は立ち止まり振り返る。

その姿を見た全ての山賊達は仕事が終わった後の贅沢を妄想していた。


ことろが、獲物を目の前にした先頭集団は アニメのギャグシーンのように一斉にバッタリと倒れたまま動かない。


後続の男たちが異変に気付いた時には既に 彼らの目はプチッと光を失ってしまう。盲目になり恐怖と痛みでのたうち回る者、または走る方向を見失い森にさまよう者。

両者は共にいずれ獣や魔物のエサとなる運命だ。


最後にやって来る山賊の頭たちは 距離が有るためか広範囲のフレアボムなどの爆発系の魔法で焼かれ、魔法に抵抗力のある魔術師などは容赦なく石をぶつけられ物理的に無力化されていく。遅く来た主犯の者ほど悲惨な死に方だった。

贅沢する夢を見ながら一瞬で死んでいく先頭集団の方が遥かに幸せな最後と言えるだろう。


今回も戦いと呼べるものではなく、僅かな時間で山賊達は壊滅した。

明らかに山賊といった不潔な見た目の男達なので装備などの回収はしない。

手近な死体から財布だけを抜き取って ささやかな手間賃にする。


山賊の隠れ家はあえて無視する。

その日暮らしの男達が余計な蓄えなど持っているはずが無いからだ。

この手の男達は大金が入れば町まで出向き 金が無くなるまで遊び続ける。

悪銭身に付かず、の(ことわざ)そのままな生活だ。

他の誰かを襲った後なら採算が合うが そんな都合の良いタイミングなど有り得ない。結果としてアジトを襲撃したとしても割に合わない。

そんな訳で 余計な仕事などしたくないハルカは 何も無かったように歩き出す。


死体の後始末は魔物か獣たちがしてくれるだろう。

いつもは山賊が襲った被害者の死体をそうやって処理していたが今回はそれが自分達になっただけだ。

綺麗事や人権などの理屈は通用しない、ここは そんな世界だ。



ネコのノロは ハルカが良く使う魔法に関心を持っていた。

相手の体のごく一部に直接効果をもたらす「視神経切断(ししんけいせつだん)」や「腸ねん転」などの局所魔法だ。

僅かな魔力で済むので 「魔力が少ない自分にも出来るのでは」と思った時もあった。勿論 試した事も有る。


そして出来なかった。

ノロがハルカの能力の異様さを真に感じ取ったのはこの時だ。


一見すると簡単に使えそうな小規模な魔法。

ところが実行しようとすると途轍もなく難しいものだった。

ごく小さな標的をイメージする集中力と繊細で正確な魔力コントロール。

それらを一瞬で使いこなせなくては実現できない高度な魔法。


もし ハルカと同じ事が出来る者がいるなら 上級魔法を難なく自由自在に使いこなせる実力者にすぐにでもなれるだろう。


派手な魔法を使ったほうが見栄えは良いし出世もする。

凡百の魔法使いは誰もハルカのような魔法を使わないし思いつく者すらいない。


ベテランの高位魔法使いが何とかギリギリ実現するような魔法を ハルカは息をするがごとく平然と使い続けているのだ。

もしも そんなハルカが本気で巨大な魔法を使おうとした場合を考えると気が遠くなるノロであった。



この世界に於いてチートと呼べるほどのハルカの魔法制御能力。

それは別に転移によって女神から授けられたモノでは無い。

日本で生活していて身に付けた力だ。




ハルカの初恋は小学校低学年の時。


女の子に自分をアピールしたい幼い年頃の男子である。

何も考えずに好きな少女の前で魔法を使って見せた。

次の日から女子の間で ハルカは手品オタクの危ない子供として知れ渡る。

噂を流したのは意中の少女だった。

この出来事により ハルカは自分の魔法が異常な能力なのだと気が付いた。


その後、彼の魔法を直接見た者はいない。

親にすら自分の事を相談できない孤独な少年時代の始まりである。


中学に入ると 女顔のハルカは女子の間で密かな恋愛対象として人気があった。

ハルカにとってコンプレックスである女顔が この年頃の少女の気を引く一つのアドバンテージでもあった。


それは同時に女子の気を引きたい他の男達の反感の種でもある。

次第にハルカに対する言われ無き嫌がらせが増えていく。

それがエスカレートすると直接的な暴力になっていく。よく有るいじめの始まりだ。

しかし、ハルカに暴力を振るう集団の中心人物達は 次第に学校に来なくなった。


ある者は白昼暴れだし警察に捕まり、ある者は体が不自由になり、他にも全裸で街中を走り回り保護される者もいた。

未成年の行いでもあり、それらの全てが話題にならないように配慮されたため知られる事も無く処理された。



力有る者は孤独になりやすい。

ハルカは好きな女性が出来ても近づく事もできず、自分の能力を話せる友達にも恵まれなかった。


だが、当のハルカはボッチな青春を悲観していなかった。

たかだか数年の付き合いでしかない「友達は一時の幻だ」という現実を早くも認識していた。


「何時までも友達」そんな幻想に引きずられる奴に限って信じていた相手に騙され借金を背負った後に後悔する。そんな悲劇はその辺にゴロゴロしている。

友達とは「利用できる都合の良い相手」と同義なのを若くして知ってしまっていた。

そんな幻想を知った上で付き合えるのが大人の付き合いだろう。

ハルカは若いうちから甘い考えを許されず大人になったのだ。



高校を卒業するとハルカは自由になった。

親は他の兄弟に期待していたのでプレッシャーも無かった。


学生時代に恋人など有りえなかったがハルカは別に無欲でも ゲイでもない。

魔法以外は普通の男子である。

ただし彼は自分の能力を理解し分かり合える恋人などは諦めていた。

その代わり魔法を生かし色々な方法で豊富な資金を稼ぎ出し、プロの女性を買いまくって性欲を満たしていた。羨ましくも悲しい生き方である。


若く美しい顔立ちのハルカが連日ソープランドに通うのである。

プロの女性たちの間では大人気となり、仕事抜き(プライベート)でも付き合いたいと言う女性までいた。


そんなハルカ(夜の帝王)を不愉快に思う者達が出て来る。地元のヤンキーやチンピラたちだ。

弱々しい見た目なのに金回りが良い、絶好のカモである。


その後、その歓楽街をうろつくヤンキーとチンピラが脳梗塞で身体障害者になる確率が激増したため保健所が立ち入り調査をする事となる。


魔法で悩み、魔法に助けられる際どい人生だった。


やがて 女性にも飽きたハルカは今まで以上に秘密裏に魔法を使い 気ままな不労所得者の生活を満喫した。



そう、


召喚(ゆうかい)されるまでは・・。


彼の卓越した魔法技術は 青春時代を犠牲にして身に付けた 悲しい現実の副産物なのだった。



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