無能な勇者
まずは言い出した秀馬がステータスを告げる。
名前:藤川秀馬
種族:人族(異世界人)
年齢:15
性別:男
職業:勇者
レベル:1
体力:1000/1000
魔力:300/300
攻撃:700
防御:500
魔攻:700
魔防:500
俊敏:900
スキル: 異世界言語理解 体力自動回復(大) 魔力自動回復(大) ユニークスキル『読み』
称号:召喚されし勇者 勇者の長 風属性魔術師 読む者
勇者達は歓声を上げる。聖騎も彼の能力値がかなり高いことは分かった。魔力、魔攻、魔防においては聖騎に劣るものの、それ以外は聖騎を大きく上回る。級友の反応を聞いた秀馬は問い掛ける。
「何か質問はあるかい?」
すると、次々と質問が飛び出す。
「回復(大)ってどんくらいなの?」
「『読み』ってどんな能力?」
「長って何?」
「『リーダー』ってダジャレかよ!」
秀馬はそれらの質問に答える。
体力自動回復(大):自動的に1分間に1だけ体力を回復する。必要魔力は無し。
魔力自動回復(大):自動的に1分間に1だけ魔力を回復する。必要魔力は無し。
ユニークスキル『読み』:対象の心を読む事が出来る能力。能力を使う対象の数や対象への距離、持続時間等に比例した魔力を消費する。
勇者の長:召喚された勇者の長に与えられる称号。他の勇者の能力値の平均の一割を自分の能力値にプラスする。
風属性魔術師:風属性の魔術が習得可能。
読む者:ユニークスキル『読み』が使用可能。
それらを聞いた勇者達は羨ましげに言う。
「うわー、俺が学級委員になれば良かった」
「アンタはそんな器じゃないでしょ」
「学級委員に器なんて関係あるのか……?」
「つーか、自動回復(大)とかチートすぎだろ」
「ユニークスキルもおかしいだろ。そりゃー、直接戦闘には使えないけど、ヤバいぜこれは」
「結局『リーダー』はダジャレだったの?」
妬みの声が上がらないのを見て、聖騎は秀馬の人徳を知る。しかしその直後、秀馬が強すぎるからこそ媚を売っているのではないかと考える。
(今彼が能力を使えば、その辺も分かるんだろうけど。そう言えば、今って能力使えるんだよね。現に、言語理解のスキルは使っている訳だし)
そうしている内に、副委員長である真弥がステータスを公開した。
名前:永井真弥
種族:人族(異世界人)
年齢:14
性別:女
職業:勇者
レベル:1
体力:800/800
魔力:350/350
攻撃:300
防御:700
魔攻:500
魔防:700
俊敏:300
スキル: 異世界言語理解 体力自動回復(中) 魔力自動回復(超) ユニークスキル『癒し』
称号:召喚されし勇者 木属性魔術師 癒す者
勇者達は感想を述べる。
「うーん」
「いや、結構良いと思うよ? 前の藤川君がおかしかっただけで」
「それはわかってる。攻撃以外は俺より上だし。でも何か物足りないというか……」
「お前らよく見ろ『魔力自動回復(超)』だぞ?」
「うわホントだ! (超)って(大)より上だよな」
真弥は解説を読み上げる。
体力自動回復(中):自動的に10分間に1だけ体力を回復する。必要魔力は無し。
魔力自動回復(超):自動的に30秒間に1だけ魔力を回復する。必要魔力は無し。
ユニークスキル『癒し』:対象の体力を回復させることが出来る能力。回復量や能力を使う対象の数に比例した魔力を消費する。
木属性魔術師:木属性の魔術が習得可能。
癒す者:ユニークスキル『癒し』が使用可能。
勇者達は分析する。
「なるほどー、回復専門か。魔力自動回復と組み合わさって凄いことになるな」
「これはかなり重要だな。戦うときは後方で支援して貰うことになりそうだ」
その後も次々とステータスが公開されていく。聖騎はそれを注意深く聞く。人に興味の無い彼だが、もしもこの世界で敵対する事も有りうると思うと、知っておかねばならないと考えたからだ。その結果、体力値の平均は600、魔力値の平均は200、その他の能力値は400くらいが平均であることが分かった。また『体力自動回復』と『魔力自動回復』は全員が所持し、ほとんどの者はどちらも(中)であった。
(本当に僕は偏りすぎだよね? 特に体力と防御の低さは致命的だよ。当たらなければどうということはないかも知れないけれど、素早さもヒドいし)
ステータスが偏っている者は少なからずいた。しかし聖騎に比べれば、それほど極端ではない。そして聖騎の番が来る。勇者達の反応は彼の予想通りのものだった。
「えっと……これは強いの?」
「強いんじゃね? 場合にもよるけど」
「これは役割を持てますな」
「しかし体力はゴミですぞ」
「物理食らったら一発で死にそうだな」
「つーか(極)って何だよ」
「(微)も何だよ」
「だがユニスキはチートだ。紛れもないチートだ」
「しかも称号がチーターって……」
しかし予想通りの反応の中で、聖騎は違和感を覚える。
(誰も『神に気に入られし者』には突っ込まないの?)
この称号を持つ者は今までに存在しない。したがって、聖騎はこれについての追求が来ると考えていたのだが、誰も触れない。
(まあ良いか。聞かれても答えようが無いし)
そして次は、勇者として戦うことを決めた中では最後。古木卓也の番だった。彼はオドオドとしながら、諦めたようにステータスカードを読む。
名前:古木卓也
種族:人族(異世界人)
年齢:14
性別:男
職業:勇者
レベル:1
体力:10000/10000
魔力:50/50
攻撃:10
防御:10
魔攻:10
魔防:10
俊敏:10
スキル: 異世界言語理解 体力自動回復(極) 魔力自動回復(微) ユニークスキル『疼き』
称号:召喚されし勇者 無属性魔術師 疼く者
しばしの静寂が訪れる。そして、いじめっこリーダー国見咲哉が大声で笑う。ちなみに彼のステータスは攻撃系と俊敏の数値が高く、他はほぼ平均程度というものだった。
「ハハハハハッ、いやー、すげーな。体力バカってのはこーいうのを言うんだな」
「ゴミすぎだろ」
「お前、ゴミに失礼だ」
「悪ぃ」
「何コレ、壁役しか役目無いじゃん。ウケる」
「いやいや、ユニスキがすごいかも知れないから震え声」
「おい無能豚。とっとと教えろよ。その……プッ、『疼き』ってヤツの効果をよ」
咲哉に続いて他の者達も笑う。しかし卓也は何も言わない。
「オイオイ、まさかゴミスキルなのかな?」
「しかたねー、俺が読んでやるよ」
咲哉は卓也からステータスカードを強引に奪い取る。
「えーっと、『ユニークスキル『疼き』:時折右手が疼く』……って、ハァ? マジでコレだけ? 」
咲哉がどれだけ丹念にカードを読んでも、それ以上のテキストは書かれていない。彼の級友達はそれを本気では信じなかったが、実際に咲哉に見せられると、そろって笑い出す。
「うわ、マジでクソスキルじゃねーか! つーかスキルって呼べんの? コレ」
「俺の右手が疼きやがる……いたたたた」
「アハハハハハ、これは相手を笑わせて腹筋にダメージを与えるスキルだろ、アハハハハハ!」
「これはひどい」
彼らの笑いは止まらない。すると真弥は咲哉の手からカードを奪い取る。
「返して」
「あー、悪い悪い」
謝る気の無い咲哉を無視して、真弥はカードを卓也に渡す。
「はい、卓也」
しかし卓也は受け取らない。俯いたままボソボソと呟く。
「……いらない」
「卓也……。大丈夫よ。卓也の代わりに私達がこの世界を救うから」
「うるさい! 真弥に俺の気持ちが分かるか! ……こんなんじゃ、誰も守れないじゃないか!」
卓也に怒鳴られ、真弥は自分がステータスに恵まれていて少し調子に乗っていたと気付く。すると、彼の様子を見ていた者達はヤジを飛ばす。
「うわ八つ当たり? サイテー」
「ホントマジクズだわー。ゴミのくせに」
「さっさと消えろよ」
「あなた達は黙って!」
真弥が怒鳴るとヤジは止まる。自分が怒鳴った相手に庇われて、卓也は何処かに走り去りたい気持ちになる。しかし四方が壁に囲まれているこの部屋の扉が見付からなかったのでやめた。
(まったく……惨めなものだね。しかし、いくらなんでもあのステータスは酷すぎるね。ものすごい体力に『体力自動回復(極)』という組合わせで生存率は高そうだけど、だからどうしたというか……肉壁以外の使い方が見付からないというか)
聖騎は冷静に分析する。すると、エリスが心配そうに卓也を見て、すぐに視線を外して言う。
「それでは、皆様に会わせたい方がございます」
その言葉と同時に、彼らがいた部屋が消滅する。何事かと勇者達がざわめいていると、そこには街が広がっていた。済んだ青空の下に広がるどこか古びた町並みは中世ヨーロッパ風だと聖騎は思った。なお、彼は実際に中世ヨーロッパの町並みを知らない為適当な感想である。そして、そんな彼らの近くにはやたらと豪奢な衣装に身を包んだ髭の長い中年の男がいた。
「エリス、説明は御苦労」
「はい、お父様」
エリスにお父様と呼ばれたその男は、にこりとも笑わずに言う。
「我々の世界へようこそ、勇者諸君。貴様達には我々の為に戦ってもらう。早速訓練だ。一度その妙ちきりんな服を着替えてからここに戻ってこい」
すると、彼の後ろにいたメイド服を着た女性達が前に出て、勇者達を部屋に案内する。