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105、撤退しよう

森の緑の中をナメクジが這い回ったように迷走しながら砂の大地が続いている。


「これは凄いのう・・なんと恐ろしい光景ニャ」


ハルカとノロは飛竜のドンに乗って 斜め上空から光のドームを見下ろしていた。

動いているのかも分からない速度ではあるが、ウネウネと続く砂の帯が確実に移動している事を証明している。


問題はハルカ達にとってアレが何なのか分からない点であろう。

よもや 召喚された人間が引き起こしている災害とは想像すらできない。


ただ ハルカはこの光が自分と同じくらいの魔力で行われている事から 面倒な相手だと直感で感じ取っていた。

まともに相手をするなら命がけで行わなくてはならないだろう。



「ドン、精霊樹に帰ろう。目的は果たした」


「そうじゃのぅ。アレが何なのか分からぬでは対処のしようが無い」


ハルカの中でピアが悲しんでいる。

ピアには巻き込まれて消えていく精霊や妖精たちの声が聞こえているのだろう。

忸怩(じくじ)たる思いでは有るが対処の方法すら見当が付かない。

一度引いて色々な人の意見を聞いてからでも遅くは無いと思えた。


帰る支持を出したのだが、何故かドンの動きがおかしい。

緊張してカクカクと動いているかのようだ。



「***何か・・来る!」


「この気配‼うそにゃ、ここの森には居ないはず・・」


「ドン、高く飛べ。急げ」


ハルカの焦った声で叩かれたように動き出した飛竜が全力で高度を上げると、眼下をもの凄い火炎が走りぬけ 光のドームに打ち込まれる。


飛来するなり全力のブレスで攻撃したのは黒いドラゴン。

シッポだけが先端に行くほどサファイアのように青くなった美しい姿をしている。

ドラゴンはハルカ達など眼中に無く、何度も強烈なブレスを光のドームに打ち込んでいた。

森は燃え上がる間も無く一瞬で灰になり白い焼け野原を作り出している。

にも拘らず、光のドームはダメージを受けた様子も無い。

それどころか一回り大きく膨張していた。


「ドラゴンの攻撃を転化して自らのエネルギーに変えた?。ダメじゃん。

魔法で攻撃してもアレは消せない」


グゥルルァァアアアーーーーッッッ


ドラゴンは怒り狂った声を上げると速度を上げ光のドームに突撃していく。


「ああーっ、ダメにゃ」


光のドームに飛び込んだドラゴンは二度と出てくる事は無かった。

強靭な魔法耐性を持つはずのドラゴンが一瞬で砂に変えられたのだ。

それを証明するかのように またもドームの大きさが増していた。

その現実を眼にしたハルカとノロは言葉も無い。


ハルカは 対応策など思い浮かぶはずもなく、何もできずにフェルムスティアに帰還する事にした。




************




「オークの群れ、確認されました。左前方約200メートル」


魔物の群れが王都の近くに出てきたのはこれで三度目であり、今後も増えていくと予想される。物語に出てくるような魔物の氾濫とは違い、追い立てられて出てくる群れは統率されておらず 出現もバラバラであり、かろうじて各個撃破する事ができる。



「風魔法に乗せて矢を打ち込め、奴等をこちらに引き寄せろ。魔術師隊一斑は準備急げ。前衛はこちらに抜けて来た魔物を包囲殲滅。つまらん戦いでケガをするなよ」


オラテリスが率いる新設の騎士団は 冒険者と共同で王都防衛の一翼を(にな)っていた。

他の騎士団も防衛に当たっているが広範囲に防衛線を引き、近くの町や村にも人員が派遣されて人員が分散しているので 魔物が大軍では無いと言っても戦力としてはギリギリである。


森から出るなり矢で攻撃されたオークは怒りの声を上げて押し寄せて来る。

その数は50匹ほどの群れであり 普通なら緊急依頼が出されるほどの脅威である。

迎え撃つ側も50名で 数だけ見れば互角ではあるが、まともに戦っては身体的な優位からオークの方が優勢である。


「魔術師隊、用意。・・解除」


オラテリスが合図をすると 迫ってきていたオークの殆どは一瞬で目の前から消えた。あらかじめ作られていた落とし穴に落ちたのである。


大きな落とし穴のフタを 少しくらいの重さでは落ちないように魔法で強化して魔物をおびき寄せる。


一番多く乗ったタイミングでその魔法を解除したため、オークの8割は落とし穴の中で叫び声を上げる事となった。

運良くワナの範囲から外れたオークは騎士と冒険者が殲滅していく。

「決して一対一では戦うな」と言われて5人一組のチームで戦っているのでケガをする者はごく少数だ。


穴に落ちたオークは上からの魔法攻撃で何も出来ずに全滅させられた。

後は死体を全て穴に放り込んで埋めもどせば終り。

死体処理の時間と労力が軽減される事で長時間の任務に向いた戦いをしていた。


埋め戻しが終わると 魔術師達は次の場所に落とし穴を作っていく。


「騎士団はお上品に戦うものと思っていたが、なかなかエグイ戦いをするな」


「相手は魔物なんだし、気取っても始まらないだろう。来るのが分かりきっているんだ、ワナくらい使うさ」


「正直言えば、王子様が指揮すると聞いて半分諦めていたのさ。最前線で露払いに使われると思ってな。実際、他の騎士団に付いた冒険者はそんな扱いだろう。ところが 心配していた王子様は戦いに慣れていて度胸も良い。さらに魔物との戦いを知っている。ほんと助かったぜ」


王子オラテリスに付いたのは王都冒険者ギルドで最強とされるビルディンのパーティであった。そして、オラテリスとも顔なじみとなったフェルムスティアから来ていた護衛のパーティも同行している。


振り分けた冒険者の人数は他の騎士団と同じなのだが、戦力面では破格の強さとなっていた。心配された騎士達とのチームワークも問題は無かった。出陣の前にオラテリスとの模擬戦の相手を冒険者が務めた事で、彼らの力量は騎士団の面々をも驚かせ、冒険者だからと見下す者は誰1人居なかったからだ。


「助かっているのは俺も同じだ。フェルムスティアからの旅が無かったら 少し戦っただけで全滅していただろう。魔物の恐さも戦いも あの子が教えてくれた」


「惜しいなぁ、ハルカが居たら戦いも違ってたのに」


同行していた冒険者達は心から納得して頷き、騎士達はどんな恐ろしい旅なのかと恐怖した。


「すまんな。冒険者なら素材を回収したいだろう。今回は我慢してくれ」


「いいさ。今回の依頼は命が有れば大成功なんだからよ」


この戦いで1人の犠牲者も出さず、他よりもはるかに多くの魔物を退治した事で、オラテリスは他の騎士団からも信頼を受ける事になった。


共に戦った冒険者たちは 後に彼が街道の整備を進める時に大きな助けとなる。




**************




「アリス?」


「すまぬな・・留守中に上がりこんだ失礼はお詫びしたい。

立場上 休ませてくれる場所は ここしか思い付かなかった」


ハルカが精霊樹の隠れ家に帰ると 見覚えの有るオネェが倒れていた。

その左腕は付け根近くから無くなり、出血してはいないが 砂が固まったようになって断面に張り付いている。何故 彼女?がこの場所を知っているのか今は聞かない事にする。


「お助け申し上げるのが一瞬遅かった・・痛恨の極みである」


近くには影の魔法を使う男が護衛として付き従っていた。彼はアリスの密命を受け、文字通り影からハルカの動向を監視していたのである。ハルカの隠れ家を知っていたのはそのためであり、祖国の異変に気が付くのが遅れたのも それが原因である。


「その腕・・・、アリス あの光と戦ったの?」


「ほぅ・・さすがじゃのぅ。アレの存在を既に知っておったか。我が国の魔法使いが全力で打ち込んだ魔法でも葬る事が出来なかった。逆に反撃されて このザマじゃ」


「我が国?」


「あぁ、そう言えば 正式に自己紹介していなかったの。わしはリンリナル魔法王国 国王ゲァアリス・フォア・リンリナル。今となっては元国王か・・・国はあの光に飲み込まれてしもうた」


「!、なるほどだにゃ。ハルカ以外で その魔力の持つのも納得にゃ」


「あの光は全てを飲み込んで自分の力にしていた。魔法もドラゴンのブレスも」


ハルカは自分たちが見て来た事を話した。


「そうか・・我らが魔法を打ち込んだのは 自ら墓穴を掘ったも同じであったか。・・くやしいのぅ」


「アリスはアレが何か分かる?。まるで勝てる気がしないけど・・」


「アレの正体か・・国の恥であるが いまさらじゃな。アレは異世界の魔人が魔法を暴走させておるのじゃ。我が国の犯罪者が禁忌の魔法で召喚しおっての」


「「!」」


「無理やり召喚されて無茶な命令でもされたのじゃろう。この世界全てに復讐するかのような災害となってしもうた。あのような魔法を長時間維持するなど不可能じゃ。恐らく術者は既に死しておろう。恨みの思いが強すぎて魔法だけが残留しているのじゃと思う」


「耳が痛い話にゃ」


ノロはハルカを見て 改めて自分の行いを(かえり)みた。

召喚の途中でハルカが魔力を消耗し、能力が縮小していなかったら 故国であるサラスティアは焦土と化していたかも知れない。異世界からの召喚は呼ぶ方も 呼ばれる方も、リスクばかりで良い事など無い 忌むべき召喚魔法であったのだ。



「違うの。アレは恨みでしてるのでは無いの」


「ピア?」


「あの光の中から聞こえる・・帰りたい 帰りたいって」


「帰りたい・・か。それはそれで難しい話じゃの・・」


送還する魔法など存在しないといわれている。

まして相手が死んでいては交渉する余地すら無い。


進行速度が遅いとは言え今も移動しているのだ。

このままではいずれ大陸の全てが砂漠になってしまうだろう。


距離こそ有るがフェルムスティアの都も他人事では無かった。



久しぶりです。

いや、その・・・ロードス島戦記が・・・。

ゲーム大好き人間なので、こればかりは何とも。

来てくれる方に「ごめんなさい」。

気長に見守ってください。

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