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その後2-5、復活

ハルカ達を乗せた馬車は かつて豊穣の滝と呼ばれた場所に来ていた。

そこは崖の下に出来た巨大なクレーターのようになっていて 水も殆ど無く、岩場がむき出しになった荒涼たる風景となっている。


「おーっ、すごいね」


「以前は滝つぼでした。

澄んだ水で満ち、周囲も緑が広がってて雄大な景色だったのでございます」


「だからなんだねぇ、あんな所に沢山の水妖精が集まってるよ」


滝つぼの底に残された水も淀み 藻が繁殖して濃いドロドロの緑色をしている。

僅かに残った水辺には取り残された水の妖精たちが寄り添っていた。


「レレン!」


「いけません、殿下」


「離せ、ヨハン。レレンが死んでしまう」




滝つぼを見下ろす場所に居るのは 精霊であるハルカ、ピア、ノロの三者とシェナイトル王国の皇太子ムナハシム・シェナイトル少年と従者のココル、そして執事姿の青年ヨハンという不思議な組み合わせである。


「水の精霊が居ない・・。大きな水辺だったなら主が居るはずなのに」


「それより、みんな弱ってて今にも消えそうニャ。何とかしないと」


「水の妖精は清らかな水が力の源だけど。あれは・・」


「じゃあ、あの残った水に浄化の魔法使えば良いの?」


「だめだよ、ハルカ。あれは自然に発生した藻で汚れじゃないから 浄化では殆ど効果無いよ」


「ハシム殿下、この方々はいったい・・・」


少年ハシムの暴走を抑えながらも執事のヨハンはハルカ達を警戒していた。

たとえ同年代とはいえ皇太子であるハシムにため口をきく得体の知れない子供と、

言葉を話すネコなのだ。警戒しない方が不思議である。


「ヨハン。くれぐれも言っておく、この方達はオレよりも高貴な立場の客人だ。

絶対に失礼の無いようにしろ」


「!・・・畏まりました」


ヨハンは釈然としないながらも主人の真剣な物言いに事態の重要性を感じ取っていた。


「じゃあ、とりあえず水を出してみようか」


「そうだね。でもハルカ、大丈夫なの?」


「うん。大丈夫・・・今は調子良いから」


(((水を出す?)))

いぶかしげな人間達をよそにハルカは魔力の集束をはじめた。

ほどなく上空に直径30メートルもある水球が形成されていく。


「なっ!、何をしたのですか」


「何って、ただの魔法」


「いやいや。魔法でこれほどの事が出来るはずが・・」


「こんなの普通。ていうか、この程度にしかならないよ。

この辺は乾燥してるから水を作り出すのに都合が悪い」


「うむ。この程度では焼け石に水だにゃ」


「いや・・、この程度って・・・」


ヨハンは混乱している。

この程度?、これほど多くの水を普通の魔術師が作れるくらいなら都の人々が水不足で困窮する必要など無いのだ。

今のこの環境で普通の魔術師が作り出せるのはせいぜいコップ一杯の水が限界なのだから。


無理も無い。ハルカは単なる魔法と思っているが、今のハルカが使えばただの魔法も自然界を巻き込んだ精霊魔法なのである。

規格外の魔法使いだったハルカが使うそれは全てにおいてスケールが違う。


「精霊の力は予想以上だな。すごいぞ」


「左様でございますね」


放心している執事とは別にハルカ達の正体を知っているハシムとココルは拍手喝采であった。


「ハルカ。そのまま水を下に落とさないで妖精たちの近くまで運んで」


「??・・良いけど」


ハルカが水球を維持したまま滝つぼの底の淀んだ水辺に近づけていく。

すると妖精達は一斉にジャンプして水球に飛び込んでいった。


「ハルカの魔力は純粋無垢だから効果は絶大だニャ」


ほどなく全快した妖精達は水球の中で元気に戯れていた。

その中の一体の妖精がフヨフヨと人間達のもとに近づいて来る。


「レレン、元気になった。良かったな」


ハシムと契約している妖精も元の力を取り戻したらしい。

レレンと呼ばれた妖精は次にハルカ達の前に近寄って来る。


そして それは突然であった。


ハルカ達の目の前には映画館のように巨大な画像が広がり、少しおぼろげではあるが動画が再生されはじめた。

巨大な滝の映像である。

そこに戯れる無数の妖精達と水の精霊らしき強い力。


そんな水辺に突然 黒いものが打ち込まれる。

立ち上がる水柱とともに精霊と多くの妖精が消滅していく。

慌てふためく妖精には目もくれず、黒い炎?はその場から流れ落ちる水に沿って上に登っていく。

巨大な滝はその時より一切の水の恩恵を止めてしまった。

契約者以外とは意思の疎通が出来ない妖精が精霊であるハルカ達に現状を訴えたようだ。


「今のは何だろ・・。ピアはあの黒い奴 分かる?」


「うーん。画像からは気配とか魔力の質とか伝わらないから・・。アレが滝の上で何かしたのは間違い無いよね」


「あそこのデッカイ洞窟に行ってみれば何か分かるかも知れないニャ」


どれくらい高さが有るか分からない崖の中ほどにドーム球場を横から見たような形の巨大な穴が空いている。

無論、大きさは桁違いで、嘗てはナイヤガラの滝以上の水量を排出していた水源であった。


「行くのは良いけど・・、戦いになるかもね」


水の精霊を一撃で消し飛ばした相手であり、友好的とは到底思えない。

共に精霊としては異常な力を持つハルカ達ではあるが相手を過小評価してはいなかった。


「でも、このままだと あの子達は消えてしまうし・・。水を何とかしたいの」


妖精達が元気を取り戻したので水球は滝壺の水として追加されたが水位は変わらず、殆ど意味が無い。

一時凌ぎのものでしか無かった。


「巨大な滝が無くなるなんて何か理由が有るはずニャ。ハルカとピアが居れば滝を復活できるはずニャ」


「「「えっ?!」」」


滝の水が戻るかも知れない?、ハシム達にとって聞き捨てなら無い一言であった。

驚く声を聞いてハシム達が居た事を思い出したハルカが少しだけ困った顔をして 何故かメイドであるココルに近寄ってきた。


「出来るだけ離れて欲しい・・危険なんだ」


「!!。承知いたしましたわ」


万能メイドはハルカの一言で瞬時に事の重大さを読み取り 主人の性格をも計算し、ハシムの安全のために最善の行動をしてくれた。

皇太子をガシッと確保したココルは馬車に乗り込み、執事?のヨハンもすでに馬車に出発を命じていた。


「離せ、俺も戦うんだぁぁぁぁーーーー」


駄々をこねる子供の叫び声を聞き、ハルカは自分の判断が正しかったと安堵した。




「行こうか」


ハルカの声と共に三者の体がフワリと浮き上がっていく。

精霊化したことで杖などの媒介無しで自由に飛べるようになったハルカではあるが、いまだに精神的に慣れない。

転移も考えたが、相手の力を警戒して気配を探りながら慎重に進む事となった。


それは高さ百メートル以上、横幅は一キロほどもある雄大な自然の造形物であった。

かつて 国を支えるほどの水量を排出していた洞窟は近づくにつれて その巨大さを思い知らせる。

何ら危険な気配も無い事からハルカ達は中に入っていく。

長年 膨大な水で磨かれてきた岩盤はツルツル、ツヤツヤしていて美しい模様をしている。

そして以外にも呆気なく洞窟は終わりをつげる。



「行き止まり?・・まだ入り口から百メートルも来てないニャ」


「でも、実際に塞がってるし・・」


「変・・だよね」


他の岩肌とは明らかに違う色をした壁が洞窟を塞いでいる。ゆがみの無いその壁面は人工物のように見えるが、これほどの巨大な洞窟を塞ぐ質量を人が扱えるとも思えない。

まして、途方も無い水が流れていた場所なのだ。


「ん?。明かりを出してみるニャ」


「「あっ、これって」」


暗い時には見えなかったが、壁面にはビッシリと何かが描かれている。


「これって・・魔法陣?。とんでもない規模だね」


「こんなのを書くなんて、頭がおかしいニャ」


見渡す限り描かれている模様の全てが魔法陣の一部らしい。恐らく広大な壁の全面に描かれているであろう魔法陣。

それを作り上げた労力を考えて気が遠くなる思いのハルカ達だった。



「どんな内容の魔法陣なのか見てみるよ」


「ハルカ、危険だと思ったらすぐに止めてね」


近寄るとその魔法陣の凄さが感じられる。

大きさもさることながら緻密に計算された無駄のない構成で描かれている。

ハルカの魔法スタイルからみて 今までは魔法陣を使う事にあまり意味を感じて無かった。が、目の前のそれはハルカの常識を覆すほど素晴らしい出来だった。


「んんっ、魔力が少し吸い取られるね・・」


ハルカが壁面に手をかざし魔力を巡らして魔法陣を読み取ろうとするも、魔力が陣に吸収されて広げる事が出来なかった。



「だめだ・・。たぶん全力で魔力を使っても読み取る事が出来ないよ」


「「えっ」」


「ハルカの魔力で無理とな?。とんでもない魔法陣ニャ」



「きゃははは。当たり前じゃない。精霊ごときが 我が国の魔術院が作り上げた渾身の作を掌握できるとでも思ったのかしら?」


「「「!」」」


入り口からの光を背に小さな影が立っていた。

解読に集中していたハルカは勿論、ピアもノロも気配を察知できなかった。

身長はハルカ達と同じくらいの子供に見えるが、無論 こんな場所に居るのである。只者ではない。



「お子ちゃまが こんな場所に居たら危ないニャ。早く帰るにゃ」


「誰がお子ちゃまですってぇ。

それより、精霊ごとき下等な存在があたくしに話しかけないでくださる」


「名前も知らない相手に大きな顔をされてもニャー。

子供の妄想にしか聞こえないニャー」


ノロは場数を色々と踏んでいる元は皇太后だった老女である。

この手の上から見下す相手にも慣れていた。


「消し飛ばしますわよ・・下郎。 

魔族の王、ドルモーグ・フェンデルア・シギレガンドが第三の姫、

我が名はチンチリン・フェンデルタ・シギレガンドなる。

我が姿を拝謁したからには無礼は許さぬ。者共 跪くがいい」


「「「・・・・・・・・・」」」


あぁ・・魔族ね。と妙に納得したハルカ達であった。


「厨二クサっ。それに、危ない名前だ・・」 ぼそっ


まるで日本のエンタメに出てくる患者さんそのものに見えた。


「さすが、一国の姫様だニャ。こんな大きな魔法陣を用意するにゃんて、もの凄い財力だニャ。我々ごときでは何の魔法陣かも分からなかったニャ」


「ふふん、そうよ。やっと分かったようね」


ノロはハルカのグチを消すかのように大きな声で少女をおだてた。

この手の相手はヨイショするにかぎる。


「して、姫様。そのような高貴な方がこんな場所にお越しとは ただ事ではありませんニャ」


「勿論ですわ。あたくし自ら人間界などと汚らわしい場所に来ているのですもの。

人間共を苦しめて滅ぼして遊ぶ為に決まっているじゃないの。頭が悪いわね。

きゃはは」


「「・・・・・」」


ハルカとピアの2人はノロに患者さんの対応を任せて無言だった。


「そうですニャ。我々ではこのような素晴らしい魔法陣が何に使われているか分からなくて困っていたニャ」


「知りたい?。教えて上げても良くってよ」


「恐悦至極でございますニャ」


ハルカはノロの忍耐強さに感心していた。


「では、拝聴するがいいわ。

国の学者どもは『水滅陣』などと名前を付けていましてよ。頭の悪い者にも分かりやすく言えば、その陣に触れた水が瞬時に消滅して魔力に変換させる高度な術式なのですわ。まぁ、下々の者には これでも理解できないですわね。きゃはは」


「と、いう事にゃ。ハルカ、もう良いぞ」


アニマルセラピーは終わったようだ。


「なるほど。もう用は無いね」


そろそろ付き合うのがアホらしくなっていたハルカは魔法陣の描かれている壁面に手を添えた。



キシッ☆

ギッ。ギギギギ、ココーン・・。キシキシ・・ギギギギギ


「!・・・何?この音。何をしたの!」


「もちろん、壊した」


そう。ハルカは魔法陣を読み取るのは苦手だが、破壊するのは大好きだった。

魔法陣が機能しなくなった為に水圧がかかったのか洞窟全体から不気味な軋み音が聞こえて来る。


「この音って、まさか魔法陣を壊したのか。ばか者が、その様な事をしたら水の圧力で岩盤が崩壊して・・・・・・・いや、それも良いわね。一気に濁流が人間共を襲うじゃない。手間が省けて早く終わると言う訳ね。そこな下郎、褒めてつかわすぞ」


「「ハルカ・・」」


「問題無い。収納・・」


「「あっ!」」


「えっ」


ドゴォォォォォォォ


「ホギャーーーー・・ガホガホ・・・・・」


ハルカは水をせき止めていた岩盤?を亜空間倉庫に収納した。

精霊であるハルカ達にとっては膨大な水が押し寄せようと何の問題も無いのだ。


ズズズズ・・・ドッゴォォォォゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴコゴ


轟音を上げて洞窟から吹き出した水は滝壺を超えて辺りを抉っていった。

近くにハシム達が居たら間違いなく巻き込まれていただろう。



国の命脈、豊穣の滝は蘇った。





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