チート
「ステータスカード?」
「皆様の名前や能力、出来ることなどを示したカードです。皆様の世界には有りませんか?」
魔法の世界において違和感の有る単語に、秀馬は眉をひそめる。すると、国見咲哉が発言する。
「よーするに、ゲームにあるみてーな奴だろ?」
「国見君、ゲームと現実を一緒にするな」
「じゃーお前はどんな奴だと思うんだよ」
「それは……」
咲哉の追求に秀馬は口ごもる。
「実際にお見せした方が早いかも知れませんね」
エリスは言うと、A5用紙程度の羊皮紙を取り出す。それには赤い文字で次のように書かれていた。
名前:エリス・エラ・エルフリード
種族:人族
年齢:15
性別:女
職業:王女
レベル:32
体力:170/1500
魔力:90/520
攻撃:100
防御:120
魔攻:330
魔防:400
俊敏:200
スキル:体力自動回復(小) 魔力自動回復(小)
称号:エルフリード王国第一王女 水属性魔術師 召喚魔術使用者 怒りを集めし者
「マジでゲームじゃねーか!」
生徒達は口を揃えて突っ込む。
「ゲーム……ですか?」
「ああ、えーっと、気にしないでください」
怪訝な顔をするエリスに秀馬は言う。
「そうですか。……それでは念のために説明をさせて頂きます。名前、種族、年齢、性別、職業はよろしいですね。レベルは、その人がどれだけ強いかの目安です。最高で100まで上がると言われています。レベルが上がると、その人の能力が上がり、その下に記されている各数値が増加します。体力は文字通り、その人の体力を示します。値が0になればその人は動くことが出来ません。体力が0になることで死ぬことは有りません。ですが体力が0になって倒れているところを魔物に見付かると殺されかねません。体力が減ったときは専用のドリンクを飲んだり、回復魔術を受けてください」
「本当にゲームだな!」
生徒達はまた叫ぶ。エリスはいぶかしむが、秀馬に「続けてください」と言われ、説明を再開する。
「魔力は、魔術を使うのに必要なエネルギーの保有量を示します。強力な魔術ほど多くの魔力を消費しますので注意してください。また、後程説明しますが、伝説によると人間では勇者のみが使える『ユニークスキル』というものにも魔力が必要なものがあるそうです。攻撃は武器などで直接攻撃するときに発揮できる破壊力、防御はその攻撃をどれだけ防げるか、魔攻はどれだけ強力な魔術を使えるか、魔防は魔術に対する耐性、俊敏はどれだけ素早く動けるかを表します」
「どこまでいってもゲームかよ!」
例によっての生徒達の突っ込みに、エリスは叫ぶ。
「皆様! さっきからゲームゲームと仰っていますが、一体何なのですか?」
「エリスさん落ち着いてください。説明の続きをお願いします」
真弥に諭され、エリスは再び説明を再開する。
「次に称号は、ある条件を満たしたときに自動的に記され、ステータスに影響を与えます。そしてスキル。全ての人間はある一定の時間ごとに体力や魔力が自動的に回復する能力を持っています。それがスキルです。それ以外にも様々な効果を持つスキルが存在します。また、スキルの中でもユニークスキルについては私にも詳しいことは分からないのですが、異世界から召喚されし勇者のみが使えると言われています。魔術を使うには専用の道具や呪文の詠唱が必要なのですが、ユニークスキルにはそのようなものが必要ない、と言われています」
「随分とふんわりした説明だな」
咲哉が感想を溢す。
「申し訳ございません。私はユニークスキルというものを見たことが有りませんので。ただ、昔から伝承として受け継がれています。異世界の勇者はそれぞれ異なる特殊能力を持っていると」
「まー、良いけどよ」
そんな会話を聞きながら聖騎はエリスの称号の一つに注目する。
(『怒りを集めし者』……というのはさっきのお姫様の状況そのものだね。あとで僕も試してみようかな)
生徒達はざわめく。エリスのステータスがどれ程のものなのか、彼らには見当もつかない。その様子を見て、エリスは言う。その手には羊皮紙の束があった。
「それでは、皆様のステータスカードもお作りしましょう」
「作るって……どうやって」
生徒の一人が呟く。すると、エリスは腰からナイフを取り出してニッコリと笑う。
「皆様の血を頂きます」
◇
名前や能力値等の内容が空欄になっている羊皮紙に血を一滴たらすと、血はその人物のステータスを、見る者に分かるように示す。その人物に何か変化が有れば、自動的に更新する。そのように説明を受けた生徒達は半信半疑だったものの、秀馬が名乗り出てステータスカードが本当に出来たのを見ると、他の生徒達も次々とステータスカードを作って貰った。聖騎は特に恐怖心がある訳では無かったが、率先して作って貰えば無駄に目立つと考えたため、他の者に紛れてステータスカードを依頼した。
「よろしくお願いします、エリス殿下」
先程痛いところをついてきた聖騎に、エリスは苦手意識を持つ。急に敬語を使いだしたところに不気味さを感じる。しかし、自分達の為に戦ってくれると宣言した勇者の一人である。ニコニコと笑いながら差し出された彼の人差し指に、エリスは魔術によって清潔にしたナイフを浅く刺す。
「し、失礼します」
聖騎の指からは血が流れ、下に敷いてある空白のステータスカードへと注がれる。聖騎は笑顔を崩さずに、血が文字を作っていく様子を眺める。そして、聖騎のステータスカードが完成した。エリスの回復魔術によって聖騎の指は止血される。
「ありがとうございます」
「い、いえ……こちらこそ。ご協力感謝いたします。カミシロ様」
柔和な笑みを浮かべる聖騎に、エリスはビクビクと頭を下げる。聖騎はその場を去ると、彼の後ろに並んでいた者がエリスの前に出る。エリスは魔術によってナイフを清潔にし、次のステータスカードを作るのだった。
(さて、笑顔をキープしてみたけど、上手くいったかな?)
大失敗である。笑顔を見せておけば権力者たるエリスに親しまれると考えた彼は、指を切られ痛みを感じても笑顔を崩さなかった。だが実際は、無駄にエリスを怖がらせただけであった。しかし聖騎は満足しながら、改めて自分のステータスカードを眺める。
名前:神代聖騎
種族:人族(異世界人)
年齢:15
性別:男
職業:勇者
レベル:1
体力:100/100
魔力:500/500
攻撃:10
防御:10
魔攻:1000
魔防:1000
俊敏:50
スキル: 異世界言語理解 体力自動回復(微) 魔力自動回復(極) ユニークスキル『騙し』
称号:召喚されし勇者 光属性魔術師 騙す者 神に気に入られし者
(僕はお姫様以外のステータスを見てないけどこれだけは分かる。明らかに偏ってるよね!)
周囲では生徒、もとい勇者達が級友とステータスカードの見せあいをしている。聖騎にはそんな会話をする相手などいない。聖騎は取り合えず分析する。
(数値に関しては比較対象がいないから後回しにしよう。えーっと、この『異世界言語理解』というのは……)
聖騎がそこまで思考すると、ステータスカードの『異世界言語理解』の欄の真下に説明文が現れる。
異世界言語理解:いかなる世界でも人族の言語を理解し、自分にとって最も使いやすい言語のように表現できる。必要魔力は無し。
(なるほど、ステータスにおいて僕が知りたいと思ったことを教えてくれるんだね。それならお姫様の説明も要らなかった気がするけどまあいいか。次は……)
聖騎が『体力自動回復(微)』と『魔力自動回復(極)』について知りたいと考えると、ステータスカードには次のような文字が浮かんだ。
体力自動回復(微):自動的に1時間に1だけ体力を回復する。必要魔力は無し。
魔力自動回復(極):自動的に1秒間に1だけ魔力を回復する。必要魔力は無し。
(1時間に1って……、本当に(微)だな。そもそもこの世界の『1時間』というのは…………いや、ステータスは『見る人にとって分かりやすいように』書かれてるって言ってたから、この1時間は僕の知る1時間だね。随分と都合のいい気もするけれど。逆に魔力自動回復はおかしいよね。この辺りのバランスはどうなっているのだか……そうか、別にゲームじゃないからバランスなんて取りようが無いのか)
取り合えず納得しながら、次の項目も見る。
ユニークスキル『騙し』:対象に幻視を見せたり幻聴を聞かせる等、相手の感覚を騙す能力。能力を使う対象の数や持続時間等に比例した魔力を消費する。
(これは良いね。色々なことが出来そうだ。ところで、ユニークスキルって何なんだろう? 字面からなんとなく推測できなくもないけれど一応知りたい)
そんな疑問にもステータスカードは答えてくれる。
ユニークスキル:異世界から召喚された勇者一人につき一つ与えられる特殊能力。魔術とは違い、呪文の詠唱や専用の道具を必要としないで使用可能。
浮き上がった説明をみて、聖騎は納得する。
(なるほど。それじゃあみんなが色んな能力を持っているのかな?)
聖騎の周囲ではちょうど、友人同士でどの様なスキルを持っているかについての会話が盛り上がっていた。
(さて、次は称号だ。一気に見よう)
召喚されし勇者:異世界から勇者として召喚された者に与えられる称号。ステータスの全数値に補整がかかり、レベルアップによる上昇率が少し上がる。
光属性魔術師:光属性の魔術が習得可能。
騙す者:ユニークスキル『騙し』が使用可能。
神に気に入られし者:神に気に入られた者に与えられる称号。
(最後のは何なんだろう? どんな効果なのか分からないし、神様とやらに気に入られた覚えもない。名字に『神』が入ってるから?)
聖騎が内心で頭を捻っている内に、全員のステータスカードが完成した。秀馬が全員に呼び掛ける。
「それじゃあ皆のステータスを確認しよう!」