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班決め

 聖騎の部屋。彼が一人で使用しているこの部屋は、王宮に仕えるメイドによって綺麗に整頓されていた。設置されている棚には、この世界に来たとき身を包んでいた学生服も部屋に畳んでしまってあり、当時身に付けていた鞄も置かれていた。とはいえ、模範的な中学生である彼の鞄の中には教科書とノート、筆記用具程度しか入っていない。彼はこの世界に来てからも教科書を読み、勉強を続けている。元の世界に戻ってから、少しでも勉強しなおす量を減らすためである。


「バカじゃねーのか? お前」


 部屋に入り、数学の教科書を読んでいる聖騎を見た国見咲哉が開口一番に言った。彼の傍らには夏威斗もいる。


「随分と失礼な事を言うね」

「よくこんなとこ来て勉強なんか出来んな。こんなの意味ねーだろ」

「元の世界に帰ったら、意味はあるよ」


 若干気味悪がるような視線を聖騎に向けながら、咲哉は座り、夏威斗もその隣に座る。すると、既にここに来ていた藤川秀馬が口を開く。


「じゃあ、みんな集まったって事で話を始めよう。最近街では色々な噂を聞くけど、それが正しいか間違ってるかは分からない。そして、その中にはもし本当だとしたら無視できないものもいっぱいある。そこで、実際にどうなのかを確かめないといけないと結論した。その上で神代君には、この世界の事について色々と調べて貰った」


 秀馬はチラリと聖騎に視線を向ける。聖騎は話し始める。


「図書館にあった全ての本は、魔王ヴァーグリッドがとてつもなく強いという事を知っているという前提で書かれていた。だけれど、具体的にどれくらい強いのかは書かれていなかった。つまり、ヴァーグリッドと戦った事のある人はいない――あるいは、記録なんてする暇もなく死んだということになるね。魔王軍の雑兵ですら、この世界の人達にとっては強敵のようだし」

「まー、俺達は魔王軍の中でもつえー奴を倒したけどな」


 咲哉が呟く。そして聖騎は続ける。


「それでも、かなりの激戦だった。魔王軍の本拠地ヘカティア大陸に行った場合には強敵との連戦があるかも知れない。つまり、戦力は僕達だけでは心許ない。そこで、世界中から戦力を集めて、味方に引き入れるべきだと考えた」


 その場にいた全員が聖騎に注目する。そして、桐岡鈴が質問する。


「世界中からって……どうするつもりよ。この世界だって相当広いでしょ? しかも、この世界には飛行機どころか車すらないじゃない」

「この国の王様に協力してもらって、世界中の人達を集める――というのがベストだけれど、この世界の人類は魔王という脅威がいるにも拘わらず、国同士で互いに警戒しているらしい。そして、外交の経験なんてない僕達にはそれを解決なんてできない。そもそも、この世界の人間は正直に言えば、そこまで戦力として期待できない。一部を除いてね」


 一旦一息つき、聖騎は再び口を開く。


「そこで僕が注目したのは、人間とは違う異種族。主に、西の大陸にすむ妖精族、南の大陸にすむ巨人族、そして東の大陸にすむ獣人族」

「妖精族!」


 真弥がその単語に反応し、その隣の彩香も目を輝かせる。それを無視して聖騎は続ける。


「都合の良いことに、彼らはこの世界の人族が使うものと全く同じ言語を使用するらしい。まあそれは良いとして、この3つの種族についてだけれど、まずは巨人族。その名の通り体が大きくて力が強いけれど、彼らはこの大陸の南端にあるラフトティヴ帝国の人間に奴隷として使われているみたい。本によると、英雄と呼ばれるラフトティヴ帝国の初代皇帝に心酔して軍門に下り、その後もずっと帝国を恐れているみたいだけれど、本当のところは分からない。それ故に人間を恨んでいて、裏で魔王軍と手を組んでいるなんて噂が立つくらいだからね。まあ、実際にその状況を見た人がいるとしたら無事ではいられないだろうからその噂は作り話だと思うけれど、あり得ない話ではない」

「つまり、その巨人族を味方にしようと考えてんの?」


 夏威斗が質問する。


「うん。本の情報が正しいのなら、ラフトティヴ帝国の人達より強いことを示すことが出来れば、仲間にすることが出来る、かもしれない。多分」

「多分って」

「僕だって実態を見た訳ではないから、多目に見て欲しいな」

 

 咲哉に突っ込まれつつも聖騎は話を続ける。


「次は獣人族。猫人族、犬人族、鳥人族、魚人族、龍人族など、色々な種類がいるらしい。動物並の身体能力に、人間に近い知能を持つ生き物だけれど、魔術を使える人間には勝てずに奴隷にされているらしい」

「また奴隷かよ!」

「ラフトティヴ帝国だけから奴隷扱いされる巨人族とは違って、色々な国にこぞって東の大陸に人を送られて捕獲されているそうだよ。この国も昔は獣人族を奴隷にしていたそうだけれど、先日亡くなった先王エルバードの意向によって、この国に捕まっていた獣人族は解放され、新たに捕獲することも禁じられたとの事だってさ」

「エルバード陛下……やっぱりいい人だったのね」


 真弥はしみじみと呟く。すると咲哉が発言する。


「つーか、そんな簡単に捕まる奴を仲間にして役に立つのかよ? もし魔王軍と戦っても、すぐに捕まんじゃね?」

「確かに彼らの知能はなかなか高いらしいけれど、それでも人間には敵わない。逆に言えば、彼らに知恵があれば、その身体能力はフルに活用され、敵に回すと厄介な存在になる」

「その知恵ってのがお前か?」


 聖騎は得意気に笑う。


「まあね。とは言え、標準的な人間程度の知能があれば十分だから、大した事ではないよ。そして最後は妖精族。獣人族以上に多種多様で、大きさは手のひらサイズのものから、人間と同じくらいのものまでいるみたい。色々な魔法を使えるらしい」

「魔法? 魔術じゃなくて?」


 疑問に思った秀馬が質問する。


「うん、魔族と妖精族は、呪文や道具が無くても様々な能力を使えるんだよ。それを魔法と言うみたい。この前僕達が戦ったハイドランジアが手のひらから炎を出していたのも、魔法によるものだね。人族には魔法は使えないけれど、ある日突然呪文と神御使杖エンジェルワンドを使って魔法に似たものを使うことが出来るようになったみたい。これを魔術と呼んだんだよ。本によれば、巨人族相手に絶滅しかけた人間の前に神様が現れて力を与えた、という話だね」

「なるほど……でも、それならぼく達が使うユニークスキルも魔法みたいだよね。呪文も道具も無しで能力を使えるんだから」

「確かにそうだね。魔法とユニークスキルは別のものなのか、それとも呼び方が違うだけで同じものなのか、今のところ分からないけれど関連性は有るのかも知れないね」


 秀馬に頷きながら、聖騎は続ける。


「妖精族についての情報は他の種族に比べて少ない。ただ、道に迷った旅人に道を示したという伝承がいくつもあったよ。旅人がお礼を言おうとすると、いつの間にか姿を消しているとかなんとか。伝承通りなら、人間には友好的な種族のようだね」


 聖騎は全員を見渡し、口を開く。


「さて、僕はこの3つの種族を味方にしたいと考えている。そこで僕達34人を4つの班に分ける事を考えた。それぞれの大陸に向かう3班と、念のためこの王都に残る1班だね。異論は有るかな?」


 すると鈴が発言する。


「さっきも言ったけど、この世界は広いでしょ? 移動手段はどうするのよ? それに、違う大陸に行くんだったら海だって越える事になるんでしょうし」

「漁業が盛んな町を調べてあるから、そこにある船を借りればどうにかなるのでは無いかな?」

「そんな簡単に行くもんなの?」

「簡単ではないとしても、どうにかするしかないね」

「ふーん。で、陸路の方は?」

「陛下に頼んで、この国の馬車と御者さんを貸してもらうのがベストだけれど、たとえ貸してもらえるのだとしても、3台同時にというのは難しいだろうね」

「じゃあどうすんのよ」


 鈴は苛立ちを隠さない。他の者達も怪訝な顔をしている。一方で聖騎はあっけらかんと言う。


「まあ、その辺りは馬車3台を貸してもらえなかった時に話すよ。さて、ではグループ決めだけれど、これは全員に希望をとって、それを考慮した上で戦力が均等になるように考えたい」

「はいはーい! あたし達は妖精に会いに行くよ」

「我はネコ耳美少女に会いたいですぞ」

「巨人がどんだけでけーのか見てみてーな、鈴」

「私はそうでもないけど」


 一同は口々に自分の希望を言う。それを聞きながら聖騎は締めの言葉を口にする。


「取り敢えず僕からは以上だよ。他に言いたいことがある人はいるかな?」


 しかしここにいる者達は、彼の言葉を無視して何処に行きたいかについての話に花を咲かせる。聖騎はやれやれとため息をつくのだった。

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