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リャーナ領争奪戦

 ラクノン軍のリャーナ家領地への進行が始まった。リャーナ家は他の領地を攻め落としたばかりである。無論ラクノン軍が攻めてくるのに備えてかなりの数を守備に割いているが、今回のラクノン軍の規模はこれまでのものを大きく上回っていた。まるで守りの事など全く考えていないのではないかと、リャーナ家配下の守備兵は思った。だからといって逃げるわけにはいかない。領地を守るために彼らは迎え撃つ。


「うおおおおおおお!」


 遠くからは矢や魔術による攻撃が飛んでくる。守備兵達も同様に弓を引いたり呪文を唱えて応戦する。しかし敵の攻撃は激しく、味方は次々と倒れていく。


「くっ……」


 守備兵は呻きつつも、弓を引く手を止めない。敵も同じように倒せていると信じて、矢を放ち続ける。


「隊長、何か相手の攻撃、激しくなってきてません?」

「気のせいだ。手を休めるな!」


 そんな話し声がその場から発せられる。それでも守備兵達はひたすらに攻撃をする。だが、敵の攻撃は指摘が上がった通り激しくなってきているのではないか、という考えが守備兵達の間に蔓延る。それを察した隊長は声を上げる。


「お前らが今感じてるのは錯覚だ! ただ敵を倒すことだけを考えろ!」

「はい!」


 部下達は返事をする。そうしている間にも仲間達はバタバタと倒されていく。辛うじて残っている者達も無傷なのはほぼいない。やがて、残りも両手で数えられる程度まで減った。


「ええい! 増援はまだか!?」


 隊長は思わず叫ぶ。守備兵の中の伝令はラクノン軍を見掛けた時点で既に領主のもとへと送っている。


「早く、来てくれ……ぐふっ!」

「カルフ様……、がぁっ!」


 結局増援が来る前に、守備兵隊は全滅した。その後も嵐のような攻撃は止まらなかったが、全滅を確認したシウルが合図を送ったことにより止まった。彼は今回の作戦の斬り込み隊長を務めている。


「凄まじいな。パラディン殿の攻撃は」


 シウルはしみじみと呟く。後方にいる聖騎は百を超える魂を呼び出し、魔法攻撃を撃たせ続けた。なお、魂一柱一柱が放つ攻撃力はそれほど高くない。


 本来、魔術師というものは貴重な存在である。そんな魔術師をそれほどまでに揃えていると思わせる事は、敵に圧迫感を与えた。また、聖騎自身も魔術攻撃に参加していたし、彼の他にも魔術師は大勢いる。更にかなりの数の弓兵が矢を飛ばした。彼らの攻撃が飛び交うのを遠回りにシウルの軍は進んだ。


「では、目指すは敵の館だ。行くよ」


 シウルが言うと、兵達は意気揚々と返事をする。ラクノン家の家紋が描かれた旗を掲げ、数百の軍は進む。後方にいたギザ自らが率いる軍も進軍を始める。それを確認しつつもシウルが歩を進めていると、伝令を受けてきた敵軍を発見した。向こうもそれに気付く。


「よし、かかれ!」


 シウルの合図と共に、兵達は敵へと向かっていく。敵もそれを迎え撃つ。


「はあっ!」


 先頭のシウルは愛剣を握り締め、一気に敵との距離を詰める。振り下ろされた剣は一撃で敵兵を鎧ごと斬り裂く。鮮血が剣身を染める。その間に二人の兵が彼へと襲い掛かるが、素早く身をヒラリと回転させてかわし、その勢いを殺さずに一人の首をはねる。


「まだまだ!」


 シウルは止まらない。自分に襲い掛かったもう一人に跳び蹴りを食らわせると同時に剣を喉元に刺す。そこには一片の容赦もない。まるで機械のように、淡々と目の前の敵を殺していく。そしてそれは、彼の部下達も同様だ。主ほどでは無いにしても、勇猛果敢に武器を振るい、着々と敵を片付ける。それでも被害はどうしても出てしまうのだが、シウル側が与える被害の方が大きい。敵部隊もほとんどが倒れ、辛うじて生き延びた者も逃げていく。シウルはそれを追わない。彼はただ、目的地を目指すのみである。


「シウル様」


 不意に、彼のもとに空から何者かが落ちてくる。それは翼を持つ獣人であり、シウルの腹心の一人であるトロスという女だ。


「どうだい? 敵の状況は」

「はい。リャーナ軍は屋敷の守りを固めており、現在のシウル様の軍のみでこれを落とす事は困難に思えます。また、向こうも私のように偵察を送っているのを発見した為、直ちに無力化しました」

「ご苦労様。やはりこのまま真っ直ぐ進むのは愚の骨頂だね。父上ならばそうした上で確実に勝利なさるだろうが、私はそうしない」

「いかが致します?」


 トロスは尋ねる。


「そうだね。ここは部隊を二つに分ける。陽動を担当する部隊と、それを待ち構える部隊だ。トロス、もう一つの部隊の隊長は任せられるかい?」

「勿論でございます」

「分かった。では、君達はトロスに従ってくれるかな?」


 頷くトロスに、シウルは命令を下した後部下達を分ける。そして、具体的な作戦内容を告げた。



 ◇



「カルフ様、避難途中の民が敵軍に襲われています。応戦させておりますが、民を守りながらの戦闘は不利です。応援を要請します」

「チッ……仕方あるまい。三番隊と四番隊、援護に迎え」

「了解」


 部下からの連絡を受け、カルフ・リャーナは命令を送る。それを受けた部隊は直ぐ様向かう。


「さて、このタイミングで仕掛けてくる事はお見通しだ。だからこそ、各地の同盟勢力や配下の勢力に軍を要請している。ギザも守備部隊を配置しないほど馬鹿ではないだろうが、十を超える勢力を相手にするのは難しいだろう。無論奴も配下の勢力を使うだろうが、ほとんどは攻撃に使おうとするはずだ。こちらで敵の攻撃部隊を手早く片付け、直ぐにこちらが攻撃に移る。……ギザめ、今日こそ勝負をつけてやるぞ」


 カルフは怒るような笑うような、複雑な表情で呟いた。すると彼のもとに伝令が来る。


「カルフ様、シウル・ラクノンの率いる軍が西から攻めて来ました」

「あの青二才か。何を企んでるか分からんからな。どうせここに来るんだ。下手に動かずにここで待ち受ける。奴相手に頭で戦おうとするのは、それこそ馬鹿がすることだ。各自、配置につけ。気を引き締めろ!」

「了解!」


 兵達は頷く。彼らはしばらく待機するが、シウルが来る気配は無い。兵の一人は伝令に怒鳴る。


「おい、本当にシウルは西から来るんだろうな!?」

「はい! この目で確認しました!」

「落ち着け。そうやって苛立つ事こそが奴の思う壺だ。伝令、もう一度様子を見てこい」


 少しビクリとしつつも答える伝令と怒る兵に、カルフは言う。彼らは揃って返事をし、伝令は西へと走り出した。しかし、いつまで経っても伝令は帰ってこない。そしてシウルも現れない。その場に不安が広がる。


「カルフ様! 我々も西に向かうべきでは有りませんか!?」

「待て。それこそが奴の思惑だ。下手に動くな」

「しかし……」

「くどい。とにかく心を乱すな。ナルン・リャーナのような目に遭いたくなければな」


 先日戦死した長男の名を使って、カルフは兵士達を黙らせる。怒りと哀しみをその眼に宿しつつ、カルフはただ仇敵を待った。


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