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東の旅路

「まあそういう訳で……国、滅ぼしちまった」

「へ、へぇ……」


 善の報告を受け、秀馬達は絶句する。獣人族のいるエルティア大陸に向かおうとしていた彼ら八人は、獣人を捕まえて奴隷として売って富を得ているリノルーヴァ帝国に立ち寄った。


 国中で虐げられる獣人達の姿に彼らは怒りつつも、余計な事をして仲間に迷惑をかけまいと、自分達の目的であるエルティア大陸に向かった。獣人狩りに行くという者達が乗る船にこっそり同乗して大陸についた彼らは、到着するなり獣人を狩っていた者達を成敗し、既に捕まった獣人達を解放した。


 しかし獣人は人族に恐怖を抱いている。奴隷になってからの期間が短い者や、絶えず逃げ続ける生活を送っていた者などは善達にも恐怖を、そして警戒を見せた。それでも善達は獣人の敵と戦い続けた。その雄姿は怯えていた獣人たちに勇気を与え、リノルーヴァ帝国が作った拠点を全て崩した。そして、善達は獣人達と共にリノルーヴァ帝国に渡り、奴隷制度を続けようとする皇帝の城へと乗り込んだ。


 帝国の騎士達はかなり強く善達も多少は苦戦したが全員撃破し、皇帝も討った。善としては皇帝を説得する考えであったが、開き直る彼の態度に激昂した獣人の一人――ライオンの獣人、レウノによってとどめを刺された。


 その後も獣人達の勢いは止まらず、国中の人族を見つけ次第虐殺していった。流石にこれは間違っていると思った善達は獣人達と戦った。死闘は丸一日ほど続き、最終的には善とレウノの「やるな……!」「お前もな……!」というやり取りを最後に引き分けとして終わった。ステータス的には善がレウノを上回るのだが、レウノの身体能力と底力は半端なものでは無かった。ともあれ、レウノは人族と獣人族が分かり合える事を信じ、現在では未だ人族を嫌悪する獣人族を説得して回っている。いずれは人族を滅ぼそうと企む魔王軍との戦いにも参加するということを宣言した。


「色々と大変だっただろうね……お疲れ様、面貫君」

「お前が言うな。こっちは何にも考えず戦ってるだけだったけど、お前は国のお偉いさんとかの問題で色々面倒なんだろ?」

「そんなことはないよ」


 秀馬は奴隷が当たり前となっているような、見たくない光景を見た善達は心を痛めただろうと思いながらも口には出さず、謙遜の言葉だけを紡ぐ。


「そんなことはある。……報告を続けると、皇族はみんなレウノ達が殺っちまったってことでリノルーヴァは大混乱。獣人族にビビった帝都民はよその街とか外国に避難。それぞれの都市の領主が独立して群雄割拠の戦国時代みたいになりかけてるって状態よ。なあ藤川、俺達がやった事って正しかったのか? そりゃあ、獣人族を奴隷にしてたのはクズだと思う。その国にはそのやり方があるとか言われても、そんなの受け入れらんねぇ。でもな、それでも俺は……」


 話が逸れている事に気付いた善は言葉を止める。


「わりぃ。関係ねぇ話だったな」

「いや、ぼくに出来る事なんてたかが知れてるけど話くらいは聞くさ」

「サンキュ、でもそれは後にしとく」


 善は言葉を止める。次に彼と同行していた伊藤美奈が口を開いた。


「リノルーヴァはクソムカつく国だったわー。奴隷ってのもそうなんだけど、それ以上にヤバい事をしてた」

「何それ、美奈」


 美奈と仲の良い静香が聞く。すると彼女は嫌悪感に顔を歪め、黙る。そんな彼女の代わりに御堂小雪が説明する。


「リノルーヴァ帝国は奴隷を売買したり、敵国との戦闘の時に戦力として使ったりしていたのですが、彼らはより強い奴隷を創る研究も行っていたそうです」

「研究……?」


 静香は思わず呟く。他の者達もその言葉に良い顔をしなかった。小雪は続ける。


「はい。様々な種類の獣人族の体を弄って、各種族の身体能力を良いとこどりした最強の獣人族を開発しようとしていたとの事なのです」

「聞いているだけで腹立たしいな。命をなんだと思っている」


 巌は顔をしかめる。


「私達もそういう実験が行われていたという施設には行ったのですが、実際に実物は見ませんでした。ですが、その施設は至る所に引っかかれたような傷があり、床や壁には血がべっとりと付いていました。恐らくは研究員のものでしょうね。しかも――」

「小雪、そこまでにして……」


 すらすらと説明を続ける小雪を、当時の事を思い出して気分が悪くなった美奈が止める。


「ああ、これは申し訳ございません」

「いや、こっちこそ話を止めて悪いね……まあ、その実験が成功したのか失敗したのか、詳しいことは分かんないけど、とにかく私達は獸人族の一部と仲良くなれた。まだ色々と問題は残ってるけど、一応の目的は果たせたのかなって私達は思ってる」

「そうだね。ぼくなんかには分かりようがない苦難を君達は乗り越えてくれた。本当にありがとう」


 秀馬は頭を下げて感謝の意を示す。それに善達は照れる。


「というかそれ、既に私が伝えた情報なんだけど」


 そこに口を挟んだのはマリアだった。彼女の言う通り、今の出来事は仲間からの念話によって知った彼女によって秀馬達に伝えられている。それには、善達と行動していたシュラルという種族の妖精もうんうんと頷く。彼女が得た情報を同族に送り、その情報を様々な種族を介して結果的にマリアへと送られたのだ。


「いや、こうやって実際に話をすることに意味があるんだよ。君達を疑うわけじゃないけど、こういうことは直接聞きたいんだよ」

「ふぅん、めんどくさい生き物ね、人族って」


 マリアの言葉に秀馬は苦笑しつつも口を開く。


「さて、お互いの状況についての確認は終わった。今度はマリアさんの仲間達が得たと言う情報についての確認をしよう」

「おう」


 善は相槌を打つ。


「では、まずは南についてだ。国見君や西崎君、桐岡さん達は巨人族が棲むというバルゴルティア大陸に向かった訳だけど、その途中でラフトティヴ帝国に入った」

「ああ、神代が巨人族を奴隷にしてるとか言ってた国だろ? でも、実際には少し違った。間違ってる訳でもないんだがな」

「そう、あの国は人工の巨人――つまりロボットのようなものを造って巨人と戦っていた」


 世界で初めて魔術を使い、巨人を倒したと言われる英雄ヴェルダルテだが、彼が広めた魔術だけで巨人を倒す事が出来る者は限られていた。だが、巨人族との戦いを強いられる彼らは長い歴史の中で対巨人用魔動人型兵器『ヴェルダリオン』の開発に成功した。元来知能が低い巨人族はその巨体をアドバンテージとして人族を蹂躙し続けてきた。しかし、巨人に劣らぬ肉体に知能が組み合わさる事により巨人達はラフトティヴ帝国の支配下に置かれることとなった。また、時代が進むことにより『ヴェルダリオン』の技術は進み、その技術を独占したラフトティヴ帝国は、大陸最大の国家として君臨することとなった。


「で、国見達はラフトティヴ配下のミレキ王国に入った時に絡まれて、それを撃退したら出てきた国の騎士団も倒しちゃって、そこを実質的に支配してたラフトティヴの人が本国にそれを報告して、何故かラフトティヴの武闘大会に出ることになって、決勝戦で西崎と戦った国見が優勝しちゃった、と」

「国見君達を気に入った皇帝陛下は一位から三位までを独占した国見君、西崎君、桐岡さんに『ヴェルダリオン』を与え、巨人族との戦いに協力させちゃったんだよね。それで国見君はロボットを操っての巨人族との戦いにハマっちゃって、当分帰ってくる気配が無さそうなんだよね」


 彼らは揃って溜め息をつく。元々国見咲哉は喧嘩が大好きな不良少年である。この世界に来てからの咲哉は誰よりも乗り気で敵と戦ってきた。自分の力を相手にぶつけることが大好きな戦闘狂だと、秀馬は内心で評している。


「ったく、アイツら帰る気……ねえんだろうな」

「彼らの事は後で説得しに行こう。僕は立場上、自由に国の外に出る事は難しいと思うけど。……えーっと、次は西のシュヌティア大陸に行った永井さんや神代君達なんだけど……」


 秀馬と善は交互に聖騎達がシュヌティア大陸に行くまでの顛末を語る。そして、彼らが大陸に到着し、四乱狂華・パッシフローラと接触してからの情報が途絶えた事を口にした。パッシフローラが大陸を荒らした際に、情報偵察役の妖精族が全て倒されてしまったのだ。


「永井さん、無事かな……」

「永井だけかよ」

「い、いやいやいや、もちろん皆の事が心配だよ!」

「クラスの中でも永井の存在は大きいからな。戦力としても、そして何より人としても」


 善に指摘されて狼狽する秀馬を巌はフォローする。話を聞いていた面々は皆心配そうな表情になる。


「そうだな、後で西にも捜索隊を送るか」

「うん。そうだね。では最後に……北についてだけど」

「北?」


 善は国を傾げる。北に仲間を送ったという話は聞いていない。


「もう一人いたでしょ、ぼく達の仲間が」

「あー」


 そこで彼は思い出す。エルフリード王国第一王女エリス・エラ・エルフリードと共に北へと向かった彼らのクラスメート、古木卓也の事を。


「俺は古木の話、聞いてないぜ。アイツは今何してんだよ」

「それじゃあ、今から古木君の事について話すよ。彼はね――」


 秀馬は言葉を紡ぎ始めた。




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