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106、ハルカ ハルカ

今回の話にはショッキングな場面が有ります。


何故?と思わせる内容ですが物語りの最も大切な節目でもあり外すことはできません。物語り全体から言うと「起 承 転 結」の中の転に当たる部分になります。

この話の後は怒涛のエピローグに突き進みますので是非 最後まで読んでいただきたく思います。


         応援してくださった方々に心から感謝を。

                           北の山さん より   


*************************************


再建されたフェルムスティアの冒険者ギルド会館。

そして毎度おなじみギルドマスターの執務室にはハルカが居た。


ハルカがギルドに顔を出すなり 受付の職員が駆け寄って来て連行されたのであるが、今回は(ハルカ)もギルドマスターに用が有るので都合が良い。


フェレットがハルカを待っていたのは 精霊樹に住み着いた飛竜の件であった。

それに関しては隠す必要も無く、むしろ あの飛竜が人間に使役されていた事を話した方が人々は安心できるだろう。なので 飛竜との経緯は詳しく説明していく。


事が事だけにフェレットも手元の紙?に聞いた事を詳細にメモしていたが、その手は途中で止まる事となる。



「リンリナル魔法王国が消滅した・・・ですか?」


「うん」


王宮では既に情報を掴んでいたが民間には今も知らされていない極秘情報である。

さしものフェレットも この最新情報には眉をひそめた。


ハルカが飛竜に乗って出掛けたのを知っているので話の信憑性は高いが、そうで無ければ冗談にしか聞こえないほどの大事件である。

むしろハルカが怒って大魔法でかの国を消し飛ばしたと言った方が納得できただろう。


「全てを砂に変える巨大な光のドームですか・・。

出来れば冗談であって欲しい話しですね」


「我も冗談であって欲しかったぞ」 ボリボリ


「!」


ものに動じないフェレットであるが、いきなり目の前に人が出てくれば呆気にとられる。ハルカのとなりに座っていたのは 魔女そのものな衣装を纏った妖艶な美女。

そして その後ろには見るからに魔術師であろう男が護衛として立っていた。


出されていたビスケット風のお菓子を遠慮なく食べている彼女の片腕は無い。


「むぐ、ハルカよ。お主がその話をするという事は、この者は信頼できる男と言う事じゃな」


「アリス・・心臓に悪いから出てくる時は何か予兆が有った方が良い。フェレットはこの街のギルドマスターで信用できる。城で大臣でもしてた方が似合う男」


「ほほぅ。それなら全てを話しておいた方が良いじゃろう。

まだ遠いゆえ今直ぐ影響は無いと思うが、アレを恐れた魔物や獣がいずれこの都まで流れて来よう。今からでも対策しておく方が良いぞ」


魔物が来るの一言でフェレットは氷の顔を取り戻していた。

事の重大さを瞬時に理解したのを見れば彼の力量が分かる。


その様子に喜んだアリスは、話を進める為に自分が元リンリナルの国王ゲアアリスである事を明かし、今までの経緯を話していく。

いずれも ギルドマスターの立場で聞くような話ではない 国の存亡に関わるほどの驚愕すべき内容に頭をかかえるフェレットであった。



「魔法が役に立たず、ドラゴンが太刀打ちできない魔法の暴走ですか・・出来れば聞かない方が幸せでしたね」


「人の上に立つ者の宿命じゃ。諦めるが良かろう」


一つの街のギルドマスターの立場でありながら世界規模の大問題に巻き込まれ、恨めしい目でアリスを見返すが 平然とそれに反撃するアリス。

国王をしていただけに役者が違うようである。


まだ遠いとは言え、手の出せない災害が有る。

上に立つ者として掴んでおくべき情報であり、場合によっては住民を避難させなくてはならないが、人々にそれをどうやって説明すれば良いのか。

これから延々と続くであろう苦悩を思うと 退職したくなるフェレットであった。




カチャン☆


「どうしたニャ、ハルカ」


「退屈で眠ってしまったの?。可愛いわね」


ハルカはテーブルに突っ伏している。

一見すると子供が寝ているように見えるが様子がおかしい。


「ハルカ!、ハルカしっかりするのニャ」


「・・・・えっ、何で?。この子 息をしていないわよ」


「は、ハルカさん、冗談は止めましょう」


鋼の精神を持つアリスも鉄面皮のフェレットも大いにうろたえた。

2人共 人の死には何度も直面していて慣れているはずがあまりにも有り得ない出来事で混乱するばかりだ。



「陛下。進言 よろしいでしょうか?」


「ど、どうしたの、こんな時に。それより、貴方 蘇生の魔法は使えないの?」


「無茶言わないで下さい、陛下。 それに ・・

この方は寿命で亡くなられたようです。蘇生の魔法でも生き返らないでしょう」


「寿命?。何の話ですか!」


「私の見た この方の年齢は93歳となっておりました。陛下もご存知のように、私の鑑定魔法は国で一番です」


「「「えっ?」」」



ハルカ死す。


彼を知る全ての人々を震撼させるこの事実は その日の内に王都まで伝わっていた。



*****************




「おおっ、来たか。ふむふむ。意外と早かったの」


(ここは・・・・そうだった・・思い出した。死んだ人が来る場所とか言ってたな。

・・そうか、とうとう死んだのか)


ハルカが召喚させられて抵抗したときにたどり着いた異空間。

上も下も無い、人の感覚では表現しきれない不思議な空間であった。

以前と同じように老人のような話し方で語りかけてくる存在がいる。


「正確には寿命を全うした者が来る場所じゃな。落ち着いておるのを見ると自覚が有るようじゃの」


(まぁ ね・・白髪が数本有ったから 魔法で自分の事を調べたらガチの老人だった。

何時死んでも不思議じゃない歳だったよ)


「なるほどの。人ならざる力を使い無茶したからの」


何故か ハルカは長年付き合った茶飲み友達と話しているかのように自然であった。転移してからの出来事を懐かしそうに話し始める。


「フォッフオッ。そうかそうか。お主との約束じゃ、マーキングしておいたからの。地球に転生させてやれるぞ。行くか?」


(・・・それなぁ・・・)


「何じゃ、何か未練でも有るのか?。お主の魂に保有しておる徳は大きいから幽霊になられても困るぞ。そのまま転生すれば 次の人生も優秀な能力で生まれることが出来るじゃろう。さすがに今度は魔法は使えないと思うがの」


(1日だけ生き返らせて欲しい。後は何も要らない)


「ふむ。相変わらず無茶をするの・・出来ない事では無いが、持ってる徳を使い果たしてしまうぞ。そうなれば転生したときに人に生まれる事すら難しくなろうに」


ハルカは意識だけで苦笑いをする。

最後まで自分のしたいようにするつもりなのだ。


姿の無い老人は雰囲気だけでタメ息を返した。



***************



ハルカが目覚めると薄暗い部屋だった。


小さな明かりの魔道具が使われている。

ハルカ達が暮らしている家であろう 見覚えの有る天井が見える。


ハルカが埋もれるほど沢山の花に囲まれて棺の中に収められていた。

泣き疲れてそのまま眠ったのであろう少女達がソファーの上で寄り添っている。


ハルカはシシルニアとフレネットに軽く手を添えた。

こんな自分と仲良くしてくれた愛おしい子達。


ハルカは一つの未練を消す為にスキルを使う。

今まで魔法以外は自分のスキルに興味が無かったハルカだが、死んだ事によって持ち腐れだったスキル「能力譲渡」が感覚的に理解できた。


2人共商人の道に進むであろうから亜空間倉庫の魔法は役立つだろう。

この魔法は それぞれの魔法適正で使用できる規模が変わるため、巨大なハルカの魔法から分割した譲渡となり それによって彼の魔法が消える事は無かった。


シェアラの頭に手を添えるとケモミミがピクピクして可愛い。彼女は魔法の適正がほとんど無いので魔法は譲渡出来ない。


しかし 彼女には別の形で残していた。

今ではシェアラよりも身体能力が強くなったキュアラが彼女を守るだろう。

その為に毎日キュアラを連れ出してしごいていたのだ。


マウラは居なかった。

立場が複雑な彼女であるから ハルカが死んだ事でまた旅に出たのかも知れない。



ハルカがコッソリ部屋から出ると 自棄酒(やけざけ)でも飲んだのだろう、見知った沢山の顔が酔いつぶれて寝ていた。

その中にジョンを見つけたハルカは何本かのウイスキーを近くに置いて行く。



外に出ると少しだけ闇が薄くなっていた。


最後に会えなくて皆は怒るかも知れない。

夜が明けたら きっと離れられなくなる。

ハルカの残された時間は1日しか無いのだ。


大切な彼らと共に居たい気持ちは大いにあるが、それ以上に気にかかる最後の思い残しを消す為に行く事にする。


飛び立つ瞬間、ハルカにしがみ付いたのはノロだった。

意地でも付いて行くとその目は語っている。


ピアは ハルカが死んだ時点で契約が切れているため独り立ちしたのだろう。

ピアはこの世界に必要な存在であり 連れては行けないので丁度良かった。


ハルカは知らないが、ピアとマウラはハルカの隠れ家でずっと泣き崩れていたのだ。罪な男である。



最後に街を見渡した後、ハルカは街に来た時と同じく ノロと二人で旅立って行った。



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