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女王陛下の間諜  作者: 0
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04

ついに物語が動き出します(遅いわ)。

PMCは敬愛する小島監督のMGS4で初めて知りました。


「なるほど、諜報員の派遣会社……。傭兵派遣のPMCプライベート・ミリタリー・カンパニーは聞いたことがあるが、その考えは無かった。確かに、傭兵を大勢雇っての代理戦争より、民間の諜報員を数名雇って敵の中枢を叩く方が効率的かもしれんな」

 フォークスは私たちを奥の部屋に招き、事業についての説明を促した。

 私は一からすべて説明した。勿論、記憶喪失の話は無しで。名前はジョン・ベンソンとしている。これからの生活もかかっているだけあり、ケイトも真剣な面持ちだ。私はできるだけ言葉を選びながら続ける。

「はい。自国の諜報員には行かせたくない作戦を依頼することもできます。更に、雇いの諜報員なら政府の関与を否定することが容易になります。いざとなったら切り捨てる、ということも――できないことはありません。まあ、そんな時は訪れないことを祈りますが」

 ふむ、と、フォークスは考え込む姿勢を見せる。どうやら真剣に事業について考えているらしい。

「しかし、そんな条件で雇われる人材などいるのかね」

「金さえもらえれば何でもする傭兵がいるように、人材なら確保できるでしょう。それに」

 私は一息置いて、

「ここに一人、優秀な諜報員が」

 なるほどな、とフォークスは微笑む。

「君のように自信を持った男は大好きだ。それに我輩は自分の審美眼を信じているのでね。君は信用できそうだ。しかし、君以外はどうだね。金で雇われる諜報員は裏切り行為を行う可能性は高い」

「それは、あなた方の諜報員にも言えたことです。金が問題ではなく、裏切りは誰にも存在し得ります。金だけが目当ての諜報員か、一種の憧れが原動力の諜報員か……。私もそのくらいを見分けることはできます。私も審美眼に自身がありましてね」

 フォークスは真っ直ぐに私の目をのぞき込んでくる。私の事を見定めているのだろう。

 永遠にも思える緊張と沈黙の後、フォークスは豪快に笑いだした。

「気に入った。君ほど肝の据わった男なら信用できる。勿論我輩は、君の審美眼を信じる。だが、私が君たちの利用を推し進めても、頭の堅い中央の奴らは信用せんだろう。だから、力を見せつける必要がある」

 フォークスは座り直した。先程とは違う、軍人の気迫が伝わってくる。明らかに空気が変わった。

「というわけで仕事の依頼だ。実は、数か月前から、オークニー諸島周辺で不審船が度々目撃されているのだ。オークニー諸島には我々が新しく作った人工島がある。アフガン戦争が終わり、更なる技術進歩のための研究所が必要になってな。できるだけ極秘に研究がしたいので、ノース・アイルズの沖に人工島を作ったのだ。人工島、とは言うが実際の所は潜水艦に近い。普段は沈んでいて、必要な時に浮上する。通信手段はモールス通信。ノース・アイルズまで海底ケーブルで繋ぎ、そこからグレートブリデン島までは最近開発された無線のモールス通信を使っている」

 無線ですって。思わず私は声を上げる。そこまでの無線技術が実用化されたのは1890年代後半の筈だ。

「そうだ。これもスターリング博士が誕生に関わった。彼は今まで誰もなしえなった快挙をやってのけたのだ。もうすぐで音声通信も可能になるらしい。マイクロフォンを応用した長距離電話だと言っていた」

 おかしい。早すぎる。スターリング博士はやはり未来から来たのだろうか、という問いは確信に変わった。アレクサンダー・グラハム・ベルが電話の原型を発明してからまだ四年しかたっていない。しかも、無線電話なんて既存の技術では不可能に近い筈だ。原理を知っていなければこうも早くは発明できない。

「だが、不審船が確認された数日後、定時連絡が行われなくなった。不審に思い、確認要員を送っているのだが、人工島に潜入後、確認要員は全て行方不明になった。このような事件が起こったので、もう確認要員は送っていない。事件は解決した、と表向きには発表してある」

「表向きには何と?」

「ノース・アイルズと人工島とのケーブルが切れた、と。勿論、出鱈目だ。今もなおケーブルは繋がっていて、そこに人工島は存在し続けている」

「人工島……名前は何です」

「ノーチラスだ」

「さすがは潜水艦だ」

 私は軽口を叩く。しかし、フォークスは文学に乏しいようで、顔をしかめる。どうやら、「海底二万海里」のことは知らないらしい。

「しかし、その潜水艦にはどうやって潜入したんです」

「下部の搬入ドックからだ。そこは常に解放してある。というより、ハッチが無い。……そうだな、金魚鉢をさかさまに水中に沈めたものを想像するといい」

「何故、そのような構造なのです。入口が下部というのは納得できますが、ハッチがないというのは」

「常に気が抜けない、というのが設計思想だからだ。いつ誰が侵入してくるかわからない」

「兵士のストレスは」

「君が気にすることではない」

 フォークスは肩をすくめる。精神を鍛える訓練というのが妥当な所だろう。

「ノーチラスの内部構造は」

「上部に行くほど機密レベルが高い。地図は今は持ち合わせていないから、後日渡そう。君には、ノーチラスの現状調査、そして、音信不通と行方不明者の原因を解明してほしい。完全な装備バックアップが報酬だと思ってくれ」

「わかりました。では、手を打ちましょう。日時は?」

「来週の日曜日。土曜日に迎えに行こう。地図や装備品はできるだけ早く用意させよう」

 では、とフォークスは立ち上がり、握手を求めてきた。

「握手は私の中でのルールでね。交渉が成立したり、何かめでたいことがあったら握手をするんだ」

 私とケイトはフォークスと握手を交わし、サウサンプトン支部を後にした。


「あなたって、スパイだったんじゃない?」

 ケイトの家に着き、三人で夕食を食べている時ケイトはそう切り出した。

「交渉がすっごくスムーズだったもん。あなたの話術はすごいわね」

「そうでもないと思いますが……」

「いや、すごかったって」

「なあ、売り込みはどうなったんだ」

 チャールズは尋ねる。

「成功よ。ジョンったら、フォークス少将相手に物怖じせずに交渉してたんだから」

「そいつはすごいな。あんた、交渉人ネゴシエーターの素質もあるんじゃないか」

「そりゃそうでしょ。なんせジョンはスパイなんだから」

「そうだったな」

 チャールズもケイトも、豪快に笑い飛ばす。やはり、尋ねずにはいられない。しつこいようだがあまりにお似合いすぎる。

「お二人は……」

「だから違う!」

 今度は全部言い終える前に否定されてしまった。

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