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謎の希望

「どう……して……」


 ナターシャ、セルン、ギリオン、ミーク。ギルドの精鋭達があっさりと倒された様子を見て、卓也は呆然と呟く。


「どうして、こんなことを……!」


 彼の視界には、一生懸命呪文を唱えて仲間達を回復させようとしているエリスの姿が映る。だが、彼女の魔力は既にほぼ尽きている。それでも彼女は口を止めなかった。その姿を卓也は直視出来なかった。


「何でだよおおおおおおおおおおお!」


 卓也は右手の『力』を解放する。彼の右手には正体不明の存在が眠っており、卓也の力を消費してエネルギーに変換し、それによって生きている。それによって卓也はこの世界でも普段は無力なままなのだが、右手の存在は卓也から得たエネルギーを数倍に増幅し、それを卓也に渡す事が出来る。それにより卓也は桁外れのステータスを一時的に手に入れられる。


「力を借りるぞ」


 ――――構わん。元より貴様の力だ。


 卓也の脳内に響く謎の声。卓也にとってとても頼もしい存在だ。彼は強化された脚力で、宙に浮くアフェランドラのところへと跳ぼうとする。しかし――


「させるわけにはいかないんだよ。残念だけど」


 彼の目の前に剣人が立ち塞がる。


「黒桐、お前達はアイツに何か脅されてんだろ!? どうして」

「アンタには関係無い」


 同じく立ち塞がった彩香が冷たく告げる。彼女は刀を、そして剣人は二本の剣を卓也へと向ける。


「余計なことはするな。これは忠告だ」

「忠告って……、こんなことが正しいはずが無いだろ!」

「正しいとか正しくないとかじゃねぇんだよ。オレ達は魔王軍に敵対する者を全力で排除する。お前も邪魔をするなら容赦はしないぞ」


 剣人は言外に「逃げろ」と伝えようとする。しかしそれをアフェランドラは察した。


「そうそう。一度私に敵意を見せたヤツは絶対に倒してねー。たとえ逃げようと、絶対に」


 剣人は舌打ちをする。もはや彼には戦う以外の選択肢は無い。


「……まあ、そういう訳だ。行くぞ、古木」

「黒桐……」


 剣人は卓也へと突っ込む。卓也はそれを後方に跳んで回避。その速さに剣人は驚く。


(オレの速さについて来てるのか? 1レベの時のステータスが最底辺だったコイツが?)


 剣人はこの世界でも数少ないレベル90に到達している上に、俊敏性のステータスに関しては同程度のレベルの勇者の中でも高い。そんな剣人の速さに対応できる卓也は現在レベル18にして、レベル90並みの俊敏性を持っていることになる。


(だが、やるしかないんだよな。まったく悪くないコイツを)


 剣人は両手の剣の柄を握り締める。そして、距離を取り続ける卓也を追う。


「はああああああああああああああ!」


 跳躍。一気に距離を詰めると共に剣を振り下ろす。卓也の両肩にそれぞれ刃が接するが、それ以上進まない。


「硬いッ!?」

「なら、あたしに任せろ!」


 今度は卓也を囲むように立ち塞がった彩香が刀を抜く。彼女は剣人に比べて俊敏性がやや劣る代わりに攻撃力が高い。だが、そんな彼女の斬撃も通じない。否、通じてはいるのだが、彼の圧倒的な回復速度が受けたダメージを全て回復しているのだ。


「チッ、どうすりゃ良いんだ」

「ひたすら攻撃を続けるしか無いでしょ、多分」


 二人はただ己の武器を振るい続ける。卓也はそれらの攻撃を受けながら考える。


(本当に、なんでこんなことに)


 彼は二人と戦うことを未だ躊躇っている。何か事情が有るらしいことは分かる。だがその一方で、二人は彼の仲間達を倒した。それに関しては許せない。彼が迷っていると脳内に声が響く。


 ――――いつまでそうしているつもりだ? 何もしないのなら力は返してもらうぞ。


(うるさい、元々は俺の力だろ)


 周りの時が止まった様な感覚を卓也は感じる。


 ――――これは忠告だ。一度『力』を解放すると、その後しばらくは解放できない事は貴様も理解しているだろう? 無駄な力を消費するのなら、返してくれた方が賢明だぞ。


(でも……俺はアイツを倒さなくちゃいけない! その為には力が必要だ。でも、そうするとアイツらが……)


 ――――ならば、まとめて倒してしまえば良い。


 その言葉に卓也は反抗する。


(ふざけるな……俺達はクラスメートなんだよ。傷付けるなんて出来ない!)


 ――――向こうはそう思っていない様だがな。それに、別に殺せと言っている訳ではない。我の言葉の意味が分かるか?


 卓也は考え込む。そして『声』の意図に気付く。


(分かった。俺はアイツらと戦う)


 ――――それで良い。


 止まっていた時が動き出す。右からは剣人、左からは彩香が襲い掛かる。卓也は前へと身を転がす。


「悪いけど、俺はお前達にやられるつもりは無い!」

「お前……ッ!」


 剣人は卓也の宣言に目を見開く。そして両手の剣で卓也を切り刻まんとする。


「俺はお前達に何が有ったのかなんて知らない! そして俺は、仲間を傷付けたお前達を許さない!」


 叫ぶ卓也は振り下ろされた両剣を左腕で受け止める。剣人が息を飲む瞬間、その腹部に拳を叩き込む。


「はぁぁぁぁぁっ!」

「ぐうぅぅぅぅぅぅっ!」

 

 剣人の体は吹き飛ぶ。しかし腹痛を感じながらも空中で体勢を整え、着地する。そこに追撃を加えるべく卓也は走って向かうが、その背後を彩香が追い掛ける。


「ふざけんな、何も知らない癖に!」

「知らないからこそ、俺はこうするしか無いんだよ!」

「何か理由がある事くらい察してよ!」


 彩香は思わず叫ぶ。自分でも理不尽な事を言っているのは理解しているが、両親の命が懸かっているのである。倒せと言われた対象は倒さなければならない。自慢の刀を振り下ろす。卓也は右手を振り払い、刃をへし折る。


「なっ……!」

「悪いけど、お前達じゃ俺に勝てない」


 愛刀を折られて動揺する彩香に、懐から取り出した神御使杖を卓也は向ける。


「ノマ・ゴド・レシー・ハンドレ・ト・ワヌ・ボル・ストラ」


 無属性の球が彩香へと飛んで吹き飛ばす。消費魔力は少ないが、強化されたステータスによる魔術攻撃の威力はかなりのものとなっている。この一撃により、彩香は戦闘不能となった。


「くっ……!」


 剣人はそれを見て呻き、卓也へと走る。迫り来る斬撃を神御使杖を横に持って防ぐ。


「何なんだよ、その強さは!」

「守るべき人を守るための強さだ!」


 神御使杖を上下逆さまに持ち、その尖った先端を剣人の胸に突き付ける。それにより彩香同様剣人も意識を失って倒れた。卓也は悲しげな表情で二人を見た後に上を見上げる。宙に浮くアフェランドラが賛辞の拍手をしていた。


「へー、君強いんだね。オークみたいな見た目の癖に」

「黙れ、二人に何をしたんだ!」


 飄々としているアフェランドラに卓也は怒りを抑えられない。


「いや、二人だけじゃないよ」

「お前からは話を聞き出してやる! 覚悟しろ!」

「おー、怖い怖い」


 アフェランドラはニヤニヤとした笑みを止めない。卓也は神御使杖を構え、彼女に向ける。


「ノマ・ゴド・レシー・ファイテーヌ・ト・ワヌ・ボル・ストラ!」


 エネルギーの塊が彼の杖からは放たれる。アフェランドラにそれが届く直前、彼女の前の空間に穴が開く。そこからは二人の少女が現れた。


「舞島さん……それに、真弥!?」


 そこに現れたのは舞島水姫と永井真弥だった。彼女達が出てきた穴の中へ、卓也が放った球が吸い込まれていく。


「卓也……どうしてあなたがここにいるのよ」

「真弥?」


 いつもは明るい真弥が表情を消して卓也へと言葉を放つ。そんな幼馴染みの姿に卓也は衝撃を受ける。


「私はあなたを倒さなくちゃいけなくなっちゃったじゃない……どうして……」


 真弥は無表情だ。だが、泣きたい事を必死に抑えている様に卓也には思えた。一体何が彼女をここまで変えたのか、考えながら卓也はアフェランドラを睨み付ける。


「ふざけるな! どうしてこんな事を!」

「あー、うるさいうるさい。言っておくけど、コイツらを倒しても君のお友達はまだまだ出てくるから」

「くっ……」


 卓也は呻く。後何人が魔王軍に協力しているのか彼には見当もつかない。まさか自分以外の全員が敵に回ったのではないか――そんな最悪な予感が頭を過る。彼らを助ける為にはアフェランドラを倒し、屈伏させる事が一番だと考えるが、その邪魔をするのが救いたい対象なのである。


「それじゃ二人とも、やっちゃっ……」


 アフェランドラは楽しげに命じる。次の瞬間、彼女は吐血して倒れる。


「何が……!?」


 驚愕に呟く真弥。次に彼女は、倒れていた『ファルコン騎士団』の幹部達が起き上がっていた事に気付く。すると水姫は彼女に言う。


「何をしてるの? 回復を」


 真弥は戸惑いながらもユニークスキルによりアフェランドラを回復させる。そして彼女は、漆黒の肌と美しい銀髪を持つ妖精族の少女がナターシャとエリスの側にいるのを発見する。それは彼女も一度だけ出会ったレシルーニアという種族である。ボブショートカットのような髪型の彼女は妖精の魂を使役し、幹部達を回復させたのだ。騎士団メンバーは既に死んでいた為放置した。意識を取り戻したアフェランドラは動揺しながら問う。


「いきなり何よ、あなたは」


 その問に少女はどこか得意気に答える。

 

「私はレミエル・レシルーニア。勇者様の味方よ」


 その宣言と共に、彼女はウインクをした。

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