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第三章エピローグ・電脳の聖騎士

「ついにマスターウォートが表舞台に現れましたか、天原先生」


 モニターを眺めていた神代怜悧は天原考司郎に向かって言った。天原は笑う。


「そのようだな。マスターウォート――私のアバターは一体何をしてくれるのやら」


 マスターウォートとは、天原の思考パターンを忠実に再現した人工知能を擬人化したものである。開発者は近衛茉莉であり、天原に気の遠くなるような数の質問を答えさせ、その結果を元に思考パターンをコピーしたのだ。


 人工知能の名は『PALADINパラディン』。Perfect And LAureate Doll Incarnated Naturally ――自然に実現された完全で優秀な人形――の略だ。人間との会話を自然に行う事を目的として開発された人工知能である。聖騎達がいる『コロニー・ワールド0207』にはマスターウォート以外にも『PALADIN』が導入されている。エルフリード王国のメイド『マリーカ・バーミリオン』やヴァーグリッドに仕える『サンパギータ』は茉莉の思考パターンをコピーしたものである。そして、怜悧も『バーバリー・シーボルディ』という個体をヴァーグリッド軍に送り込んでいる。


 ちなみに、聖騎の名前はこのPALADINが由来となって付けられた。paladinという単語は日本語で聖騎士と訳されている。PALADINの存在など知らない聖騎が『パラディン』という偽名を使っているのは偶然ではない。


「それにしても、本物とは違って随分とスリムですね」

「せっかく好きなように自分を創ることが出来るんだ。それに、魔王の側近がメタボリック体型では格好が付かないだろう。私だって容姿が良ければ、自分をそのままあそこに送っていた。君のようにな」

「うふふっ、もしかして口説いています?」


 天原の言葉に怜悧は笑いながら問う。


「そんな無駄なことはしないさ。どんなに足掻こうと魔王ヴァーグリッドには敵わないからな」

「うふふっ、その通りです。ヴァーグリッド・シン・ダーイン・アーシラトス――――私の理想の男性像を再現したPALADINであり……うふふっ、うふふふふっ、うふふふふふふふふふふっ………………」

「ああ、壊れてしまった」


 恍惚とした表情で笑いだした怜悧を見て、天原は冷静に呟く。ちなみにここは今でも彼の部下達が観察を続けているのだが、怜悧に注目が集まることはない。彼女がおかしくなるのはいつものことである。だが、中には思わず奇異の視線を向ける者もいた。


「天原さん、神代さんは一体……」

「ちょっとした発情中だ。気にしなくていい」

「発情……ですか」


 天原にそんな質問をしたのは九条琴乃くじょうことの。最近コロニー・ワールド計画に参加した京都出身の若き研究者である。彼女の他にも数名が怜悧の奇行に戸惑っている。彼らも京都出身だ。


「まあ、それはともかくだ。九条君――いや、君達『京都』が協力してくれて感謝しているよ。金、人員、そして権力。どれもこれも私達の研究に役立っている」

「いえ……技術的な事ではあまりお役に立てなくて、むしろ申し訳ないです」


 怜悧を無視して話題転換した天原の感謝の言葉に、琴乃はどこか悔しそうに謙遜する。


「君達がこの研究に携わって、二ヶ月ちょっとしか経っていないんだ。そう卑下するものじゃない」

「そう、ですね……ありがとうございます」


 優しく笑う天原に、琴乃は軽く頭を下げる。すると、正気に戻った怜悧が口を挟む。


「しかし、京都の皆さんがこの研究に関わったのは四ヶ月程前ではありませんでしたか?」


 その言葉に琴乃を含めた京都出身の研究者達は目を見開き、天原はやれやれと呆れ顔を作る。


「すべてお見通しだったことをバラしてしまうのか、神代君」

「別に隠すことによるメリットも無いと判断しましたので。ご不満でしたか?」

「いいや、構わない。それに今更どうしようもないしな」


 二人の会話を、京都の面々は驚愕しながら聞く。


「別に固くなる必要はありません。私はあなた方とは同じ研究をする者として友好な関係を築きたいと思っておりますので。あなた方が三年前、刺客を天振学園に入学させ、そして四ヶ月前には聖騎さん達と一緒にコロニー・ワールドへと向かわせた事など、私達には筒抜けです。九条さん、あなたが変装してこの学園の教師として赴任し、刺客を聖騎さんと同じクラスになるように手引きした事も」


 淡々と話す怜悧に、琴乃達は不気味さを感じる。先程までの発情している様子とのギャップがより一層、恐怖を煽っていた。これも計算ずくなのだろうかと思いつつ、琴乃は声を震わせる。


「は、はい。コロニー・ワールド0207に向かった司東煉と御堂小雪は私達の仲間です!」

「よく言ってくれました。これで私達は友好になれますね」

「そ、そうですね……」


 気まずそうに琴乃は頷く。すると天原が口を開く。


「ちなみに君達の目的も察しがついているよ。大方、タカマガハラに行きたいとでも考えているのだろう」

「はい……その通りです。……えっと、その、本当に実在するのでしょうか? タカマガハラは」


 気まずげに頷きつつ、琴乃は質問する。すると天原はニヤリと笑い、無言で頷いた。琴乃達は嬉しそうに、小さな笑みを浮かべる。天原は口を開く。


「ただし、この世界からタカマガハラに行く方法は現時点の私達にもわからない。そもそも、行くことが可能かどうかすらもな。だからこそ、任意の世界とのゲートを繋ぎ、行き来を可能にすることを目的の一つとして研究を進めている」

「それ以外にもコロニー・ワールド計画では多くの研究を行っていますね。遺伝子情報をプログラミングして新たな生物――魔族や、ファンタジーに登場するようなドラゴンなどのモンスターですね――を生み出し、その生態や環境に与える影響、人間とほぼ代わらない人工知能の性能、ヒトが伝えたい情報を脳内からニュアンスを読み取り、それを変換して伝えたい対象の脳内に直接送る翻訳システム、そして、魔王という驚異が存在する世界で人間がどのような行動をとるかというシミュレーション……その他諸々。コロニー・ワールドは最高の実験場です」


 天原の言葉に続いて、怜悧は楽しげに語る。琴乃達は改めて、この研究の重大性を思い知る。何の罪も無い中学生達を送り込んでまで行っている研究。琴乃達が同郷の近衛茉莉から研究の存在を知り、彼らが幼い頃から夢見た、日本神話に登場するタカマガハラという世界を一目でも見ることが出来るかも知れないと思った時、彼女達を欲望が支配した。しかし、司東煉や御堂小雪を実際に送り込むかどうかについては最後まで迷った。二人が異世界に向かう事を決意してもなお迷いは消えなかった。だが、目の前のマッドサイエンティスト――――神々怜悧は、自分の息子を何の躊躇いもなく危険な異世界に送り、あまつさえ彼が戦争を利用しようとしている事すら楽しんでいる。彼女達は疑問に思う。神代怜悧は本当に赤い血の通った人間なのだろうか、と。


「そう言えば――茉莉はまだドイツでしたか。かの悪神……おっと、これは秘密でしたね」

「相変わらず興奮すると口が軽くなるな、君は。困ったものだ」


 うっかり口を滑らせようとした怜悧を天原はたしなめる。琴乃達は彼女の言葉が気になったが、知りたいと望んでも無駄だろうと悟り、言及はしない。


「さて、そろそろ私達も観察を再開しようじゃないか」


 天原の言葉に一同は頷き、モニターへと視線を戻した。

現時点での勇者達の動向

リノルーヴァ帝国

神代聖騎

ヘカティア大陸(北の大陸)

舞島水姫 永井真弥 黒桐剣人 山田龍 柳井蛇 土屋彩香 草壁平子 宍戸由利亜

ラフトティヴ帝国

国見咲哉 西崎夏威斗 桐岡鈴 佐藤翔 鈴木亮 高橋梗 吉原優奈 数原藍 有森沙里

エルフリード王国王都

藤川秀馬 武藤巌 司東煉 石岡創平 振旗二葉 数原椿 緑野星羅 波木静香 渡瀬早織 面貫善 御堂小雪 フレッド・カーライル 伊藤美奈 鳥飼翼 浅木初音 百瀬練磨 久崎美央

エルフリード王国北部

古木卓也

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