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人間至上主義国家(2)

「ここから先に国王陛下はおられます。陛下がお認めにならない限り、無駄な口は慎んで下さい」


 質素なデザインの扉の目の前にたどり着いた案内役の女は聖騎達に言い聞かせる。


(感じる……この扉の向こうから、ただならない気配を)


 第六感のスキルを使用した聖騎は気を引き締める。その最中女は扉に向かって言う。


「陛下、客人でございます」


 すると、扉からはゆったりとした、どこか優しげな老人の声が返ってくる。


「これは珍しいですね。是非、この部屋にお招き下さい」

「分かりました。では、お連れします」


 声の主は扉の向こうにいるにも拘わらず、女は一礼する。そして、主を待たせるわけにはいかないとでも言わんばかりに扉を素早く、しかし静かに開ける。その中には白一色の空間が広がっており、部屋の中央には簡素なテーブルが置かれ、その向こう側には例のローブを着た人物が座っていた。女は聖騎達に部屋に入るよう促した。奴隷商人を先頭として聖騎達は入室する。全員が入ったのを確認した女は外から扉を閉ざす。座っている人物は勇者八人と奴隷商人を見るなり口を開く。フードの下からは白く長い髭を覗かせている。


「これはこれは。皆様はどちらからいらしたのですか」


 優しげな声。しかし真弥は警戒しながら慎重に答える。


「私達八人はエルフリード王国から来ました。この人は旅の途中で……その……」


 奴隷商人を紹介するところで真弥は言葉に詰まる。彼が操る馬車に乗っていたことを言って良いのか逡巡していた。聖騎もこの場はどうすべきか頭を悩ませる。すると、座っている人物は優しく言う。


「正直に話して頂いて結構ですよ。あなたが何を言おうと、危害を加えることはありません。外から来られる方が我が国の掟を存じないのは仕方ない事なのですから」


 その言葉に真弥は聖騎の顔をチラリと見る。彼が頷いたのを確認した真弥は正直に答える。


「はい。私達はこの人の馬車に乗せてもらって、この国に来ました」

「そうですか。長旅お疲れ様です。ところで、どうしてこの国にいらっしゃったのでしょうか?」


 相変わらずのゆっくりとした返しに、真弥はとりあえず安堵する。


「はい。私達はネクベト王国のヘスオスに行こうと考えていまして、その際に通りかかったというところです」


 本来の目的は妖精族のいるシュヌティア大陸であるのだが、あえてそう答えた。


「そうですか。となりますと目的はシュヌティア大陸でしょうか」

「!?」


 一同は息を呑む。しかしよく考えれば、この国の位置的にこれまでも同じ目的の者は多かっただろうと納得する。黙りこくる彼らに声がかけられる。


「そう固くなることはありませんよ。別にあなた方を責めたりはしません。先程も申しましたが、皆様がこの国の掟を存じないのは仕方ないのです。……申し遅れました。私はウェミナハル・ハヌマニル。この国では国王をさせて頂いております。ささ、立ち話も何ですし、どうぞお座りください」


 ウェミナハルは長テーブルの傍に並んでいる椅子を示す。彼と向かい合うように聖騎達が座る。ウェミナハルの正面には真弥が、両脇に彩香と聖騎が腰を下ろす。透明化しているツンは平子の後ろに立つ。全員が座ったのを確認したウェミナハルは口を開く。


「皆さんにも用事があるのは理解しております。しかし、申し訳ありませんがこの老いぼれの話を少しばかりお聞きください。話が終われば、是非自由にして頂いて結構ですので」

「良いのですか? 僕達は妖精族に会いに行こうとしているのですが」


 向こうのペースには乗るまいと、聖騎は口を挟む。ウェミナハルは答える。


「はい。私の話の後ならば、皆様は自由です。他に質問はございますか?」

「いいえ。今はありません」

「そうですか。他の方はどうです?」


 彼の言い方に聖騎は違和感を覚えつつも、相手の出方を伺う。他に質問をする者はいない。


「質問は無いようですね。では話させて頂きます。まずは、この世界の種族についてお話しします。この世界の多くの人間は、人と意思疎通な種族として妖精族、獣人族、巨人族、魔族などを挙げます。しかし私に言わせれば、その様な区分は無駄です。全ての生き物は人とそれ以外、その2つに分けるだけで十分なのです」


 その言葉にツンは奥歯をギシリと小さく鳴らす。その音を聞いた平子や蛇はギクリとするが、ウェミナハルは気づくそぶりを見せずに続ける。


「いにしえより、異種族達は私達人間の存在をおびやかしてきました。彼らは私達の敵であり――――」


 彼の話は、人族以外の種族が如何に人間にとって有害な種族であるかに収束していた。人を惹き付ける彼の話術から、聖騎は意識を逸らす。このまま真面目に聞いていれば、洗脳されそうだと彼は感じた。


(それにしても、こんな思想になったのにはどんな訳があったのかな)


 ウェミナハルは決して自分の事について話さない。そんな彼の話はまだまだ続く。聖騎達がこの国に来たときは昼間であったが、既に夕方になっていた。龍が能力によって外の様子を見ており、その景色を全員に共有させている。


「――――皆様お疲れでしょうが、私達は知らなければなりません。あれらのもの存在は決して許されるものではありません。しかし私達には力が足りない。仲間を募り、国を造り、あれらと戦うための力を徐々に手に入れていますが、まだ足りません。そこで皆様には、この私に力を貸して頂きたいのです」


 ウェミナハルは深々と頭を下げる。だが聖騎には彼に協力するつもりなどさらさらなかった。だが、彼の話を聞いて「確かにそうかもしれない」と考えた者もいた。なにしろ彼らは敵として現れた妖精族しか知らない。一応一緒に行動しており、今は必死に感情を抑えているツンも友好的とは言えない。彼らが発言する前に聖騎はこちらに有利な空気を作ろうとする。


「お断りします」


 だが、そう答えたのは聖騎ではなく真弥だった。まったく同じ言葉を発しようとしていた彼は内心で苦笑する。ウェミナハルは特に動揺した様子もなく問う。


「なぜでしょう」

「あなたが妖精族や他の種族を嫌いなのは分かりました。でも私達は見たことが有りません。私達は実際に西の大陸に行って、妖精族を自分の目で確かめてから判断したいと思います」


 真弥は力強くウェミナハルを見据える。そして彼女に便乗するように他の者達も口々に言う。


「真弥の言うとおりだ。あたしは西の大陸に行く」

「我もですぞ」

「私もです。妖精さんとは戦うよりも仲良くしたいですから」

「オ、オレだって最初からそう思ってたぜ」


 彼らの言葉を聞いたウェミナハルはフードの下で表情を曇らせる。


「そうですか。分かって頂けないのは残念です」

「こちらこそ、お役に立てなくてごめんなさい。では、お話は終わられたとのことですので私達は先を急がせて貰います」


 真弥はサッと立ち上がる。他の者もそれに続いた。するとウェミナハルは彼らを諌める。


「まあまあ、時間も遅いですし今日はこの国に泊まっていって下さい。宿代の負担などは結構ですので」

「いえいえ、お構い無く。……みんな、行きましょう」

「無理はなさらないで下さい。夜道というのは本当に危険なのですから」


 そうは言われても、聖騎達としてはこの国にいる方が危険なのではないかと考えている。


(ここは強行突破して行くべきか……でも)


 聖騎としては、この謎に包まれた国の歴史を知りたいという気持ちもある。一方で真弥は考える。


(このままじゃこんな怪しい国に泊まる事になっちゃう。ここはもっと強気にならないとダメなのかな……?)


 すると、真弥と同じようなことを考えていた彩香が発言する。


「あの、あたし達は大丈夫ですよ。少しでも早く妖精に会いたいですし」

「とにかく。皆様はお休みください」


 ウェミナハルはやや語気を強める。そうされては、彩香としても引くしかできない。彩香は真弥と顔を見合わせ、アイコンタクトにより互いの意思を確認する。真弥は警戒しながらも告げる。


「分かりました。では、お言葉に甘えさせて頂きます」

「遠慮せず、お休みください。豪華なお夕飯もご用意しますよ」


 柔らかな口調に戻ったウェミナハルはにっこりと笑う。

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