エピローグ、そして始まりのハルカ
外がとても騒がしい。今は真夜中のはずなのに
でも、そんなのどうでも良いよ
もう・・ハルカはいない
やっと大切な家族ができたと思ったのに
絶対に外れないはずの奴隷の首輪をハルカは簡単に外してくれた。
それからは旅をしたり、友達ができたり、美味しいもの食べたり、剣を習ったり、とにかく色々あって楽しかった。
そうそう、皆で海に行って魚を獲ったの。
その日から食べたいと言えばハルカはデッカイ魚を何匹も出してくれて街の人も安く買えるようになったんだ。あんなに沢山の魚は捕まえていないはずなんだけどな。
友達のキュアラにも再会できて嬉しかった。
これから皆で幸せな生活が続くと思っていたのに
ハルカは死んでしまった。
何も考えられずに泣いた。
眠っているみたいに穏やかな顔で棺に納められ 花で囲まれたハルカはキレイだったな。
ジョンもガルガンサも、そして見たことも無い男の人たちが泣きながらお酒をガブ飲みしていた。
「バカな大人達は明日は地獄を見るわよ」とフィルファナさんが悪い笑顔で見ていた。すごく恐い
私はハルカの側から離れたくなかった。
フレネットやララムちゃん、ララレィリアさんやシシルニア、友達であり将来はハルカのお嫁さんを狙っていたライバルも皆静かに泣いている。
気が付くと朝だった。
何故か皆が棺の周りで立ち尽くしている。
見ると棺はカラだった。
「ハルカ、生きてたの?・・」
どこ?何処に居るの?
必死で周りを探したけれど居ない。
微かに残るハルカの匂いを追いかけたけど外に出て直ぐに消えてしまった。
どうして、どうして、どうして
誰もハルカが出て行く姿を見ていなかった。
何処に行ったの?、酷いよ私を置いていくなんて。
あれから三日、今日も悲しくて部屋で泣いてしまう。
シェアラ
・・・・・
「シェアラ、シェアラ起きて」
誰、起こさないで、もうどうでも良いの!
「シェアラちゃん、ハルカに会いに行こう」
私は飛び起きた。
目の前に居たのは精霊のピアちゃんだ。
そっか・・精霊だし、死んだハルカに会えるんだね。
私もハルカに会えるの?。じゃあ私も死ぬのかな
そんな事を考えていた私を少し困った顔で見ていたピアちゃんが窓を開けた。
あれっ、もう朝になったのかな?。凄く明るい
外を見て驚いた。
巨大な精霊樹が光っている。
その青い光に照らされてフェルムスティアの街は昼のように明るくなっていた。
町中の人たちが外に出て美しく輝く精霊樹を見上げている。外が騒がしかった原因が分かった。
口を開けて見上げていた私の手をピアちゃんが握ると急にファッと体が浮き上がる。
そのまま窓から外に飛び出した。
近づくほど神秘的なその光景は少しだけ悲しみを忘れさせてくれた。
すごい高い場所を飛んでいるのに少しも恐くは無かった。
光る精霊樹はまるで夢の世界みたいに私を迎えてくれる。
「えっ、これって・・家?」
「そう、面白いでしょ。ハルカが作ったの」
「・・・・・」
精霊樹の上には樹に溶け込むように可愛い家が有る。
知らなかった・・・むぅ、面白くない。
こんな楽しいことしてたの、ハルカ。
ピアちゃんだけ知ってたみたいだし、ずるいよ
まるで庭のように広がった枝の上に降り立ち、入り口の戸を開けて中に入ると沢山の見知った顔があった。
そして、ハルカが居た
「ハルカ!、ハルカ、ハルカぁぁ」
私はハルカに駆け寄った。
ハルカは何かに包まれて赤ちゃんのように丸くなっている。
まるで卵の中にいるみたい。
ユラユラと精霊樹よりも明るく光に包まれている。
何故か家の中にまで生えている木の枝がそのタマゴを守るように取り囲んでいる。
そのせいでハルカに触れない、おのれ枝め。
「ぎゃぁぁ、恐いよー」
遠くから悲鳴が聞こえて来る。
それは徐々に近づいてきて窓から入って来た。
「ララムちゃんを連れてきたよー。これでだいたい揃ったね」
涙を流したララムちゃんを抱えてきたのは背中に羽根が生えたマウちゃんだった。
私と同じようにハルカを見て泣き叫んだララムちゃんを落ち着かせて疲れたようにピアちゃんが説明を始めた。
あの日、ハルカはたった一日だけ生き返る事ができたらしい。
何故そんな事が分かったかと言うと、ハルカは精霊達に好かれて目には見えなくても常に彼の周りに集まるから会話も聞いていたそうだ。
でも、それならどうして居なくなったの?。
その理由もすぐに分かった。
「これが例の破滅の光ですか」
「うむ、間違いない。われの国はアレに飲み込まれたのじゃ」
ギルドマスターのフェレットさんが驚きの声を上げると片腕が無くなったアリスさんがそれを肯定した。
目の前で起こった事の様に直接目に見える映像は霞んでいて見え辛いけど確かにハルカとノロちゃんだ。
杖に乗ったハルカが巨大な光の中に飛び込んで行くとやがて光は消えてしまった。
今見えたのは多くの精霊と妖精達の記憶を集めたものらしい。
ハルカが生き返ったのはこの光を消すため。
あの光が消えなければ世の中が滅びたかも知れ無いから。
「ハルカは死にました。ここに居るハルカは人間ではありません。精霊樹に宿ったハルカはここで精霊の卵となり、百年くらいで精霊として生まれ変わります」
説明しているピアちゃんは何時もと雰囲気が違って大人のように見える。百年後、その頃には私は生きているだろうか。
もう生きてあの声を聞く事は無いんだね。
この時ほど自分が長命な種族だったらと思った事は無い。
「もうすぐ卵の殻に包まれて姿が見えなくなってしまいます。今度こそ最後のお別れです」
「ピアは精霊だし何時かハルカに会えるんだよね。ずるいよ、私も精霊にして」
「シシルニア・・・、ムチャを言わないで。人が精霊に成る事そのものが信じられない事なんだからね」
シシルニアは賢い子だ。
自分がムチャな事を言っているのも分かっている。
だけど、一緒に居たい気持ちが言葉にでてしまう。
私だって同じ気持ちだもの。
やがて光が集束するとともに大きな卵の姿に変わっていく。
もうハルカの顔を見る事が出来なくなった。
「ハルカさーん。助けられた事は忘れませーん。
貴方が生まれたときは必ずボクの子供が守りますからねー」
「おおっ、さすがジョンの兄貴。
オレも誓うぜ、子供たちにハルカの事を語り継いでやる」
「もぅ、ガルガンサったら、気が早いよ」
「わ、私だって、世界一の商会を作って生まれて来たハルカを守って見せるわ」
皆がそれぞれ未来の子孫に夢を託していた。
私はどうしたら良いのだろう。分からないよ、ハルカ
「んっ?!。キュアラ?」
気が付くと隣に居た幼馴染のキュアラがそっと私の手を握っていた。
「ハルカと約束した。シェアラは必ずボクが守るって」
ハルカのばか・・
数日後、マウにお願いしてハルカの居る家に飛んでもらったけど、精霊樹の枝が幾重にも家を取り囲んでいて全く見えなくなっていた。何者もハルカに近寄らせないと守っている精霊樹を見て今度こそ最後のお別れを言えた。
ハルカ、ありがとう
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約百年後、
「おっちゃん、タレの串肉を50本ちょうだい!」
王都フェルムスティアの都には新たなる精霊の物語が始まっていた。
おわり
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最後まで読んでいただき ありがとうございます。
これで本当の最後です。たぶん