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15、初めての難敵

気の良い商人達と別れたハルカは その後も歩き続けていたが、街道沿いに小さな川を見つけて 行水と洗濯をすることにした。


ドレスも下着も着たきりなので 元はズホラなオッサンのハルカと言えども気持ちが悪い。

幸い贈答品の洗剤が 受け取った時のまま亜空間倉庫に入れて有ったので使う事にした。

とは言え、乾燥まで全自動のドラム式洗濯機を使っていた現代人としては 手で洗う方法など知らない。


そもそも、なぜ倉庫に着替えが入っていないのか。

風呂に入る時は着ていた全てを乾燥まで全自動のドラム式洗濯機に放り込んで入浴中に洗濯。

風呂から出ると棚に置いてある前回洗った服を着込み、今洗った服を畳んで棚に入れるというサイクルで生活していたので、服など最小限しか持っていなかったからだ。


無職だからスーツや作業服などの仕事着が必要ではない。

また、夜に遊び回ったせいで女性に困らない彼は普段の生活で女性の気を引く為に着飾る必要も無かった。

それらの理由で お金は有っても衣類など殆ど買わなかったのが原因である。

およそ若者のオシャレな生活とは無縁だったのだ。


もっとも沢山の着替えを持ち歩いていたとしても子供体形になった今では使えないから同じであるが。



「洗濯・・どの程度まで洗えば良い?」


「王宮に暮らしていたワシに聞くか?。しかし、良い匂いの石鹸にゃ」


川原の大きな石の上で 取りあえず石鹸を付けてこね回し、洗剤をすすいで低い木の枝に吊るして乾かす。

全てを洗ってしまった為、体にバスタオルを巻きつけた姿のまま、魔法で川の端をせき止め その場の水を温めて行水していた。

風呂のような訳にはいかないが、川の冷たい水よりはましである。


ネコなのに何故かノロも気持ち良さそうに入っている。もともと人間の女性?だったので きれい好きなのかもしれない。


「ノロ・・服を作る魔法・・知らない?」


「聞いた事無いのぅ・・。そんなのが有ったら縫製職人が居なくなってしまうし、無いと思うにゃ」


「そか。・・まさか、服で苦労するとは」


色々と変な魔法は開発したハルカだが、さすがに衣類を作る魔法は想定外であった。

一応 魔法で作れないか試してはいる。

そのために布を手に入れた訳だが魔法はイメージの世界だ。その手の知識もセンスも無いのでデザインはともかく 魔法に大切な組み上げるイメージが全く構築できずに早々と挫折してしまった。



長い髪の毛をシャンプーで洗い終わると仰向けになり プカプカ浮きながらのん気にくつろいでいた。


空を見ているハルカの目に一羽の鳥が見えている。


巨大わけでもなく 普通の白い鳥に見えるため油断していた。


鳥は旋回すると急降下を始め 離れた場所で低空飛行に移った事から獲物でも狙っているのだと思った。

しかし、鳥は急に方向を変えると ハルカの意表を突いて何かを捕まえて高度を上げていった。



「えっ?、えっ・・ええーーっっ!」


「恐かったのぅ・・わしを狙っておるのかと 生きた気がせんかった」


「パンツ・・盗まれた・・」


大事件だった。


急いで川から上がり 強引に魔法で服を乾かし着用すると、鳥を追いかけるべく空を見渡すが すでにどこにも飛んでいない。

ハルカは何故 男がスカートを履かないか 身を持って思い知る。

自分の命が掛かった急所を外気に晒すのがこれほど不安とは思わなかった。

パンツ一枚無いだけでこれ程違うのかと落ち着かない。

鳥が逃げた方向すら分からず追跡を諦めたハルカは珍しく落ち込んでいた。




川から街道に戻ってくると、馬車が近づいて来るのが分かった。

ハルカ達と同じ クラックス合衆国方面に向かっているので 旨くいけば乗せてもらえるかも知れない。


ハルカは待つ時間を利用して遠くから魔法の鑑定を使っていたが、急に川の方に引き返した。


「どうしたにゃ、ハルカ」


「あの馬車・・奴隷商人だった」


しかし、場所的に最悪だった。 子供が泳いで渡るような川ではない。

川原まで追い詰められたハルカが振り向くと馬車から ガラの悪い男達がゾロゾロと歩いて来ていた。


どう見ても好意的ではない彼らの物腰は 捕まえて奴隷にしようとしているのが明らかだ。

人数は8人、逃げられない獲物を追い詰めるべく ゆっくりと包囲を縮めてくる。


ハルカは何故か 足元からゴルフボールほどの石を拾い集めている。

魔法で一気に蹴散らすと思っていたノロは疑問に思うも すでに会話をしている場合ではない。


「こっちに・・来るなー」


子供らしいセリフを言いながら石を男達に投げつけるが、届く事は無く 彼らの足元に転がるだけだった。


そんな姿を見て笑い出したのは 一番後ろから来ていた30歳位の痩せた男だ。

不健康そうに頬はコケていて とても荒くれ男達を掌握出来る様には見えない。

彼は何やら本のような物を手に持っている。


「使い魔から見たときは高い魔力持ちだと警戒したのですが・・魔力の使い方も知らないようですね。どちらにしても見目麗しい少女ですから高く売れます。間違ってもキズ付けてはいけませんよ」


「へへへっ、分かってまさ。ご主人の趣味にもピッタリですぜ」


「勿論ですとも、下着からこのような良い匂いがするのです。さぞかし体も良い匂いがすることでしょう」


男はポケットから白い物を取り出すと匂いを嗅ぎウットリしている。


ハルカは愕然とした。

男が手にしているそれは 先ほど盗まれたパンツだからだ。

使い魔というのは あの時の鳥なのだろう。


オッサンが自分のパンツの匂いを嗅いでいる。

身の毛もよだつ事態にハルカも冷静では居られなかった。



「アップ!」


言葉と同時に石が飛び上がり 男達の急所を打ち抜いた。

死角からの正確な攻撃をかわす事が出来ず 彼らは1人を残して倒れ付した。

何人かは既に死んでいるかも知れない。


足元からの攻撃はアースニードルの魔法(足元から土の槍が飛び出して刺し貫く)が一般的だが、複数を正確に攻撃するには そこそこの集中力と魔力を使う。

普段なら問題ないが、今は僅かな魔力も無駄にしたくない。

残ったのは一番死んでほしかった 男たちの主人と思しき痩せた変態男。

彼は魔力の動きを敏感に感じて石を回避していた。


石を投げて布石をしていたのは この男を警戒したが為だ。

何故なら彼は魔術師。しかも、かなりの使い手なのである。

ハルカは前衛となる邪魔な男達を先に無力化したのだ。


「これは、これは・・石に自分の魔力を纏わせて 魔法の発動を瞬時に行う作戦でしたか。先ほどの言葉は取り消しましょう 君は優秀な魔法使いです。

ならば、私も相応のお相手をしなくてはなりませんねぇ」


男は手にしていた本に手を翳すと 魔力を放出し短い呪文を唱えた。

つぎの瞬間には5本の小さな矢がハルカに向けて打ち出される。

その矢は相手を傷つけずに無力化するスタンの効果を持つもので 小さくても受ける訳にはいかない。


ハルカは6本のマジックアローを瞬時に作り出し、迎撃と同時に相手に攻撃する。


手数に驚く相手ではあるが 魔法による戦いの場数は男の方が上である。

彼はすぐに防御シールドを作り出し魔法の矢を打ち消した。


ここまで距離が近くなると大掛かりな魔法も 一瞬の致命的なタイムラグが生まれるため使えない。

結果的に一歩も動かず小技による数の応酬になってしまう。


それは魔術師にとって絶対的な有利を意味する。

使う魔力は 魔法使いのハルカが5とすると魔術師である相手は1しか使っていない。魔法の使用コストは魔術師が圧倒的に有利だった。


「気が変りました。君のような優秀な女性を奴隷などにしませんよ。

私の妻になって優秀な子を生んでいただきましょう」


思い通りの展開に持ち込んだ魔術師の男は余裕の笑みを浮かべていた。


男の目の前には、魔力が尽きて何も出来ないハルカがいた。



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