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絶望

 由利亜と平子、そして彩香は彼女達と同行していたリルネーバが真弥達と同行している同族から、危険な敵と遭遇したとの通信を受けて彼らと合流すべく歩いていた。その過程で龍や蛇を含めた仲間達とも合流した。しかし真弥達とは以降に出会えない。


「それにしても、なんか地震多くね?」


 彩香はふと疑問を口にする。彼女達は何度も地面が揺れるのを感じた。そして何より気になったのが、彼女達が見つけた妖精族の里で軒並み地割れが見られたことだ。そして至る所に、妖精族の屍骸が転がっていた。その光景に、気の弱い平子は特に衝撃を受け、一時は呼吸困難に陥った。無論ショックだったのは彼女だけではなく、一同の周囲には酷く陰鬱な空気が立ち込めていた。そんな彼らは、上空に幾つもの黒い影を発見する。


「何ですかな」


 龍が呟く。見る見るうちに影は大きくなっていき、それらは彼らの目の前に着地する。その正体は漆黒の肌と美しい銀髪を持つ妖精族だった。彼らのリーダーと思わしき、妙齢の女が満面の笑みを浮かべて口を開く。


「こぉーんにぃーちはぁー!」


 ハイテンションなその女の言葉を受けて、ツンが口を開く。


「引きこもりのレシルーニアが何故ここにいる?」

「あぁーれれぇー? 人族嫌いのスクルアンがどうしてこんなところにぃー?」


 ツンの疑問に、レシルーニアは答える素振りなど見せずに呟いた。そして言葉を重ねる。


「まぁー、いっか。そんなどうでも良いこと」

「喧嘩を売っているのか?」


 苛立ちを露にしたツンが彼女を睨み付ける。すると、女の右後ろに着地していた青年が前に出る。


「うちの姫が失礼した。無礼は許して頂きたい」

「え? 私、何か失礼な事とか言った?」

「言いました」


 本気で意味が分からない、とでも言うような顔の女にツンは怒りを忘れて呆れる。


「まあ、別にいい」

「感謝する。ところでそちらの人族達よ、俺達はお前達に用があって来た」

「あたし達に?」


 青年の言葉を受け、彩香が聞き返す。すると先程『姫』と呼ばれた女が口を開ける。


「そう! 端的に言うと、私達の名前を考えて欲しいのよ!」

「名前……? どうしてあたし達に?」


 彩香は訝しむ。今まで会ったことのない妖精族に、何故このようなことを頼まれているのか理解できない。


「色々あって、私達にも別々の名前が必要なんじゃないかって思ったのよ。でも、名前なんてどうやって付けたら良いのかが分からなくてねぇー。そこで、今は人族がこのシュヌティア大陸にいっぱいいるってことで、地上に出たのよ。で、たまたま私達が見付けたのが君達だったっていう訳」

「そう……なんだ」


 取り合えず彩香は頷く。当たり前の様に「地上に出た」と言っていた事が気になったが、恐らくは地中にでもいたのだろうと予想する。


「ねぇ! 良いでしょ!?」

「うーん……別に構わないけど……。あたし達、今仲間を探してんだけどさ、出来れば早く会いたいのよ。だから、仲間と合流してからでも良い?」


 若干申し訳なさそうに紡がれる彩香の言葉に、レシルーニア達は顔を見合わせる。そして『お姫様』は言う。


「良いわ! じゃあ私達もそれを手伝ってあげる! だから絶対に名前を頂戴よね!」

「もちろん、約束するよ」


 彩香は笑顔で頷く。その直後、レシルーニアの少女が発言する。


「なんか今、巨人族がこっちに向かってくるっぽいんだけど」


 遠くにいる仲間からの情報である。レシルーニアは全員その情報を共有している。これは彩香達に向けた発言だ。


「巨人族!? どうしてこんなところに?」

「何か魔王軍とグルを組んだ奴らがいて、この辺りを荒らしたり、妖精族や人族を食べたりしてるって」


 平子は驚いて声を出す。そして、それに答えた少女のさらりと言われた言葉に食いつく。


「ちょ、ちょっと待って……食べてるって……?」

「巨人族は昔から人族が大好物。骨も残さず食べる」


 平子は顔を青ざめさせる。彼女の脳裏に浮かんだのは、巨人族のいる南の大陸に行った、国見咲哉をはじめとする不良グループ。今でも彼らのことは苦手であるが、もしかしたら食べられているかもしれないと思うと背筋が凍る。そして次に彼女は、この大陸にいる人族は全員彼女達のクラスメートや、その友人及び親であるという事を思い出す。つまり、今の少女の言葉が正しければ、彼女と顔なじみの人物が巨人に食べられたという事になる。その結論に、ここにいる全員が達した。この場に戦慄が走る。


「それじゃあ、真弥ちゃん達は……」

「待て平子! そんなことは無い!」


 顔を恐怖に歪め、身を震わせながら紡がれる平子の言葉を彩香が遮る。普段は強気な彼女も例外に漏れず、恐怖心に苛まれていた。彼らの心情を知ってか知らずか、レシルーニアの少女は続ける。


「もう一回言う。巨人族がここに向かっているっぽいんだけど」


 その言葉によって彩香達は現実に引き戻される。その中で、冷静であったツンが聞く。


「数は?」

「五体。他にも魔族や人族もいるって。というか――」


 少女は不意に言葉を止め、目線を上げる。それにつられて彩香達も背後を振り向くと、土製の円盤らしきものを持った巨人族が近くまで近づいてきていたのを発見した。


「――そこにいる」

「いや、言われなくても分かってるけどさ……」


 その巨大さに、巨人族を初めて見た彩香達は絶句する。


「あんなデカいのが五体も……? 無茶でしょ」

「いや、アイツら自体はオレ達でも余裕で倒せるぜ。本当にヤベーのはアレ」


 レシルーニアの少年は先頭を歩く巨人の右肩を指差す。すると龍がそこに人影を発見した。


「女があそこに乗っていますな……ッ!」


 その報告の直後、目を向けた彼は絶句した。蛇や彩香が彼に何事かと問うも返答はない。それにより更に恐怖心が煽られつつ、彼らは戦闘態勢に入る。しばしの時が経ち、巨人達は足を止める。そして声がかけられる。


「あらぁ、みぃつけたっ」


 パッシフローラだった。一見優しげな印象を与える柔和な笑みは、彩香達に対して友好的であるかのよう雰囲気を放っていた。彼女は、高さ五メートルは優に超えるであろう巨人の肩から飛び降り、彩香達の目の前に着地する。


「さぁ、わたくし達と一緒に来ませんか」


 開口一番に放たれたその言葉は彩香達を混乱させた。


「えっ?」

「あなた達がわたくし達を倒すために異世界から召喚されたのは知ってるわぁ。でも、心優しいわたくしはあなた達を許してあげる」

「それで、仲間になれって?」

「ええ。お友達もいるわよ」

「友達?」


 状況が呑み込めない彩香は聞き返す。パッシフローラが指を鳴らすと、巨人達は円盤を下ろす。その中の一つから、彩香もお馴染みの顔が現れた。


「真弥!?」

「彩香……。私達ではこの人には勝てないわ」


 そう言う真弥の眼は虚ろだった。親友のそんな姿を見て、彩香はパッシフローラに激昂する。


「アンタ、真弥に何をしたのよ!」

「そうねぇ、この子には何もしていないわぁ。まぁ、ちょっとショッキングなものを見せちゃったけどね」

「このおおおおおおおおおお!」


 思考を捨てて、彩香は抜刀。即座にパッシフローラへと斬りかかる。直後、甲高い金属音が鳴った。


「黒桐!?」

「ゴメン……」


 刀を受け止めたのは剣人だった。彩香に責められて表情を曇らせつつも、二本の剣は揺るがない。彩香は剣を緩める。


「はぁい、よくできましたぁ」

「……」


 パッシフローラに声をかけられても、剣人は俯いたまま押し黙っている。それに対し気分を害した様子も無く、彼女はレシルーニアを見る。


「それで、あなた達はこの子達とどんな関係?」

「ここ最近、この辺りを荒らしていたのは君?」


 パッシフローラの問に、レシルーニアの『お姫様』は質問で返す。


「そうよ。それならぁ、どうする?」

「私がいるところで好き勝手されるのはムカつくのよねぇー。ちょっとお仕置きをしちゃうかなぁー。あ、今回は特別に殺さないであげるから安心して」

「言ってくれるわね……!」


 あからさまな挑発に、パッシフローラは珍しく苛立ちを見せる。直後、彼女を炎が襲った。近くにいた彩香達は爆煙に咳き込む。


「この程度でわたくしを倒せるとでも思った?」

「うん。だって君、弱そうだし」


 攻撃がほとんど効いていないにも拘わらず、『お姫様』はパッシフローラを煽る。次の瞬間、彼女の足下の土がドラゴンを形作るように盛り上がる。『お姫様』は飛翔。かなりの速度で伸びるそれを悠々と避ける。


「小賢しいわねぇ。巨人君達、ここにいる黒い妖精族は好きに食べちゃって構わないわ」

「分かっ、た」


 命令を受けた巨人達は頷く。一方で、レシルーニア達も戦闘体勢に入る。妖精族、巨人達、魔族が戦闘を始める中、レシルーニア以外の妖精族と人族は状況についていけず、呆然としていた。パッシフローラは地面に大きな穴をあけ、彼らを逃がさないようにキープし、戦闘を開始した。




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