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103、破滅の光

日本のとある地方都市。

そこに1人の青年が家族と暮らしていた。


青年は子供の頃に事故で両親を失ったが、父方の祖父母が苦労して青年を高校まで通わせてくれた。

そんな祖父母に恩義を感じている青年は就職し、今では仕事のノウハウも覚えたことで 小さな会社ながら主力と言っていい働きをしている。


「助けてくれた祖父母に幸せに成って欲しい」


付き合っている時から そう言って結婚した後も夫婦で祖父母と同居していた。

地方の農家であった祖父母の家は大きく、同居する事で寂しくないと大喜びである。

奥さんが妊娠し、さらに家族が増える青年は 家族の幸せを守る為に今日も仕事に出かけるのだった。


「じゃあ 行ってくるよ。体に無理するなよ」


「いってらっしゃい。無理はしないけど、そろそろ少しは動かないとダメなのよ」


そんな 何気ない会話をして車で出掛けたのが青年の最後の姿であった。

その日、ガードレールを乗り越えて丘の上から落ちたと見られる青年の車が発見された。


不思議な事に死体が発見されず、偽装ではないかと警察が捜査したほど不可解なものだった。



*************



光につつまれた青年が ようやく状況を確認した時、車を運転していたはずの自分が石畳の上に座り込み、古びた石造りの建物の中に居た。


さらに異常なのは青年を取り囲む複数の転がる者たちだ。


「成功したようだな。よもや熟練の魔術師が全滅するほど魔力を消費するとは驚くばかりだ。禁忌なのも頷けるというものだよ」


唐突に青年の後ろから声がする。

警戒しながら立ち上がり振り向くと、明らかに日本人ではない風貌の男が変な衣装をまとい 杖を持って青年を見ていた。


「喜びたまえ。異世界の者。お前は光栄にも我々に呼び出され偉業を成すための下僕(げぼく)となったのだ」


「呼び出した・・だと?」


「左様。お前には膨大な魔力が有る。せいぜい我々の為に働いてもらおう。隷属の魔法が施して有るからな、拒否する事など有り得ぬぞ」


「何を言ってるのか知らねぇが、お前らが俺をここに連れてきたんだな。今直ぐ帰してもらおうか」


「言っても分からぬらしいな。『*$&%#” 』」


ぐおぁああああーっ


青年の全身から耐え難い苦痛が押し寄せ悲鳴にも成らない声を出すだけで限界だった。異世界から召喚される者には最大級の強力な隷属の魔法が使われている為だ。


「言ったであろう。お前は逆らう事など出来ぬ。あらかじめ言っておくが、元の世界に返せと言われても、そんな方法など存在せぬからな。望むだけムダだ。大人しく我々の下僕と成るがいい。エサには不自由させんぞ、ははは」


「帰れない・・だと・・」


いまだに苦痛から解放されないが、青年には最悪な現実だけが聞こえていた。


やっと祖父母に恩返しが出来る。

結婚し新しい家族も増える。

これから自分の頑張りで そんなささやかな幸せを守り抜こうと心に誓っていたのに・・。

そんな家族を自分が行方不明となる事で不幸にしてしまう。

その絶望は体を苦しめている痛みより はるかに彼を追い詰めていく。

呼び寄せたと言って 平然と誘拐した事を正当化している目の前の男が憎い。


日本で見た 拉致被害者の親達が悲痛な訴えをしているニュースが頭を過ぎる。

幸せにしたかった祖父母にあんな悲しみを与えるのか?


拉致?召喚?、言葉をどんなに変えても悪辣な誘拐に変わりないだろう。

帰れずに死ねば誘拐殺人と同じだ。


それを当然の権利のごとく笑いながら見下ろしている男を殺してやりたい。

狂わしいほどの怒りと共に体を動かそうとしたとき、青年は体を流れるおかしな感覚を手にした。


男が隷属の魔法を行使したのは大失敗だった。

それは 青年の閉ざされていた魔力回路を強引にこじ開ける結果をまねく。


この上ない憎しみを伴って解放された膨大な魔力は暴走。

魔法王国リンリナルに潜伏していた秘密結社は正体不明の光と共に消滅した。


しかし、事態はそこで終わらなかった。



*************




「森が消滅しているじゃと?」


「はい。今朝方、異常な魔力の作用が確認された為、急行させた斥候の者共が確認いたしております。何名かは光に巻き込まれ 目の前で砂に変えられたとの報告がなされております」


魔法王国リンリナルの国王。

オネェなアリス こと、ゲアアリスは宰相からの報告に渋い顔を隠せない。


テロリスト達が勇者召喚を目論んでいると知れてから、その兆候を捕らえて一気に殲滅しようと目論んでいたのが裏目に出てしまった。

話を聞けばテロリスト共はその場で壊滅したと思われるが、彼等など比較にならない 深刻な危機を招いてしまった事に成る。


今も半径百メートルほどの光のドームが 徐々に移動しながら触れるもの全てを砂に変えていく。

森を跋扈している強大な魔物も一瞬で砂に変え、光の通った後には ただ砂漠が残されるだけであった。

青年の憎しみが自分を呼び寄せた世界の全てに向けられているような 容赦無い殲滅の魔法である。


さらに悪い事には光を恐れた魔物や野獣が追い立てられ、都の近くまで押し寄せていた。

王国は嘗て無いほどの臨戦態勢がしかれ、全ての戦力が都に集められた。


押し寄せる魔物の軍勢に広範囲の殲滅魔法が打ち込まれる。

穀倉地帯も壊滅し、王都はさながら荒野に孤立するオアシスのようになっていた。


しかし、今はそれを嘆いている暇など与えられなかった。

徐々に光のドームが王都に近寄って来る。


ゲアアリスは魔法による一斉砲撃を命じた。


この日、一つの王国が文字通り消滅した と後の歴史書には記されている。




リンリナル魔法王国の壊滅はすぐに周辺の国に伝わり 首脳陣を震撼させていた。

それが戦争による人間同士の争いであるなら珍しくも無い事だが、得体の知れない光によるものと報告され 深刻な事態と認識されたのだ。


かの国とは森を挟んでいるとは言え、隣国であるクラックス合衆国の首都スティルスティアの王城では 急遽要人が招集され対策会議が開かれている。


「正直 あの国が滅びても さして影響は有りませんが、報告を聞く限り何処まで信用して良いのか判断がつきませんな」


「いや、軽く考えてはならぬぞ。先日の死の霧に襲われた事を思い出すが良い。

国が滅びるのは呆気ないものだ。この都も明日は知れぬ。皆にはこの国の存亡の危機と考えてもらいたい」


「とりあえず、押し寄せるであろう魔物の大群を何とかしなくてはなりませぬな」


「死の霧と言えば、あの時の子供はどうしたのですかな?。

あの子供が災害を打ち消した、と言う者達もおりますが 有り得ないでしょう。

本当にそうなら 今回も助けてもらってはいかがですかな」


国の会議とは何処も似たようなものだ。

危機感が有る者、無い者。


そんなタヌキ達の話し合いなど無視した若者が 現実的な行動を起すのもまた一つの現象であった。


「我々は新設された騎士団である。よって過去の栄光は何一つ無い。ゆえに、今回 この国に迫る未曾有の国難を退ける事をもって最初の栄光としよう。

次代の王オラテリス殿下と共に戦う諸君は明日の英雄だ。共に魔物を蹴散らして我等の力を示すとしよう」


目の前に戦が迫っている訳ではないので従者ジンジニアの訓示も控えめだが、直接彼から伝わる覇気は騎士達を奮い立たせた。

彼らはこの後、王都防衛戦で名を残すこととなる。



その頃、ハルカは相変わらず木の上に引き篭もり、時々キュアラを連れ出して遠出しては、彼をボロ雑巾のように杖にぶら下げて帰ってきた。


「ハルカぁ・・大変だょう。悲しい声が聞こえる」


ハルカと契約した精霊の王、ピアが悲痛な顔で訴えて来たのは そんな時だった。



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