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既視感のある世界

「んん、これは素晴らしいですな」

「姫とメイドのカップリングは正義ですぞ。ナイスカップリングですぞ」


 マリーカとエリスの会話を観ていた者と聴いていた者が興奮したように言う。


「それじゃあ、もし有用な情報が有ったら教えてね」

「んん、了解以外ありえない」

「我はずっとこれを楽しみますぞ」


 数分前からずっとこの部屋にいた聖騎は、エリス達には好意的に接したつもりにも関わらず怪しまれていることを不本意に思い、しかしそれは心の奥底にしまいこんで退室しようとした。この部屋は『ウォッチ』と『聴きリスン』といったユニークスキルを持つ者達に割り当てられた部屋である。


ウォッチ』は離れた場所や物体に遮られた場所を観て、その光景を別の者とも共有できるという能力である。対象への距離や障害物の厚さ、そして共有する人数及び共有対象との距離に比例した魔力を消費する。また、普段の視力も少し上がる。


聴きリスン』は遠くの音や小さな音でさえも聴く事ができ、その音を別の者とも共有できるという能力である。対象への距離や音の増幅度、そして共有する人数及び共有対象との距離に比例した魔力を消費する。また、普段の聴力も少し上がる。


 聖騎は『騙しチート』の能力による幻覚によってエリスとマリーカの目の前に自分の姿を映し出し、『観る者ウォッチャー』である山田龍やまだりゅうが観た映像と『聴く者リスナー』である柳井蛇やないへびが聴いた声を共有した状態でエリス達と、能力による幻聴を使って話をしたのだ。ちなみに龍と蛇はクラスで2人合わせて龍蛇ロンジャ兄弟という仇名を付けられている。


 聖騎に二人が協力した理由。それは一種の洗脳によるものである。聖騎は二人にそれぞれ『自分が求めているもの』の幻を見せた。自分が求める理想の世界。それを実現させた聖騎に従う事にしたのだ。また、他にも数人を現時点では仲間にしている。聖騎が退室する直前、蛇が声をかける。


「しかし貴殿。我は『勇者伝説』とやらの内容に聞き覚えがありますぞ」

「どういうことかな?」

「最近のネット小説などでは『クラスの者全員が異世界に飛ばされる』という展開の話が流行っているのですぞ。我々のこの状況、そしてエリス氏が話した『勇者伝説』の登場人物などが、それらの小説の内容と酷似しているのですぞ」

「んん、それは我も思いましたな。古木氏のようなさえない主人公が異世界に飛ばされ、チートな力で無双してハーレムを作るのですな」


 蛇の話に龍が付け足す。彼らの独特な話し方が聖騎は気になるが、それよりも気になる単語があった。


「チート?」

「んん、貴殿には馴染みの無い使い方でしたな。英単語の『cheatチート』は『騙す』や『ズルをする』という意味ですが、ネットのスラングではゲームでズルをする事を『チート』と言い、転じて『反則級に強い人』をチート、もしくはチートをする人と言う意味で『チーター』と呼ぶことになったのですな」

「ネット小説ではこの『チート』と『ハーレム』を組み合わせた『チーレム』というものが一つのジャンルとして確立しているのですぞ」


 聖騎はとりあえず納得するも、疑問が生じる。


「なるほどね。でも、彼の体力が凄いというだけのステータスじゃ大した活躍も出来ないんじゃないかな? それにユニークスキルも『疼き』とかいうよく分からない能力だし」

「チッチッチッ、甘いですぞ神代氏。件の小説の主人公も役割の持てないゴミステータスである事がよくありますぞ。そんな主人公がある事をきっかけに突然強くなりますぞ。そのきっかけは一見ゴミなスキルによるものも多いですぞ。しかし最初から凄いステータスとスキルで好き放題する話も多いので一概には言えませんぞ」

「ふうん。元の世界に戻ったら、僕もそういう小説を読んでみようかな……というか、当たり前のようにスキルとかステータスとか言っているけれど、それはゲームの世界に閉じ込められたとかそういう感じの話なのかな? 僕もそういう作品がアニメになって話題になったのは知っているけれど」

「んん、そういう訳でもありませんな。確かにゲームに閉じこめられる系の話も多いですが、ゲームのゲの字も出てこないのにも関わらず当たり前のようにスキルやステータスが出てくる小説がより多いですな」

「へぇ……。そっちは分かったよ。この世界がゲームっぽいのも気にする必要はないのかな? でも……まあいいや。それはともかく僕はハーレムっていうのも気になるな。こう言うのも何だけど、彼みたいなのが多くの異性を惹き付けるなんて想像できないけれど」


 聖騎の疑問に二人は笑う。


「我々が話すような小説に出てくるヒロインは、陰惨な状況に遭遇している場合が多いのですぞ。そこに現れた主人公がかっこよく助けるのですぞ。その主人公の強さと優しさの前には見た目がどうであろうと関係ないのですぞ。それを繰り返してハーレムを作るのですぞ」

「んん、吊り橋効果以外ありえない」

「そうなんだ。でもその主人公が好意を集めるのは良いとして、ヒロイン同士の関係はギスギスして大変そうだね」

「みんななかよし、喧嘩はしても致命的にまではギスギスなんてしませんぞ」

「これも主人公の器の大きさによるものですな。もっとも、創作物に無駄なリアルなど求められてないというのもありますがな」

「なるほどね」


 聖騎はとりあえず納得する。すると龍と蛇が突然声を上げる。


「どうしたの?」

「んん、我の魔力が切れたようですな。スキルの使い過ぎ以外ありえない」

「我もですぞ。もうすぐいいところだったのに残念ですぞ」


 聖騎は二人がエリスの部屋の覗き見と盗聴をしていたのを思い出す。彼自身との共有は解除していたため、聖騎はエリスの部屋の現状を知ることができない。


「まあ、仕方ないよ。今日は疲れているだろうし、ゆっくり休むと良いよ」

「お気遣い感謝ですぞ」

「お言葉に甘えさせてもらいますな」


 聖騎は再び部屋を出ようとする。しかし思い出したように振り向く。


「そうだ。参考までに聞くけど、君達の知る小説では今後どういう展開が来るのかな」

「今後は街での特訓が続きますぞ。そしてしばらくしたら――――」



 ◇



 30日後。魔術や体術の特訓をある程度受けた聖騎達は、その成果を確かめるために、街から少し南にある洞窟に向かった。最下層近くには恐るべき魔物が巣食っているが上に出てくることは無いと言われている。一方で、比較的浅い部分には弱い魔物しかいないので、初心者の魔術師が力試しをするのにはもってこいである。保険として国でもトップクラスの魔術師も6名来ている。彼らは基本的に手を出すことは無いが、もしもの時は彼らも全力で戦う。


 勇者達35人は6人の班を5つと5人の班を1つ作り、見張りの魔術師を1人付けた状態で洞窟内を散策する。班――パーティは勇者達のリーダー、藤川秀馬を中心とした数人が全員のステータスを見てバランスの良いように編成した。聖騎のパーティは『斬る者カッター』国見咲哉、『観る者ウォッチャー』山田龍、『聴く者リスナー』柳井蛇、そして『疼く者ティングラー』古木卓也の5人である。


 トップクラスの攻撃と、触れたものを斬るユニークスキル『斬りカット』を持つ咲哉が前衛に立ち、彼が危ないときは、高い体力と魔攻を持つ蛇と、高い体力と攻撃を持つ龍が前に出る。戦闘に役立つスキルは持っていない彼らだが、それぞれ魔術と体術を鍛えた彼らは中々のダメージを生み出せる。共通して俊敏が低く、攻撃を避けるのが苦手という弱点はあるが、高い体力はそれを補う。


 だがそれでも体力には限界がある。そこで後衛の聖騎の出番である。彼の回復魔術でダメージを受けた三人を回復する。また、能力付与魔術で三人の戦闘力を底上げして効率良く敵を倒す。そして彼自身も強力な攻撃魔術で攻める。


 魔術面では優秀な聖騎だが、致命的に体力が低いという弱点がある。後衛とはいえ何が有るのか分からない。そこで、圧倒的な体力を持つ卓也が彼の側で待機し、攻撃が来たときは盾になる。


 これは聖騎自身が考えた陣形である。パーティ編成を考えるメンバーとして推薦された聖騎が自分の力を最大限に発揮すべく考えたものである。扱いづらい卓也を採用した事や、ただひとつの5人パーティになることを自分から名乗り出た事で、反対する者はいなかった。唯一、永井真弥が不審げな表情をしたものの、特に何も言われなかった。


 聖騎達のパーティは彼の想定通りの動きをし、大型犬程度の大きさのネズミのような生物を次々と倒していった。数体倒したところで、彼らのレベルが上がる。


 レベルが上がる仕組みだが、敵の魔物を倒した際に、その魔物に与えたダメージの分だけ経験値が入る。例えば龍と蛇が半分ずつのダメージを与えて敵のネズミを倒したときは、ネズミが持つ経験値が二人に半分ずつ入る。逆に言えば、ダメージを与えなければ全く経験値を手に入れる事が出来ない。最初にレベルアップしたのは咲哉で、次に龍と蛇、その後聖騎がレベル2となった。だが、それは実際にステータスカードを見ないと確認出来ない。そして、戦闘中にそれを確認している暇は無い。よって彼らの中でレベルアップに気付いた者はいない。しかし、レベルアップは彼らに圧倒的な変化をもたらした。


 確かに彼らは今までレベル1だった。しかしこれまでに魔術や体術の訓練を受けてきた。レベルが上がった時にこれまでの努力を数値化したものがステータスに反映される。体力を失うほど体力が上がり、魔力を失うほど魔力が上がり、武器や自分自身の体で何かを攻撃すれば攻撃が上がり、攻撃を受けるほど防御が上がり、魔術を使うほど魔攻が上がり、魔術を受けるほど魔防が上がり、走るほど俊敏が上がる。そして、全体的に訓練しつつ己の得意分野を集中的に伸ばしていった彼らはより洗練された戦いをし、加速度的にレベルを上げていった。


 ただ一人、古木卓也を残して。



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