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懐かしの地下洞窟

 勇者達の会議は未だ続く。煉や小雪の意見に賛同する者達と反対する者達とがいたが、多数決をとった結果、賛同派の方が多数であった。反対派は不満を見せていたが、それらを秀馬がなだめつつ、北の大陸への潜入作戦の具体的な方法について語り合っていた。そんな中、二葉が意見を口にする。


「私は、前に行った洞窟の地下が気になるわ。ハイドランジアがあそこにいたということは、魔王軍に関連する何処かと繋がっているんじゃないかと思うんだけど」


 それに一同は軽く驚く。二葉は今まで、会議の中で発言する事はほとんど無かった。彼らの反応に、特にリアクションを見せずに二葉は続ける。


「まあ、確かに繋がっているという保証は無いわね。でも、探ってみる価値は有ると思わない? 地上を歩いて海を渡って北の大陸に行くより、早く行ける……かも知れないし」


 勇者達は二葉の提案を受けて考え込む。そして、確かにそれも良いかも知れないと考える。そこで煉が意見を言う。


「だが、狭い洞窟内だと、万が一の時に逃げ場が無くなる可能性が有る。待ち構えられて、挟み撃ちにでもされればどうしようも無いぞ」

「その時は、全力で戦えば良いわ。あなたが言った通り、魔王軍と戦うのならそれなりのリスクは負わないといけない。そうでしょ?」

「……まあな。馬鹿正直に正規のルートで行くよりは案外安全かも知れん」


 二葉に言われて煉は頷く。他の者達も納得したように頷いた。過半数が支持したのを確認した秀馬は話を切り出す。


「じゃあ、ルートについてはそれで良いね。次は各班のメンバーの振り分けだけど……」


 やがて班決めは終了し、秀馬をはじめとした六人はラグエルと共にリノルーヴァへと向かうことになった。その前に彼らは王や貴族に声をかけて、人を集める作業に入った。



 ◇



 司東煉を含めた六人は、現在洞窟を進んでいた。メンバーは煉の他に御堂小雪、石岡創平、フレッド・カーライル、波木静香、そして振旗二葉である。


「久しぶりね、ここは。私達が初めて戦闘をした場所。炎のドラゴンがものすごく強くて、やっとの思いで倒したところに、ハイドランジアなんていうもっと強いのが出てきて……あの時は本当に嫌になってしまったわ」

「オー、でもみんなで協力したからどっちも何とか倒せたネ!」


 二葉の呟きに答えたのはアメリカからの留学生であるフレッドだ。日本語と英語の他にフランス語、ドイツ語、イタリア語などを自在に操るマルチリンガルである。


「そうね……、あれは一見みんなで協力して倒したかもしれない。でも、実はあの戦いはある人の予定通りに運ばれていた」

「ああ、藤川だろ? アイツがドラゴンから逃げようとした連中を説得したり、指揮も取ってたしな。ハイドランジアとの戦闘の時も、俺は倒れてたからよく分かんねぇけど大活躍だったって聞いたぞ」


 二葉の言葉を受けて創平が口を開く。そんな彼の反応が予想内のものだったのか、二葉は皮肉気に笑う。


「うふふっ、そう言えばそういう事になってたわね。でも、それは少し違う。御堂さん、あなたはあの時もいたわよね?」


 ハイドランジアとの戦闘時、彼女の放った広範囲高威力炎攻撃は、ステータスの魔防の値が高いとは言えない者を一気に戦闘不能に陥らせた。その中には、防御系のステータスが低い煉や、魔系のステータスが低い創平などを含めた大多数が含まれていた。そんな中で意識を保っていたのが小雪や二葉である。小雪は二葉の言葉に答える。


「ええ。確かに知っていますけれど、言ってよろしいのですか?」

「良いんじゃないかしら。あの戦いが全て、神代君の思いのままに動いてたってことくらい言っても。ああ、一応ここだけの話って事にするわ」

「ワッツ? どういうことデースカ? ミスター・カミシロの思いのままというのハ?」


 フレッドは英語なまりの日本語で疑問を呈する。二葉は返答する。


「ハイドランジア戦で、本当に活躍してたのは神代君だったのよ。でも彼は、その功績を藤川君のものにするように言ったの。自分が活躍したら不満が集まるだろうけど、カリスマのある藤川君だったら不満は出ないだろうってね」

「オー、ミスター・カミシロはジャパニーズらしく謙虚だネ!」

「謙虚というよりは、単に目立つのが嫌いなのよ。私と同じようにね。でもたぶんね、目立つのを嫌がる理由はそれだけじゃないのよ」

「ワッツ?」

「あまり人に知られたくないことをやろうとしている。確証は無いけど、何となくそんな気がするわ」

「知られたくないコト? ゲイシャ? ハラキリ?」


 眼をキョトンとさせて呟かれたフレッドの言葉に、創平は思わず吹き出す。二葉も笑いながら答える。


「うふふっ、それは違うと思うけど、もしかしたらそれ以上の事をしているのかもね」

「それなら神代のところに行く班に入れば良かったんじゃないのか? あいつが何をしようとしてんのか調べられるだろ」


 煉は質問する。


「そうね。そうするのも良かったかもね。でも、この洞窟がどうなってるのかが気になってたのよ。もしもあの時ハイドランジアの『誰か一人を差し出せ』という言葉に従って、私が生け贄になった場合どうなってたんだろうってね。だからこそ、ここを通ることを提案した訳だし」

「そうか」


 二葉の返答に煉は軽く頷く。その後も彼らは暗い洞窟を進んでいく。途中でネズミやコウモリ、トカゲといった魔物達と戦うことになったが、煉達は軽々とそれらを片付けた。


「あの時はちょっと苦戦したけど、今では全く相手にならないね。どれだけ倒しても経験値も全然入んないし」

「私達も成長したという事ですね。ただ、少し疑問が有ります」


 しみじみと呟く静香に小雪が言う。静香は聞き返す。


「疑問って?」

「ええ。私達は一種の催眠術らしきもので、生物を殺すことに対する耐性を付けました。私達は当たり前の様に、哺乳類と思われる魔物を殺せます。しかしこれは、おかしいと思いませんか? 私達が平気で魔物を殺せるのなら、些細なイラつきで人間に殺意を覚えても良いと思います。私達はこの世界に来てから、幾度となく意見交換会を行っています。それにより、自分の意見を否定される、という機会も増えました。中には自分の意見が常に少数派で、これまでにほとんど反映されたことが無い人だっているでしょう」

「いや、それは……だからって殺そうとまでは思わないだろ……?」


 小雪の語りに、創平は動揺しながら返す。


「そうでしょうか? あんな催眠術を受けているのなら私達の人格は、元々のものとは違ってたって良いはずでしょう? そもそも、この死と隣り合わせの異世界では極限状態になって、普段の自分では考えられない事をしたっていいでしょう? しかし、私達は皆、割と冷静です。思えば、最初にこの世界に召喚された時だってそうです。皆さんすぐに、異世界に飛ばされた事を受け入れました。普通、異世界に突然飛ばされた、なんて言われてもほんの数十分程度では受け入れられないでしょう」

「つまり、どういうことかしら?」

「都合が良すぎるのです。恐らく私達の脳には、この世界の『神』にとって都合良く動くように、何らかの作用が働いています。それにより、この世界の私達は少しいびつな行動を取っているのです」

「小雪」


 二葉に促されて語る小雪に、煉が短く声をかける。小雪はハッとする。


「ああ、失礼しました煉君。ただ、どうしても言いたかったのです。『自分』を信じすぎるのは危険かも知れない、ということを」


 煉と小雪の境遇を知らない者にとっては何が「失礼しました」なのかが分からないが、特に追及は無かった。その後も彼らは下を目指して歩き続ける。すると前方から、何かが飛んでくるのを一同は感じ取った。


「ルートが二つに別れてるのを発見した。ゆるーく下に進む道と、急激に下に向かう道。どっちに行く?」


 声の主は、妖精族のマリア。体を透明にして姿を消すことが出来るスクルアンという種族であり、煉の契約妖精でもある。煉達に同行していた彼女は背中の翼を活かして先行し、偵察をしていた。そして、一本道になっていた洞窟が二手に別れていた為、煉に指示を仰ぎに戻ってきたのだ。


「そうだな……個人的には急激に下がる方が気になる。お前達はどうだ?」


 煉が一同に意見を求めると、全員同じく彼に賛成した。しかし、件の分岐点にたどり着くと彼らは意見を一変させた。


「ちょっ、急激ってこれかよ!」


 創平の声がこだまする。マリアの言う「急激に下に向かう道」と聞いて彼らは、少し傾斜のある下り道を想像していた。だが、彼らの目の前にあったのは傾斜九十度――垂直な穴だった。流石に危険であると彼らが意見を再び一致させたところで、下からは何か、人の声のような響いた。


「煉君、私、下がものすごーく気になるのですが」

「待て、気持ちは分かるが死ぬ気か?」

「でもよく考えたら私達、この世界では頑丈でしたよね。というか魔術を上手く使えば普通に安全に降りられますね」


 小雪が何処か楽しそうに言うのに、煉は突っ込みを入れる。


「オー、アンダーから聞こえるボイス! すごい気になるネ!」

「うん。調べられそうなものは調べないと」

「そうだな。行こうぜ!」

「待てお前ら。この穴を落ちるなんて危険だ!」

「うふふっ、もしかして司東君、高所恐怖症かしら?」


 いつの間にか煉以外のメンバーは下に行くことに乗り気になっていた。


「それじゃあ行くヨ! ヒアウィーゴー!」


 ノリノリのフレッドが穴に落ちていったのを皮切りに、創平、静香、二葉も続いていった。


「待て小雪。まずは落ち着け。ここは――」

「はーい、怖くないですよー」

「待て待て待て待て! ああああああーっ!」


 小雪に無理矢理突き落とされた煉は絶叫する。小雪は氷属性魔術による雪を降らせて、地面に積もらせようとする。風属性使いのフレッドは下に杖を向けて強風を発生させて落下速度を落とし、水属性使いの静香は全員の体を泡のバリアで覆い、土属性使いの創平は泡のバリアを硬い岩石でコーティングする。勇者達が落ちていく中、マリアは翼を使って優雅に降下していく。最終的に、彼らは全員無事に着地出来た。


「お前ら……覚えていろ」


 煉は青い顔でそう言った。

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