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人間至上主義国家(5)

聴く者リスナー』蛇は、真弥達とウェミナハルの戦闘にいち早く気付いていた。だが聖騎は遠くから離れて様子を見ることを提案した。平子や由利亜、蛇は苦戦する仲間の様子を見て歯痒い思いをしたが、ウェミナハルの瞬間移動の原理に気が付いた聖騎が透明化したツンに水魔法を使わせた。その結果を見て予想が正しいと確信した聖騎は三人と共に真弥達の下に駆け付けた。動揺しているウェミナハルは怒鳴る。


「何だ! 貴様は私に何をしたのだ!?」

「ほう……余裕がなくなっているようですぞ神代氏」


 蛇がニヤリと笑う。その時、ウェミナハルは聖騎の眼前へと瞬間移動する。


「ごぶうううううううううう!」


 その瞬間、聖騎の眼前には石壁が生えていく。それによって、聖騎の目の前に移動したウェミナハルの体が打ち上げられた。


「ナイスタイミングですね、平子さん」

「危なかったけど上手くいった……」


 由利亜は平子を褒める。あらかじめ平子が壁を造りだし、そのタイミングで聖騎がウェミナハルを煽り、上手いことウェミナハルを打ち上げたのだ。そして聖騎達四人は揃ってローブを脱ぎ捨てる。


「ぐぶっ」


 するとウェミナハルは四人が重なるように脱ぎ捨てたローブの上に一瞬で落下した。


「これに運動エネルギーは働いているのかな?」

「だと思います。でも、それほど負傷している様子は無いので、打ち上げられた時の高度による位置エネルギーは無いでしょう。よって、このローブの数センチ上から落ちた事による運動エネルギーだけが働いているかと思います」


 聖騎の問に由利亜が答える。そんな光景を見た剣人が呟く。


「もしかして、コイツが瞬間移動したのはこのローブが関係してんの?」

「そういうことですぞ。彼はどうやらローブの場所を知り、そこへと移動する事が出来る能力を持っているようですぞ。黒桐氏達もすぐに脱ぐべきですぞ」


 蛇に言われて、剣人達四人はローブを脱ぎ捨てる。


「おのれ……」


 ウェミナハルは呻き声を出しつつ、その場から消える。それを見て平子が言う。


「少し離れた所にいる仲間の所に逃げたのかな?」

「恐らくはそうだね。だけれど彼ももう、終わりだよ。彼が国民に崇拝されていたのは、強者だったから。そんな彼がの無様な姿を見たら、国民はショックを受けちゃうだろうね。ここにいる人達みたいに」


 聖騎は真弥達が戦っていた白ローブの者達に目を向ける。その大半は戦闘不能で意識を失っていたが、意識を保っていたものも崇拝する主の醜態に呆然としていた。


「それでは、能力は解除しますぞ」

「では、私も解除します。柳井君」

「えっ、アンタら何してたの?」


 ふと蛇が口を開き、由利亜もそれに続く。そこで彩香が質問する。


「今まで、我はここに来るまでに会った白ローブの人達と聴いているものを共有していたのですぞ」

「その為に、私が魔力を柳井君にあげていたんです」


 由利亜のユニークスキルは、自分の魔力を他の者に与えることができる『与えサプライ』である。蛇の能力は聴いているものを共有する対象との距離や、その数に比例した魔力を消費する必要がある。蛇自身レベルも上がりそれなりの魔力量は有るのだが、それでも限界である。そこで、聖騎程ではないがかなりの魔力を保有する由利亜が彼に魔力を与えた。


「つまり、さっきのオッサンの情けない声を信者に聴かせてたって事か。神代」

「どうして僕に言うのかな」

「そういう悪趣味な事を考えるのはお前しかいないからだ」

「心外なことを言うね。確かにその通りだけれど。今頃信者達はショックだろうねぇ、絶対的な存在だと信じていた王様があんなに動揺している声を聴くのだから。しかも、その中の何人かは彼の姿を直接見ることになってしまう。本当に可哀想だねぇ」


 剣人に指摘された聖騎はしみじみと言う。すると彩香が言う。


「ところでさ、どうしてわかったの? 瞬間移動はあの服がある場所にしか出来ないって」

「ああ、それは彼のお陰だよ」


 聖騎が答えると、透明化していたツンが姿を見せる。真弥が驚きの声をあげる。


「ツン君!?」

「まったく、胸糞の悪いクズだったぜ」

「あの王様は透明化していた『消える者ディスアピアラー』の位置を感じ取っていた。しかし、ローブを着ていない彼の存在に気付くことはなかった。そこで、白ローブの位置を知ることが出来るのだと気付いたのだよ」

「あの時見てたのかよ」


 聖騎の解説を聴いて、剣人が非難する。すると聖騎とツン以外の三人がばつの悪そうな顔をする。聖騎はまったく悪びれる様子もなく告げる。


「まあ、結果的にみんな無事だったのだから多目に見て欲しいな。さて、今頃あの人は何処にいるのかな?」



 ◇



「くっ……がぁぁぁぁぁぁ」


 ウェミナハルは地べたに這いずり呻く。彼の姿を見た国民達はショックに奇声を上げては走って去っていった。誰も彼に手を差し伸べない。


「神よ、この私の声が聞こえているか!? なぜあの者達は私のように魔法を使える!?」


 オットセイのような格好で上を向き、ウェミナハルは叫ぶ。しかし、それに答える声はない。


「答えろ! 答えろと言っているのだ!」


 ウェミナハルは涙を流しながら叫ぶ。彼がそれをしばらく続けていると、やがて彼の脳内に声が響く。


『惨めなものだな』

「ええい! アレは一体何なのだと聴いている! ……ぐっ」


 叫ぶウェミナハルは頭痛を覚える。


『貴様の声は耳障りだ。そう叫ぶな』

「……」

『まあ良い。とにかく貴様にはがっかりだ。せっかくの力も、ただ小さな箱庭の中で威張るだけにしか使わないとはな。貴様の両親を殺したという魔族に復讐すると思いきや、こんなところで神の真似事をするだけとは、まったくもって期待外れだ』

「仕方無いだろう。奴等は強い!」


 図星を疲れたウェミナハルは呟く。すると、脳内の声は続ける。


『貴様の信者は国に入ろうとする魔族を撃退するほどには強いぞ。異常な忠誠心は人を強くする事が分かった。これはなかなか面白い研究結果だな』

「くっ……」

『それと、勘違いしているようだが、貴様はそれほど特別な存在ではない。貴様と同じように特異な力を与えた者は大勢いる』

「それが……それがあの者達だとでも言うのですか?」

『彼らは貴様らとは異なる存在だ。同時に、貴様らよりも特別な存在でもある』

 

 その言葉にウェミナハルはショックを受ける。彼は自分が、神に選ばれた特別な存在だと信じて疑っていなかったのだ。


「それでは、私は……私は!」

『さて、彼らは貴様の所へと来ては話を聞き出そうとするだろう。その時、貴様は如何なる質問にも正直に答えよ。さすれば、貴様に新たな力を与えよう』

「力……ですね。あの生意気な者達を屈服させる力を。それに……異種族共を殲滅できる力を」

『今度は期待しているぞ』


 脳内の声が消える。すると、龍の能力によって彼を見つけた聖騎達が現れる。平子はウェミナハルを指さして叫ぶ。


「あー、いたー!」

「では、話を聞くとしようかな。君は何者か、そしてその能力は何なのかをね」


 上から目線の言葉にウェミナハルは内心で歯噛みするも、『神族』から力を貰うために口を開く。すると、彼の全身を激痛が襲う。


「がぁぁぁぁぁぁ!」


 突然の変化に真弥達は戸惑う。一方で聖騎はまったく動じず冷たく言葉を紡ぐ。


「同情でも誘うつもりかな? 急に痛がるフリなんかされても信じられないよ。君の信者は、君を神族だと言っていた。このようなのが神だなんて、信じられないのだけれど」

「ぐぅぅぅぅぅ……私を、私を騙したのかぁぁぁぁぁぁっ!」


 聖騎の声などまったく届いていないかのようにウェミナハルは叫ぶ。そしてすぐに、彼の意識は無くなった。聖騎は彼のもとに近より息を確かめるが、無かった。体力をすべて失い、倒れた者は呼吸をする為、ウェミナハルは死んでいるという事が分かる。


「『癒す者』でも、死んだ人はどうにも出来ないんだったね?」

「……うん。あの時マリーカさんや陛下にも試してみたけどダメだった。でも、本当にこの人は死んでるの? 神代君が何かしたんじゃなくて?」


 当時の事を思い出した真弥は苦い顔をしながら聞く。


「僕は何もしていないよ。確かに僕は『騙す者チーター』だけれど、彼を騙した覚えはない。だとすれば、彼はここにはいない何者かに騙されていた事になる」

「誰よ、何者かって」


 彩香が質問する。聖騎は意味深に笑う。


「この世界を見ている存在。例えば……神、とか」


 その場に沈黙が訪れる。その静寂を剣人が打ち破る。


「神……?」

「『消える者』、僕は前に言ったよね? 僕はこの世界が電脳世界かもしれないと考えていると。もしもそれが正しいのならそれを見守る、あるいは観察している人間がいなくてはならない。それこそが神――この世界の伝承で『神族』と呼ばれる存在だと思うんだ」

「その神が、この人を殺したという事ですか?」


 声を震わせながら由利亜が問う。


「恐らくはね。ただ、もしそれが正しいのなら、僕達が彼を見つける前に殺すことも出来たはずだよね。つまり神様とやらは僕達に、僕達の事を見ているということ、そして気に入らない事があればいつでも殺すことができるということを伝えてきているんだよ」


 再びの静寂。全員の視線が集まるのを感じながら、聖騎は内心で呟く。


(僕の称号の一つである『神に気に入られし者』。つまり、僕はこの世界の観察者に気に入られている事になる。僕をこの世界に導き、観察しているのは一体どこの誰なのだろうか)


 聖騎は上を見上げて睨みつける。そこには、元の世界と変わらない星空が広がっていた。

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