102、ハルカ 御乱心
精霊樹に取り付けられた 地上から百メートルの高さに有る新築のマイホーム。
日本で言うならタワマンの上層階の一部屋と同じような自宅だろうか?
ハルカは 静かで安らかな時を満喫していた。
この世界に来て 人目を気にせず自由に魔法が使えたのは嬉しいが、その反面、何度も命の危機に瀕し 地球では考えられない人々と関わって波乱万丈な日々だった。
好きな時に寝て 好きな時に活動した以前の自分がウソのような生き方である。
家の存在を知った女性陣がゴネるのは想定内だが誰もたどり着けないような場所だ。
ここなら 心の底から安らげるだろう。
そう思っていたのに・・・
「あー、居た居た。ハルカはっけーん」
開いた窓から覗いていたのは、有名な大賢者にして魔族とのハーフである錬金術師の少女?マウラだ。
しかし、どうやって此処に?。
マウラは そのまま窓から家に入って来た。
その背中にはコウモリのような羽が生えている。
「精霊樹の上でハルカの魔力を感じたから来てみれば、こんな面白い事してる。
内緒にしてるなんてズルいよー」
「どうしたの・・そのハネ」
「驚いた?。これでも ハルカのおかげで少しはサキュバスとして成長してるのよ」
「自分のせい??」
ハルカは まだ幼児体形でHをするための機能が開花されていない。
要するにマウラを成長させる行為は出来ない。
なので 成長してると言われても「冤罪です」としか言えない。
「ふふん。この前、オフロで私が失神するまで感じさせてくれたでしょ。
アレが原因で 能力が少し上がったみたいなのよね」
フロで迫ってきたマウラを夜の帝王時代のテクニックで満足させたのが原因らしい。
ハルカは知らぬ間に墓穴を掘っていた。
「ハルカ・・此処なら2人っきりだねー」
「ノロとピアも居るぞ」
「ぶー、そこは甘い言葉を囁くべきなのに」
拗ねるマウラは可愛いが、ハルカはそれどころではない。
ある物を目にして愕然としていた。
「マウラ、・・・頼みがある」
「ん♡、良いよ。何でもしてあげる」
マウラは期待に満ちた眼をキラキラさせている。
半分とはいえ確かに淫魔の血は受け継いでいるらしい。
「シェアラ達に伝言してくれ・・しばらく帰らない」
「えっ。ここに引き篭もるの?」
「少し違う・・。知りたい事ができた。魔法の特訓する」
「まぁいいわ・・分かったよ。伝言してあげる。ふふっ」
マウラは素直に頷くと 少しの間ハルカと一緒にゴロゴロして楽しんだ後、入って来た窓から出て行った。
一応 玄関はあるのだが、眼中に無いようだ。
ハネが生えて精神的に自由に成ったのかも知れない。
しかし、マウラは明るい表情とは逆に 言葉にならない不安を抱いていた。
ハルカの様子がおかしい・・まるでドラゴンと戦っていた時のような鬼気迫る雰囲気が感じられた。
でも、こんな時のハルカが1人になりたいのも分かっている。
彼女は心遣いのできるイイ女なのだった。
ハルカは静かになった室内で強くイメージを作り出していく。
目標とする魔法は「ステータスオープン」。
通常エンタメでは付いてて当たり前なOS的役目を果たすアレである。
自分限定で自分専用の解析能力のアレ。
リアルな日本で欲しいような欲しくないような能力の一つだったアレ。
それのイメージを再現すべく 自分に対しての鑑定魔法を構築しようとしていた。
今更な気はするが、ハルカが普段使っている鑑定魔法は自動的に危険感知する為の
魔法と言ってもいいもので本来の鑑定とは別物だ。
なので自分には使えず 全く新しく作り直す必要があった。
それほどまでして自分の現状が知りたかった。
ノロはベッドの上で丸くなり、興味深くその様子を見ていた。
マウラが街の中に有る家の上空にたどり着くと、家の前に馬車が止まり 10人ほどの人が上を見上げていた。
飛んでいるのを驚かれたのかと思ったが、マウラが降りていくと あからさまに
ガッカリした顔をされたので複雑な気分だ。
「マウちゃん、空が飛べたんだねぇ」
「シェアラ。この人たちは・・お客さん?」
「ん、ハルカに会いたいらしいの」
なるほど、とマウラは納得した。
空を飛んで来たマウラを見て ハルカが帰ってきたと勘違いしたのだろう。
彼女達は 日本で言うなら高校生くらいの年齢の少女ばかり。
王都に有る精霊殿の巫女たちだ。
「精霊の御子はいずこにおわしますでしょうか?。早くお会いしとう存じます」
「精霊のミコ?。ハルカの事なのかな?」
「そうみたい、王都からわざわざ来たみたいなの」
マウラは驚きと哀れみの入り混じった顔で少女達を見た。
何と間の悪いタイミングで来たのだ。
しかし、ごまかしても現実は変わらない。
マウラはこの場でシェアラに伝言を伝える事にした。
「シェアラ。ちょうど良いからハルカからの伝言を伝えるわね」
「ハルカから伝言?」
「用が有って 今日は家に帰らないんだって。留守番よろしくって」
「「「「「「「「ええーーーっ」」」」」」」」
色々な意味の驚く声が響き渡った。
「そんな・・ここまで来て会えないとは」
「で、マウちゃん。ハルカは何処に行ったの?」
「んー。それは今は私からは言えないかな。ハルカから直接聞いてね」
恐らく 秘密にしたい場所だろうと思い マウラはごまかした。
まぁ、ハルカはシェアラとシシルニアから追求されたら白状するだろうから時間の問題でしかないが。
そのハルカだが、早くも自分の詳しいステータスを見ることに成功していた。
もともとイメージの出来上がった魔法なので実現も早かったのだ。
ハルカは ステータスを確認すると しばし 呆然として現実を直視して後、完全にふてくされて寝床で毛布にくるまってしまった。ちなみに毛布も日本製である。
「ハルカ・・変だね。どうしたのかな?」
「行動が予測不可能なのは いつもの事ニャ」
そのセリフを証明するかのように 突然起き上がったハルカは亜空間倉庫から木製のテーブルとイスを取り出した。
家とセットで作ってもらった家具である。
ついで 大きな皿を取り出すと その上にスルメや裂きイカ、カルパスなど色々な
おつまみを載せていく。
ノロは小皿に乗せた裂きイカに飛び付き、ピアもチョコレートに喜んだ。
次にハルカが取り出したのは厚めのグラスと氷そして、ウイスキーだった。
これにはノロもピアも慌てた。
酔ったときのハルカは危険極まりないのだ。
「ニャーーッ!。ハルカ飲んではダメにゃ」
「ダメだよ、危ないよ、ハルカ。ここは都の上なんだし」
「いいんだ。これが飲まずにいられるか」
ストレートでウイスキーをあおったハルカの目は据わっている。
何時もは飲むと踊りだすほど陽気になるのに・・。
おまけに 言葉まで子供らしさが無くなっている。
驚いた事に 普段は外見に合わせて言葉遣いも変えていたようだ。
ノロとピアは大好きな食べ物を食べるのも忘れて、酒を飲むハルカを見つめていた。その姿は 酒場でオヤジ達が黄昏ている姿に似ている。
今にも涙ながらに演歌でも歌いそうな雰囲気を醸し出していた。
「そうだ。キュアラだ、キュアラは何処にいる」
「キュアラなら、今日は冒険者見習いの研修でギルドに行っているはずニャ」
「うむっ、大儀であった・・。行くぞ」
酔っ払いに理屈は無い。
フラフラと玄関を開けると杖を取り出して飛び立つ。
ノロは慌てて飛び付き、しがみ付く事に成功した。
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バターーン☆
「は、ハルカさん?。何事ですか」
数名の新人冒険者に座学を教えていたのはギルドマスターのフェレット。
新調された冒険者ギルドの会館には 新人冒険者用の研修室も作られていた。
そこに乱入して来たのはキュアラを探しに来たハルカ。
赤い顔をして目が据わっているので風邪を患った幼女にしか見えない。
「用が有るなら後で伺いますよ。今は遠慮して・・」
「キュアラ・・見つけたー。ヒック」
キュアラは本能的に身の危険を察して逃げようとしたが、一瞬でスタンの魔法をかけられて撃沈した。
酔って制御不能な魔法は部屋の全員を麻痺させ、この日は授業にならなかったと言う。レベルが高いはずのフェレットですら動けなくなるほど容赦のない魔法だった。
キュアラを拉致したハルカは 窓を開けて彼を杖にぶら下げたまま飛び立っていく。今のハルカを止められる者は誰も居ない。
少し後に、海の方角から眩い光が何度も確認され、海岸線には何度も津波が押し寄せたそうな。
今はまだ ハルカの奇行の意味を知る者は居ない。