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その後、2-6、黒焔球と光の玉

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


「「「・・・・」」」


ドドドドドドドドドドドド


「豊穣の滝が・・」


「復活した・・」


ハシム達はハルカから危険を告げられ それを回避すべく馬に無理をさせない速度で馬車を走らせていたが、滝壺から少し離れた小高い丘に差しかかった時 地響きをともなう轟音に驚き足を止めていた。

そして、爆発したかのように水を吐き出している滝の姿を見て皆が口をあけて呆然としてしまう。

もしも逃げずに あのまま留まっていたら・・考えるだけで恐ろしい。


唸りをあげて吹き出した水は その勢いによって滝壺を削り取り その形を変えてしまったが、今は落ち着いて以前のように膨大な水を滝壺に落としている。


瞬く間に滝壺を満たした水が津波のように川を下っていく。


今は濁って泥水のように見えるが 少しすれば以前のように清らかな水辺をつくりだすだろう。

ハシム一行はしばしの間 無言でその光景をボーッと眺めていた。

最初に再起動をはたしたのはメイドのココルだ。


「これは あの子達が・・あぁ、すごいです」


「まさか、子供に出来る事ではありませんよ」


「ヨハン、お前は・・そんな固い頭だから執事の試験に落ちるのだぞ。

ハルカ達以外にあんな事が出来るはずが無いだろ」


ハシムはハルカ達が精霊だと知っているので不思議には思わないが、執事見習い?のヨハンにとっては未だに得体の知れない子供達でしかない。



「ヨハン、気を抜くな。殿下をお守りしろ」


メイドで護衛でも有るココルは 馬車の前方を警戒していた。

都の方から人を乗せた一頭の馬が駆け寄って来ている。


近寄って来たその相手は見知った顔であり、であるが故にハシム達を驚かせた。


「ハシム。何故お前がこんな所に居るのだ?」


「父上・・?」


馬を潰す勢いで駆けつけたのは この国の国王だった。

幼いハシムの父親だけあって国王ではあるがまだ30代の活力に満ちた姿をしている。ハシム以外の面々は すぐさま膝を付き最上の敬意を表す。


「あの音を聞き、もしやと思って駆けつけたが・・まさしく滝が蘇っておるわ・・」


見ると国王のはるか後ろから近衛騎士と思われる集団が必死で追いつこうとしているのが見える。気の毒に。アクティブな国王に振り回されているようだ。


「ふむ、ハシム。お前はアレが復活した理由を知っていそうだな。話せ」


「父上、自分たちにもハッキリした事は分かりません。でも、それらしい理由は何となく分かります」


彼はハルカ達と町で出会った事から話しを始めた。





***********  





「あぅぅ、気持ち悪い・・吐き気がする」


「ハルカ、しっかりするニャ」


精霊であるハルカ達は滝を復活させた後 滝壺の近くに姿を見せていたが、ここに至ってハルカが今まで以上に苦しみ出した。


「あの魔族が何かしたの?呪いとか、呪いとか、呪いとか!」


「ふざけるなぁ!。そんな暇が有る訳無いでしょうが」


「あっ・・生きてたのかニャ」


魔族の少女?は ずぶ濡れのボロボロだった。

そんな情け無い姿でハルカたちから20メートルくらい離れた所に浮遊しているが、その目だけはランランとして獲物を狙う肉食獣のようだ。

突然解放された滝のとてつもない水量に押し流され、濁流に飲み込まれたはずなのに生きていた。さすが魔族、しぶとい。



「ハン、精霊ごときがアレを魔法で収納できた事は褒めてあげるわ。

私ですら色々な装備とアイテム、さらには薬まで使って魔力を底上げした後でやっと収納して運んできたのよ。

苦しいの?いいざまね、あんな重量物 飲み込めば苦しんで当たり前だわ。

むしろ よく死ななかったものね」


「・・・・・」


「・・・・それって」


「!・・・・・了解した」


「えっ?!、ひぁぁ」


苦しみの原因が分かったハルカの動きは それはもぅ早かった。

一刻も早く苦しみから逃れたいのだ。


ズズズズッッッッッッッッッッッッッッッンン、ゴゴゴゴゴォォォォ

滝壺の横に台地が出来上がった。

あの岩盤を魔法で亜空間に収納したから苦しくなった。

ならば出せば良い。簡単な理屈である。



「くっ、また突然!。転移しなきゃ潰されてたわよっ。私を殺す気なの」 ムキーッ


目の前に居た魔族の少女は危うく取り出された巨大な岩盤の下敷きになるところだった。恐かったのか 涙目で猛烈な抗議をしている。

そんな彼女に対して「何をいまさら」と言いたげなハルカだ。





************





「何だ!・・・何が起こっている」


目の前に岩盤が現れ 台地が出来あがって 突然の地響きと共に景色が変わってしまった。それは黒に近い色の光沢を持ち、明らかに周囲の岩とは違う異質な見た目であり

単なる岩とは思えない。


天変地異と言えるほどの異常な出来事であるが、その瞬間を目の当たりにした国王の顔は驚いてはいるが それ以上に少年のように輝いていた。


「ハシム。先ほどの話、わしも信じる。これはただ事ではない」




ドカカカッ


「陛下、ご無事ですか」


「おおっ」「・・・・」「やはり、あの音は・・」


続々と近衛の騎士達も駆けつけて来たが、滝が蘇ったのを目の前にして呆然とし職務が二の次になりそうになっていた。

その後からも続々と多くの馬車や騎馬が駆けつけ、小高い場所は多くの人で溢れていく。

その中には王の後を追ってきた国の要人や貴族の面々も見受けられた。

皆が一様に驚き、感激して喜びが隠せないようだ。


水源である滝が無くなって国の内政もゴタゴタしていたが、それも徐々に治まっていくだろう。

とりあえず 今現在不足している食料が何とかなれば未来に希望が持てるのである。




ドゴッッッ



そんな彼らが見ている滝つぼの近くで 突然黒い光を放つ爆発が起こった。


「何事だ」


「騎士団長、慌てるな。距離はある、各員警戒態勢を執って襲撃に備えよ」


「陛下、危険です。城へお戻り下さい」


近衛達を慌てさせる一番の原因は国王がこの場に居る事なのである。

彼らは国王の盾と成るべく隊列を作り警戒していた。

そんな周囲の心配をよそに国王本人はとても生き生きとしていた。


「はっはは。こんな気分は久しぶりだぞ。

今一度豊穣の滝が止まれば国そのものが危ういのだ。

わしは逃げん。皆も今が正念場と心得よ」


「・・はっ。 陛下、御供つかまつりますぞ」


騎士達からすれば 国王が危険なこの場に残るだけで仕事の難易度は跳ね上がり

本来は極めて迷惑な話である。

しかし、彼らの心中はどうかと言うと、感無量なのであった。


王が国の為に自ら戦場?に立ち、同じ場所で共に戦える。

物語のような場面に立会い、騎士達の士気は最高潮となっていた。


「・・それにしても、あの黒い爆発は何なのだ。斥候を出して探らせてまいれ」


「はっ」


場は戦いの準備をする者達と 少し離れて成り行きを見物する集団に分かれていく。





*******************




その黒い爆発。

魔族からの最初の攻撃は脅しであった。

ハルカ達も余裕で回避している。


「どお?。魔界の瘴気で作られる黒焔球よ。

精霊なんて触れただけで消し飛ぶんだから」


「・・・・・・・・厨二病・・乙」


魔族の王女チンチリンは ものすごーく真剣に、そして自慢げに自分の魔法の恐さを語っているのだが、見た目がハルカ達と同じくらいの子供にしか見えないため 現実味も無ければ迫力も無かった。


しかし、魔法は本物である。

黒焔球が着弾した岩場は溶けて小さなクレーターとなっていた。

勿論ハルカ達もそれは分かっていて、ふざけた言葉とは裏腹に最大級の警戒をしている。

何より滝壺を守っていた水の上位精霊を一撃で消し飛ばしたのは事実なのである。




「ピアとノロは下がってて。本気でやるから・・」


「ハルカ、無理しなくていいニャ。逃げても問題ないぞ」


「そうだよ。あれは精霊には最悪な魔法だよハルカ」


ハルカ達 精霊に物理的な攻撃は意味を成さない。

その代わり 有る種の攻撃には抵抗力を持たないようだ。

幽霊やアンデットが聖属性の魔法に弱いように、精霊は穢れた属性の魔法に弱かった。

魔族は長年の経験からその点を熟知していて、幼いチンチリンが恐れること無く自信に満ちた顔でハルカ達に戦いを挑むのは そんな大きなアドバンテージが有ればこそである。



「あらっ、逃げる気?。でも逃がさないわよ」


「逃げないし、・・・問題無い。そっちこそ逃げると良い」


ハルカはそう言いながら自分の手前に一つの光の玉を作り出す。



「ハッ、何それ。光属性?。それとも聖属性かしら。

そんなもので黒焔球に勝てると思ったわけ?。ナメられたものね。消えておしまい」


それなりに速さをもって打ち出された黒焔球に対してハルカの作った光の玉はその場を動かず、バックラーのような円盤状の盾に変形して黒焔球を受け止める。



「「「えっ?」」」


ハルカ以外全員の驚く声がハモる。

光の盾ごときは貫くはずだった黒焔球は光に触れた途端 何の抵抗も見せず一瞬で消滅してしまった。

そして今は何故かハルカの前には二つに増えた光の玉がユラユラと浮いている。


「何で?どうして・・・、何したのよ。言いなさい」


「フフン。秘密」


「ハルカ・・・もしや その光は・・まさか」


唯一、ハルカと共に死んだノロだけは光の正体に気が付いた。

チートな魔力と異常に高いレベルにあった生前のハルカとノロ。

その2人がついに勝てなかった凶悪な魔法、『破滅の光』である。


光に触れた全ての物は一瞬で砂へと変えられ、魔法は全て魔力に変換され 吸収される。

その暴食ぶりは術者自らも飲み込まれるほどの凶悪さで、正に破滅の魔法であった。

そんな魔法ではあるが、ハルカはあの死を賭けた経験において その身で直に魔法を体感した事で無意識のうちにマスターしてしまった。

しかも ハルカだけが持つであろう極めて高度な魔法制御力は ともすれば暴走して破滅をもたらすこの魔法を完璧に制御し使いこなしている。


それは即ち 物理、魔法に関係無く 全ての相手に勝利する事が出来る究極の魔法を手にした事を意味した。


事実上 最強の魔法使いと言える。


皮肉な事に 今のハルカにとって そんな世俗の称号には何の意味も無く、ピアたちと楽しい余生?をすごす時間が何より大切なのであった。





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