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11、恐ろしさを知った

ハルカとネコはサラスティア王国を出てとりあえず 平和が続くと噂の隣の国、

クラックス合衆国を目指す事にした。


急な旅立ちで準備もろくにしておらず、まして子供が徒歩で国境を越える旅をするなど本来は自殺行為にしかならない。

ハルカの魔法と亜空間倉庫の備蓄品、そしてロスティアの知識が無くては成り立たない無謀な冒険であった。


そして旅の間にハルカはこの世界の様々な事を学ぶ。



「なぁ・・ネコ。あれって・・ウサギ」


「うむ、お主が歌って踊ったウサギじゃ」


「どうして・・軽四並みに大きい・・かな」


「軽四って何にゃ?」


ハルカたちの前方にはモシャモシャと草を食べている巨大なウサギが居座っていた。


「幸いにも無視されとるから近寄ってはいかんぞ。

足で蹴られて大怪我するにゃ・・・下手するとこちらが食われるにゃ」


「まさかの肉食ウサギ?。ところであいつ・・うまいか」


「料理次第にゃ、美味しくなるぞ」


「・・エンズイギリ」


「ニャッ?」


ハルカが人差し指を向け呟くとウサギはビクッと体をのばし、そのまま痙攣をおこして絶命した。


脳みそと体を繋いでいる部分 延髄を切断したのだ。

いかに体が大きくても これでは即死である。


「退治した。・・収納しよう、料理楽しみ」


「は、ハルカ、今のは魔法なのかの?」


「当然、魔法以外で・・こんなの倒せない」


「魔法が使われた?分からん、何処で発動したのか・・何も見えんかったにゃ」


「ふふん、派手な魔法使うのはバカの・・すること」


「いや いや、それが普通の魔法じゃぞ」


ハルカは日本に居るときから他人に悟られないように魔法を使ってきた。

一見すると地味で歯がゆい気がするが隠密性に優れ、何よりも最小の魔力で済む。

広範囲に派手な影響を与える高火力な魔法はその実 無駄が多すぎる為、余程の事情が無ければ使う必要を感じない。


ただし、今回使ったような局所的な魔力節約型の魔法は魔物など弱点の分からない相手には通用しないのが欠点である。



気を良くしたハルカは 意気揚々と巨大ウサギを亜空間倉庫に収納した。


ところが



ドチャッ☆  ピコーン ピコーン ピコーン ピコーン


「・・・・・」


「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ」


亜空間倉庫に生き物は入らない。


ウサギを収納したとたん腹の中の寄生虫がボタボタと地面に落ち、大きなノミが宿主を失って跳ねてきた。


ハルカは異世界の恐ろしさを知った。






「ハア、ハア、ハァ・・・こわっ」


「ハルカが歳相応に恐がる姿が見れて驚いたのぅ。あの程度、魔法で焼けば良かったではないか」


「無茶を言う・・・全ての思考が飛んだ。魔法何て・・使う余裕は無かった。

手動で回収するのは危ない。次はきっと対処してみせる。

バッシブで獲物が回収されるように切り替える・・」


「何を言ってるにゃ」


「自動で・・解体されて手に入る魔法」


「余計に言ってる事が分からないにゃ」


日本のエンタメを参考にハルカが作り出した魔法、自動収納 である。

要するに獲物を倒して死んだ時点で自動的に回収、様々なパーツに分けられて収納される横着な魔法だ。

しかし、自動で発動するという事は 意思とは関係なく魔力を消費する事を意味し、大変に危険でもある。


「そういえば、昨日の夜は・・確かオンにしてた」


「昨日の夜・・・・・・悪夢じゃ。しかし、倒したのが自動で手に入るとなると・・あの消えた森の魔物が全てにゃ?」


「あー・・有る。色々、いっぱい」


「・・・とりあえず、もう少しで途中の町にゃ。明るいうちに急ぐとしよう」


「だね」


ネコは恐ろしい現実を先送りの問題にした。手に負えなかった、とも言う。



********




「ハルカとお婆さまは今頃 どのあたりを歩いているのかしら」


「そうさな戦場のあたりに転移したらしいからな、次の町でも目指しておるだろう。探すのは容易いが今はほっとくより他はあるまい」


サラスティアの城では戦の精神的疲労を癒す為、国王が娘と共に寛いでいた。



コンコン☆☆ コンコン☆☆


侍女のレレスィがドアを開けると休息の邪魔をする無粋なノックの主は宰相であった。


「陛下。おくつろぎの時間に申し訳ございません」


「かまわん、そなたが直々に参るほどの案件なのであろう。

ここで話せない内容なら執務室まで出向くぞ」


「では、報告させていただきます。

戦後処理のため戦地に残っておりました部隊の報告によりますと、昨夜 戦地近くの大森林において大規模な魔法が使われた模様です。広大な範囲が光に包まれ、翌日調査致しますと 光が確認された一帯は森が消失、広大な更地が広がっていたとの事です」


・・・・


「・・・なるほどのぅ。あい分かった。これは母上の置き土産なのかもしれん。

危険が無いようなら引き続き調査を進めるようにな」


「御意。では 失礼致します」


大事ではあるが人的な被害が出た訳でもなく、戦いの事後処理で多忙な状態でもあり あえて問題とはされなかった。

宰相も阿吽の呼吸でその空気を読み取り対処していく。


「どうやら レレスィの読みは正しかったようだな」


「恐れ入りますぅ」


「今の話はハルカが使った魔法ということなの?」


「おそらくな・・」


「ハルカすごーい」


「すごーい、では済まされんのだぞ。他の者が知ったら大変な事になる」


森の開拓が進まないのは 木を切る音で魔物が引き寄せられ危険極まりないからだ。木を伐採する人員よりも護衛の騎士や冒険者の数がはるかに多くなる。

少し開拓するだけで国家事業の予算規模となってしまう。


魔法で出来そうに思うが、この世界の木々は少しくらいの魔法ではどうにもならず、魔法の音で魔物が引き寄せられるので同じ事に成ってしまう。


それが一晩で しかも恐らく魔法の一撃で開拓された、となれば大変な事なのだ。

自分の領地を発展させたい貴族達が目の色を変えるだろう。


「やれやれ・・・心配させおるわい」



*******************



そんな人騒がせなハルカたちは、ようやく町にたどり着いていた。

その町はシシカル、町と言うよりは村と呼んだほうがイメージに合うだろう。

街道沿いの草原の中に木の塀で囲まれて存在している。

農地も広がっているが土地は痩せていて豊かとは言えないようだ。


しかし、何か様子がおかしい。

門番は居るのだが覇気が無く、やっと立ってるだけという見た目だ。



「そこの方・・貴族のお嬢様ではありませんか?どうか奴隷としてでも良いですから 子供を助けて下さいまし」


「残念・・女の子なの・・私を買ってほしかったのに・・」


町に入ると人々は見るからに元気が無くフラフラになっている。

余所者のハルカが歩いているだけで方々から悲惨な売り文句が聞こえて来る。

最初は「悲劇テンプレきたー」とか思って気楽だったハルカも 今は警戒している。


「ハルカよ、この町は素通りしたほうが良さそうじゃのぅ」


「ベッドで眠りたかった・・」


ハルカは初めての野宿で体が痛かった。

ふとんやベッド以外で寝たことが無い人には地面に寝るのは辛いものだ。

ただし、半分は運動不足なのに急にダンスなどした為なのだが。


町の中心とも言える広場に来たとき、数人の男達に囲まれた。


「・・・何?」


「悪く思うなよ お譲さん。お前さんを売れば娘も町も助かるんだ」


「・・チョウネンテン・・」


「あぁ?・・・・・くっ、ぐあぁぁぁぁぁぁっっっっ」


「「「ひぃぃ」」」


ハルカがかわいい手で男を指差すと途端に絶叫して苦しみだした。

もともとド素人の悪人(チンピラ)たちは すっかりビビッて腰砕けとなる。


「白昼堂々と街中で人攫いが出るとは・・どうなっとるのにゃ」


城にばかり居たネコは不思議そうにしていたが、ハルカには予測ができた。

日本のラノベなど 異世界ものの小説には この手のアクシデントに対してあらゆるパターンがシュミレートされている。


本当に素晴らしい参考書であった。



「ハラへってる・・の?」


腰を抜かしている他の男達に尋ねると驚いた顔で小さく頷いていた。

どうやら飢饉のパターンに当てはまるらしい。


「父ちゃん!」


苦しむ男に小さな女の子が駆け寄ってくる。

(子供が敵になる面倒なパターンになってきた・・この後は町の人間全てから敵視され悪人にされてしまう。いっその事、町ごと消し飛ばしてやろうか)


ハルカは日本に居るときから集団的な正義を信用していない。

どんなに自分が誠実に生きていても集団になった人間はアッサリと裏切り敵となる。


最近ではスーパーのレジ袋の件が思い出される。

自然保護が異常に叫ばれた時、何故かスーパーのレジ袋が 自然破壊の根源のように騒がれた。

テレビのニュースでも この世の敵みたいな騒ぎ方をしていたものだ。

あの袋を生産していた人、売っていた人はどう感じただろう。

彼らは何も悪い事はしていない。

それどころか 作ったものが人々に役立って欲しいと思って生産していただろう。

そんな人々を犠牲にして 自然保護の騒ぎを有耶無耶にしたクソな犯人が居たのだ。


レジ袋を節約すれば資源が節約できる。

しかし それは 毎日100万円盗んでいる泥棒が10円返しただけで「罪滅ぼししました、自分は悪くありません」と言っているようなもので何の解決にもならない。


その証拠に、その後 自然保護を誰も気に留めなくなると 誰一人レジ袋の悪口を言う者はいなくなった。


あのドタバタで誰が一番得をしたのやら・・・・ほんと陰謀臭い。



ハルカは自分がそんなスケープゴートの犠牲者になるのは まっぴらであり「全てを無かった事にしようか」とすら考えていた。





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